姉よ。(10)―2 エクスパンション
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こちらの続きになります。
出来れば上をお読みいただいてからこちらをお読み下さい。
「そう言えば姉さん、ドラゴ〇ボールのべジー〇が好みだって言ってたわね。」
とある日の夕食後、ソファーで寝転がって録画していたアニメを適当に流し見している姉に、何気無く尋ねた私。
「ん? ああ。 それがどした?」
「貴女の好みの基準が分からないわ。」
「……え? 何で? 俺様キャラかっこいいじゃん。」
普段は気のない返事で返す姉だが、今回は食い付いて来た。
身体を起こしてソファーに座ると、足を組みながらこちらを向く姉。
「いや。 姉さんの好みって聞くの初めてだったから、何か意外だったのよ。 何でも無いわ。 忘れて頂戴。」
「いやいやいや。 あたし〇ジータ様の事なら一時間語れるぜ?」
別に語らなくて良い。 一時間語るとかどんだけ好きなのよ。
「そういうお前はどうなんだよ。 ドラゴンボー〇的に。」
「なんで作品が限定されてるのよ。 それに現実だったら、戦闘民族とか言ってるけど、サイ〇人なんて皆ニートじゃない。」
「なっ!! バカにしてんのか!? 謝れ! サ〇ヤ人と作者にめっちゃ謝れ!」
キャラに接触する方法は無いわ。 作者になら、戦闘民族をニート扱いしてごめんなさいとかファンレターならぬ贖罪レターを書けば良いのかしら。
姉への返答の代わりに、残念な物を見る目で姉を見返す私。
「あー。 そうか。 あれか。 お前には大人の男の良さがわかんねーんだな。」
何か変な事を言い出した姉。
あの白菜みたいな頭をした人達が大人の男というのは同意しかねる。
この流れに乗っては拙い――――そう判断した私はリビングルームから撤退しようとして――――
「じゃあ、ドラ〇ンボールじゃなくて、何だったらお前の好みなわけ?」
――――廊下へ続くドアへと振り向いた私の背中にそんな言葉が浴びせられた。
くるり、と、つい姉の方に振り返ってしまう私。
「何って……キャラ的に?」
「そそ。 いくらお前が艦〇れのヲ級っぽくても好きなタイプくらい居るだろ。」
うわ。 また言ったわねこのチビ姉。
彼女の画像を検索してからというもの、そのキャラにシンパシーを感じてしまった私は、近所の古本やフィギュアを扱ってるお店で、新品未開封800円(税抜き)で叩き売られている彼女をつい救出してしまったではないか。
同じプライズ品なのに、隣に置いてあるし〇かぜは1800円(税抜き)だというのに。
って、そんな事は関係無かったわね。
で、好きなタイプだっけ?
…………ええと。
……好き、ねえ。
…………。
…………えっ。
そういう風に聞かれると意外と答えられないものね。
好きなタイプと言われても、漠然とも出てこないなら、嫌いな事から言うしか無いのかしら。
「野蛮でがさつで空気が読めない人は苦手。」
「それどっかで聞いた事あるヤツだな。 ……で? 他には?」
「どうかしら。 後は別に思いつかないわね……。」
「えっ。 誰でも良いのかよお前。 ビッチ?」
「はぁ!?」
「うぶぉっ!!」
――――はっ。 しまった。 つい姉の腹に利き腕でパンチを入れてしまったわ。
「なっ……ぐっ……痛っ……ちょ、これマジ痛……。」
「姉さんが変な事言うからよ。 誰でも良いわけが無いじゃない。」
「それでも女子が腹パンは無いだろ……腹パンは。 っつ。 マジきっつ。 これ胃に来たって。」
身体を『く』の字にして痛がる姉さん。
……いや。 女子がビッチ呼ばわりするのも無いだろうし、胃にまでダメージは与えて無い筈だ。
私のパンチは浸透系では無い。 掌底だったならば分からないが。
「で、何? タイプとか。 意味分からないわ。」
「いや。 お前にもそういう感情あんのかなって。」
「失礼な。 一応人間で女なんだからそういう感情くらいはあるわ。」
「んじゃあれだ。 戦国武将的には誰が好みなんだ?」
「えっ。 日本の戦国武将?」
「そうだ。」
いきなりコアな攻め方をするわね。
でも、言われてみれば性格とか生き様とかを考えると、どの武将が好みかってのは選べるかもしれないわね。 とは言え、私はあまり武将の名前とか知らないのだけれど。
「強いて言うなら上杉謙信かしら。」
「えっ。」
「えっ。」
何をそんなに姉は驚いて居るのかしら。 14歳、今の私と同い年で初陣して、あまりの勇ましい姿に皆が見惚れたとかというエピソードや、謀反を許したりという心の広さとか、色々話は聞いたわ。
マイナーな武将では無い筈よね……私だって知っているのだから。
「謙信って、女だろ? お前、そんな趣味あったのか。」
「はぁ!?」
姉よ。
お前の頭の回線は一体何本切れてるんだ。
そして両手で自分の身を隠すようにしているが、お前の身体には微塵も興味は無い。
まあ、話が通じないのならば仕方ない。
私は咳払いを一つして続ける。
「なら、三国志なら――――」
「それ興味無いから知らない。」
即答かよ。 せめて答えさせてよ。
「そうだ! イケメン揃いと言えば、漫画でホス〇部あるじゃん。 どいつが好みよ。」
「えっ……っと……。」
想像してみる……が、自分の彼氏とか旦那とかにするならば、答えは全員面倒臭そうで嫌だ、だ。
と、私が露骨に嫌そうな顔をしたのが分かったのか、
「まさか藤岡ハル〇か?」
自分の小さい胸を隠しながら言う姉。
姉よ。
主人公のハ〇ヒは女だ。 ……お前の頭の中でどうしてそうなった。
「皆、付き合ったら面倒臭そうなだけよ。 もっと一緒に居て安らげる人が良いわ。」
「ふーん。 肉食系に見えて案外そうでも無いんだな。」
私が肉食系に見える理由を教えて欲しいわよ。
「なんか段々面白くなってきたぞ。 お前、銀河英〇伝説見た?」
「見てないわ。 そういえば姉さん去年の夏休みに一気に見てたわね。」
「ああ。 死ぬかと思ったぜ。」
アニメ見て死んでたらそれこそニュース的に英雄になれたかもしれないわね。
「……ってか、じゃあお前普段何見てんの?」
「テレビはリビングに一台しか無いじゃない。 姉さんがアニメ見てたら私は何も見れないわ。」
まあ、テレビ自体殆ど見ないのだが。 クラスの女子と話をする時、今テレビに出てる芸人とかの話題になった時はちょっと困るわ。
「まあでも、アニメ自体に興味が無い訳じゃないんだろ?」
「面白いなら見るわ。 映画とアニメくらいはテレビで見るかしらね。」
姉が見ているアニメを横目で見て、面白そうだったら一緒に見るくらいはする。
今期で言うならフェイトステ〇ナイトとかユーフォニ〇ムとかは結構好きだったりするし。
「しっかし、お前の好みなー。 わかんねーな。 外人とか?」
「別に興味無いわね。 出来れば日本人でお願いするわ。」
「日本人。 そうか。 戦国武将でぱっと答えたって事は、お前、侍好きだな。」
さ、侍好きっていう属性ってあるのかしら……。
でも、言われて見れば、嫌いでは無いわね。
「貧乏侍とか好きだろ。 剣の腕は良いのに謙虚過ぎたり、その剣の腕のやっかみから、上役に目を付けられて俸禄が増えない侍。」
なんでそんなに詳細なのか分からないが、的を射ていて怖いわ。
「励ましたくなるわね。 それに、おかずは無くとも、お前の味噌汁があれば白い飯が食えるからそれで良いとかその侍に言われたら間違いなく惚れるわ。」
「実はお前は地主の娘で、従兄弟の又吉と一緒になる予定だった。」
「えっ。 じゃあ、又吉さんとの縁談を断って、その侍と一緒になったの?」
何故私が姉に質問しているのか分からないが、姉の作っている設定が生々しすぎてつい没頭してしまっているらしい。
「お前は、又吉の所に嫁ぐ一月前、その幼馴染の侍のところに相談に行ったんだ。 自分は、親の言う様に、本当に又吉に嫁いで良いのか分からないって。」
幼馴染なのか、その侍。 ……そうね。 確かに私ならやりそうだわ。 だって又吉に嫁ぎたく無いんだもの。
「でもな。 実は又吉はお前の事を最初に会ったときからずっと好いて居て、それをその侍も知っていたんだ。」
「なっ……まさか又吉が自分で言ったの?」
「そうだ。 お前がその幼馴染の侍と仲が良い事を知って居たし、自分との縁談を破談されないように先手を打ったんだろう。」
「なっ……なんて事を。」
「だから、お前の幸せを一番に願っていた侍はこう言った。 又吉は――――お前を幸せに出来る筈だ。 迷う事など何も無いでは無いか。 ってな。」
又吉の卑怯者!! きっと俸禄とかお金の事を旦那に言ったんだわ!!
「幸せの形なんて、人それぞれよ。」
「そう。 お前はそう侍に言って返したんだ。 察しの良い侍は、その一言でお前の気持ちが分かってしまった。 直!! そう叫んでお前の手を取る侍。」
ごくり、と、唾を飲み込む私。 そうか。 私は昔の名前なら直なのか。
「この手はなんですか? と、冷たく答えるお前の手に……侍の涙が一粒落ちた。」
い、いやだわ。 私まで涙ぐんで来たじゃないの。
「その時――――ずっとお慕い申し上げておりました、と、遂に――――お前は思いの丈を侍にぶつけてしまったんだよ。」
「遂に禁断の言葉を口にしてしまったのね……。」
「ああ。 吃驚して顔を上げる侍。 その侍の頬にそっと手を添える直。」
うわ。 ぞくぞくしてきたわ。
「そして直はこう言った。 ……一度しか無い人生、せめて後悔無く生きようと思っております。」
キャー!!! 言っちゃった!! 好きって言って、求婚してくれって遠まわしに言っちゃった!!
「拙者の俸禄は少ないぞ。」
「はい。」
「この家も、隙間だらけで寒いぞ。」
「私が暖めて差し上げます。」
「ノリノリだなお前。」
「はっ!!」
しまった。 つい姉さんによる私の理想侍ワールドに引き込まれてしまっていたわ。
「そんな訳で、勘当同然で家から出たお前は、貧乏侍の家に嫁いだ訳だ。」
「うわー……それ、ありだわ。 めっちゃあり。 私のタイプは侍って事ね。」
「で、そこで満を持してあたしのべジー〇様が空から登場。」
「はっ?」
「くっくっく……喜ぶがいい。 きさまのような下級侍が超エリートに遊んでもらえるんだからな……。」
「遊ばないで! 私の旦那様に何する気なのよ!!」
「おっと、逃げようなんておかしな気はおこさん方が良いぞ。 その女も死ぬ事になる。」
「逃げないわよ! うちの旦那は侍らしく討ち死にして私も後を追うわ。」
「いや。 後は追わなくて良いだろ。 重いよお前。 べ〇ータ様、女は殺さないし。」
それは普通ないない。 と、顔の前で横に手を振る姉。
「自分の旦那を殺されたら死ぬ気で刺しに行くでしょ普通……。」
「何それ。 怖くね? ヤンデレ?」
「それよりも、何で星の王子様が田舎の貧乏侍を殺しに来るのよ。」
「さぁ。 気まぐれ?」
「気まぐれで人の旦那を殺さないでよ!」
「じゃあ、お前の旦那も聖杯戦争に参戦してたって事で。」
「何か変なのが混じってきたわ。 色々台無しよ。」
「べジー〇様のクラスはなんだろうな。」
「そして普通に会話を続けないでよ。」
そんな感じで夜は更けていった。
姉よ。
たまにはお前との他愛も無い会話も良いものだと思ってしまった私はちょっと悔しい。
◇
『直美、14歳。 好きなタイプは侍です。』
翌朝、私の国語のノートの表紙に、でかでかと姉フォントで落書きがしてあった。
しかも油性マジックで。
ここは怒るところなのだが、あと20ページ程白紙が残っているそのノートを、私は引き出しの中にそっと仕舞っておく事にした。
『姉、齢17にしてこの様な悪戯をする。』
と、姉の文字の下に記載して。
また増えたわね。 姉、痛い歴史コレクション、略して姉コレが。
姉が上杉謙信の事を女だと思って居たのは、クラスメイトの岩田君がソースです。
謙信ちゃんは俺の嫁と言っていたそうです。 嫁が沢山居る人なんですね。
気になる方は上杉謙信の画像をネットで検索してみて下さい。
ちなみに諸説ありますが、謙信が女だったという証拠があるそうで、作者はそれをソースにした筈です。
検索して出てきた画像とは全く関係無いと思います。(きっぱり