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1話 ブラック・XXXXのプロローグ

混ざり合う

混ざり合う

怒りと狂気は

混ざり合う

怪物の子よ

運命を喰らうか

運命に喰われるか

 

「ステータスオープン」


 暇だ。余りにも暇だ。長い行列に並ぶという行為は。暇すぎて、自慢の黒髪をクルクル回していたが、それすらも飽きた。あとはステータス画面を眺めるぐらいしかやることがない。もううんざりするほど、何度も見たけど。


 眼前に広がる、自分にしか見えない半透明の板。機能美的なレイアウトの分割がなされたそこには、自分の能力値を数値化したもの、加えていくつかの特殊能力が映し出されていた。


「はあ…、なんでボクだけ」


 ステータス画面を見てため息をつく。

 運命はグロテスクだと、そう思わずにはいられない。なぜこの世にはスキルやらステータスやらといったものがあるのか。こんなもので人間の価値が測られるものか。こんなもので存在意義が、アイデンティティが問われていいものか。


「チッ…、神サマなんてクソくらえ」


 小声で呟く。同時にステータス画面を閉じる。

 今日はかつてないほどにナーバスだ。いくらでもネガティブなことが思いつく。


 毎年、春の時期になると、12歳になる子供たちは「天与の儀」を受ける。なぜかというと、人間は12歳になる年に、一斉に「ギフト」と呼ばれる特別な能力を授かるからだ。恐らく、神と呼ばれる存在から。そしてその神授の恩恵たるギフトは、「天与の儀」によって初めて明らかになり、自らのものになる。


 ギフトはスキル(謎の多い特殊能力で、約半数は努力、経験や神秘的体験によって得られる)の形をとるのだが、何千何万種類とあるスキルの中からたった1つしか貰えない。そんなにあるならもっと寄越せと言いたい。もちろん有用なものが沢山あり、特にギフトによって得られるものは希少なスキルである可能性が大だ。


 有名なスキルの例として【剣体】【剣心】【剣撃】といった武器を用いた戦闘能力や、【魔力増幅】【魔力回復力】といった魔法関連の能力がある。この辺は真っ当に努力すれば手に入るスキルだろう。

 一方でどう頑張れば手に入るのかさっぱりわからない、それこそギフトで得られれば最高なスキルの例は、【錬金術】【聖剣適合】【亜空間収納】【叡智】などだ。手に入れた瞬間、エリート街道まっしぐら、人生勝ち組である。


 よって多くの者は、このギフトに多大な夢を見る。ギフトという、努力もへったくれもない、運や偶然の賜物のような力で、野望を叶えてやろうと。

 かく言うボクも、少しぐらいは夢を見るが。


 今この場には、12歳になり天与の儀を受けに来た者と、その保護者と、興味のある村の連中が来ていた。

 なんとなく周りを見渡せば、同い年の少年少女たちが、期待に満ちた表情で、自分の順番を今か今かと待っているではないか。瞳がキラキラと輝き、人生の純粋さの最高潮が今だとでも言うかのようだ。


「全く、無駄に期待なんかしちゃってさあ。これだから12歳のガキンチョは」


「そういう君も12歳のガキンチョだろ?」


 ボクの言葉に余計なツッコミを入れてくる奴がいた。ちょうど後ろに並んでる奴だ。


 灰色の髪とブラウンの瞳。そばかすがあるが、優しい顔立ち。最近背が伸びて、ボクの身長を超えてしまった。成長期というやつだろう。


 ボクも男子だったら、身長伸びたんだろうな。あいにく女子なので身長はたいして伸びない。代わりに、胸の辺りが最近成長してきている。服のサイズが合わないような気がして全然嬉しくない。


「何か用?アッシュ。ボクの独り言を気にしちゃうほど暇なの?」


「まあね、暇だよ。でもエフ、君も暇だよね?まだ列続いてるし」


 そういえば、ついさっきまで暇つぶしのためにステータスを見ていたんだ。だが、暇なことを言い当てられた様な気がしてなんとなく釈然としない。


「ふっ、ボクはこの世界を憂うのに忙しいんだ」


 最高のキメ顔で言ってやった。


「そ、そうなんだ…。それって結局暇なんじゃ…?」


「う、うるさい。暇じゃないし」


 ど壺にはまった。


「エフ、緊張してない?」


 アッシュが尋ねてくる。ボクは再び反論してやろうかと思ったが、またど壺にはまりそうな気がしたのでやめた。


「ああ。緊張してるよ」


 正直に言う。もしも、強力なスキルだったら。もしも、微妙なスキルだったら。そう考えたりもする。


「やっぱり?エフでも緊張するんだね。少し安心したよ」


 いやボクをなんだと思っているんだ。勝手に安心されても、少し困惑するぞ。


「そりゃあ緊張だってするさ。…だってボクは他のみんなと違って…!」


「ご、ごめん、エフ。最後まで言わなくていいよ」


 アッシュはボクの話を遮り、申し訳なさそうな顔で謝る。


「いや…、アッシュ、すまない、気を遣わせてしまって。君が気にすることじゃない。それに、『万年レベル1のエフ』はこの村の人はみんな知っている」


「えっと、うん。でもごめん」


「だから気にしないでってば」


 少し微妙な雰囲気になり、お互い沈黙してしまう。



 ーーーーーーーーーー

 万年レベル1のエフ。

 年齢的に万年は言い過ぎじゃないかと思っているが、ボクはそう呼ばれている。この世に生まれたとき、人間はレベル1だ。普通、人間は3歳までにはレベル2になる。7歳までにはレベル3になる。12歳までにはレベル4になる。大人になると、人によってレベルがかなり異なってくる。

 生活の中でなにか特別なことをするわけでもない。ただ生きているだけで、レベルは上がるのだ。


 だが、ボクは違った。ボクだけは、3歳になっても7歳になっても、レベル1だ。赤ちゃんと同じレベルだ。


 それがどれくらい異常なことなのかというと、普通このような事態になると死んでいる。身体能力的ステータスが不足した結果、身体の成長とのギャップが生まれ、満足に身体を操れず、最悪呼吸まで上手く機能せず死に至ると。過去にボクと同じような事例があったと聞いた。


 身体系ステータスは、もちろんレベルアップせずとも訓練によって上がるが、レベルアップに比べると極々わずかだ。レベルアップに味をしめると、多くの人は身体を鍛えることを忘れる。


 ではなぜ、ボクが生きているのかというと、決して身体を鍛えてる訳ではない。


 それこそが、ボクの異常。ボクが周りに秘匿して止まない、あるユニークスキル(持ち主がごく僅かで限定的、あるいはたった1人しか持ち主が存在しない希少なスキル)の存在が関係していた。そしてこのユニークスキルを知っているのは父と母、そしてアッシュだけだ。さらに、両親からは「周りに言わないように」と口止めされている。ステータスは本人以外でも、親は見ることが可能らしく、生まれたときから持っていたこのユニークスキルを隠すことを決定したらしい。

 アッシュに知られてしまったのは…、仕方なかったからだ。そうしなければいけなかった。


 ちなみにずっとレベル1であることが知れ渡っているのは、ついうっかり喋ってしまったからである。…我ながらアホである。周りが皆レベル2であることにショックを受け、6歳の頃つい言ってしまった。

 本当にアホだ。おかげで死ぬほどバカにされてきた。死ぬほど恥ずかしい思いをした。死んではないけど。

 ーーーーーーーーーー



 やがてアッシュが沈黙を破る。


「エフ、あの日のこと、僕はずっと感謝してる」


 真剣味を帯びた声で、彼はそう言った。


「いや…、あの日ボクがしたことは、きっと君を…」


 苦しめ続ける。そう言おうとした。


「そんなことない。君がいなかったら、僕は今頃死んでいた」


「………」


「命あっての物種、ってやつさ。こうやって今話しているのも、生きられたから。それからエフ、僕はなにがあっても君の味方だ」


 アッシュは力強く励ましてくれた。


「アッシュ…。ありがとう」


 そうだ。ボクが後悔し続けても仕方ないんだ。アッシュは受け入れてくれると言った。ボクのユニークスキルを。ボクの持った、人類の禁忌のような、生命への冒涜のようなスキルを。


「アッシュ、この天与の儀が終わったら、また傷跡の様子を見たいんだ。後でまたいつもの場所で会おう」


「うん、分かった。いつもの場所でね。あ、そろそろ順番が回ってくるよ」


 前を見たら、結構進んでいた。もともと40〜50人ほどいた列の後ろの方だったので、もっと時間がかかると思っていた。


 今1番前にいるのは、ジレッド。赤髪に赤目のやんちゃ坊主。この村の村長の息子で、ボクになにかとちょっかいをかけてくる…つまり、いじめっ子だ。個人的に、全くと言っていいほど、彼に対する良い感情は持っていない。


「えっと…ジレッドさんのギフトは…」


 天与の儀を執り行う若手のシスターが、何やら妖しげな光を放つ水晶に手をかざし、どういったギフトを得たのか調べているようだ。

 どうせならジレッドにはクソスキルを引いて欲しい。


「わ、分かりました!ジレッドさんのギフトは【火炎付与】です!エクストラスキルです!」


 周囲の人々がどよめく。エクストラスキルといったら、ハイスキルの上、多くの人はたどり着けない領域。血の滲むような努力や、単独でモンスターの軍勢を壊滅させるなどの偉業を達成してはじめて得られるスキルだ。それを手に入れたらしい。ギフトによってエクストラスキルを得た人は大抵どこかで活躍する、と聞いたことがある。

 正直言って羨ましい。


「ガハハハハ!エクストラスキル、しかも【火炎付与】か!俺様にぴったりなスキルだ!!」


 ジレッドはいつものように調子に乗り始める。お前にエクストラスキルは過ぎた力だと言ってやりたいが、【火炎付与】というのがなんとなく似合ってるような気がして悔しい。


「流石だな!ジレッド」


「まさにジレッドのためにあるようなスキルだ!」


「ガハハハハ!もっと褒めろ!」


 取り巻きたちに絶賛され、余計イキるジレッド。


「へえ、【火炎付与】か。どんな力なんだろう」


 アッシュは感心したように言う。アッシュは別にジレッドと仲が悪いわけじゃないからな。


「さあね。おおよそ武器に炎を纏わせる力じゃないかな。なんであんなやつが…」


「エフ、不満そうだね?」




 そうこう話しているうちに、遂に自分の番が回ってきた。


「あー、緊張してきた。しっかりしろ、ボク」


「リラックスしなよ。エフならきっと良いスキルが出るって」


 シスターの前に歩み出る。心臓がバクバクと鳴る。


「お名前を教えてください」


「エフです。薬師の娘の」


 簡潔に自己紹介する。


「おいおいおい、『万年レベル1のエフ』じゃねえか」


 ジレッドがこちらに気づいたようだ。鬱陶しくてたまらない。


「ハハッ、きっとショボいスキルしか出ないぜ」


「だよなぁ、ずっとレベル1のザコだもんな!」


「あいつ、ちょっと頭いいぐらいしか取り柄ないし」


「多少勉強したところでレベルの低さは補えないっての」


 ジレッドの取り巻きたちも、こちらを見て馬鹿にしたようなことを言ってくる。


「ふん、言ってろ」


 ボクが馬鹿にされるのは今に始まったことじゃない。気にしたら時間の無駄だ。


「ではエフさん、こちらの水晶を下から持ち上げてください」


 言われた通り、ボクは水晶をすくうようにして持ち上げた。


「それでは、今から調べますね」


「お願いします」


 シスターが水晶に手をかざすと、水晶は妖しく光り輝く。紫、緑、黄、さまざまな色を帯びるが、それが何を示しているのかは分からない。

 やがて白い、一際大きな光を放つと、水晶はもとの透明さに戻った。


「エフさんのスキルは…【顕在化】です。一応、ユニークスキルみたいです」


「一応?」


 ユニークスキルならもっと驚くと思うのだが。エクストラスキル以上に獲得が困難と言われている。それにしても【顕在化】とは、一体どういう能力なのか。


「い、いえ、一応じゃないです!れっきとしたユニークスキルです!多分すごいと思いますよ!」


 どうやら初めて聞くスキル名だったせいか、困惑していただけらしい。


「どういった能力なのか分かりますか?」


 言い方はどうあれ、今知りたいのは内容だ。


「えっと、ざっくりとした情報ですが、『自分以外の他者の潜在的な能力を引き出す』スキルらしいです」


 他者の潜在的な能力を引き出す、か。【顕在化】もユニークスキルなら何かしら有用な使い方があるのだろう。


 しかし、自分が元から持っているユニークスキルのせいで、嫌な予感しかしない。


 そもそも他者の潜在的な能力とはなんだろう。眠っているスキルを覚醒させるのか?もしくは秘められたステータスでも解放するのか?


 いや、待てよ。もしかして、このスキルは…


 ボクがある一つの結論にたどり着こうとしたとき、嫌な声が聞こえた。


「ガハハハ!自分以外の他者、だってよ!お前のレベル1は結局解決しそうにないな!一生ザコのままだ!」


 そう言って、笑い転げるジレッドとその取り巻きたち。


「まだ分からないだろ。ボクはこのスキルを使いこなしてみせる」


 コイツらの脳内には「自分以外の」という文言しかないのだろうが、ユニークスキルが弱いはずがない。

 ボクの元々持っているユニークスキルも、生命倫理的な観点を踏まえなければ強力なのは間違いないのだ。


「エフ。あいつらのことは気にしなくていいよ」


 アッシュが珍しく怒ったような表情をしている。でもあまり怖くない。


「ありがとう。ボクも気にしないよ。次はアッシュの番だね」


「うん。いよいよか、緊張するな」


 彼はシスターと短いやりとりを済ませた後、水晶を持ち上げた。

 アッシュがどんなスキルに目覚めるのか、ボクとしても気になるところだ。


 シスターは水晶に手をかざす。そうするとさっきと同様、光を放ち始め、、、は、しなかった。


「あれ?どういうことだ?」


 困惑しているのはボクだけではなく、アッシュも、周囲の子供達や保護者達も、不思議がって見ていた。

 そして唯一、シスターだけは、悲しそうな表情をしていた。


 やがて、シスターは告げた。


「すみません、アッシュさん。残念ながら、ギフトは無いようです」















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