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第九話〜女神の力〜

戦闘に入る前に終わってしまった……

次話こそは、熱い戦いを(したいなぁ)!


毎日21時に更新します。

 僕は今、再び支部長室でルドノアさんとダグラスさんと対峙している。

 セレーネに手伝ってくれと言われてから既に数時間経っている。

 時間は深夜。

 異世界にあるのかは知らないが、草木も眠る丑三つ時というやつだ。


「それで、セレーネ嬢と話しての結論を言いに来たのかな?」

「ええ、そうですよ」

「セレーネ嬢がここにいないが、彼女には話したのか?」

「いいえ、彼女には一切話すつもりはありませんし、今彼女は部屋で寝ている筈です」


 あの時計塔広場での一幕の後、セレーネは部屋に戻って寝ている筈だ。

 僕は彼女に手伝えと言われたが、実際には僕一人で全てを終わらせる気でいる。

 セレーネには悪いが、何も知らない方が良い。


「……君がそれでいいのなら、私からは何も言わないがね。さて、それでは話して貰えるかな?」

「その前に幾つか条件があります」

「テメェこの後に及んでまだそんな事を!」

「ダグラス!……失礼。続けてくれ」


 ルドノアさんがゴレイアスさんの事を止めてくれた。

 これで話し易くなった。


「まず一つ、この情報はルドノアさんにのみ告げます。そこから先の伝え方は問いませんが、僕が直接伝えるのはルドノアさんのみです。二つ目、セレーネとレイニーには一切情報が渡らないように徹底すること。三つ目、この情報を聞けばまず疑うでしょう。ですが、信じて欲しいということ。最後に四つ目、防衛戦の時、絶対に城壁の外に出ないこと。これが条件です」

「最後の、城壁の外に出ないことというのは何故かな?」

「聞けばわかります」


 僕は一言で切って捨てた。

 ルドノアさんとゴレイアスさんが二言三言話して、部屋を出て行った。

 さて……話す前にもう一つ。


『ティア、盗聴盗撮の危険は?』

『ハァ……ありますねぇ。目の前のひょろ長魔術師モドキと脳筋オジサンの間でパスが繋がっていて、ギルドの酒場で中継してるみたいですよ?見てるのはー……レイニーさんを含めたギルドの受付嬢達と酒場に残っていた冒険者一同、それと脳筋オジサン本人、酒場のマスターに……あ、セレーネさんもいますねぇ』

『…………え、なんで?本当に皆いるの?』

『というかですね、貴方も天眼を使えばこの程度すぐにわかりますよ?私にばかり頼っていないで、少しは自分でもやりなさい』


 正論だけどさぁ。

 天眼を使って、ティアの言葉が真実だと知る。

 どうやら、レイニーがセレーネを呼びに行ったらしい。

 ……もう、どうにでもなれ。

 天眼を使ったお陰で知れたが、少なくとも災厄は彼らの予想を遥かに超えて、もっと早く到着するようだし。


『所詮人の占術での予想ですからねぇ。仮にも神の兵器です。人間如きが測れるものでもないでしょう』


 ま、そうだねぇ。

 さて、そろそろ話し始めないとそもそも迎撃に間に合わないかもしれない。

 話を始めようじゃないか。


「えっと、幾つか既に条件が破られてて、正直目の前の貴方をフルボッコにしたいところですけど、あまり時間的余裕が無いのでもうこの際無視です。一つだけアドバイスです。もう一度占術で虚人が来る時間を調べて下さい。たぶん、早ければ今日の朝にでも来てしまいますよ?」

「……っ何!?」


 部屋の外も俄かに騒がしくなっている。

 天眼って凄いなー全部丸見えだよ。

 それは置いといて、話を進めよう。


「まぁ今は気にしても仕方ないでしょう。さて、それじゃあ本題には入りますね。ルドノアさん、貴方の仰る通り、僕は虚人を倒す方法を知っている」

「それは本当か!?」

「ええ、まぁ」

「それで、その方法とは?」


 ルドノアさんが早く続きをと促してくる。

 ……言いたくないなぁ。


「……僕が、一対一であの虚人と戦う。それが、勝つ為の方法です」






 一瞬の静寂、そのか瞬間に物凄い威圧が掛かってきた。

 流石、支部とは言え荒くれ者を統率する人だ。

 僕は柳に風と受け流していたけどね。

 やっぱりこうなるか。


「巫山戯ているのかな?今はそんな戯言を聞いている暇は……!」

「僕は最初に言いましたよね?信じろと。僕の持つ情報の中で有益なのはそれだです。あのですねぇ……神の兵器に、ただの人間が敵うわけないでしょう。貴方達が幾ら束になっても、あの虚人は止められない」


 僕が態度を変えずに淡々と言った言葉の意味がわからなかったのか、ルドノアさんは顔が惚けている。


「神の兵器だと……?あの虚人が!?そんな神、この世界にいないぞ!仮に神の兵器だとして、それに対抗できると言う君は何なんだ!」


 いちいち疑問を挟まないで欲しいというのは、望み過ぎだろうか?


「別に、それを知ってどうするの?どちらにしろ貴方達は何も出来ない。死にたくなければ、大人しく万一の準備だけして城壁の中に……っ!」


 僕の天眼が、虚人の移動を捉えている。

 が、明らかに先ほどより速度が上がっている。

 なんだあの虚人、いきなり移動速度が速くなったぞ。

 スライムみたいにずりずり動いてたからまだ余裕あると思ってたのに。

 まるでジ○リの王○みたいな動き方になってる。

 下半身スライム状のウネウネで上半身は人間の形とか気持ち悪いな……


「ねぇ、占術の結果はまだ出ないの?もうあと数分で虚人の攻撃圏内に入るぞ!」

「何!?お、おい!どうなっている!」


 ルドノアさんが部屋の隅にある水晶球に怒鳴る。

 どうやら、あれは通信用の道具らしい。


『そ、それがさっきから占術に限らず魔術等の魔力を扱うものが上手く発動せず……』

「何だと!?……わかった。どうやら虚人に対抗出来ると言う少年は、もうすぐあの化け物の攻撃圏内に入ると言っていた。早くギルドに逃げてこい。そっちにいるよりマシだろう」

『……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます』


 水晶球の通信が切れた。

 発動しないのは、魔術や占術といった物で、魔力で動かす道具ーー魔道具は動かせるらしい。

 それはそうと……


『ティア、何とかあいつの攻撃を防ぐ方法ない?』

『……私が顕現すれば、数時間は持つ結界を張ることは出来ます。少し、身体を借りることは出来ますか?』


 ティアが珍しくやる気だ。

 ここはお願いしよう。


『頼む』

『分かりました。意識が消える事は無いですから、パニックにならないで。天眼は貴方の意識下に残しておきます』


 全身の感覚が消える。

 天眼だけは使えたので自分の姿を確認すると、黒髪は銀髪に変わり、黒目は片方は蒼色に、もう片方は即席の眼帯の布地を貫いて金色に輝いていた。

 天眼って金色なんだなとか、全く関係のない感想を抱いていた。

 突然の僕の変化に、ルドノアさんが腰を抜かしていた。


「な、なんだ……なんなんだ君は!?」

「静かにしてください。結界術を使うだけです。いや、……ここじゃ狭いですね。酒場なら出来るかな?」


 眼帯を無造作に外しながらティアが応える。

 自分の口から出る、少年とは言えないほどに高い少女のような声。

 僕ですら驚いているのだ。

 目の前で変化を目の当たりにしたルドノアさんはもう訳がわからないだろう。

 ティアは狼狽するルドノアさんを無視して支部長室を出る。

 あーそういえばルドノアさんがダグラスさんを通じて中継してたんだっけ?

 もう、皆こっちを凝視してくるよ。

 ティアはどこ吹く風だけど。

 固まっている冒険者たちを押しのけて、酒場の中心に立つ。


「ここならいいですかねぇ?まずは机とかが邪魔……どかしましょう」


 ティアが、徐に右手を横薙ぎに振り払う。

 机や椅子が、まるで見えない手で運ばれていくかのように整列、積み重なっていき、中心にスペースが出来た。


「み、ミナト?ミナト……だよね?」


 セレーネが不安そうに僕を、いやティアを見つめる。


「う〜ん……肉体はミナトの物だけど今動かしてるのは私、別の存在ですよ?セレーネさん、危ないから少し離れてくださいね?」

「えっ……」


 ティアの身体から、膨大な、澄んだ魔力が溢れ出す。

 魔力の光は、夕方から夜にかけての短い時間に空に出現する、あの淡い色だった。


「じゃあ、始めますね。……どうせなら、天眼の景色を他の人にも視て貰いますか」


 微かに右眼に痛みが走る。

 すぐに収まったが、何をしたんだろう?

 意識を周囲に向けると、さっき支部長室内の中継をしていた魔法陣が、今は僕の視界を映している。

 なるほど……なら、この街と巨人が見えるようにしようか。


 《神奏結界術:夜の揺籠 詠唱を開始します》


 そして、開始の宣言と共に膨大な数の青白い魔法陣が展開する。


 《空を統べる二天が片割れ『宵天』の名の下に、森羅万象の理を我に委ねよ》

 《万物は我が想いに応え、無数の壁を成しあらゆる害悪を拒絶せよ。此処は我の聖域なり》


 天眼で確認すると、ミレットの街から南西五百キロ程の場所で虚人が止まっている。

 虚人が攻撃態勢に入った。

 エネルギーを溜めているようだ。

 上半身胸のあたりに穴が出来、そこから途方も無いエネルギーが収束する

 それと同時に、結界が形を成す。


 《ーー夜の揺籠ーー》


 結界は何層にも重なった状態で、この街をすっぽりと覆うほどの大きさだった。


『ーーーーーーーーー!!』


 虚人が収束砲を放つ。

 地面を抉りながら襲いかかる砲撃。


 そして、砲撃と結界がぶつかる。


 長い長い衝撃が収まり、土煙が晴れる。

 結界は一枚も割れること無く耐えていた。

 虚人は撃った状態のまま、動きを止めている。

 連続で来ないようで何よりだ。


『今のうちに攻勢に出ます。私がある程度は削りますが、止めは貴方でないと刺せないでしょう。私が合図したら神殺しの力を解放して下さい』

『わかった』


 ティアはギルドの扉から外に出る。

 一応、天眼は魔法陣に繋げたままにしておこう。

 ティアとの繋がりが今まで以上に深いせいか、色々な魔術のやり方が理解出来る。

 街の大通りをゆっくり歩く。

 今まで賑やかだった街静まり返っていた。


「ミナト!」

「ミナト君!」


 セレーネとレイニーが追いかけてきていた。

 結界があるとは言え、危ないんだけどなぁ。

 ティアは仕方ないな、と頭を振りながら振り返って二人と相対する。


「セレーネさん、レイニーさん。今の私はミナトじゃないんです。そもそも今身体は女になってますしね」


 それ僕知りたくなかった。

 どうやらティアが表に出ると、性別まで変わってしまうようだ。


「じゃあ、何て呼べばいいの?」

「ナハティア」


 簡潔に、微笑みながら己の本名を名乗る。


「私の名前はナハティア。知らないのであれば、過去の記録を調べてみて下さい。ちなみに、ミナトはティアって呼んでますよ」


 完璧な営業スマイルだが、少しだけ「これ以上は今は聞かないで」と心情が表に出ている。


「ナハティア……?」

「じゃあティアさんって呼ぶね」


 セレーネは何か違和感があるのか首を捻っているが、レイニーはさっぱりとした返答だった。

 もうこれ以上道草を食う訳にもいかない。


「さぁ、ギルドに戻って。私たちはこれからあの化け物を倒しに行く。結界は張ったけど、多少の被害は出るかもしれないから」


 見えない手のようなもので掴んで、無理矢理二人をギルドに戻す。

 力技だねぇ。


「さて、行きますかね」


 ティアは心剣を抜き取りながら、呟くのだった。

セレーネが首を傾げていたのには一応理由があります。

次話で主人公とティアの本気が垣間見えます(予定)。


お読みいただき、ありがとうございます!

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