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第六話 勇者

 舞桜ちゃん、いや舞桜さんの若さの秘訣はスキル『覇王』に含まれている不老不死という能力にあるらしかった。

 その名の通り、舞桜さんは死にもしないし歳もとらない。

 十二歳の時点で成長が止まり、それから三百年以上今の姿のままで過ごしているそうだ。

 しかしその不老不死すらも『覇王』の一端でしかないらしい。

 ありとあらゆるチートスキルが詰め込まれていると言っていた。

『覇王』マジパネェ……。

 もう舞桜さんが魔王で良かったんじゃないかな?

 そしてどういうわけか、それに伴って精神年齢も成長しないらしい。

 言葉遣いやその仕草、行動なんかも小学生にしか見えない。

『舞桜さん』と呼ぶと露骨に不機嫌そうな顔をするため、俺はそのまま舞桜ちゃんと呼ぶことにした。


 面来さんは俺が無事動けるようになったのを見届けると、その場を去った。

 店の開店準備があるそうだ。

 俺も改めて買い物をしようと、スーパーに向かおうとした。

 しかし舞桜ちゃんは俺の後ろをとてとてとついてくる。

 その姿はどう見てもただの小学生だ。

 とてもチートスキルを持った三百三十四歳のご老人とは思えない。

「舞桜ちゃん、どうしたの?」

 俺は立ち止まり舞桜ちゃんに声をかける。

「その……、またあの二人に会ったら嫌だな、って……」

 舞桜ちゃんは少しうつむいてそう返事をした。

 確かにその気持ちはわかる。

 でも俺にはひとつ納得がいかない。

 舞桜ちゃんのスキル『覇王』を使えば、あんな二人一瞬で返り討ちにできるんじゃないかな?

 俺は直接その疑問をぶつけた。

「だって……」

 舞桜ちゃんはしばらく言いよどんでいたが、やがて決心したように口を開く。

「うっかり加減を間違えたら、あの二人殺しちゃう……」

 ねぇ舞桜ちゃん、君は本当に魔王じゃないのかい?

 お兄さん魔王の座なんかいつでもあげちゃうよ?

 だからちょっとこっちへついておいで。

 君を『魔王』にしてあげよう。

 ぐへへへ。

 そんなよからぬことを考えているといきなり耳が引っ張られた。

「痛たたたた!」

 痛い痛い、耳がちぎれる!

 やっとこさ俺の耳が解放されたので耳を押さえて犯人を睨みつける。

 すると相手もこちらを厳しい表情で睨みつけていた。

 白い肌と綺麗な黒髪をもつ美少女。

 琴葉であった。

「ちょっと耀、こんなところで小学生の女の子となにやってんの? まさか誘拐しようとしてたんじゃないでしょうね?」

「ちょっと待て、誤解だ!」

 琴葉の言葉はあらゆる意味で誤解だ。

 まず舞桜ちゃんは小学生じゃないし誘拐なんてもっての他だ。

 スキルを持たない俺が舞桜ちゃんを誘拐しようとしたら、舞桜ちゃんが『覇王』の加減を間違えなくても死んでしまう。

「なんか急に元気になってるし……、もしかして耀ってロリコン!?」

「だから誤解だってば!」

 俺が元気になったのは面来さんの回復ラーメンのお陰だ。

 あのラーメンの回復効果は本当に絶大で、二人の男の子にやられた怪我だけでなく、ここ最近の体調不良まで全部回復してくれた。

 今の俺は元気百倍だ。

 けれどそれは、けっして幼い少女との触れ合いで元気を取り戻したわけではない。

 俺と琴葉がやいのやいの言い合っていると、舞桜ちゃんがフォローに入ってくれた。

「あの、お姉さん。本当に誤解なんです。魔王のお兄さんは私を助けてくれたの……」

「魔王のお兄さん? 耀一体この子になに教えたの?」

 琴葉がいぶかしげな表情でこちらをみる。

 そういえばまだ舞桜ちゃんに俺の名前を名乗っていなかった気がする。

 だからって魔王のお兄さんってなぁ……。

 まぁ、正しいっちゃ正しいんだけど。

 俺は警戒する琴葉をなだめすかし、事情を説明した。


「なるほどそういうことね。耀が舞桜ちゃんを見ながら嫌らしい顔してたから、てっきり誘拐かと」

 琴葉がてへへ、と笑う。

 俺そんなに嫌らしい顔してたかなぁ……。

 確かによからぬことは考えてたけどさ。

「魔王の……耀さんと琴葉さんは幼馴染みなんですね! 耀さんは優しいし、琴葉さんは美人だし、こんなお兄ちゃんとお姉ちゃんが欲しかったなぁ」

 俺と琴葉の関係を聞いた舞桜ちゃんはそんなことを言っている。

「耀! この子本当に小学生? すごくかわいい!」

 舞桜ちゃんに誉められて満更でもなかったのだろう、琴葉は舞桜ちゃんを抱きしめた。

「あー、実はそんな見た目だけど舞桜ちゃんはな……」

 三百三十四歳だ、と言おうとしたがなぜか言葉がでなかった。

 喋ろうとしても口が言うことを聞かない。

 ふとみると舞桜ちゃんが怖い顔でこちらを睨んでいた。

 "乙女の年齢をバラすな"

 そんな無言の圧力を感じた。

 まさか今口封じされているのも『覇王』の効果か?

 舞桜ちゃん……恐ろしい子!

「……舞桜ちゃんは『覇王』っていうすごいスキルを持ってるらしいぞ」

 なんとか別の言葉を絞りだし、俺は舞桜ちゃんの呪縛から解き放たれた。

 舞桜ちゃんは、それくらいなら勘弁してやろう、とばかりに俺から顔を背け琴葉に甘えている。

 信じられるか?

 三百三十四歳なんだぜ、そいつ。

 舞桜ちゃんが再びこちらを睨んだ。

 俺はあわてて目を反らす。

 舞桜ちゃんに年齢に関する話題はタブー。

 俺はそう心に刻んだ。

 ていうか、見た目小学生の女の子に迫力負けする魔王ってなんだよ……。


 俺が今度こそスーパーに向かおうとすると、なぜか琴葉もついてくると言い出した。

「お前もなんか買い物?」

「ううん、耀のお目付け役。また別の女の子誘拐しないように」

 そんなことを言いながら琴葉がいたずらっぽく笑う。

「誘拐ってお前なぁ……」

「あ、私も行きたいです!」

 どうやら琴葉になついたらしい、舞桜ちゃんもついてくることになった。

 断る理由もないので俺は二人を伴ってスーパーへ向かった。

 琴葉と舞桜ちゃんは手を繋ぎながら俺の少し後ろを歩いている。

 スキップなんてしちゃって楽しそうだ。

「あ、見て。なにかやってるよ」

 途中、駅の前を通ったときに琴葉が声をあげた。

 つられてそちらを見るとなにやら人だかりができていた。

「ねぇ、見に行ってみようよ」

 琴葉が興味津々といった表情でそちらを見つめる。

 俺は正直興味はない。

「いや、買い物に行きたいんだけど……」

「行こう! 琴葉お姉さん!」

 しかし俺の意見は舞桜ちゃんによってあっさり無視された。

「よぅっし! ほら、耀も行くよ!」

 しかも琴葉はなぜか俺の手もつかみ、人だかりに向かって引っ張っていく。

 俺は嫌々ながら二人についていった。


 人だかりの中央には若い男がいた。

 なにやら演説しているようだ。

 男は流暢な日本語で喋っていたが、その髪は鮮やかなブロンド、瞳はグレーだった。

 とても日本人には見えないが、転生者はそんなものなのだろう。

 舞桜ちゃんも大概な外見をしているしな。

 もはや驚かなくなってきた。

 俺は男の声に耳を傾ける。

「魔王を倒したいと思うものはこの俺に続け! 俺こそが魔王を倒すためにこの世界に遣わされた勇者だ! 俺がこの世界を救って見せよう!」

 普通なら「なんだこの痛いやつは」と思って終わりだっただろう。

 しかし今はそう簡単に流すことはできない。

 俺にとっては他人事でもなんでもないからだ。

「その証拠に俺はスキル『勇者』を持っている! 魔王など相手になるものか!」

 いやいやそんな大層なスキルがなくても俺は相手にならないぞ。

 俺はやれやれ、と首を振る。

 そして、

「もう満足したか?」

 と琴葉と舞桜ちゃんに声をかけ、その場を立ち去ろうとした。

 しかし次の瞬間、男に呼び止められる。

「待て! そこにいるのは魔王ではないか!?」

 なん……だと……?

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