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スペイリブ、許さじ

オレは一直線に入口へとつながるゲートを目指した。

脳内書記にマップが残っているので迷う事はない。おまけに文字通り一直線だ。


ドガドガドガッ!


「ひっ、ぐっ!ど、奴隷!?貴様なんなのだー!!」

「やかましいっ!!サッサとついて来いっ!」


ボカボカッ!ドカドカドガーッ!


オレはダンジョンの壁を殴り破りながら直線的にゲートを目指す。途中にかたまって現れるモンスターは念動力サイコキネシスで吹き飛ばしながら。


ちっ!このザコがっ!!

わらわら寄って来なきゃ念動力サイコキネシスで壁を壊しながら走った方が早ぇのにっ!


駆け足で20層まで戻ったオレはそのままの勢いでゲートに飛び込む。ザンギーもなんとかついて来るている。

1層のゲートから同じように壁を砕いて入口から出れば、外の景色は完全に夜だった。


見上げると満月が紅く輝き叢雲がかかっっている。

この異世界にも月はあるようで、おかげで夜目が利くオレにはほぼ昼のように見える。


オレはアリムを入口近くの休息小屋の中に降ろし、ずっとこいつが羽織ったままだった上着を顔に被せた。

小屋から出たタイミングで、遅れてきたザンギーがちょうど追いついたとこだった。


「ぜぇ、ぜぇ。ぜはぁ…。ど、奴隷…助かったはいいが…なんなのだ、貴様は…」


「んなことはどうでもいい…。オレは城に行く、アリムの遺体が野犬なんかに荒らされねーように見張っとけ」


「なっ!私も行くぞっ!スペイリブ殿の乱心を陛下に伝えねばならん!」

「お前連れてくとスピード出ねーんだよ!」

「うっ、確かに迎えの馬車はまだ期日前のためここには無いが、走ってでも…」

「オレはもう行く…。アリムを見とけよ」

「いや、いくら貴様の足が速くともここから…んなぁっ!?飛ん…」


オレは、ザンギーにはそれ以上かまわず空に浮かび上がった。

その後城の方角を定め、全速力で飛ぶ。



「スペイリブ…あの野郎………殺す…ぶっ殺してやるっ!」



念動力サイコキネシスを全開で飛べばあっという間に城の輪郭が見えてきた。

しかし城といっても広い、スペイリブのいる場所が分からねー。

くそっ!イラつくっ!

面倒だ、城門から入って城中ぶっ壊して探してやるっ!


オレは飛んできた勢いそのままに城門に蹴りをかます。

飛行速度は周りの景色が霞むくらいだったのでソコソコあるんだろう。

蹴りつけた瞬間にどデカイ城門が吹き飛んで、そのまま後方の石造りの建物を壊しながら転がっていった。

本来、鎖の巻上げ機で開閉するような巨大な門扉だ。それが吹き飛んで来ればぶつかった方はそりゃボロボロだろう。


そのまま飛んで城門をくぐったオレは、城の入口に降り立つ。

中から騒々しく騒ぐ声が近づいて来る。


「何だー!何があったー!」

「門番ー!報告しろー!」

「うっ!何だこれはモンスターか!?市民の反乱か!?」


いち早く駆けつけた兵士数人が、ボロボロになった城門と城の入口を見て混乱している。

その後、続々と集まってきた兵士達の視線がオレに集まる。


「「何者だ!」」

「………」


背後からも門番らしき奴らが走って来る。


「た、大変だー!突然門扉が吹き飛んで…子供?お前、いつ入った。危ないぞ!家に戻れ」

「スペイリブは何処にいる…」

「おい、門番っ!その子供から離れろ!何かおかしいっ…」

「おい坊主、何処から…」


門番が近寄り坊主・・と言ってオレの肩に手をかけた。

その呼び方にスペイリブの野郎を思い出しイラつく…。


ゴッ!


「ぼっ、ごぉぉーーーーーーーーーーーーーー……」


纏わりつくハエを払うように門番の胴鎧を手の甲で払う。

鎧をベコッと凹ませた門番は転がって10mほど吹っ飛んでいった。

怒りで上手く手加減できたか自信が無いが死んじゃいねーだろう…。


「こ、こいつ唯の子供じゃないっ!賊だ、全員、陣形をとれっ!」

「「「おうっ!」」」


「お前ら…スペイリブは何処に居るって…聞いてんだぁーーーー!!」


集まって来ていた衛兵達に突っ込んで行く。

刀は腰に差したままだ。抜けば十中八九殺しちまう…今はムカついて手加減が上手くできねー。

極力頭部は狙わず、手足か胴の鎧を目掛けて攻撃する。


先行して集まって来ていた5〜6人は直ぐに動かなくなった。

奥から又、続々と衛兵が走って来る。


どうせコイツら、聞いてもスペイリブの居場所は答えそうにねー。

全部ぶっ飛ばしてヒゲ王の所まで行く事にする。

あいつを捻り上げて聞き出すか、脅して周りの奴に喋らせよう。



「お前ら死んじまったらスペイリブを恨めよ……GUuGAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ガタガタッ ゴトゴト…


僕は今、お供の数人の方達と兄貴がいるダンジョンへと向かっている。

気持ちはくが、継続移動できる馬車の方が走るより早いので車内でイライラしながら到着を待っている。

本当は馬に乗って単騎で駆けていく方が早いのだろうけど、僕は馬になんて乗れないからね。


「すいませんっ!もっと急いで下さい!」


「ジュウロウ殿、落ち着いて下さい。馬車ではこのくらいが限界です。整備されてない地道では車輪が故障する恐れも…」


「くっ…」


「クロウ殿はきっと大丈夫ですよジュウロウ殿。ザンギー魔術師団長も一緒なのです。無事です、きっと…」


「そんなの分かんないじゃないかっ!…あ、いや…すいません…」


お供の方達も、僕の気持ちを落ち着かせようと言ってくれてるんだろうに…。

つい、キツく当たってしまう。


「ジュウロウ殿!見えました。ダンジョン入口ですっ!」

「はっ!…開けてっ!」


僕は馬車が止まりきるのも待てずにドアを開けて飛び出す。月明かりはあるが暗くて見えにくい。

入口付近には人影は無く、近くにある小屋の窓から灯りが見える。


馬車の音が聞こえたのか小屋のドアが開き中から誰かが出てくる。

兄貴!?


「あ、兄貴っ!」

「むっ、その声は…ジュウロウ…」

「あ、あれ!?ザンギーさん。兄貴はっ?兄貴もいるんでしょ!無事なんでしょ!」

「う、うむ。あやつは無事だ…」

「どこ!?あの中なのっ?」


僕はザンギーさんを押し退けて小屋の中に入った。

中を見渡すと人が一人横たわっている、上着を頭から被って寝ているので分からないが…兄貴?

いや、こんなに大きくはなかったよね?


近付いて上着をめくる。


「兄貴?……うわっ!?だ、誰?この子」

「…アリムというらしい」


背後からザンギーさんの声が聞こえた。


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