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お姉ちゃんは頑張る


一万歩譲って過去にボクが遊んだゲームなら無理矢理納得もできると思う。

けどこのゲームに関しては、前世の妹達から進行状況の話を聞いたり偶にプレイ画面を見たことがあるぐらい。

まぁ妹達が逐一内容を報告してくれてたからある程度の内容は知ってはいるけど、ボク自身は一度も遊んだ事はないんだよ?


納得いかない。


そもそも前世は家事と仕事に追われ、あまりゲームをする暇はなかったし。


家族計画将来設計なんのその。

なんくるないさー、と後先考えずぽこぽこ産む万年新婚バカップルの両親。

その長女としての宿命を背負ったボクは、六人の弟妹達を右手におたま、左手に家計簿を持って世話をしていた普通の社会人女性だったけど…うーん、ボクは事故か何かで死んだのかな?…死亡理由的にはあのブラック会社による過労死が一番高いんだよねぇ。

もしそうならあの俺様馬鹿社長、化けて出てやるからねーー…って、ボクがここにいるから無理か。チッ。



それよりボクの愛する弟妹たちは大丈夫かな?泣いていないかな?


妹達よ。

家計簿はキッチン台の右の引き出しの中。ヘソクリはクローゼットの二枚底の下だからね。

弟達よ。

父の給料日には全額別口座に入れるんだよ。あの人たちをアテにしてたら餓死するからね。その辺りは長男イツキの仕事だったから大丈夫だろうけど。


どうやらお姉ちゃんは帰れないようだ。

皆んな強く生きるんだよー。






脳内でハンカチを噛み締めていたボクの横からいきなり声がかけられた。


「どうしたリウ。どっか具合でも悪いのか?」


リウ?…おお。そうそう、リウだよリウ。今世でのボクの名前だ。

うんうん、ちゃーんと覚えているよ。


「リウ?」

「あぅ…」


ーーって、

びっくりしたー。

もう一度言う。

びっくりしたー。



覆い被さるようにボクの顔を覗き込んできたのは黒髪の少年だ。

非常に整った顔立ちで、この歳で色気とカリスマ性の片鱗を覗かせている。


そう。


ボクがここはゲーム、『オルブルトの聖女候補生』2作目の世界と分かった原因。

2で登場する新キャラクター、ワイルド系イケメンのレイヴだ。

彼は攻略対象者であり、1のメインキャラクターであるルーカスと人気を二分しているとか。


妹曰く。

黒騎士の隊長でねー、気さくな人柄で信頼も厚いけどー、心に深い傷を負っていてー、それを聖女わたしが癒してあげるのー♫

最後はねー、『一生俺の側にいるんだ』とか言ってくれるのよー、きゃあ☆とのこと。

…妹よ、

二次元だろうが三次元だろうが恋する事はいい事だけどちゃんと現実に帰ってくるんだよ。




因みに彼はボクの幼馴染だ。


元々レイヴの母親とシングルマザーだったボクの母親は、旦那さんも嫉妬する大親友だった事もあり、何かとお世話になっていたんだ。レイヴは産まれたばかりのボクのお世話もしてくれた、三歳違いの謂わゆる近所のお兄ちゃんポジション。

しかも、2の物語の焦点となる黒の茨と言われる痣が浮き出たのもほぼ同時期。

親から無理やり引き離されてここに収容されたのも一緒。

ここまで揃うと、モブじゃなくてボクにも何か役割があるかも知れないと思えて仕方がない。

でも妹達からは幼馴染キャラがいたなんて聞いた記憶がないしなぁ。




ーーゾクッ。



一瞬、フッと嫌な予想をしてしまったけど、日本には言霊と言う言葉もあるし。

うんうん、不吉な事は言わないし考えないようにしようっと。





ぼうっと考え込んでいたボクを心配気に見ているレイヴに気付き、慌てて大丈夫とフルフルと首を振った。


「本当に大丈夫か?お前やっと熱が下がったばかりなんだぞ。無理はするなよ」


そう言ってレイヴは頭をナデナデしてくれる。


なっ!?

ちょっ、奥様見ました?

なになにこのイケメン。お姉ちゃん胸キュンですわー、あざとカッコいいですわー、お姉ちゃん君が背後から刺されないかと将来が不安ですわー…ん?ボクが熱を…?

…んん?なんかだんだん思い出してきたぞ。


あー、そういえば体調悪い日に教官チンピラに無理やり訓練に行かされたんだっけ?

んで熱出して倒れたんだっけ?高熱の中、生存本能か防衛本能か前世の記憶が蘇った、とか?

幼子がそこまで追い詰められていた、と?



…あの教官チンピラ、いつかマッパで北極の海に沈めてやる。


ボクは心の中に出来た、デ◯ノートもとい、いつか必ずヤるリストの1ページ目に書き込んだ。






レイヴのなでなでスキルにメロメロになりつつも現状確認だ。

ふっ、ボクは出来る女なんだよ。

さてさて先ずは簡単に目視で確認してみようか。



天井窓の鉄格子。

四方コンクリートで覆われ日が差し込みにくく薄暗い部屋。

硬いベットに薄い毛布。

栄養が足りない痩せ気味の体。

教官とは名ばかりのチンピラもどきに、訓練の名目で憂さ晴らしに殴られ蹴られたアザだらけの子供達。


………ふっ。


もぐ。

関係者全員タコ殴りした後でもぐっっ。


ボクは心の中にある、いつか必ずヤるリストの2ページ目に書き込んだ。



え、何をって?…んー、ちょっと乙女の口からは言えない部位かなぁー。






さて、現状は最悪だね。


実はこの場所は黒騎士の隊長の独断の元、試験的に作られた施設だ。


ここでの共同生活で絆を深め、様々な基礎訓練や適性試験を行う、というのが表向き。


実際には幼い頃から過酷な状況下でどこまで能力を伸ばせるのか。そして子供達の心を折り、感情を殺し組織に従順させる実験で作られた場所なんだってさ。


ホンッット、ロクでもないよね。


え?何で知ってるかって。

いやー、一番初めに(強制的に)入居させられたボクとレイヴに担当になったという教官チンピラがニヤニヤ嫌な笑い方で教えてくれたよ。


年に一人か二人しか発見されない子供達が、今回五人も集まった。

あ、これ二、三人死んでも問題なくない?と言わんばかりにね。


けどこのままじゃこの子たち全員いつ死んでも可笑しくはない程に最悪な環境だ。

ゲームだから食べなくてもヤバくても大丈夫、と言う常識は現実世界リアルでは非常識。

ご飯を食べないと死ぬし、病気もするし過酷な訓練は倒れる。


レイヴが黒騎士隊長になり、この状況を変えてくれることを祈ろう。





「…っ、」


ーーん?


「レイヴ…?」


「…何でもない」


何でもないことはないだろう。

よく見れば袖口から覗く腕が青紫色に腫れ上がっているじゃないか。

…これ具合が悪かったボクを教官チンピラが無理矢理訓練に連れて行こうとした時、止めたレイヴが蹴られていた箇所だ。下手したらヒビが入っているかもしれない。

これ多分後で熱が出るやつだ。


…どうしよう。


情けなさと申し訳なさに涙が出そうだ。

子供が大の大人から守ろうとしてくれたのだ。

どんなに怖かっただろう、痛かっただろう。それでもボクを守ってくれたんだ。


くそっ。

いま、ボクはレイヴを、そしてここの子達を守る為に。


大人として、今できることは。





痛み止めと解熱剤はどうしても欲しい。


しかし彼らの施しなど0パーセントだ。


考えろ。考えるんだ。


欲しいものの為に今何が出来る?


ボクの手元にあるカードは?




お色気?

将来美人さんが確定した容姿だけど、今現在ボクは幼女。相手がロリコンでも無い限りは効果なし。

というか、生理的に無理。

そんな意味で触られた場合は金的を辞さない覚悟だ。



可愛さをアピールして媚びを売る。

ある程度の効果があるのかもしれないけど、現状を見る限り効果は薄いだろうなぁ。

でも有益性をアピールした上でならば可能性はある、はず?



じゃその有益性は。

ここにいるレイヴともう一人の攻略対象者のアシェット、この二人は将来黒騎士の隊長、副隊長になれるほど強くなる!…んだけどやっぱり今は全く役に立たない情報だね。


有益な武器や道具の情報とかなかったかな…いや待って。

そうだ。


慈愛の雫(トリクル)だっ!


前世の妹達が言っていたじゃないか。

平民の主人公が聖女候補なれたのも、慈愛の雫、つまり他のゲームで言うところのポーションを作る事が出来たからだって。

一般的に聖水は悪魔避けや解毒や解呪。

慈愛の雫、雫を意味する通称トリクルは、ケガを癒すことが出来るんだ。


実は聖水に乙女の涙を混ぜることにより出来るのがトリクル。

でも只の涙じゃなく、純粋でどんな逆境にも負けない強い心の持ち主の涙ではなくてはならないとか何とかかんとか。

その辺りは御都合主義だなー、と思った記憶がある。






ーーいける。


ゲーム内でもトリクルは超貴重アイテムだったはず。

これを作って交渉すれば勝機はある。

あとはボクが本当にトリクルを作れるかにかかっているんだけどーー。



痛みを堪える男の子。

寒さに身を寄せ合う双子の姉弟。

そして目の前の幼馴染レイヴ


「リウ?」



ーーやるしか無い。



前世の妹弟達の代わりにするわけじゃない。

血の繋がりがある家族じゃない。

幼馴染レイヴ以外は全くの赤の他人だ。


ーーだけど。


大人ボクが子供を守らないでどうするっ。


よし!今日から皆んなボクの弟妹で家族だ。

お姉ちゃんがまとめて面倒をみるからね。



女は度胸っ!!



交渉、プレゼンテーションならばこちらにアドバンテージがある。

あのブラック会社の俺様社長の秘書を四年も務めたボクを舐めんなぁっ!!



この子達のためにお姉ちゃんはやるぞーーっ!!






「いま、何処からか声が聞こえてきたんです。

ボク、トリクルと言うものが作れるんだって。

チンピ…ケホンッケホンッ…教官、お話しを聞いてくれませんか?」






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