第二話〜王都到着〜
文章書いてて思うのが、街並みの描写のし辛さです。
前回のミレットの街もそうでしたが、あまり細かく街の形とか説明していなかったような気がします。
やっぱり細かくやった方がいいんですかね?
次回の更新は5/11水曜日の21時です。
グレイウルフの群れを蹴散らしてそのまま進み、更に四日が経った。
ここで、僕の乗っていた馬車の持ち主――行商人のノーレンさんが王都に向かっている事を知り、最後まで乗って行こうと決めた。
帰還が目的の僕だが、情報を集めなきゃいけないので王都というのは都合が良かったのだ。
メティスに頼めばすぐに帰還方法もわかると思ったが、心剣の時と同じで弾かれたらしい。
そう簡単には帰してくれないようだ。
『王都ですか……どんな場所なんでしょうねぇ?』
『ティアがいた時は無かったの?』
『まぁ、トリストラム王国という存在はあったんですが……こんな大国では無かったですねぇ。大陸の端っこにあった小国だったんですが』
どうやらティアのいた時代とは少し違うらしい。
『メティス、歴史とかわかる?』
『応答:わかります』
『どうしてこんなに大きくなったかわかる?』
『応答:今から千年前の、嘗ての大戦……貴方の父君や母君が参戦していた神々の戦いの後、この大陸最大の版図を誇っていた帝国が荒廃し、消滅。他の国も戦争に加担していたため国力が低下しましたが、当時のトリストラム王国は静観を決め込んでいました。そして、他の国が復興で手間取っている間に着々と嘗ての帝国の領土を吸収。他国の復興が終わった時には、大陸で一、二を争う大国になっていました』
戦略ってやつだろうか。
当時の国王は優秀だったんだろう。
『じゃあ大陸の今の勢力図はどうなってるのかな?』
『応答:今、人間の勢力は二つの大国と無数の小国が、獣人族・亜人族は連合国として種を問わず一つに纏まり、魔人族は鎖国状態ですね』
この世界、獣人とかも居るんだ……
あれ?でもミレットの街とか、ここに来るまで見た事ないぞ?
『応答:それは単純に場所の問題ですね。ミレットの街は王国の南に位置し、獣人等の他種族との国境から遥かに離れています。王都に着けば様々な種族がいると思いますから、見たいのであればもう少しの辛抱ですよ』
『今計算しましたけど、このままで行けばあとニ〜三日あれば王都に着くと思います。そしたら本格的に情報収集を始めましょうね』
マップを見ながらティアが教えてくれる。
意外とミレットって辺境にあるんだな。
『暇ですね〜。うーん、何かやる事ありませんかねぇ…………あ、そうだ!ねぇミナト。貴方、私の守護者の称号が付いてましたよね?』
ティアが嬉々として聞いてくる。
そんなに暇が嫌なのだろうか。
『なんだよ唐突に?あるけどさ。えーっと……《宵天の守護者》これだろ?』
『そうそれ!それの説明に「宵闇の羽衣が使える」ってありません?』
ティアに言われたので詳細を調べる。
確かに、「宵闇の羽衣の使用許可」って書いてあった。
『あったけど、これがどうかしたのか?』
ティアが得意げな顔で胸を反らして威張り始めた。
鼻が天狗みたいに伸びて見える。
すっごく腹立つなこれ。
へし折ってやろうか……
『ふっふっふーん。この羽衣って言うのはですね?とっても便利なアイテムなんですよ!聞きたいですか?聞きたいですよね?』
『いんや、別に』
『なんでですか!?』
だって態度がウザいんだもん。
そう言ったら泣くから言わないけど。
興味無さげにしていたら、ティアが「聞いて下さ〜い」と念を飛ばし始めた。
なにこの子超面倒臭い……
いつまで経っても念を飛ばしてきていい加減邪魔なので、対応してやる事にした。
『助言:そうやって最終的に甘くするからつけあがるのだと愚考しますが』
全くその通りだね。
ティアの長ったらしい自慢入りの説明はマルッと無視して要約するとこうだ。
・宵闇の羽衣とは、宵天の守護者に与えられる専用の装備である
・羽衣は、黒のロングコートの形をしており、着ているだけで隠密の技能が自動的に発動する。自分の意思でオン・オフの切り替えが可能
・羽衣は周囲の環境に合わせて、温度調節機能が付いている。その為、どんな環境でも快適に過ごせる。
・羽衣はアイテムストレージ機能が付いており、収納したい物に触れて「収納」と念じれば自動的に収納、整理される
・収納機能は、例えどの様な物でも収納出来る
・ストレージに許容限界はない
・羽衣を使用出来るのはナハティアが認めた者だけである
……何だこの便利アイテム。
これがゲームなら間違いなく修正が入るバランスブレイカーだろう。
この世界には、アイテムボックスと呼ばれる様な物が一応はある。
だがそれはとても高価で、しかも容量が意外と少ないのだ。
これがバレたら面倒な事になるかもしれない。
……ま、心配しても仕方ないか。
『羽衣は、出ろ〜と念じれば出ますよ』
『なるほどね』
念じたら本当に出てきた。
突然、服に微かな重みを感じたと思って見たら既に装備していた。
おおう……びっくりした。
あたふたしていたら、ノーレンさんが僕のコートに目をつけた。
「あれ?お客さん。……そのコート、いつ着たんで?」
「ああ、いや……その」
ヤバイ、ノーレンさんに怪しまれたか。
ノーレンさんは少し怪しい人を見る目で僕を見つめている。
あまりバラしたくないし、ここらで逃げる必要あるかな……と警戒したのだが、案外あっさりとノーレンさんは引き退がった。
「………………まぁ深くは聞きませんがね。お客さん程強え人なら秘密の一つや二つあるもんだ。好奇心は猫を殺すと言いますし、ここらで下がりますわ」
ノーレンさんの気遣いを有り難く思いながら、「このコートは人前で出したり仕舞ったりしないようにしよう」と誓った。
途中のプチハプニングや魔物の襲撃等、慌ただしくも楽しかった馬車の旅ももう終わりに近づいていた。
ティアの計算通り、ミレットの街から十日かけて王都に到着した。
王都は、外壁で囲まれて殆ど見えないが遠くからでも視認が可能なほどに大きな王城が、途轍もなく威容を放っていた。
ノーレンさんと共に、審査を待つ。
護衛が僕一人であることを不審がられたが、ノーレンさんがのらりくらりと躱していた。
下手に口出ししたら立場を悪くするかもしれないので、僕は沈黙を保った。
少し手間取ったが審査が終わって、いざ街へ!と意気込んで踏み出す。
「………………?」
「お客さん、どうしました?」
ノーレンさんが、一歩を踏み出したまま固まっている僕に振り返って声をかけた。
「……いや、気のせいでした」
「?そうですか」
ノーレンさんは、訝しんではいたがまたあっさり下がった。
正直、何があったか説明出来ないから僕も困っているのだが。
『どうしたんですか?』
『……この街に入るとき、何か網に掛かった感触がした』
『……そうですか。なら、警戒した方がいいですね』
『メティス、警戒お願い出来る?』
『応答:広域を見張ると言うのであれば、眼帯があると効果が半減します。外すことを推奨しますが』
どうやら眼帯の自然治癒効果が、天眼の一部の能力を阻害しているようだ。
天眼って金色に光ってるし、目立つからあまり外したくないなぁ。
『うーん……いや、なら僕から周囲五百メートルの範囲でいい。それなら大丈夫?』
『応答:それなら問題ありません。警戒を開始します』
どうやら、天眼が発動したらしい。
右目の視界が、僕を中心に俯瞰視点的に視えている。
これであとは、意識しなくてもメティスがやってくれるから問題ないだろう。
マップを起動して、周囲の建物の詳細を調べていく。
『宿は高くても環境のいい場所を選んで下さいね〜』
『わかってる』
それから少しして、大きくはないが部屋の環境、勤めている人員のいい場所を見つけた。
大通りからは外れるが、許容範囲内だろう。
ノーレンさんにお別れを言って、僕は宿に向かった。
宿の前に到着したは良いものの、何だか扉前あたりが妙に騒がしい。
あまりガラの良くなさそうな男たちが、わらわらと集まって騒いでいる。
あの集団の中に突撃して行くのは嫌だなぁ。
『何でしょうか。借金の取り立てですかね?』
『そういう雰囲気でもなさそうだけど』
天眼で見てみると、扉の前に強面の屈強そうな見た目店主な男が一人立ち、その前に蛇みたいな顔のヒョロリとした男が対峙していた。
その周囲を雑魚敵のような男たちが囲んで騒ぎを起こしているようだ。
身体強化で五感を強化し、男たちの会話を盗み聴く。
「手前ェ、どうしてもあの男を庇うんだな?」
「……お引き取り願おう。そもそも、ノーレンなどという行商人が私の宿に泊まった事などない。これ以上は仕事の邪魔だ、帰れ」
「タダで帰るわけにはいかねェのよこれが。なぁ少しで良いんだ。宿の中ァ見せちゃくれんかね?」
「「「ドロンドさんが見せろと言ってんだ!見せろや!!」」」
「返事は変わらん……帰れ!!」
状況を察するに、さっき別れたノーレンさんをこの男たちは探しているらしい。
行商人でノーレンって名前がどういう意味を指しているのかは知らないけど、あまり関わり合いにならない方が良さそうだ。
とは言ったものの、ここの宿には泊まりたいし……どうしたものか。
『心操であのチンピラ共を操ってどかしちゃいましょうよ』
『その手があったか』
まだ使ってない能力だったし、丁度良い。
実験台になって貰おう。
『例え剣を抜いても、魔力をどれだけ高めても、羽衣の隠形の機能でバレることはありません。やっちゃってください!』
心剣を抜き地面に刺し、そこから魔力のラインをチンピラたちに繋げる。
こうしないと周囲無差別に効果が発揮されてしまうのだ。
準備が出来たので、詠唱を開始する。
《我が心は森羅万象に虚像を映す鏡なり》
《世界よ、我が思いのままに惑い、踊れ》
《――夢幻之世界――》
「「「………………!?!?!?」」」
「アん?どーした手前ェら?」
「「「………………!!!!!!」」」
「おい!どーした!?」
急に静かになり、身動き一つ取らなくなったチンピラたちの変化に、ドロンドと呼ばれた男が騒ぐ。
――今、チンピラたちの視界には無数の花びらが舞っているだろう。
そして身体は動かず、悲鳴をあげる事も、誰何をする事も出来ない。
今僕は、彼らの心に対してハッキングのような物をしている。
心操という物は対象を意のままに操る力だが、それは能力の最終系だし複数人に限定してそれをやるのは、中々キツイ物がある。
普段使いするなら、どちらかというと今のようにハッキングして幻覚を見せて操る方が楽だったりするのだ。
ちなみに、視界に出る花吹雪はハッキング中に勝手に出るものなのでどうしようもないらしい。
余談だが、僕は花吹雪だけどティアなら星が舞うらしい。
『…………よし、出来た』
『何を視せるつもりですか?』
『ノーレンさんの幻影』
それで彼らが探しているのが、僕の知ってるノーレンさんかそうでないかが判る。
『……行くよ!』
彼らの視界の端にノーレンさんの姿を映す。
……釣れるか?と不安だったが、視界に映った瞬間にチンピラたちが反応した。
「「「ドロンドさん、野郎が彼処にいますぜ!追っかけやしょう!!」」」
「……は?ちょ、まてお前ら!おい!!」
「「「まァちやがれこの野郎ー!!」」」
「ったく。待つのは手前らだ馬鹿どもぉぉぉ!!」
おお……面白いように釣れた。
一瞬で扉の前からチンピラたちが消え、妙な空白地帯になっている。
流石の強面店主も、この急展開に目を白黒させていて見ていて面白い。
『見事に追っかけていきましたねぇ』
『うん。けどこれで、あのノーレンさんがチンピラたちの探していた人と同一人物だってわかっちゃったね。面倒ごとにならなきゃいいねど』
『気にしても仕方ないし、今は考えなくてもいいのでは?』
まぁそうなんだけど……ティアのお気楽さが羨ましいよ。
最初はまた別の地方都市に行く予定だったのに何を間違えたか王都に向かってしまいました。
自分の思考の手綱を握っていないと、どんどんプロットから外れるということを思い知った回でした……
お読みいただきありがとうございます!