ちゅ、ちゅ、注射。
僕がお城に戻った時に目にしたのは驚きの光景だった。
いや…だって、最初に目に入ったのが兄貴がスペイリブさんに刺される姿で、でも無事だったと思ったら今度はスペイリブさんが吹っ飛んで行く様だったんだよ!?
発端が分かんないけど、兄貴の事だから何かの行き違いで口論の末に手を出しちゃったんじゃぁ無いかなぁ?
こりゃぁ、ヤバい。…と思ってすかさず僕は止めに入る。殺すとか言ってるしね。
「ちょ、兄貴。殺すとかマジでダメだっって!」
「やかましぃわーー!コイツは殺すっ!殺したる!」
「ちょっと何があったんだって!落ち着いてっ!」
「ちっ!…………」
いやいや、返事も無しに舌打ちだし、おまけに関西弁に戻ってる…。
これ、大分キレてるよね…取り敢えず話し合わないと。
そうしてる間にも兄貴は止めを刺そうとその人に近付いて行く。あわわっ…。
「ちょ、ちょっと、穏やかじゃないなぁ。何が何だか分かんないけど死んでいい人間なんて居ないんだしっ!話し合おう!」
「いいやっ!死ぬべき奴は居る!!」
「…い、いや。そんな事ないよっ!人権は誰にでもあって、何があったのか知らないけど…」
「こいつに人権なんかある訳ないやろ!」
「い、いや、ちょっと横暴だって!!」
「コイツは殺したんや!その決断をした時に人間である事を辞めたっ!畜生に人権は必要ないんや!!」
「ちょ、殺したって何を…」
「人を殺すからには自分が殺されても文句はあらへん筈や!!!」
何これ!?どういう状況!?
ああっ!兄貴がスペイリブさんに近付いてく…。
誰が誰を殺したの?兄貴は何の事いってんの?
確かに兄貴はさっき殺されたようなものだけど…あ、いやでも、死なないんだし…あれって、もつれ合ってるうちについ刺さっちゃったんじゃないの?
それにきっと、兄貴が先に手を出したんだろうし…。
状況の把握が追い付かず混乱してくる。だが、事は止まってくれない。
兄貴はズンズンとスペイリブさんに近付いて行く。
「だ、ダメだって!兄貴!殺したら兄貴も同じになるよっ!」
「ならへんなぁっ!オレが殺すんはクズで、既に人間辞めた奴やっ!」
ひぅっ…。どうしよう、止められない。
兄貴が人殺しになっちゃう…と思ったその時、スペイリブさんが壁にもたれかかりズルズルと立ち上がる。
「くくっ…。人を殺すからには自分が殺されても文句は言えないか…ゴフッ…ごもっともだ」
「最後の言葉とか聞いたる義理ないゾ…死ね」
「あぁ…だが、俺には為すべき事があるんだ。ここで死ぬわけにゃいかねえ…」
そう言うとスペイリブさんは懐から何かを取り出した。
ん?注射器?
「至高の血統っ!正しき血統の序列を取り戻さんが為にっ!!」
何やら訳の分からないことを叫びながら、スペイリブさんは取り出した注射器らしきものを自分に突きつける。
その注射器にはヌラヌラとした赤黒い液体が入っていた。
その注射器を自分に打ち付けたスペイリブさんは、直後からもがき、身悶えしだす。
「ぐ、ふっぐぁーーーーー!!!」
ブルブルと身悶えしながら体を揺する彼は、その一動作毎にドクンと一回り大きくなる…。
身体が膨らんでる!?
スペイリブさんはドクンドクン、と震わせた両腕…肩から首、上半身からその下へと次々と巨大化?していく。
「何それ!?」
「あん!?何や…ドーピングか?」
「おっ、俺は選ばれたっ!ははっ!やったぞこれで…うっ、ウグゥッ…グアァアァァァァーーーー!!」
筋骨隆々となったスペイリブさんだったが突然、前以上に苦しみだしたかと思うと更に肥大化する。
最早、逞しいというより人とは思えない見た目に…。
ギンギンになった筋肉は、許容量を超え更にブクブクと膨らんでいく。
一般的な体格からしてもガタイのいい方だったスペイリブさんの身体は、今となっては人のその枠組みを超え巨人のようだ。
「ごっ、ごんなっ?オデは、おでばぁ、選ばれブッ…ブギュルアァァァーーーーーー!!!」
何!?何なの!?
スペイリブさんがーーー!?




