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メイド魔王と勇者のはなし 武の国編

≪武の国編≫



 武の国から王命により旅立った、『神に選ばれた人間』である勇者。

 魔の国の城。その広間の前までたどり着いた、剣の勇者一行。

扉を開けると、空の王座と横に立つ一人のメイド。

そこへと続く絨毯の脇には、整然と並び立つメイド達が。次の瞬間には、全員が深く

一礼をした。

 予想外の光景に、おもわず呆然と立ち尽くす勇者一行。

すると王座脇のメイドが頭を上げ、こう言った。


「ようこそいらっしゃいました、武の国勇者○○様とお仲間の皆様。私が今代の魔王です。

 どうぞ魔王とお呼びください」


 そしてまた、深く一礼をした。


 今代の魔王がメイド、すなわち『従属』の魔王であると知った勇者は、自分たちの国に

従うよう求める。すると魔王は「魔の国の民の皆様より、私の直属のメイドの誰かを

倒した者に従うように、と言われている」と言いました。

 そこで勇者は魔王が選んだメイド、『焔精憑』のフレーメと戦い、勝利する。

 そうして魔王を従えた勇者は国へと帰っていった。



 国に帰った勇者は国中から称えられ、少し浮かれていました。

身の回りの世話は魔王にされ、生まれて初めて味わう楽な暮らしに、だんだんと飲まれていきます。

 もちろん鍛錬は怠りませんが、それも魔王につき合わせれば、いつもギリギリで自分が勝てる。

まさに有頂天に登りつめていました。

 また城の貴族に甘い言葉で頼まれると、あまり深く考えない勇者は魔王を貸し与えて

いました。

時に目障りな相手の始末、時に最上級の武器、さらには魔王自体を求める者もいました。


 しかし魔王のいる生活に慣れきった勇者は、だんだんとエスカレートしてくる貴族の

要求により、自分が魔王の恩恵を受けられなくなってしまう事に、苛立ちを覚えて

いきました。

 やがて貴族と揉めるように成り、立場が微妙になっていきます。

 それでも魔王さえいれば、快適な暮らしを過ごせるので、だんだんと屋敷に篭るように

なったのです。

 当然ながら怒り出す貴族たち。

自分たちの国の共有物のはずの魔王を独占する勇者に、憎悪を募らせていきました。


 そして遂に双方の溝は修復不可能なまでに広がり、ぶつかりあったのです。

昔の仲間まで二つに分かれての内戦。

 当初は魔王を抱える勇者陣営が有利かと思われましたが、配下のメイドの何人かが

貴族陣営に居た事、勇者が魔王を側から離したがらない事から、膠着状態に陥りました。


 互いの人員を潰しあったこの戦いは、双方が疲弊しきり、国が成り立たなくなる寸前で

王により仲裁されました。

 何故、王は今まで見ていただけかといえば、魔王の配下のメイドから「この機会に

貴族や勇者の影響力を無くせば、この国は陛下のものとなるかもしれませんね」と

囁かれ、野心が首をもたげた為でした。


 もしや魔王の策略かと思われましたが、彼女はただ主人たる国の人々の望むままに

応え、与えただけでした。勇者が心の隅で望んだ輝かしい暮らし、貴族が望んだ更なる

贅沢、王が望んだ独裁、何よりも多くの民が望んだ平等な暮らしと、成り上がる機会を

与えたのが、魔王の従属の形なのです。

 こうしてかつての大国としての力を失い、独裁をする王と下克上を狙う他の人々が集う

修羅の地となった剣の国。そこでは今でも魔王たちが、主人に仕え続けているのです。



 その後、魔王の放つ存在感に引き寄せられた魔の国の住人に、国を荒らされ魔王を取り返されたのは、十数年後の事でした。

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