3話 絶望の始まり ――3日前――
カーンカーンと、俺が慣れない手付きでツルハシを振るう度に軽快な音が鳴り響く。だが、そんな音でさえ今の俺の心を蝕む。
「こんなはずじゃ、こんなはずじゃ無かったのに……」
「おい! 手が止まってるぞ!」
そんな声と共に、俺の剥き出しの背中に鞭が振るわれる。
『熟練度が一定に達しました。鈍感が痛覚耐性に進化しました』
この世界に来て3日経った。痛みにももう慣れた。ああ、神様。おかしいよ。なんで俺がこんなことになったんだよ……。俺は勇者になって、この世界で無双するはずだったのに……。どうしてこんなことに……。
――3日前――
「《ここで待ってろ》はぁ、一々奴隷命令しなきゃいけないのもめんどくせーなー。まあ仕方ない。勇者は変な能力持ってるって話だしなあ。はぁ……」
鉄格子の扉が閉められ、俺をここまで連れてきた盗賊風男の足音が遠ざかっていく。
「……何がどうなってんの?」
ここって間違いなく牢屋だよな? なんで俺こんな所に居んの?
「よし、とりあえず記憶を整理しよう」
ええっと、勇者召喚されて、儀式してそうな部屋に着いた。ここまでは良い。よくある話だ。いや、無いけど。
問題はここからだ。俺を召喚したと思われる王女と、序盤に勇者に倒されるべき外見の盗賊風男が居た。ここまではまだ良い。盗賊風男が王女の直属兵士の可能性がある。
だけど、最初盗賊風男は俺になんて言った?「おお、こいつはなかなか使えそうだ」だったはずだ。勇者である俺にだ。あの時は流したけど、間違いない。盗賊風男は俺を道具としてしか見てなかった。
その次に、王女は盗賊風男に訊いていた。これで国民だけは解放してくれるとかそんな内容だったはずだ。つまり、何かと引き換えに国民の解放を望んでいる。この場合は、俺の召喚かな?
で、その後盗賊風男はそれを否定し、そもそも言った通りじゃないとか王女に言ってから。俺に変な言葉を言った。いや、唱えたかな?
何かをぶつぶつ唱えてから、言った言葉。確か奴隷契約とかだったはずだ。つまり、あの時俺を奴隷にしたのか?いやいやそんなはずない。だって俺にはなんの変化も無い……。
「あった」
なにこの両手の手の甲に出来てる入墨みたいなやつ。いつからあんの? 魔方陣的な模様を常に手の甲に刻んで無いといけないの? 何それ、嫌だよそんなの。
とりあえず部屋……牢屋の中から出るか。
「……体が動かない」
そういえば盗賊風男がここで待ってろとか言ってたな。そのせいか? さっきから盗賊風男の命令になぜか逆らえないし。
……もしかして、俺って本当に奴隷にされた? 俺って巻き込まれただけだよね?
あれ? 勇者召喚されて奴隷? 勇者ライフじゃなく奴隷ライフなのか?
……マジで?