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小話〜僕の眼帯〜

これは〜初クエストと立ち込める暗雲〜の話の中での一幕です。

字数的にカットした話でもあったりします。


毎日21時に更新します。

 ゴブリン討伐のクエストにいざ出発!と行きたい所だが、僕の眼帯代わりの布を買ってもらわなければならない。

 無一文のくせに物を欲しがるなどどれだけ汚いのだ、とは思うが、焦点の合わない瞳が剥き出しになっているのは僕としては嫌だし、相対する人も気分が悪くなるだろう。

 心苦しいが、セレーネに買って欲しいと頼むしかない。


『交通料に介抱、その他色々教えてくれて、クエストもあっちが言い出した事ではありますが手伝ってくれて、更に物を買ってもらうとか……立派にクズなヒモですね。しかも昨日会ったばかりの女性にたかるとか』

『うう……』


 本当に、聞いただけなら「何だこのクズ野郎」ってなりそうだ。


「どうしたの?ミリムにひっつかれて全身ドロドロになったみたいな顔して」


 己のダメっぷりを再確認させられて自己嫌悪に陥っていると、前を歩いていたセレーネが振り返って尋ねてきた。

 相変わらずフードを深く被っていて表情が判りにくい。

 あまり触れて欲しくなさそうだから言わないが、あの紅髪は本当に綺麗だったな。


「あー……いや、言い難いんだけど、クエストに行く前にセレーネにお願いがあってさ」

「ん?何かな?」

「僕の右目、見えてないじゃない?だから眼帯をしたいんだけど、適当な布を使おうにも買わなきゃいけない。けどお金持ってないから、貸して欲しいなーって」

「いいよー。ポーションとか補充しようと思ってたから、ついでに買ってあげるよ。早速お店に行こうか」


 あっさりと了承を得てしまったことに驚きつつ、僕はセレーネの背を追いかけた。






 行き着いたのは時計塔の広場から東の方に結構行った先の路地裏だった。

 道の途中には他にも雑貨屋があったが、セレーネは見向きもせずに通り過ぎていた。

 行きつけのお店というやつだろうか?


『いかにもな雰囲気のお店ですね!』

『凄くワクワクしてるけど、何?こういう雰囲気のお店好きなの?』

『だって、いかにもモグリで腕の良さそうな店主って想像が湧くじゃないですか!妄想が捗ります!!』


 ……そう、ですか。

 もうこいつは戻れない所まで壊れてしまったのか…………放っておこう。

 触れても誰も幸せになどなりはしない。


「こんにちは〜お婆ちゃんいるー?」


 セレーネは挨拶しながら店に入っていった。

 ……お婆ちゃん?


「セレーネちゃん?よく来たねぇ。今日もいつもの準備すればいいのかい?」


 カウンターの奥から出てきたのは、初老のお婆さんだった。

 お婆ちゃんって言うには若くない?


『何というか、普通の近所のオバさんって感じですね』


 だよねぇ。


「うん、けど今日はいつもの物とは別に用意して欲しい物があるんだ」

「ふむ?どんな物を用意すればいい?」

「あの子に布をあげたいの。片目が見えなくて、眼帯代わりに使うんだって」


 お婆さんは僕のことをしげしげと見つめる。

 ……なんだろう?


「お前さん、この子のこれかね?」


 にやにやしながら小指を立てて聞いてくる。

 動作が完全におっさんだ。


「いえ違います。ちょっと縁があって色々お世話になってる感じですね」

「別に照れなくていいんだよ。そいじゃ、適当に清潔な布を探してくるから少し待っててねぇ」


 否定の言葉を全く信じず、にやにや顏を止めずに店の奥に引っ込んでいく。

 なんだあのオバちゃん。


「あはは……なんかごめんね?」

「いや別にいいけどさ。愉快な性格してるお婆さんですね?親戚ですか?」

「ううん、この街に来た時に最初に助けてくれた人なの。それ以来贔屓にしてるお店なんだ」


 あまり触れて欲しく無いのか、それ以降は口をつぐむセレーネ。


 タイミング良く、オバちゃんが戻ってきた。


「これでいいかねぇ?」


 オバちゃんは白い麻の布を持ってきた。

 あれでいいだろう。

 そう思っていたのだが、セレーネは少し考える素振りを見せて、オバちゃんに言った。


「あの……ちょっと、奥で話せますか?」


 セレーネはオバちゃんを店の奥に引っ張っていく。


 なんだろう?


『天眼で確認します?』

『いや、いいよ』


 別に悪いことしようしてるわけじゃなさそうだし。


 暫くゴソゴソと音が続き、十五分ほど経って二人とも出てきた。

 オバちゃんはさっき以上にニヤニヤしているし、セレーネは心なしか顔が赤い。


「お前さん、罪な男だねぇ」

「お婆ちゃん!?もう、代金は払ったから行こうミナト!」

「えっ?えっ?」

「用がなくてもまた来ていいよ〜」


 オバちゃんはカウンターに肘を掛けつつニヤニヤ顏で手をひらひらと振っていた。






 ミレットの中心地、時計塔広場までやって来た。

 あんな別れ方だったけど良かったのだろうか。


「いいの!お金は払ってあるし、全部荷物は受け取ってたもの。そんなことより……はいこれ」


 セレーネが荷物袋から布をだす。


「これはミナトの冒険者になったお祝いね。大事に使って欲しいな」


 セレーネから布を渡される。

 凄く肌触りが良い。

 布は僕の髪や目と同じ漆黒だった。

 少し違和感があったので、こっそり天眼で確認すると付加効果が付いていた。


 ******************


 漆黒の上布


 自然治癒(Lv.5):触れている箇所の傷を癒す


 ******************


 どう考えても普通の布じゃない。

 きっと、凄く高かった筈だ。

 セレーネの優しい気遣いに嬉しくなりながら、いつかこの恩を返そうと心に誓う。


「ありがとう。大事にする」


 僕は御礼を言いつつ、早速右眼に布を当てて結ぶ。

 つけた瞬間、少しだけ右眼の辺りが温かくなった。

 視力が回復するかどうかはわからないが、希望は捨てないでおこうと思う。

 準備は出来た。


「じゃあ行こうか」

「うん!初仕事、成功させようね!」


 僕らは街を出るために歩き出す。




 そして、初仕事で向かった先の森で、あの化け物と遭遇する。

次話から、バトル多めになるといいなぁ……


お読みいただきありがとうございます!

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