3. シユウ
視察も終わって、疲れた体に、部下たちはそろって風呂を進めたが、とにかく眠いと振り切って、寝所への道に入る。
今は側女たちに会って冗談を交わせるような心持ちでもないから、裏道を使う。
「ふー……」ため息をしながらも寝所の扉を開けて中へ入り、体をベッドへ投げ出した。
「はぁ……」もう一度ため息をつく。
視察は楽しかったが、賊は未だに都心にはびり混んでるし、貧困状態の回復はないし……
重い頭で寝返りを打つ。
すると、何かにぶつかった。
「あっ?」思わず目を開けると、女が横たわっていた。これは夢か……
「今日はやけにため息ばっかじゃない、シユウ。」
「ステラ……」
思わず俺は手を伸ばした。
リエと会った日、シユウはリエだけを送り返していて、まだ視察中だった。名目は遊びなはずだけど、私を連れて行かないところ、なんか重要なことなんだと思う。賊が未だに手を引かないとか言ってたし。
でも、だからしょうがないって諦めるほど、私はいい子じゃない。シユウがあの子のことを正妻にしたいって思ってるんだったら、私も私でそれなりの協力をしてあげたいと思うし。私がダメなら、シユウだけでも、好きな人と結ばれてほしい。
なんてバカよね、こんな世の中で。今の世の中、恋愛結婚が成り立たないからこそ、みんな憧れて、小説を読む。けど、だからこそって思いがあるのは、多分私も未だに想い続けてるから。吹いたら消えてしまいそうな夢の中で……。
ま、そういうことで、シユウの部屋で張りこむことにしました!私らは昔からつきあいもあったりする大親友だから、忍び込むのは初めてじゃないしね(何回めだろ……)。
そう思って本を片手に張り込んでたんだけど(シユウのベッドで)、なんか急に睡魔に襲われて、眠りについた。
そして、バンッという扉が急に開く音で、私は飛び起きた。見れば疲れ果てた様子で、普段の有り余る余裕もなくシユウがベッドに身を投げるから、「今日はやけにため息ばっかじゃない。」と声をかけたわけだ。
すると、いつもなら皮肉っぽく返してくるシユウが、一言「ステラ」と言っただけで、私に手を伸ばしてきた。
はぁ?
気がつけばシユウは私の首に手を添えて、顔を近づけてくる。
うわ、だんだん近づいてくるよ。
てか、これじゃまるで……
「小説の1ページ、だな。」驚いて見ると、シユウがいつもの余裕ぶった笑みを浮かべて笑ってた。
「ふっ」思わず笑いが出る。あーびっくりした。
「なんだ。突然部屋に押しかけてるから、襲って欲しいのかと思ったが、そうでもないようだな。何の用だ?」
「ん?ちょっとね。」私は笑ってごまかす。
シユウは私以外にはもっと優しくするから、みんなにとっては夢の王子様なんだ。ただ、コイツの本性はこっちで……
「ごまかすな、こっちは視察で疲れてんだよ。優しくしてやる余裕もねぇ。」そう言ってシユウは体を起こした。
「あそびに行ってただけのくせに。」
「そう見えるかよ?」偉そうにシユウは返してくる。
こう考えると私らは似た者同士なんだよね、外で本性が出せないってところで。だから、気があうのかな……
シユウはあんなこと言ってるけど、私を追っ払わない点でいい人なとこが見える。私を拾ってきちゃったぐらいだし。
「シユウ、あんたほんと素直じゃないよね。」私はシユウを見据えて言う。
「そうか。で、なんだよ?」
「そんなに煽られると仕方ありませんねぇ…」私はちょっとシユウを焦らす。
「早くしろ。」
「ううんとね、まあ、単刀直入に言うと、」私は少しシユウの顔色を伺う、「ねぇ、あんたさぁ、リエのことが好きでしょ?」
聞いたそばからシユウの顔が固まったから、ビンゴ!って思ったけど……
「ぶあははははははっっっっっっ」
シユウが吹き出すように笑い出した。
私はなんかカッときてシユウを揺らした。何がそんなにおかしい?
「ちょっ、シユウ!いい加減黙ってくんない?耳障りだっての。」私が必死になって言うと、シユウが顔を上げた。
「おまえ、それでも姫か?なんだよ、その話し方?」
「もう慣れたでしょ、これが素の私。それより……」私はもう一度シユウを見る。
「図星でしょ?」そう聞いて爆笑し始めそうなシユウを私は必死で止める。
シユウがあんなに笑うのは、アイツらしくない。私の言葉遣いは前からずっとこんなんなのに、それが急に気になりだすなんてのも変な気がする。多分、それは全部話を逸らすため。
とここまでをシユウの笑いを止めながら考えて、つくづく、私はヒロインにはなれないなって思う。恋愛小説のヒロインちゃんたちは、みんな何も知らずに、裏も表もなく、真っ直ぐに人と向き合っていくから。
でも、この世界でそんなに無垢じゃ、飲み込まれちゃう。そんな私だったら、とっくに死んでたと思う。
人の欲が支配するこの世界では。
この調子じゃ、シユウは私にも、おそらく自分にも嘘を突き通すつもりなんだろうけど、それでも今日は来てよかった。だって収穫はあったもん。
シユウはリエが好きっていう収穫が。
なんとなくで描き続けてるのですが……登場人物が全然言うこと聞いてくれない‼︎‼︎‼︎
ステラはもっとクールキャラで、シユウはもっと王子様キャラの設定だったのに……
でもまあ、こっちでも頑張れるって気もする……
できるところまで頑張ろうと思いますので、ぜひご意見、ご感想をお聞かせください!
(正直、反応がないと、メンタル弱すぎる私はツライです……)