小屋
俺は空を飛んでキャンプ地に向かいながら朝飯の献立を考えていた。
いつもは朝は食べない方だが、なんだか転生以降やたらと腹が空く。
本当なら俺の朝飯の好みは、炊き立ての白米に味噌汁それに目玉焼き。
このメニューなら毎日でも良い、人生最後の晩餐にはきっとこれを頼むだろう。
まぁ、前の人生最後の飯は焼肉になったが……。
しかし今は、味噌もなければ醤油も無い。
俺は目玉焼きには醤油派だ、ほぼ生の卵黄部分に醤油を垂らし、その黄身と醤油が相まったものに白身を絡めてホカホカのご飯と共に……。くうぅー!醤油が恋しい。
しかし、いくら言っても無いものはない。
どうでも良いような考え事をしているうちにキャンプ地に着いた、何とか日の出までに間に合ったようだ。
イカとの戦闘の後にも、もう一度リベンジしたり島の中を一通り下見したりと一晩中飛び回っていたのでもう夜が明ける。
「おっ!異世界での初日の出だな、拝んどこう。」パン、パン。
よく考えると神に対して拝むとしたらゴンベイに拝礼してんのか?
イヤ断固として違う!俺は神々しい朝日に日々の恵みを……うんたらカンタラ……。
まあ良い、とりあえず朝飯の準備だ。焚き木を集めて火を……、火が無い!水も無い!。
魔術が無いとすごく不便だ、せめて基本魔術だけでも使えるとサバイバルでは雲泥の差だ。
ゴチャゴチャやってたらコテージからジュウロウが出てきた。
「あー、兄貴おはよう。もう起きてるの?早いね。」
「おはようさん!でもまだ寝てから4〜5時間しか経ってないんじゃ無いか?」
「そうだね、太陽二個もあると感覚狂うよね。所で、いつ帰ってきたの?」
「今だ!それより朝飯作ろう、火がなくて困ってたんだ。」
「今!?夜中じゅう遊んでたの?」
「遊んでは無いけど……、色々調べて回ってたんだよ。まずは飯だ、飯!」
「……、ってか言ってから離れてよ、モンスターとか寝てる間に来たらどーすんの。」
「あんだけ頑丈なコテージにこもってりゃ大丈夫だろ、入り口も狭いし。」
ぶーぶー言ってるジュウロウに焚火の火を着けさせアイテムボックスからイカゲソを取り出す。
「ジャン、ジャーン!イカゲソ〜!」
「うわっ!デカイ。どうしたのこれ?」
ジュウロウにイカとの武勇伝を聞かせてやった、あの後もリベンジに行ったのだがイカの野郎は近付くと攻撃してくるのに島の方に引き返すと追ってこない。
浅い所で戦いたかったがそれも出来ないので、無視してすり抜けようとすると回り込んで来やがる。
ちなみに島の反対側や側面なども外海に出る為に試したが他にもイカが何匹も居るようで無理だった。
「まったく、何してんの!?危ないよ。でもココって島だったんだ。」
「おう、結構ちっせー島だから集落とかは見当たらなかったゾ。」
「船とかの脱出方法もイカがやだなぁ。」
「まぁ、沈められんだろうな。大型船なら分かんねーけどイカが大量に来たらダメだろうな。」
「手詰まりじゃん。」
「まあまあ、いっこ朗報もあるから飯食ってからにしようゼ。」
持ち帰ったイカゲソをイカ刺しとゲソの塩焼きにして食おう。
ただ切るだけなので楽でいい。ゲソの塩焼きはデカイのでイカステーキみたいになるなぁ。
「よし、刺身の方は醤油が欲しいとこだが無いから……。」
軽く岩塩を振って揉み込んでおいたイカ刺しにこれ又塩揉みした刻んだワサビの茎を混ぜる。
石で粗めに潰したコショウをパラッと振って終わり。
本当なら刻みワサビは醤油漬けにしたかったなぁ。勿論、ワサビも脳内書記頼りで採ってきた。
「ジュウロウ、もうゲソ焼けてんじゃねー?」
「うわぁー、焼けてきたらいい匂いしてきたね〜。」
「このイカ刺し、ってか塩辛みたいになったヤツも結構いけるぞ。」
「ホントだ、つぅー!ワサビ効いてて旨い。」
あっ!そうだ、ジュウロウにサプライズあったの忘れてた。
俺はゴソゴソと森の茂みに入っていく、見つからないように隠してあったんだ。
「兄貴何やってんの?」
「もう一個お土産があるんだ、ちょっとこっち来て引っ張ってくれ、重い!」
「えー、なに。」
ジュウロウが茂みに近寄ってくる。驚くぞー。
「ジャーン、これ見ろ!」
「うわっ!またもやデカイ。これ伊勢海老?じゃないよね。」
「知らん、イセカイ海老じゃね。」
「ハハッ、語呂は良いよね。」
「イカとの格闘の後に海で取ったんだ、コイツ頭のミソごと煮込んだら味噌汁みたいになんねーかな?」
「そりゃイイね、やろうやろう。」
さて、取った時には巨大なハサミと脚がいっぱい付いてたが今はもぎ取ってある。
普通に調理前のエビみたいだ、ただし1メートル以上ある。殻も硬そうだしどうやってバラそう?
「おい、ジュウロウ。これ分解陣で丸太みたいにバラせないか?」
「あー、アレみたいに皮と中身に分かれたら楽だね。よーし、《分解陣》」
まだビチビチはねる海老を地面に置いて分解陣を発動してもらった。
「何も起こらないね。」
「まだ生きてるからダメなのか?そう言やこのままアイテムボックスに入れようとしても入んなかったしな。」
俺は念動力を使い海老の頭をグイッと捻って息の根を止めた。
「これでやってみろヨ。」
「分かった。《分解陣》」
海老はきれいに分解され頭と殻と剥きエビに分かれた。……が、疑問点が多過ぎる。
何故アタマの中味は分解されずそのまま?殻はキレイに外れてるが尻尾の部分だけは残ってる?まるでエビフライの下処理みたいだ。
「いやー、上手くいったね。ふぅぃー。」
「そうじゃねーだろ!疑問に思えよ、何で尻尾だけ残ってんの?フライにした時この方が美味そうに見えるから!?不自然過ぎんだろ!」
「んー?なんか分解する時この出来上がりを想像したから?」
……どうやら分解陣は術者のイメージで分解の形態が変化する様だ。
「もうイイや、コイツ煮込もうゼ。」
「旨いかなぁー。」
調理にかかる。剥きエビは適当に切って鍋にほり込んだ、量が多過ぎるので鍋は2個とも使っている。
しかしもっと大きい鍋無いのか?いや、材料がデカ過ぎなのか。
次はエビの頭を炙る、ちょっと炙ってから殻ごと煮込んだら香ばしくて美味そうだ。
「ジュウロウ!お前もそっちのヒゲ持ってろよ、デカ過ぎて炙りにくい。」
「ああ、こっちに引っ張って支えてればいいの?」
「おっ!赤く色が変わってきたゾ。」
「いいんじゃない、表面も軽く焦げてきたしこのくらいで。」
エビの頭も大きすぎるので念動力で千切って鍋に入れる、ミソごとだ。
岩塩だけでシンプルに煮込むが味噌汁というより潮汁の様だな。
しかし、岩塩とコショウ以外スパイスをほとんど使ってないな……まぁ、料理なんてほぼした事ないんだからしょうがない。今度、脳内書記でレシピを色々調べとこう。
「おっ、出来てきたゾ。すんげーいい匂いだ。」
「ホントだ凄く旨そう!」
「ずずっ、ふぅー。ほっこりする味だ、エビの出汁がきいてる。」
「んー、味噌汁とは違うけどこれもイイね〜。高級な味がするよ。」
「そりゃ伊勢海老の上級のエビだからな!」
「大きいから上級とは限らないけど……、確かに味もイイね。所でさっき言ってた朗報ってなんだったの?」
「ああ、夜に上空から島を一通り見たんだけどよ、集落とかは無かった代わりに小屋がポツンとあったんだ。」
「小屋!?じゃ人が居たの?」
「分んねぇ、上から見ただけだし。灯りはついてなかったな、もう日が昇りそうだったから下まで降りなかったしな。」
「調べてみないとね。それにしても空飛べるとかズルくない?」
「夜の4〜5時間限定だぞ、変な時に時間切れで落っこちんのやだし高さ制限もあるしな。」
「それでも良いよ空飛べるの。」
「まぁ、便利だな。お前も空飛ぶ魔術とかあるんじゃねー?」
「うーん、出来る様になるのかなぁ。」
「それにこのくらいメリットなきゃ昼の俺の能力じゃ一人で生きていけないし。3日もあれば死んじまいそうだ。」
ジュウロウは思った。この人はそんな能力なんて無くても図太く生き残りそうだ。
むしろこういう人に力を与えちゃいけないと思う、絶対悪用するタイプだ。
昔からこの人は自分の才能を楽する為とか、面白がる為以外に使ってんのを見た事ない。
なんか今後を思うと嫌な予感しかしない……。
「と、言う訳でこれ食ったら探検だ!」
「えっ、あぁ小屋を調べに行くの?」
「ああ、そんなに離れた所じゃなかったからな。丁度この岩壁の裏手方向だったゾ。」
そんな訳で朝食後に兄貴と一緒に森に分け入って小屋を目指す事にした。
後ろが岩壁の為、一度森に入ってぐるっと大回りしないといけない様だ。
「うーん重てぇ、ダメだ子供の身体にこの槍はデカすぎる。」
「兄貴が剣ダメにするからじゃん。」
「お前が気をきかせてエンチャントかけとかないからだろ?」
「ええっ!?まさかの俺の所為?」
「とにかく槍は返すから戦闘は基本お前な。」
小屋を目指す道すがら兄貴が役に立たないので一人で何とか戦わないといけなかった。
幸いウサギなどの比較的弱いモンスターが多く、初見で猪っぽいモンスターも出たが兄貴が念動力で動きを止めてる間に魔術で一撃だった。
「何かそれって初級攻撃魔術っぽいのにどのモンスターも一撃だな?」
「うん、サンダーウルフには効かなかったのも有るけど属性の相性だしね。ただ、躱されない様にどうするかだね。」
「何か妨害したりフェイントに使える魔術の後で攻撃してみろよ。」
「じゃ、次にモンスター出たら試してみるね。」
その会話がフラグになったのか直後サンダーウルフに遭遇、ダークで目眩ましした後ファイアボールで楽勝だった。
「なんだよそれ、初めからそうやれヨ。」
「何かこれだと楽勝だね、MPも次の戦闘までにほとんど回復するから減らないし。」
「お前は最大MPが多いから時間毎の回復が多いもんなー、これじゃ俺がいらない子みたいじゃねーか?」
「そんな事ないよ。ご飯作ったり、あと…ご飯作ったり」
「オカンか!」
「関西弁に戻ってるよ。まぁ、二人の時の危険がより減ったんだから良いじゃない。」
「くそー!剣さえあれば……。」
そんな会話をしているうちに小屋まで着いた。
小屋は丸太組みになっていてログハウスみたいだ、かなりシッカリ作り込まれており窓には木の雨戸がついているし、入り口にもちゃんとドアがあった。
「おっ!あったゾ、近くで見ると明らかに人が作ったやつだな。」
「そだね、モンスターにはこれは無理でしょ。」
ログハウスが建ってる場所は俺達がキャンプしていた所とおなじで高い木が生えておらず、細い谷水が近くに流れている以外は岩壁を背にしてるところまでよく似ていた。
「周りの風景がキャンプしてる所によく似てるよね。」
「ん?ああ、空から見たら森の中にこんな感じの円形ハゲが何ヶ所かあったなぁ。何でこの辺だけ高い木が生えないんだろ?まぁ、背面の岩壁はあるとこも無い所もあったけどなぁ。」
「この島って浜辺以外は全部森なの?」
「いや、向こうの方にちっさい平原みたいのもあったゾ。」
とりあえず外には人の気配が無いので俺達はログハウスに入ってみる事にした………。