第十話〜神殺しの力〜
主人公無双ような何かになった気がします。
ちゃんと読めるように書けてますかね?
そこが心配です。
毎日21時に更新します。
今ティアは城壁の上に立っている。
目の前には、虚人から伸びた無数の触手が結界に弾かれては襲ってくるという大変気持ち悪い状況が展開している。
『ねぇ、ここに立ってからもう十分以上経つんだけど……そろそろ攻撃に出たいんだけど?目の前のアレ気持ち悪いし、なんか距離が近づいてるよ?』
先ほどの砲撃を撃った時より随分近づいている。
既に視認できる距離だ。
『いや、わかってはいるんですが……よく考えたら、私心剣は出せますが接近戦は苦手ですし、攻撃系の魔術もあまりないんですよねぇ……』
『ええ!?あんなに格好つけて出てった癖に!?』
まぁ……ティアらしいけどさ。
『って言うかさ、ティアって夜に関する女神なんだよね?』
『厳密には違いますが……まぁ。その辺の詳しい事はこれが終わって、私が消滅してなければ話しますけど』
なら僕も死なないようにしないとね。
……自分の能力で自滅の可能性って普通にダサいよねぇ。
いや、考えても仕方ないか。
『おっ!結界が数枚割れたよ?』
『う〜ん……本格的に攻勢に出ないとマズイです……』
『夜って厨二な匂いがするから攻撃的な術多いと思ってたよ。闇系の術とか』
闇だったら、「闇の炎に抱かれt」とかありそうなもんだが。
『チュウニ、というのがどういうものか知らないので何とも言えませんが、夜と闇は違いますよ?闇は光すら届かないモノで、どちらかと言えばあの虚人のような虚無に近い力です。あちらはあらゆるモノを侵食していくという意味で同じだと思います。夜は、空全体に広がり世界を包み込む、母の抱擁の様なイメージになります。だから結界を張ったり、治癒だったりの方が得意なんです』
ティアが長々と説明してくる。
そんなに一緒にされたくなかったのか。
『……うん、せっかく心剣を出したのに使わないの勿体無いですし、ミナトに心剣の使い方を覚えてもらう意味でも、一度攻撃します。そしたら後はミナトに任せますので』
『了解』
ティアはそう言って、心剣に魔力を込めていく。
『心剣には四つの能力があります。一つは心壁……心の壁を現実に出現させる防御の力。二つ目は心操……有機物無機物、物質非物質問わず対象を心のままに操る力。三つ目は心撃……自分の中にある最も大きな感情の種類によって威力が変わる、ちょっと使いにくいですが場合によっては威力が神の一撃を超える力。最後の四つ目は心剣解放……文字通り心剣の力を解放します。一時的なステータスの大幅な強化と、強力な技を使えますが、使った後は一時的に心剣が使えなくなり、あらゆる感情の制御が効かず、あらゆる魔術抵抗も無くなります。この中でも、今回は心撃を使いたいと思います』
心剣に魔法陣が出現する。
準備が整ったようだ。
『貴方は森で、一度心撃を使っていました。心撃には複数の種類があり、その中でも手数に富んだ物を選択していましたね。今回は重い一撃を選びますが種類に限らず、感情の制御が大事です。貴方のアレは恐怖に駆られて放った一撃です。だから傷を少ししかつけられなかった。心撃を使う際、相手を恐れてはいけません。感情を制御して、詠唱して下さい。……いきます!』
ティアの説明が終わり、本格的に攻撃態勢に入る。ティアの感情が、今は無の状態に近いことに気づく。
あれ?でも、少しだけ怒りの感情が存在する。
《我が心はあらゆる希望を以て、あらゆる絶望を払う光なり》
どうやらこの言葉は、心撃を使う際の定型文みたいなものらしい。
《夜空に輝く星よ、彼の者に裁きの鉄槌を下せ》
《――宵の明星――》
ティアが心剣を空に掲げる
空から一つの、小さな星が落ちてくる。
……って星ィ!?
『ティア!?アレは街にも被害が出るんじゃないかな!!?』
『私たちの楽しい異世界ライフを初っ端からへし折ってくれたあのクソッタレなど消し飛んでしまえばいいんですぅぅーーーー!!』
感情の制御はどこに行った。
ティアは己の怒りを増幅させて、強烈な一撃を放ったのだ。
虚人はこちらに向けていた触手の大半を防御に回していた。
小さな星が衝突して――衝撃がくる。
ッドガァァァーーーン!!!!
地面の吹き飛び具合から、衝撃だけで数回死ねる事がわかる。
やりすぎじゃない?
『ティア……?』
『あはははー……やりすぎましたかね?』
もうもうと上がる煙の中、ティアがケラケラと笑う。
何だよもうこの娘恐い。
しかし、こういう時「やったか!?」とかのセリフはダメだと思うんだよなぁ……あ、やっぱり。
無数の触手が、また襲ってくる。
結界は相変わらず健在なので問題は無いが、いい加減見るのも飽きてきた。
一応、あいつのHPを確認しておくか。
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虚人
Lv.15000
HP:8875000/17850000
MP:11987000/17850000
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半分以上減っていた。
凄いな、と言うかステータスが視れたことにも驚きだ。
『半分は減らしましたね』
『うん、そうだね。そろそろ代わろうか?』
『そうですねぇ……疲れましたし、交代しますか。私は魂に鍵を掛けて奥に引きこもっています。それでも消滅の可能性はありますが……頑張りますので、貴方も身体の崩壊に気をつけて』
『うん。わかった』
ティアが心剣を戻し、奥に引っ込む。
身体の感覚と、身体に起きていた変化が戻った。
「さて……んじゃ行こうか」
僕は右手の薬指の指輪に手を掛ける。
ちょっと怖い。
……ええい!南無三!!!
一思いに指輪を引き抜く。変化はすぐに訪れた。
――――ドクンッ!!!――――
「ッ!?ーーーァァァアアア!!!」
僕の魂に封印されていた神殺しの力が目を覚まし、紅い魔力が僕の身体から迸る。
どこまでも暴力的で、全てを破壊し尽くす紅い光。
城壁や、遥か下にある草木がボロボロに崩れていく。
このままここに居ては街に被害が出てしまうだろう。
僕は咄嗟に地面に飛び降りるが、触れた先から地面が消滅して行く。
ゆっくりとだが、徐々に地下に落ちていく。
どうすりゃいいんだこんなもん!?
(何か、空を飛んだりすれば被害は出ないだろうけど……空を飛ぶ方法か……)
考えても思いつかないし、魔術に空を飛ぶ方法があるのかも知らない。
こんな事ならティアに予め聞いておけば良かった。
後悔していると、右目が嘗て無いほどに痛む。
《天眼:万象解析――発動》
え、何?何が起きてるの!?
《解析完了 無属性魔術を全て解析。無属性魔術:飛空――発動》
地面への落下が止まり、身体が浮く。
どうやら中に浮いていて、自在に飛べる様だ……何なのだろう、この天眼。
とりあえず地上まで飛び、状況を確認する。
ティアの張った結界はまだ健在で、虚人は四十キロ程の場所から無数の触手を繰り出している。
まだ余り変わってないか。
と安心した所で、自分の身体に走る痛みに気付く。
内側からすり潰されるような痛みに、思わず気が遠くなりそうだった。
ステータスでHPを確認する。
******************
朝霧湊 14歳
Lv.解析不可
職業:冒険者[Rank:F]
HP:47900/58350(+57500)
MP:99999999/121000(+120000)
******************
まだ一分程度しか経っていないのに、既に一万も減っていた。
五分程度で死ぬという事か……
というか、レベルが解析不可なのはまぁいいとして、MPおかしくないですか?
最大魔力よりも多いって表示がバグってるような……
それにカンスト99999999って、安いゲームの裏ボスじゃないんだからさ……
いや、余計な事考えて時間浪費するよりもとっとと虚人を消滅させて、力を封印し直した方がいいか。
「あまり時間が無いんだ。さっさと終わらせてやる」
僕は誰ともなしに呟きつつ、心剣を取り出す。
白い筈の僕の心剣は、鮮血のような紅で染まっていた。
これも神殺しの紅い魔力の影響だろう。
とりあえず、飛びつつ剣を一閃。
剣閃が触手たちを断ちながら本体に迫る。
ここで初めて、虚人が回避行動を取った。
軟体動物のように体をクネらせ、剣閃をギリギリのところで回避する。
ここでとうとう、街から僕に攻撃対象が移った。
全ての触手が僕に向く。
襲ってくる触手を、飛びながら回避する。
すれ違いざまに何本か斬っていくが、あまり減った感じはしない。
どうするか考えていたら、右目がまた痛み出した。
今度は何だよ!?
『天眼が状況の最適解を提示しています。表示しますか?』
…………もう、僕はこの眼が理解できない。
とりあえず表示してみた。
要約すると、こっちも魔力を触手状にしてぶつけ合わせ、敵を喰らっていけば良いとのこと。
神殺しの魔力で、ぶつけ合えばこちらが完全に勝つ上に虚人の魔力等を取り込むことが可能なようだ。
もうそれでいこう。
僕は天眼の指示に従って魔力を操作する。
『無属性魔術:魔力形成――発動』
紅い魔力が背中から噴き出し、無数の頭を持つ紅い蛇が形作られる。
八岐大蛇なんて目じゃないほどの頭の数。
正直気持ち悪い。
「喰らえ――紅の愚かな蛇――」
これもまた、勝手に口から出た言葉だった。
天眼を得てから、こういうのが多くなってきたな……
心配しても仕方ないか。
サマエルは虚人の繰り出す触手を片っ端から飲み込んで貪り食っていく。
既に僕の思考の制御を離れていた。
これを見ているギルドの人たちは、一体何を想像しただろうか……世界の終焉だろうか?
少なくとも僕の目の前で繰り広げられている惨劇は、虚人が憐れになるほど一方的且つ容赦の無いものだった。
触手を粗方食い散らかしたサマエルは、虚人本体に目を向ける。
虚人が最後の力を振り絞って撃とうと攻撃態勢にはいるが、そんなの御構い無しとばかりに喰らっていく。
一分とかからず、あれ程存在感を醸し出していた化け物が世界から消え去った。
蛇を通じて虚人の力だったモノが流れ込んでくる。
僕は無言で指輪をする。
すぐに紅い魔力も蛇も消えた。
街の入り口から誰かが走ってくるのは見えたが、そこで僕は気を失った。
目を覚ますと、其処には何もなかった。
無限に広がる虚無の中、僕はたった一人で其処にいた。
歩こうとするも足がなく、周囲を手探りしようにも手がなかった。
あるのは魂だけだった。
僕一人の孤独な世界にふと、女性の声が響いた。
『全く……気休め程度の効果だと強く言い含めておいて、と言った筈なのだけれど』
『ああ……やっとみつけたわ。あの世界に居なかったから、別の世界にいると思ってはいたけれど……よもや彼らが呼ばれた世界に行くとわね。これも親子かしらねぇ』
何処かで聞いたことのある、懐かしい声だった。
女性はとても嬉しそうな声を出して、僕の魂を抱いた。
しかし、すぐに残念そうな声に変わる。
『あまりゆっくりもしていられませんか……仕方ありません。本当はもう少しこうしていたかったけれど……』
彼女は名残惜しそうに僕を放すと、真面目な声で伝えてくる。
『さて、貴方は此処に来るにはまだ早い。だから今一度、貴方を、あの世界にある身体に戻します。次会う時は……私の部屋で、また一緒にお昼寝しましょう?』
そう言って、彼女の気配は消えた。
後に残った残り香は、お香の良い匂いがした。
その匂いを思い出しそうになって、僕の意識は闇に沈んだ。
目を覚ますと、闇に包まれた世界と、少しシミのついた天井が視界いっぱいに広がった。
見覚えのある天井から目を離し、周囲を見回す。
どうやら、ここはギルド二階の個室のようだ。
虚人撃退から、一週間も経っていたらしい。
その間、僕は死んだように眠っていたようだ。
いや、本当は一度死んだのかもしれない。
僕は、あの真っ暗闇の世界での一方的なやり取りを、朧げに覚えていた。
ティアに聞きたいけど……あまり心配させたく無いし、黙っていよう。
『ティアー?生きてる??』
『………………………………』
あれ?返事がない。
死んじゃった?
『だっ、だっ、だっ……!』
だ?
『だぁれが死にましたかこのお馬鹿!目を覚ますのが遅いです!!心配したんですよ!?』
『ご、ごめん』
『今回ばかりは冗談では済まなかったのです。……本当に、目が覚めて良かった』
これは……一度死んだかもしれないとか言えないな。
やっぱ黙っておこう……うん。
ティアから、この一週間での変化を教えてもらう。
と言っても、街自体にはそれ程被害もなく、ボロボロになった部分の城壁を作り直して終わったそうだ。
後はいつも通りの日常。
守れたようで良かった。
『今回、特に誰も死ななくて本当に良かったです』
『うん……それには同意するよ』
さて、今回守ると決めた切っ掛けのセレーネ達はどうしているだろうか。
と、思ったところで扉がノックされる。
「?どうぞー」
入って来たのは、憤怒の表情を浮かべたセレーネと、後ろでオロオロしているレイニーだった。
GWのお陰でなんとかストックを貯めながら書けそうです。
お読みいただきありがとうございます!