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リコリスの魔女  作者: 桂香
1章 「狼の森」
7/13

7話 「魔女の実」

……さて、これをどうしたものか。

右を向けば、先ほど事切れたばかりの人狼が冷たくなっていくのが見える。

できることならば、元は人間であるこの骸を晒したままにするのは、好ましくない。

だが左を向けば、先ほど倒れたばかりの女が見える。

気絶はしているものの、特に苦しんでいる様子はない。昼寝をしているだけのようにさえ見えるほどだ。

……とは言え、早くファニスにでも診てもらうべきではあるだろう。

「そして、いつ狼に見つかるかも分からないこの状況、か」

なかなかに笑える状況だ。まったく、勘弁してもらいたいものだな。

後頭部を撫でながら、どうしようかと考えていれば……。



「――――っ?!」



ふいに何かが聞こえた。

これは……枝が折れる音。どうやら、こちらへと近づいてきている者がいるらしい。

「……今日は厄日だな」

狼か、はたまた人狼か、それとも別の魔獣か何かか……。

先ほど仕舞ったばかりの剣に手をかけながら、ゆっくりと女の傍へとにじり寄る。

はっきり言えば、もうこれ以上の戦闘をするだけの余裕はどこにもない。いざとなれば、剣を放り投げてでも女を抱えて逃げるしかないだろう。

息を殺し、辺りを窺っていると……ふいに、赤い光が見えた。


「そこかっ……!」


剣をそちらへ向けて放ち、即座に女の腕を掴む。

ここから村までは、走れば大体十分というところ。きっと何とかなる、何とかならなかったとしても、いざとなればどうにでもなる。

我ながら、冷静を欠いた判断だとは思うものの、今はそれだけ切迫した状況なのだから、仕方ないというものだ。

腕を引いて、抱え込もうとした瞬間。


「きゃああぁぁっ?! だ、誰よ、いきなりこんな物投げつけるのはぁっ!!」

「…………は?」


随分と素っ頓狂な怒鳴り声に、うっかりと女の腕を取り落としてしまう。

もう一度、改めて剣を投げた方に顔を向ければ、そこに見えたのは独特な狼頭の飾りがついたランタンを持つ、ファニスの姿だった。

「って、え、あれ?! く、クロルさんっ?!」

向こうも僕の姿が確認できたのか、慌てて駆け寄ってくる。

先ほどの剣によほど驚いたのだろう、その目尻には少しだけ涙が溜まっていた。


「! そこに倒れてるのって……!」


僕のすぐ傍で気絶している女の姿を見て、目を見開くファニス。

そして、更にその少し離れた位置にある人狼の骸を見て、口元を押さえた。

あまり良くないものを見せてしまった……そう罪悪感に駆られながらも、僕が今するべきことは後悔などではないと、心を鬼にする。

「ああ、悪いが店で診てもらえるか」

「っ……う、うん……」

人狼には悪いが、生きている者を優先させてもらおう。ファニスに気付かれないよう、小さく頭を下げてから女を抱きかかえる。

「………………」

黙って村の方向へと歩き出した僕の後を戸惑った様子でついてくる足音が、遅れて聞こえてくる。少し振り返り見た彼女の顔は、すっかり怯え切ったものに見えた。


「…………悪いな」


おそらくは聞こえていないだろうと理解していても、僕はもう一度その言葉をこぼし、再び前を向いて歩き出す。



*=*=*=*



彼女の薬屋、狼竜の息吹に着いて早々、ファニスは店内の中央に置かれた大きな机の上に鞄とランタンを放り出し、店中の明かりをつけて回り出した。

やがて呆気に取られていた僕に向かって、彼女が大声で叫んだ。


「そこの扉、あたしの部屋! ベッドがあるから、そこに寝かせてあげて!」


どうやらファニスの方は、すっかり薬師の頭に切り替えられているらしい。

てきぱきと薬棚から必要な物を取り出しては、机の上へと並べている。

「あ、ああ、分かった!」

村へ戻ってきたせいもあってか、何となく気が緩んでしまっていた僕は、その声に我に返った。安心するには早いだろう。この背にはまだ気絶したままの女が居るのだから。

そう自分をもう一度奮い立たせ、女を背負い直す。

「っ……ぅ……」

「う……」

どうやら力を入れ過ぎたらしく、背負い直した拍子に女の左腕が壁に当たってしまった。

……かなり痛そうな音がしたが、大丈夫だろうか……。

痣になってしまったら悪い、そう心の中で謝りつつ、今度は扉や壁にぶつけてしまわないよう、気を付けながらファニスの部屋への扉を開けた。


中はまだ明かりをつけていないこともあり、かなり薄暗いものの……夜の森に慣れた目で見れば、寧ろ明るいと感じるほどだった。

小さな部屋ながら、年頃の娘らしくところどころに小物やぬいぐるみなどが見えるそこは、確かに四年前入ったものと同じ。

「っと……」

懐かしさに浸っている場合ではない。やはり自分も疲れが溜まっているのだろうか、先ほどから気が逸れてばかりだ。頭を振って、部屋の中へ入っていく。

窓際に置かれたベッドには清潔そうな布団と、それから犬のような狼のぬいぐるみが隅に置かれていた。


「……まだ、持っていたのか」


女をそこへ横たえてから、ぬいぐるみを手に取る。

五年も前に渡した物だというのに、それはほつれた様子もなく、埃を被っているわけでもない。どうやら、とても大切にされているようだ。


「………………」

ふいに、今朝の女の言葉を思い出してしまう。

もしかすると、嫌われたと感じて避けているのは、僕なのかもしれない。

怯えているのは……僕の方、なのかもしれない。それでも信じ切れずに、僕は頭を振る。


「クロルさん、ちょっと手伝ってくれますかっ!」

「!」


開けたままにしていた部屋の扉の向こうから、ファニスの呼ぶ声が聞こえてきた。

今一度、女の苦しそうな顔に目を落とし、僕はため息をつく。


「……憎めない奴とはおそらく、お前のような奴のことを言うのだろうな」


もう二度も三度も助けられてしまったのだ。今度は僕が、こいつを助けてやらなければ。

横たわる女に背を向け、僕は部屋を後にした。



「クロルさん、あの人……たぶん、魔力を消費し過ぎて気絶してます」

部屋から戻ってきた僕へ向けて、ファニスは開口一番、そう言った。

蝋燭の火の温かい色に染まる店内、中央に置かれた大きな机の椅子に座る彼女の顔は、その色ではなく少し青ざめて見える。

きっと僕の色も、同じか……もっとひどいものになっていることだろう。

「……そう、か」

そこまで分かるものなのか。眩暈がしそうな衝撃に、瞼を閉じてこらえる。

ファニスは四年前の襲撃以来、魔力にとても敏感になってしまった。

魔力過敏症……それが、彼女の患った病だ。

普通であれば酔わない程度の魔力にもあてられてしまい、眩暈や頭痛が起きたり、気持ちが悪くなったりしてしまうらしい。

魔法禁止令でこの村の人間は魔法を使わず、そのせいか魔力も少ない。これにより、他の街で見られる症状よりも彼女のそれは重かった。

なにせ、魔法を使った後に残る魔力の残滓すらも、彼女は感じ取ることができるのだから。


……つまり、彼女に魔力や魔法についての嘘は通用しないということだ。


「あの人の体から、魔力があまり感じられないんです。……今朝会った時は、気分が悪くなるくらいに強かったはずなのに」

「………………」

僕はどう誤魔化したものかと考えながら、その青い瞳を見つめた。

短期間に消費された魔力、その使い道は十中八九、魔法だ。

僕にこうして言う以上、今すぐにどうこうするつもりはないのだろう。

だが、もしもこのことを村長に報告されたら。

……恩人をこのまま処刑させるわけにはいかない。


しかし、考え込む僕をよそに、小さなため息が聞こえてきた。


「理由とか、何があったとか……今は訊きません。それよりも、あの人を助けることの方が大切ですから」

「…………」

「あたしは薬師です。苦しんでる人を救う以上に、優先すべきことなんてないんです。…………だから、今は訊きません」

真っ直ぐに僕を見つめるその瞳は、一片の濁りもなく澄み渡る空のような青をしている。

幼い頃と変わらないその純粋な目に、自分が見られないほどに醜く映って、思わず目を逸らした。……まったく、自分が嫌になる。

「後で、教えてください。約束ですよ?」

「……ああ、悪い」

ファニスの困ったような苦笑に、悲しく感じた。

そうして静かになってしまった店の中、僕は仕切り直すように咳払いをして、口を開く。

まったく、僕も汚い大人になり下がったものだなと、小さな自嘲を口の端に隠しながら。


「ところでファニス、お前はどうしてこんな夜に……?」

「クロルさんたちの帰りが遅いから、何かあったんじゃないかと思って様子を見に来たの……って、け、怪我! 怪我してるじゃないですか!」

笑みを浮かべたのも束の間、ファニスは目を見開いて僕の頬に触れた。

人狼の爪が掠った、あの傷のことだろう。

「ああ、大したことはないから大丈夫だ」

「もう……とりあえず水で頬を軽く洗って、クロルさん」

そう言いながら水瓶からピッチャーで汲んだものを僕に差し出すファニス。

しかし、僕よりもよっぽど診なければいけない奴が向こうの部屋に転がっている手前、それを差し置いて治療を受けるわけにもいかない。

「ファニス、それよりもあいつの……」

「もちろんあの性悪女も診ますけど、先にクロルさんです」

有無を言わさない調子でそう言うと、いつまでも受け取らない僕に焦れたのか、ファニス自ら傷に水をかけ始めた。

ああ……床が濡れてしまっている。せめて布に含ませて、それで拭うとか考えつかなかったのだろうか。

「わ、分かった分かった。自分でやるから貸してくれ」

「あーっ、動かないでください! どうせ、怪我してからずっとそのままにしてたんでしょ。早くしないと化膿しちゃいます!」

「いや、そっちの流しでやらないと……床がひどいぞ……」

僕が指をさした先を見て、それから水浸しになった床を見ると、ファニスは少しだけ固まったが。


「……床は後で拭くからいいんです。クロルさんはもう黙って、じっとしててください」


機嫌の悪い声で、ぴしゃりと怒られてしまった。

少し横暴だと思わないこともなかったが、こうなっては聞かないのがファニスだ。

僕はため息をついて、ピッチャーを取ろうとした手を下ろす。

……これで年下とは本当に恐れ入るな、まったく。


「うん……これでいいかな。じゃあ、次はこれです」

満足そうに頷くと、今度は小さめの平たく丸い瓶を取り出した。

狼頭が描かれたその蓋を回して開けると、瓶の中に詰められていたクリーム状の何かを薬指で掬うファニス。

臭いは……鼻が奥の奥まで通りそうな……何とも、強烈なものだった。

「それは、見たことない奴だな……新作か?」

「うん、これはあたしの自信作なの。傷口が早く塞がりやすくなるから、フサガルクンって名前をつけようかなって思ってるんですよっ」

安直過ぎやしないだろうか……。

うっかりと漏らしそうになった言葉を無理やり飲み込んで、苦笑を浮かべる。

「…………悪いことは言わないから、その名前はやめた方がいい」

どう伝えたものかと考えた挙句、余計に否定的な言葉を返してしまう。

だが、どう伝えたら正解だったというのか……。

「うー……実はそれ、カットさんにも言われたんですよ。そんなに変かなぁ……」

「い、いや、変ということはない……ような、気もする……」

視線を逸らしながらそう言うと、やっぱりダメかぁ……と小さく呟く声が聞こえる。

昔から名前を付けるセンスはなかったが、今も相変わらずだなと少し笑みがこぼれた。


「ふふっ、笑いましたねぇ~……?」


何かと顔を上げれば、まるで悪戯が成功した子どものように無邪気な笑い声を漏らすファニスと目が合う。


「クロルさん、ずっとあたしやカットさんを避けてばかりいたから……あんまり笑ってるところも見かけないし、心配してたんです」

「………………」

二人には迷惑ばかりをかけてしまっているという自覚はあったが……こんな心配までかけていたとは。情けなくて、僕はまた視線を落とした。

……気持ちをもらってばかりで、何一つ返せていない。返そうとも、できていなかった。

これで二人に兄弟面とは、まったく図々しいにもほどがあるというものだ。


「そんな顔、しないでください。あたしは……クロルさんに笑っていてほしいだけなんですから、ねっ?」


幼い頃と変わらない、まるで花が咲いたようなその笑顔に、ひどく懐かしさを感じながら僕は自然と頷いていた。



「さあ、この話は一旦終わりにしましょう! 今度はあの人の番です!」


一際大きな声を出し、ファニスが手を叩く。


「あ、ああ」

呆気に取られたものの、彼女の言う通りだ。

僕は改めて気を引き締め直し、ファニスの言葉に頷いた。

それを確認し、彼女は机の上に本を広げ始める。あちこちが擦り切れ、分厚く大きなその本はマーマウ薬学辞典。ファニスの両親が生前に持っていた物だ。

「………………」

まだ彼女には大きすぎるように見えていたそれが、今となっては彼女の手にしっかりと馴染んでいた。四年の月日というのは、これほどまでに人を成長させるものなのか。

……いや、違うな。これは、僕が立ち止まり、彼女は歩き続けたというだけの違いだろう。

そう自覚した途端、急に自分が年老いた気分になって、苦笑がこぼれた。

まったく、我ながらじじ臭いな。


「……あのね、クロルさん。あの人を起こすには、二つ方法があるの」


本のページを捲りながら、淡々と喋り出すファニス。

その間も青い瞳は文字を追い続け、次々と捲られてゆくページを這っている。

「二つ……?」

「うん。一つは、魔法で意識を引き戻す方法」

「お前っ……!」


慌てて窓の外を確認するが、どうやら誰にも聞かれなかったようだ。


「……この村ではどうしたって無理な方法だから、これは選べない。気付け薬はあるけど、それじゃあまた魔力不足ですぐに気を失っちゃうし……」

そんなことにもお構いなしに、ファニスはただただページを捲り続ける。

集中し、目的を果たす為の手段を冷静に一つずつ分析しているだけなのだろうが、僕からしたら気が気ではない。

もしも、魔法を使う算段がされていたと知られた日には、あっという間に僕たちは舌を切られてしまう。


「もう一つは、魔力を供給すること……すごく、難しいけど」


ファニスは最後の一言だけ、言いづらそうにこぼした。

魔力が減少したなら、それを供給すればいいという理屈自体はごく簡単だ。しかし、それができるのなら、僕が既にやっているというものだ。

実は、この魔力という力については分かっていないことも多い。神から与えられたものと言う者もいれば、精霊たちによるものだと言う者もいる。

少なくとも現状で、あの女に僕やファニスが魔力を分け与える方法は、無いと言えるだろう。

体質的に、魔力を他者へ分け与えることができる……という者も居るというが、それも酒飲みの戯言程度の噂だ。あてにはならない。


「なるほどな……」

確かに方法は二つある……あるにはあるが、どちらも現実的には不可能なものだ。

前者を選べば殺される危険があり、後者を選べば本当にできるかも分からない手段を模索することになる。

「やっぱり、薬で何とかしたり……とかはできなさそうだね、はぁ……」

ページを捲る手を止めて、息をつくファニス。

確かに、魔法ではない薬という手段に頼るのなら、この村でも可能ではある。

マーマウで唯一許された魔法、とまで言われるほどの技術……それこそが薬学を用いた治療だ。

その技術は、この村の統治国である水都アウテル・ガーデンでも有名だというほどのものだという。

……が、それほどまでの豊富な薬学知識を有していたマーマウは、四年前の魔族襲撃時に腕利きの薬師を全員亡くしてしまった。


そして、これにはファニスの両親も含まれている。


本当であれば、薬学の知識とそれを伝える薬師が消えてしまったマーマウで、彼女が薬師をやらなければいけない理由などはどこにもない。

さして薬学について教わってはおらず、両親の店も破壊されてしまったのだから。

しかし、それでも彼女は薬師の道を選び、今も一人で歩んでいる。

生まれ故郷の……両親の生きた証を、取り戻す為に。


「もっと、あたしが勉強してたら……分かるかもしれないのに……」


そう悔しそうにこぼすファニスは、目の前に広がる薬学辞典をただただ睨みつけていた。

今、こうして彼女が店を開くほどの薬師になっているのは、彼女の努力によるもの。

彼女がこんな顔をするべきではない。

「……あまり自分のことを責めるな。そもそも元を正せば、あの女を守り切れなかった僕と、気絶するまで魔力を使ったあの女が悪いんだ」

「クロルさん……」

ファニスの頭に手を乗せ、笑いかける。

そう、悪いのは僕だ。

【あの力】を隠さずに使っていれば、あの女もあそこまで魔力を消費することはなかった。

きっと村にまで戻ってこられたなら、自分で魔力を回復する手段も知っていただろうに……。

そう思ったところで、ため息をつきかけた体が止まる。



「――――――リコリスの、蜜」



ふいに思い起こされた、その言葉。

確かにあいつは言っていたはずだ。リコリスの蜜でもあればすぐに回復できる、と。


「それ、どこかで聞いたことがあるような気がする……」

「! あいつが言っていたんだ、それがあれば魔力を回復することができると!」


ファニスの言葉に、慌てて更に言葉を継ぎ足す。

どんな物かは分からないが、おそらくは現状で一番近い手がかりのはずだ。

藁にもすがる思いでファニスの記憶に期待する僕は、傍目にもなかなかに情けないだろうが……だからといって、他にできることもない。


「んー…………………………………………あっ?!」


唸ったまま、ずっと考え込んでいたファニスが、突然大声を上げて立ち上がった。

そして開いたままになっていた分厚い辞典の背表紙を覗き込み、その隙間へと指を突っ込んだ。


「お、おい……?」

何事かと声をかけてみるが、ファニスは返事をすることもなく、突っ込んだその隙間から何やら小さな紙切れを取り出した。

辞典よりも更に年季を感じさせるその紙は、ともすれば紙くずのように見えてしまう。しかし、彼女はその中身を確認するや否や。

「クロルさんっ、これだよこれ!!」

「ぅ、な、何だ……?」

焦点が合わないほど、勢い良く目と鼻の先へと突き出されたそれ。

少し興奮した様子で、顔を上気させているファニスから紙切れを受け取った僕は、それを見て同じように目を見開いた。

「ねっ、それのことだよね?!」

「ああ……。これだ、間違いない……!」

そこには、走り書きで数行のメモが書かれており、効能についての項の一番上には魔力回復と確かにある。薬の名前は……【魔女の実】というらしい。


「ファニス、お前はこれを作ることはできるのか?」

「作ったことはないけど……そんなこと言ってられないし、あたしはまだまだ作ったことない物ばっかりだから。やってみるしかないよ!」


握りこぶしを作り、力強く笑ってみせる彼女のそれに少し元気付けられ、僕も頷く。

そうとなれば、材料集めだが……材料が書かれた項を見て、首を傾げた。

魔女の涙草と月のしずく、聞いたこともないが集める材料が少ないのはありがたい。

そう喜んだのも束の間、視界の端でファニスも同じように首を傾げているのが見えた。


「……これ、何か知ってるか」


恐る恐る訊ねれば、彼女の青い瞳が僕へ向けられ。


「……………………………………えへっ」


長い沈黙の後、ファニスが引きつった笑みを見せる。

これは、まずい。


「ほ、本当にか……?」

「えっと、ほら、あたし未熟者だから、ねっ!」

眉間にしわを寄せながら、もう笑っていると言えないくらいの、複雑な表情をしているファニスに、僕はため息をついたのだった。



next story


こんにちは。

ゆっくり修正作業進めつつの、7話「魔女の実」投稿です。

現在は2章の3話を書き出していますが、相も変わらずストーリー進行とキャラの心情を考えるのに、四苦八苦しております……w


さて。今回のお話から、薬師の娘ファニスが関わってきます。彼女は一見、可愛い村娘なのですが……魔女と口喧嘩できる程度には肝が据わってたり。

素直で可愛い子なはずなんですけどね……どこか変な子です。

そんな彼女と、気絶した魔女……はてさて、どうなっていくのやら? 次のお話も読んでいただければ光栄です。

それでは、ありがとうございましたー。

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