0.こんな人たち
たとえばここが庭園で、一本の薔薇が見事に花盛りだとしよう。
一歩離れたところに立ち尽くし、ただ無表情でじっと花を見つめ、無言の圧力でもって花盗人など不届き者を追い払う青年が、白獅子軍団長ヴィレム。
並の男より余裕で頭ひとつ高い身長、二人並んだ女性をすっぽり陰に隠せる肩幅。ハリネズミのようにトゲトゲした短い黒髪に、鋭い眼光と額の大きな傷痕で、相対する者を竦ませる。その腕がふるう大剣は岩をも断ち、道を歩けば銅像の竜まで逃げ出すと、もっぱらの噂だ。
◆
薔薇のそばに寄って香りを嗅ぎ、重なる花弁の神秘的な渦に見惚れ、数歩下がって全体の姿を堪能し……と忙しく動き回りながら、この美をいかに称えようかと苦吟するのが、伯爵家お抱え詩人のミハル。
炎のように明るく赤い金髪と、理知にきらめく灰色の瞳。笑みを絶やさぬ唇から次々と巧みな言葉を紡いで人々を魅了する、しなやかな体つきの青年だ。朗らかで人懐こく、軍団長を恐れない希少な部類の一人である。
◆
芳香と姿をひとしきり堪能した後、庭師を呼んで枝を何本か伐り、館の皆が目にする場所に、さりげなく、しかし確実な存在感を持たせて飾るのが、北方辺境伯の令嬢ユスティナ。
腰まで届くまっすぐな髪は、月光のような白金色。静かで控えめな物腰ながら、茶色の瞳は人々のことをよく見ており、気配りのできる優しいお嬢様と評判である。
そろそろ伯爵家の跡取りとして婿養子を選ばなければならないが、周囲の興味関心に反して本人はのんびりしたものだ。
◆
こりゃあきれいだ、と大きな声で言った後、せっかくだから花見にしよう、と皆を巻き込んで茶会や宴会を始めてしまうのが、賞金稼ぎの女傑オルガ。
活動的な日焼けした肌と、筋肉質で引き締まった体つき。栗茶の髪は短く整え、緑の目はいつも楽しいことを探しているようにぱっちりと大きい。年長者からさえ姐さん呼びで慕われる、若い腕利きである。
これは、そんな四人の物語。