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第八話〜私の話〜

別視点のお話。

視点主はフードをいつも深く被って顔が見えない、ヒロインにあるまじきヒロインです。

今回は、二話連続投稿で小話の方も投稿します。

いつもに比べると、少し短いお話ですが、どうかお付き合い下さいませ。


毎日21時に更新します。

 突然だが、この世界には生きとし生ける全てのモノの上位存在「神」が存在する。

 神たちは、命が生まれ落ちた瞬間から命尽きる時まで温かく見守るのだそうだ。


 絶対嘘だと、私は思う。


 私は、少なくともそんな祝福された人生を送って来なかった。

 自分が世界で一番不幸だと言うつもりは無いが、幸せだとも思っていない。



 私は、とある相当に裕福な家庭の次女として生まれた。

 しかし、髪の色が燃えるような紅色であったことで全てが狂い出した。

 この国では、「紅色の髪を持つ者はいずれ全てを滅ぼす」という伝承があった。

 数百年の王国の歴史を紐解けば、確かにその存在も確認出来た。

 だから父はすぐに私を殺そうとした。

 それを止めたのは母だった。

 母は平民出の妾だった。

 母のことは、父は愛していたようで、母の懇願を受け入れ敷地の端に小さな屋敷を作り、そこに私たちを幽閉した。

 家族は皆冷たかった。

 異母兄弟姉妹、ほぼ皆私を蔑み、軽蔑した。

 唯一優しかったのは、私の五つ下の妹だけだった。

 それでも、微かな温かみに縋って、生きていこうと思った。



 それから数年、十四歳の夏に、全てが終わった。

 母が死んだのだ。

 窶れていたが、それでも元気だった母が次の日の朝目を覚ましたら冷たくなっていた。

 原因は、分からなかった。

 悲しみに沈む暇もなく、心の支えだった妹が、聖女に選ばれ教会に行ってしまった。

 小さな後ろ盾を失った私は、あれよあれよと言う間に、着の身着のまま何も持たされずに捨てられた。

 殺されなかっただけマシだと思うしか、自分を慰められなかった。

 私は、母から教えてもらった、簡単な火の魔術だけを頼りに冒険者になろうと思った。



 それから、大変な日々が続いた。

 髪の色で、様々な人の悪意を見る。

 いつしか、常にフードを深く被るようになった。

 街を追い出されては、新しい街へ。

 転々とした生活を送り続け、最後に行き着いたのがこのミレットの街だった。

 この街も、最初は他の街と変わらなかった。

 けれど、色々あって協力的になってくれたレイニーとルドノアさんが動き出して、その他一部の人たちの働きがけで皆最終的に受け入れてくれた。

 それから二年程経ったある日、あの不思議な少年「ミナト」に出会った。



 あの子は本当に不思議な子供だった。

 綺麗な服を着ていたのに無一文。

 つい数刻前は元気だったのに、突然街中で倒れた。

 どこか遠くを見ていて、常に心の奥が見えない淡い笑みを浮かべていた。

 右目が見えていないというのに、悲観せずに笑顔でいる。

 ステータスを聞いた時、私が冒険者になった歳と、更に妹と同い年であることに内心驚いていた。

 森に着いた時、急に焦りだして私より強力な術を放っていた。

 その後、私は動けないのにピンピンしていて、私を抱えて街まで戻るほどのスタミナもあった。

 そして、私の紅髪を見て一度も嫌悪感も、忌避感も抱かなかった、初めての人だった。

 私は、この不思議な少年を理解したい。

 心の底から人を理解したいと思ったのは初めてだった。

 だというのに、今はこの感情が邪魔をして仕方がない。






 私は、薄暗くなっていくミレットの街を当て所なく歩いていた。

 ミナトから「結論は早く出してね」と言われていたが、思考がまとまらない。

 参加すれば、確実に死ぬ。

 逃げれば、一生後悔する。

 冒険者になろうと決意した時は、まさかこんな選択をすることになるなんて思っていなかった。

 まともに前を見ずに歩いていたからか、人にぶつかってしまった。


「あ……ごめんなさい……」

「いや、こちらこそ失礼」


 ぶつかったのは、全身を灰色のローブで包んだ男だった。

 声は深みのある声で、壮年の男性のように思えたが全身から発せられる気迫が、彼の若々しさを教えてくる。

 彼は私の顔をジッと見つめた後、徐にこんな事を言ってきた。


「貴女はどうやら、深刻な悩みを抱えているようだ。ここは一つ、この無能な身に悩みを相談してみては如何かな?」


 私はお言葉に甘えることにした。



 ミレットの大通りの途中にあるベンチに二人して腰掛ける。

 私はポツポツと心に渦巻く悩みをぶちまけた。

 冷静に考えれば、一般人が聞くとパニック物の情報が満載だったが、私はそんなことまで気が回らなかった。


「……それで、私は決めなきゃいけないんです。受け入れてくれたこの街を見捨てるか、彼を巻き込んで一緒に死ぬか」

「ふむ……私が思うに、君はその選択で迷っているのではないと思うが。結論は出ているのに、その少年を巻き込むことを躊躇って同じ思考をグルグルと繰り返しているのではないかな?」


 私は目の前の霧が晴れる思いだった。

 そうだ、私は結論は出ていたのだ。

 ただ、あの子を巻き込みたくなかっただけなのだ。


「思うに、その少年は君の選択に口を出すことはないだろう。手伝ってくれと言えば、恐らく見返りもなく手伝うだろう。今君がしなければならないのは、その想いを少年に打ち明け、生き残る手段を講じることだと思うが」

「……!」


 私の表情が変わったのを見て、男の人は立ち上がった。


「この身に出来るアドバイスはこの程度だ。君が後悔の無い選択をするように祈っているよ」

「……はい。ありがとうございました」


 私はギルドに向けて走り出した。

 私はこの街を守りたい……でも死ぬつもりはない、絶対に皆守る。

 そう想いを強くしながら。






 私は時計塔広場まで休まずに走り続けた。

 彼は何処にいるのだろう?

 見回していると、ギルドの壁を背にしてミナトが空を見上げていた。

 私の気配に気づき、彼が顔を向ける。


「やぁセレーネ……時間ギリギリだね?そろそろ君の答えを聞こうと思うんだけど、いいかな?」


 微笑みながら言うミナト。

 出会ってからの三日間、いつも浮かべていた淡い笑みだった。

 私は彼の瞳をジッと見つめながら、自分の答えを告げる。


「……私は、この街を守りたい。でも、皆を死なせない。私も死ぬつもりはないよ。だから、皆を助けるために、力を貸して」


 私の答えを聞いて、少し驚いた顔をするミナト。

 すぐにいつもの笑みに戻ってしまったが。


「いいよ、わかった。君が皆を守る間、僕も命懸けでこの街を守ろうじゃないか」


 私は彼の返事に、大きな嬉しさと、ほんの少しの不安を得た。

 どうして、こんなにも彼の存在を遠くに感じてしまうのだろう。

 この不安は、彼の顔を見るたびに大きくなっていった。

なんとこの話、投稿四時間前に間違えて削除してしまい、大急ぎで書き直したものだったりしたのです……

本当に、その時は泣きたくなりました。

字数は、小話と合わせて五千字を超えるように書きました。


お読みいただきありがとうございます!

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