第五話〜スニーキングミッションと逃亡劇〜
天眼とマップの説明をここでしてしまいます。
天眼:俯瞰視点的に世界を視る眼。また、世界の事象全てを解析する眼
マップ:自分の五感を強化し、知覚出来る範囲の周囲の地形などを精巧に表示する地図。2D表示と3D表示で使う魔力量や疲労度が変わる。
主人公は基本的に両方を併用して使っています。
消費魔力が半端じゃないですが、そこはティアの魔力とか引っ張ってくれば負担は半減します。
以上、補足説明でした。
次の投稿日は5/21土曜日、21時です。
王都に来てから、五日が過ぎた。
情報収集とクエストを交互にやっていたから、時間は掛かったが多少の進展はあった。
結論から言えば、過去に異世界から人間が来た例はあったらしい。
この世界では僕ら異世界人の事を「彼方からの渡り人」略して「渡り人」と呼んでいたらしい。
だが、一般人の閲覧出来る範囲にある本にはそれ以上の事――その人達の出身世界や、この世界での行動、最終的に帰ったのかどうか――が書いていなかった。
そこで一旦詰みかけたのだが、運良く職員の噂話を盗み聴き出来て、図書館の奥に「禁書エリア」なるものがあると判明した。
その日の夜には図書館の奥に忍び込む事を決めて、計画を練る事になった。
だが、『そもそも羽衣の能力『隠密』を使えばバレる問題とか皆無ですよね』というティアの一言から計画を棄てて、突撃が決定。
二日後……つまり今日、異世界に来てから二十五日目の夜中、侵入する事になった。
今現在、僕は草木も眠る丑三つ時に図書館の一般人の立ち入り禁止エリア(禁書エリアと言うらしい)に侵入して情報を探していた。
禁書エリアの中は、色々な魔術書や文化的や歴史的に(色々な意味で)価値が高いであろう記録が保存されていた。
どれもこれも読めば強くなる代わりに正気を失うとかそういう力を持ってたり、知れば問答無用で闇に葬られそうな情報だったりしそうだ。
触らぬ神に祟りなし〜っと。
『そう言いつつ魔術書に手を出さないで下さい。呪われたらどうすんですか』
『思うんだけど、僕自身の意思で使える魔術って少ないと思うんだよ。レパートリーを増やしたくて……』
『魔術がんな料理みたいな感覚で増えるわけないでしょう……』
『提案:それならば、この私が手伝いましょう。魔術書に書かれている物を全て解析して、保存します。後で時間がある時に、一緒に理論等を紐解いていきましょうか』
メティスって……便利だなぁ本当。
しかし保存ってどこにするんだろう。
『応答:魔力で形作った石版に解析した魔術と本の原文を記載し、それを羽衣のストレージの中に突っ込みます。大丈夫、そんなに大した量にはならないと思いますから』
『じゃあお願い出来る?』
『ええ、了解です。ただ、解析には書物に直接手を触れて貰わないと出来ませんので』
『わかった』
という事で、目的の情報を探しつつ手に入れたい魔術書に触れて解析をして貰ってから少し経った頃、お目当の本を見つけた。
タイトルは『異世界の人間――渡り人についてと対応策の考察』著者はバルバラ=マリアム。
本には閲覧厳禁のプロテクトが掛けられていたがメティスとティアに解除してもらい、手に取ってパラパラとページを捲っていく。
バルバラさんの字は汚い……というか走り書きだが、幸い(勝手に)翻訳機能があるので読むのには困らなかった。
『見た感じ、本というよりもメモ書きやレポートの類ですね』
『うん。これを書いたのは……今から200年くらい前か。800年の間にこれだけの異世界人が来てたのは驚きだね』
本の最後に、渡り人と思われる人物のリストが書かれていたが、パッと見ただけでも1000人程が異世界に渡ってきたようだ。
ほぼ毎年一人以上は来ている計算になる。
『ティア、これって正常?それとも異常?』
『考えるまでもなく異常です。私たちが世界を管理していた時はこんな事はなかったですから。全く今の子たちは……』
ティアが管理の出来ない今の主神たちに呆れているが、この動作を見ると「若い人が仕事ができないのをグチグチ言う年配のおばさん」みたいだ。
特に、「嘗ての自分が出来てたのに、今の子たちはダメねぇ」みたいな言い方してるのが、おばさん臭い。
『……ブチ転がしますよ?』
『へいへいすみませんでしたね』
全くティアは怖いなー、唯のジョークじゃないか。
……ん?誰か来た。
「――だから――で、その――――」
「いいか――――をちゃん――――」
男の声が二つ、近づいて来る。
天眼で確認すると、この図書館の職員だった。
まさか……見回りか?
僕らの位置から少し離れているが、相手は明かりを持っているらしくもしかしたら視認可能な距離かもしれない。
動くか?まだこの距離なら隠密の効果で気付かれない筈だ……よし、動こう。
と、僕が本を本棚に戻した時、何か警報の様な音が鳴り響いた。
――ビィィィィィーーーーッ!!!――
そして、そよ風の様なものが突然発生し、通り抜けたと思ったら……見回りの職員たちと目が合った。
っバレた!?
「おい、侵入者だ!衛兵を呼べぇ!」
「警報、作動!!」
次々と進展する事態に頭がついて来ないが、逃げなきゃマズイのはわかっていたので咄嗟に禁書エリアの奥に行く。
天眼で確認したが、この禁書エリアには隠し通路が幾つか通っていた。
そこを使えば衛兵程度なら逃げ切れるだろう。
「おい、侵入者は何処に行った!?」
「わかりません……が、直ぐに入り口は封鎖しました。そう簡単に逃げ切れる事はないでしょう」
「馬鹿野郎!侵入者は俺たちの普段の警備の穴を狙って入ってきたんだぞ!入り口だけ塞いでも意味ねぇだろうが!!」
「ひぃ!すみません!!」
「ここの職員や王城に勤めてるお偉いさんでも誰でもいい!隠し通路の様なものがあるか確認して来い!」
隠し通路に入った直後に来た指揮官の様な筋肉ダルマが、禁書エリアに着いて早々に指示を出していた。
勘がいいのかわからないが、この指揮官、見た目の割に優秀かもしれないな。
いや、まぁ隠し通路の有無なんて誰でも思いつく……かな?
指揮官たちの様子を尻目に、隠し通路の奥へと歩いていく。
しかし……暗いなぁこの通路。
通路の中は少し湿った匂いがするが煉瓦造りで、灯りは有るがメンテナンスをやっていないのか殆どが切れていた。
『この隠し通路、ずっと使われていなかったようですね……埃が凄いです』
『一応、天眼とマップで道は確認できるから暗さはこの際関係ないんだけど……あ、マズイ。この通路の行き先王城の中じゃないか』
『ええ!?入る時にちゃんと確認して下さいよぉ……どうするんですか?戻って別の道探します?』
『うーん……少し考えさせて』
天眼で見てみると、図書館には既に50人近くの衛兵が僕を探してウロウロしている。更に彼処には指揮官が居るから面倒だろう。
王城の方は、一応敷地内に侵入者ということで警備が強化されているように感じるが、王城が広い為どうしても空白地帯が出来てしまっていた。
このまま進んだ方が良さそうだ。
『このまま王城に行く』
『りょ〜かいです……ふぁ〜』
ティアは眠いのか欠伸なんかしている。
呑気なものだ。
ちなみにメティスには天眼の捕捉能力と魔術で周囲の虫や小さな魔物を片っ端から排除して貰っている。
ブツブツと『悲嘆:こんな事に私が使われるなんて……』と呟いていた気がするが、聞こえないフリをしておこう。
何分くらい歩いた頃だろうか、ガシャン!と大きな音が遠くでして、どんどん足音が近づいてきた。
まさかと思ってマップを見ると、ワラワラと衛兵たちが隠し通路に入ってきていた。
こんなに早くバレるなんて予想外だ!
『逃げて!超逃げて!?捕まったら帰れなくなりますよ!』
『わかってるよっ!!』
身体強化を使って暗闇の通路を走り抜ける。途中の分岐路を勘で曲がりつつ走る速度は落とさない。
無我夢中で走った結果、何とか逃げ切り隠し通路を抜けて王城に出た。
っと、モタモタしていられない。早く隠れなきゃ。
羽衣の隠密が発動しているか再確認しつつ、その場を離れる。
離れてすぐ後、隠し通路の出口辺りが騒がしくなっていた。
どうやらあの衛兵たちもこの城に着いたようだ。
あまり時間の差が無かった事に驚いたが、そんな事より深刻な問題が発生していた。
侵入者を追って城まで来たという事は、侵入者は城の中に居る。
↓
警備強化あくしろよbyどっかのお偉いさん
↓
待機していた兵士たちがワラワラと警備の為に出てくる
↓
あっという間に警備網完成
↓
警備網のお陰で逃走不可(←今ココ
ちなみにここまでで時間は30分程しか経っていない。
何だこの国の兵士、凄く優秀な奴多くないか?
本当ならあの警備を突破したい所なのだが、ここでさっきも言った深刻な問題が発生したのだ。
羽衣の隠密は「視界に映っても認識されない」と言うものだが、それは人の意識レベルによって効力が変わる。
通常時の警備程度なら誤魔化せるが、此処まで警戒された状態になると途端に効力が落ちるのだ。
仕方なく、城の中でまだ警備が厳重ではない、比較的安全な場所に向かった。
屋内から向かうと見つかる可能性があったので、外の壁や屋根を伝って行くことにした。
『落ちたらこれ死にますよね……落ちないで?絶対に落ちないで下さいよ?』
『注意:それだと落ちろー落ちろーと振っている様なものですよ?』
『じゃあ落ちて下さい!』
『混乱してるのはわかったから黙っててくれ』
ティアが喧しいが、何とか見つからずに安全地帯まで来れた。
しかし……ここからどうしよう。
お城の屋根って結構鋭角な三角形なもんだから、さっきから落ちそうで仕方がない。
本気で落ちるかもしれないと思って、打開策を探す。
マップをふと見ると、自分のいる屋根の下の部屋はバルコニーが付いている。
人がその部屋にはいたが、静かに降りられれば……何とかなるかもしれない。
屋根にしがみ付いてる腕や足は既に限界に達しているし、迷っている暇もない。
気づかれませんように……と祈りながら落ちる。
着地音はなかった。
これならバレないだろう。
「っふー……。何とか大丈夫かな」
思わず呟きが漏れてしまったが、勘弁して欲しい。
少し休もうと息をついたその時、背後から声を掛けられた。
「何が大丈夫なんですか?」
「!?」
その声はどこかで聞いたことのある、少女の声だった。
これが、僕と今代の聖女アルミナとの再会で、僕のこれからの人生を大きく左右する出会いになった。
お読みいただきありがとうございます!