聖剣
「だ、大臣様っ!賊が城内に侵入しましたっ!」
「何っ!?こんな時に…っく、何者だ、人数は!?」
「どうした、クロウ殿達が無事だったのか?…いや、まだ出発したばかりであったな…」
「陛下、部屋の移動を。賊が侵入したもようです」
「何?賊がどうして城に…」
ドッガァァーーーーン!!
オレはドアを蹴破ってその部屋に入る。
城のかなり上まで登って来たがスペイリブは未だ見つからない。下の方だったか…。
オレが蹴破り飛ばした扉を躱すためか、床に伏せている奴らが何人かいた。
よく見るとヒゲ王と大臣もいる。
「おいっ!ヒゲっ!スペイリブは何処だ!」
「う、なっ!?クロウ殿ではないか。無事だったのか!ダンジョンで罠にはまって…」
「そんな事はいいっ!スペイリブは何処だっ!…それともお前もグルなのか!」
「な、なんの事を言っておる。スペイリブがどうした!?」
「………そこまでだ!坊主。無事だったのは嬉しいが、まさか逆恨みでこんな事しでかすとはなぁ」
「てめぇ…スペイリブ!どのツラさげて…」
「ダンジョンで散々と陛下への恨み辛みを愚痴ってたが…まさか王家に謀反を起こすとはなぁ。罠にはまったのは運が悪かったんだ、陛下に罪はねえぜ」
「訳わかんねー事…」
「陛下、おさがり下さい。スペイリブの言うように小僧は謀反を起こす気のようですっ!」
「し、しかし大臣。話を…」
「陛下っ!下の階では騎士団が坊主により全滅しておりました。危険です!お下がりをっ」
「なっ!?まことか!?平時とはいえ一人で相手出来る数では…」
「ですから危険なのです陛下!しかしご安心下さい…賊は私がこの聖剣で成敗いたします。緊急時ゆえ宝物庫から無断で聖剣を持ち出した件は、後で如何様な処罰でも…」
そう言うとスペイリブはヒゲ王を庇うように回り込みオレに正対する。
こいつが【聖剣】とよんでた剣の切っ先をオレに向け警戒している。
「ちっ、どうでもいいっ!取りあえずお前は殺すっ!!」
「かかって来い坊主。王家にキバ向く賊は成敗しなきゃならねえ」
カシッ…ィイィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーー………
オレは小太刀を抜いて斬りかかる。
ガキンッ!
一太刀で斬り伏せるつもりが、上手い具合にスペイリブの剣に邪魔される。
!?
文字通り【剣】に邪魔されたゾ。
スペイリブの腕はダンジョンでも見たが、こっちの世界の上位レベル。常人の範囲だ。
とても夜のオレが本気で斬り込んで反応出来るとはおもえねー。
力一杯斬り込めば剣ごと斬れてもおかしくねぇのに、いい角度で受けて力を逃しやがる。
それも…【剣】自身がだ。
「ちっ! GAaaa…RAAaaaaaaaaaaaaaーーーーーーーーーーー!!!」
これでどうだ!
オレは連続で斬り返し撃ち込む。
ギャンギャン、ガキンッと武器同士がぶつかり合う音がする。
先程と違い力を流しきれねーのか、相手の剣は刃こぼれしてスペイリブ自身も数歩下がる。
しかし、全て受けきられ鍔迫り合いになった。
「(お、おぉう。やべえ、全然剣筋が見えねえぜ。守護の聖剣を持ち出しといて正解だったな…
この力、坊主にはやっぱり死んで貰わなきゃならねえみたいだなぁっ!)」
「ふんっ!変な効果のある剣みてぇだが…このまま押し潰して…圧し切ってやるっ!!」
オレみてぇな子供の体重なら鍔迫り合いから押し込む事も、体重ののらない連続斬りにパワーをのせる事も、いくらヴァンパイアの腕力だろうと普通は出来ねー。
だから今のオレは念動力で自分の体を押さえ込んで固定し、ヴァンパイアの全力の剣撃が放てるようにしている。
まぁソレを完全では無いにしてもいなす【聖剣】が信じられねーんだが…。
大体、達人の刀を振るスピードはコンマ数秒、それが連撃だゾ。
まぁオレは達人じゃねーけどよ…。
強化されたヴァンパイアの腕力と俊敏で振るわれるものを、普通なら人間がいなせるわけねー。
しかし、【聖剣】がいったい何判断で反応してるんだか知れねーが、こうなっちまえばそれも関係ねぇな。
「おっる…RAaaaaaaaaaーーーーーーーーーーーーー!!」
「うっ、くっ。せ、聖剣よ…【光を!】」
!!!ーーーーーーーーーーー………
「うっ!ぐあぁぁーーーーーーー!」
スペイリブが何かやった瞬間に凄まじい光が剣から放たれる。
鍔迫り合いの状態からモロに光を浴びたオレは、目をやられ刀を手から落としちまう。
ぐあっ!目が…。痛ぇ!くそっ何しやがった。
熱い、目だけじゃなく体前面が焼けるようだ。
数瞬して超再生により回復した視力で前を見れば、スペイリブが剣を突き出したところだった。
ヤバイっ!
「うおりゃっ!」
「ごっ…はぁっ…………」
ぐっ、喰らっちまった…。
な、何だ!?
刺された場所が剣の周囲ぐるりと、ひと回り大きく消滅する。
それによって刺された鳩尾周辺の内臓、肺の一部や心臓までを消し飛ばす…。
がっ…。い、意識が…脳に血が回ら………。
ーーーーーードタドタッ バンッ!
「はぁっ…はぁっ、はあ。…王様っ!兄貴は!?こっちに来たって……はっ!兄貴!?」
僕が久々に見た兄貴は、ちょうどスペイリブさんが突き出す剣に貫かれた状態だった。
刺された部分が綺麗に穴が空いてる。ちょうど剣の周りの空間が消失したように…。
何で!?どうして!?
「あっ、兄貴!!」
「ジュウロウ殿!実は小僧が謀反を企て陛下のお命を狙ったのです。それをスペイリブ殿が成敗したところ…」
「なに言ってんの大臣!兄貴がそんな…」
兄貴が死んだかもしれない…そんな思いに囚われていた丁度その直後…。
兄貴の身体がヒモで吊り上げたように不自然に起き上がり、その無くなった胸の穴からはシュウシュウと黒い霧のようなものが立ち昇っていた。
いや、違う。あの時と同じだ…。
兄貴の胸から霧が出てるのではなく、消失した部分を周りの空間から寄せ集めるかのように、何も無い空間から兄貴の胸部へと黒い霧が戻っていく。
兄貴の目に生気が戻ったとき…その真っ黒い瞳から色素が抜けたかのようにドンドン黒が薄く、そして紅く色付いていく。
瞳が真紅に染まった時には二条の紅い閃光だけを残して兄貴の姿が掻き消えていた。
!!!ーーーーーーガシャン!
次の瞬間…何かが凄い勢いでぶつかったような音がして吹き飛び、激突した姿で壁に張り付いていた。




