第三話〜初戦闘と人助け〜
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僕の哀しみに反して割と元気なティア(他人行儀だし、お互い愛称とかで呼び合うことに)と一緒に森を抜けた。
森の入り口を見つめながら呟く。
「案外、出口は近かったね」
『そうですねー。さぁ、ミナト。ここからが本番の異世界ですよー!』
「楽しそうだねぇ……」
ティアのハイテンションっぷりは、復活した時から続いている。
元気なのは良いことだけど、少し静かにして欲しい。
頭にガンガン響くのだ。
アレだね。
「いちいち頭に響く声を出す!」ってヤツだ。
……違うかな?
『それはもう。こんな状態になってしまいましたし、それなら楽しめる時に楽しんでおこうと思いまして』
「さいですか……」
若干緊張感の抜けることを聞きながら、草原を歩く。
歩き続けていると、少し隆起した丘のような場所に出る。
「……あそこにある道が、街道かな?」
丘からは周辺の景色が一望できた。
曲がりくねりながら続く道。
この周辺は一本の道と草原が続くだけで、少なくともこの近くに街が無いことがわかる。
……というか、絶対ここ地球じゃないよね。
なんというか、違うっていうのがわかってしまう。
『確かにここは地球ではありません。しかし、恐らくですが私はよく知っている世界だと思います。だから、帰る方法はあります。心配せず、今はこの状況を楽しみましょう。異世界を体験するなんて、そうないと思いますよ?』
そうないというか、普通に生きていれば百パーセントない筈なんだけどね。
『しかしいい景色ですねー。ただ、これから歩いていくにしても一日二日で着く距離に村か何かあればいいのですが……』
「最悪、身体強化使って爆走するよ」
最高出力なら、新幹線くらいの速度は出ると思うし。
『お馬鹿ですか?止まる時の衝撃で付近が爆発しますよ?』
あーそうか……じゃあ出力抑えるしか無いね。
「とりあえず街道まで出よう。歩いてればそのうち何か案が浮かぶさ」
『能天気ですねー……いいですけど』
異世界の始まりは、そんな締まらない感じだった。
街道をのんびりと歩いていると、無色透明のプルプルした謎の物体が三体現れた。
これ……エンカウントってやつなんじゃないか?
『スライムですね……』
「スライムだねぇ」
某有名RPGのように顔の張り付いた青い物体じゃないけど、ゼリーみたいな見た目とかスライムっぽい。
しかしこのスライム大きいな……1メートル以上あるんじゃないか?
スライム(仮)は、うねうねと動きながら近づいてくる。
……ふむ。ちょっと過剰威力だけど、試し斬りには丁度いいかな?
『……あの、何する気ですか?』
ティアが不穏な物を感じたのか、不安そうに聞いてくる。
まぁ見てなって。
……目を閉じ、魔力を高め、己の内側に意識を向ける。
『あの……?何か凄い魔力が渦巻いてるのですが!』
心をカタチにする、力ある言の葉を紡ぐ。
《我が心、我が魂。今こそ形を成し、我が厄災を祓え》
《――顕現――》
僕の胸から、一振りの刀が出現する。
形状は打刀、鞘は無く、鍔もない。
無駄な装飾もされておらず、唯斬る為に存在する、そんな刀だった。
柄を握った瞬間、刀の銘と使い方が少しだけ解る。
「白桜」それが僕の心剣。
どうやら魔力操作で多少長さを変えられるみたいだな……便利だねぇ。
他にもあるみたいだけど……まだよく理解出来てない。
初めて成功したからなぁ。
鞘が無いと、抜刀みたいなこと出来ないなーなんて、素人丸出しな考えだけど仕方ない。
とりあえずこれで斬ろう。
『何普通に取り出してるんですか⁈辺り一帯焼け野原にするつもりですかっ!』
「そんな火力あるの?」
『あります。そういう力なんですよ心剣というものは。というか、それ使えるならさっき逃げてた時に使って下さいよ……』
ティアが非難を込めた声で言ってくる。
そんなこと言われてもねぇ……
「いや、使えるって確信したのティアを受け入れてからなんだよねぇ。昔顕現させようとしたことあったけど、その時は失敗して気絶したし。あの時にそんな博打みたいなことできないって。生き残れたしいいじゃない」
身体を失ったティアには悪いけど、あの時は危険な手は打てなかったのだから仕方ない。
さて、いい加減近づいてきたスライムと対峙しようかな。
悪いけど、試し斬りの相手になってもらおう。
「ハッ!」
気合一つで踏み込みつつスライム一体に向けて袈裟斬りを放つ。
刀が滑って、全く効果が無かった。
身体強化をして、そのまま返す刀で横に振り抜く。
力で無理矢理ブチ斬った感触。
一体は倒せたけど……あの滑る表面は面倒だな……どうしよう?
『魔力を剣に注ぎなさい。そうすればスライム如き、心剣なら簡単に斬り伏せられます』
ティアが真面目にアドバイスしてくれる。
全身に回している魔力の一部を白桜に注ぐ。
煌々と紅色に輝きだす。
ちょっと刀身も長くなったかな?
そのままもう一度横薙ぎに振って、残り二体を纏めて両断する。
さっきとは程遠い、斬った感触すらない程スッパリ斬れた。
振り切ったら魔力の刃が飛び出て、着弾した遥か彼方の場所が爆発してたけど……やり過ぎたかな?
『何やってるんですかぁっ!』
ティアがカンカンに怒っている。
「加減が難しいなーこれ」
ティアのアドバイスに従った結果なのだし、多少は大目に見て欲しい。
『込め過ぎなんですよ!ほんのちょっと!刀身が光ってるかなー?くらいの加減でいいんですっ!』
「次は気をつけるよ」
『ま、魔力操作の練習させなきゃ……』
「ところでさ、心剣ってどうやって仕舞うの?」
『取り出しておいて仕舞い方知らないんですか……?胸に刺すように近づければ、後は勝手に消えてくれますよ。慣れればそんな動作しなくても、「仕舞いたい」と思えば胸に戻るようになりますけど』
おお、本当に胸に吸い込まれて行く。
なんか不思議な光景だ。
そういえば、剣仕舞っておいてアレだけど、他に魔物はいるんだろうか?
『この周辺に魔物とか生き物はいませんよ。安心して進めますね!』
さっきの爆発で逃げたのかな?
力加減をどう制御しようか考えながら、僕は先へ進むのだった。
初の戦闘で盛大にやらかしてから1時間ほど経った。
姿は全然見えないが、微かに剣戟と怒号と悲鳴の音が聞こえる。
ティアを受け入れてから、身体の機能…特に五感とか向上してる気がするのは気のせいじゃないね、これ。
『これは……恐らく商人であろう人とその護衛が盗賊に襲われていますね』
まだ姿が見えていないのに、ティアは確信じみた言い方をする。
「ねぇ……さっきも周辺の状況を把握していたけど、どうやってるの?」
もしかしてゲームのマップ機能みたいなのがあるのだろうか?
『ありますよ?』
あ、あるんだ……
「その機能、僕も使えるようにならない?」
使えたらすごく便利だろうなぁ。
『出来ますよ。あ、それなら私の能力の一部を共有しますか。せっかく一つの身体に二つも魂持ってますし。魂の一部を繋げれば使えるようになります』
ティアのその言葉のすぐ後に、少しの頭痛と眩暈がしたがすぐに消えた。
……なんだろう、頭が少しクリアになった気がする。
『共有化完了しましたよ。念じれば周辺のマップが出てきますから』
ん〜……おっ、出てきた。
マップの表示は、通常表示だと生き物は総じて点、建物や馬車、道の区別はつくが大雑把だ。
しかし、どうやら3Dの立体表示も出来るようで、試しに使ってみると周辺の地形以外にも、人や動物などの細かな形が詳しく解る。
ただ、馬車の中は見えない。
人が中にいるというのが分かるだけで、外見等はどんなものかはわからない。
しかしこれは……凄いぞ。
こっちを常に使うようにしよう。
ちなみに自分の姿は、通常も立体も緑色の三角の矢印で統一されている。
こんな凄い物が扱えるなんて、今更だがティアって何者なんだろうか?
『そこはアレです。乙女の秘密というやつでここは一つ、誤魔化されて下さい。現状がわかってひと段落ついたら教えますからー』
訊かれたくないみたいだから、今考えるのは止めよう。
だけど、色々済んだら覚悟してもらおうかな?
『なんか……身の危険が……』
気のせいじゃないかな?
さて、戦闘の場所は何処かな……と、マップを確認する。
ここから五キロ程行った先で、馬車を中心に円になってる白い人が数人と、その倍の数の赤い人が円を取り囲んでいる。
幾つか灰色で倒れている姿もあるな……
『マップに表示される点等の種類ですが……青は友好、赤は敵対又は危険、白は中立で灰色は死体、黒は関われば死ぬ可能性がある程能力に差があります』
それなら結構ピンチみたいだな……
うーん……情報が欲しいし、商人なら一般人や(そういうのがあるかわからないけど)冒険者よりも詳しく聞けるかな?
「助けに行くよ」
『異論はありませんよー。お好きなように』
許可は取ったので早速向かう。
……超加速の勢いを乗せて盗賊の一人を吹き飛ばして、戦闘に空白を作ってやろう。
『また余計なことしようとしてますね……』
いいんだよ。
身体強化によって五キロの距離を走破する。
見えてきたけど、少し戦況が悪くなっている気がする。
馬車の周りには既に七人程しかおらず、殆どが死体になっていた。
これでも保っているのは、馬車の中から発せられている、魔術による援護のお陰だろう。
これは……奇襲してそのまま休まずに斬れるだけ斬り飛ばすかな?
盗賊側にいる男に向かって、詠唱をしつつ走る。
《――顕現――》
白桜を手に、加速の勢いを乗せた突きを放つ!
「……あ?」
間抜けな顔を晒しながら振り向く男。
刀身が男の脇腹に当たった瞬間、轟音と共に男の上半身が弾け飛ぶ!
「うわ汚いっ!」
弾け飛んだ血肉が幾つか顔に当たって、気持ち悪くなった。
しかし、いい具合に盗賊側の動きが止まった。
一人を衝撃的な方法で排除したけど、周りにはまだ腐る程いるのだ。
盗賊達がまだ呆気に取られてるので、さらに三人斬り捨てた。
……人を殺したのに、特に何も感じないのは……
『それは私と繋がっているからです。少しだけ、性格面などに影響が出てしまっているようですね。貴方が残酷な人間である訳ではありません』
ありがとう、気遣いは嬉しいよ。
『………………いえ、そんなつもりは』
いや、気にしなくていいよ。
とりあえず馬車の方まで、盗賊達を蹴散らしながら走った。
斬って斬って斬って斬り捨てた。
悲鳴を上げる間も無く死に絶えていく男たち。
積み上がっていく死体の山。
三十人近くいた男たちは、気がつけば半数が物言わぬ物体になっていた。
馬車に辿り着く頃には盗賊は皆逃げていた。
深追いする必要も無いので、そちらは無視。
商人さんたちが無事か気になるところだ。
僕は改めて馬車に目を向ける。
しかしこの馬車……見た目は普通だけど、よく見ると高級感があるというか……いい素材使ってるのかな?
とりあえず話しかけよう。
僕は馬車の人たちに話しかけようと近づく。
……おかしいな。
なんで、皆さん僕を警戒しているのかな?
「それ以上は近づくな。近づいたら斬る」
壮年の、いい鎧を装備したおじさんが剣を向けながら言ってきた。
他にも、おじさんには劣るが似たデザインの鎧をつけた人たちも剣を構えている。
顔は、何か凄い覚悟を決めた険しい顔だ。
まず誤解を解かないと始まらないな。
「何か誤解しているようだけど、別に貴方達に危害を加えるつもりはありませんよ?」
「信じられんな。どうせ貴様もこの馬車が狙いなのだろう?」
僅かな逡巡も無く、否定される。
馬車って……積荷の事かな?
確かに商売道具は貴重な物いっぱいあるだろうけど、それ目的じゃないんだよなぁ。
「違いますよ。少しお尋ねしたい事が幾つかあるだけなんですって」
「ならば儂が聞こう」
むぅ……
このおじさん完全に戦闘要員だよね。
うーん……知識を聞くなら商人の方が絶対いいや。
「それじゃ意味ないんですよねぇ」
「ならば諦めるのだな」
このままじゃ埒が明かないな……
とは言っても、暴れて聞き出すのはあまり気が進まないしなぁ。
『そんなことしようとしたら私が止めますからね』
「心配しなくても、やる気はないよ」
『ならいいんですけど。どうします?別に街自体は、少し遠いですがこの先にありますよ?』
「僕が知りたいのは、通貨事情、国情勢、民間の噂とかなんだよ。街に入る前に知っておきたいんだ」
「何を一人でブツブツと呟いている!」
おじさんが怖い顔をしてる。
ヤバイ……注意力が散漫になってた。
独り言として出ちゃったか……
『どうするんですか?余計に警戒させちゃいましたけど』
なんか状況楽しんでない?
考え方によれば元凶とも取れるんだから少しはいい案考えてよ。
『えー』
えー、じゃない。
「怪しい上に、強い。ここで斬り捨てなければ我々が危険だ。よって、貴様を殺す」
ティアと思考で言い合いしてたらそんなことに決まってしまっていたようだ。
これは抵抗しないとマズイかな?
そう思って僕も白桜を握りしめる。
おじさんを筆頭に、生き残った騎士たち七人全員が殺気を放つ。
「どうしてこうなるかなぁ……」
『ミナトがやり過ぎなんですよ……』
……あまり殺したくはないんだけど、仕方ない。
僕も白桜を正眼で構え、おじさんたちの殺気を跳ね返す。
こんな時でもあまり取り乱さない自分の精神に、少し驚く。
少しの空白。
合図もなく、お互いの武器を全力で振り抜こうと力んだその瞬間。
「お止めなさいっ!」
殺伐とした空気を切り裂く、凜とした少女の声が響いた。
おじさん達との会話、不自然になってませんかね?
読んでいただき、ありがとうございます!