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本人の希望

ぐっ、あ、アリム…。


「GU…GAAAaaaaaaaaaaーーーーーーーーーっ!!!!」




信じられないくらいにクリアになった思考の所為で、まるで止まった時間の中を泳ぐようなオレがいる。…だが今は沸騰するほどに熱く感じる脳みそも気にならない。


自分の無能さに怒りがとめどなく噴き出す…何処かにぶつけずにはいれないっ!



バシュッ!!



怒りのままに両腕を天に突き上げていた状態から、一気に自分のヘソの前へと絞り込む。

それによって弾かれた背筋で、背中から刺さっていた剣が弾丸のように抜け飛んで行く。


オレの体から飛び出した剣はグリップが進行方向を向いているにも関わらず、背後のモンスターをゼリーでも砕くかのように貫通していく。

一匹…二匹…。何匹ものモンスターを貫通し部屋の壁にぶち当たった剣は原型もとどめず砕け散った。

その際に突き抜けたモンスター共には風穴が空き、貫通部は吹き飛ばされた勢いを写真にとどめたように飛沫を進行方向にのばしている。


オレは未だ止まったままの時間の中、粘っこい空気を掻き分けるように動く。


刀を持った手で、振り向きざまに無作為に振り回した腕の部分が背後に居たモンスターに当たった。

オレに剣を突き刺した奴だろうか…今となってはゴブリンかコボルトかも分からない…上半身が全て吹き飛んでいた。


振り向きモンスターの大群に正対したオレはガムシャラに駆け出す。

拳を無茶苦茶に突き出し、剣を握ったままだというのに斬ることも忘れて殴りつつ…。



「GAAAAaaaaaaa……GuuuRRuGAAAaaaaaaaーーーーーーー!!!!!!」



無心で振り回す両腕と、方向転換時に思い出したかのように蹴りを出す両脚に触れると、これといった抵抗もなく端からモンスター共は砕け散っていく。


部屋中で四肢を振り回し、ジグザグと駆け回り元の位置に戻った。

ベットリと両手足に付いた返り血がポツリと床に落ち、止まっていた時間が徐々に動き出す…。


脳の沸騰するような感覚が収まっていくのを感じるながら、横たわるアリムを見る。



「むっ?は!?奴隷っ。貴様、刺されて…」

「………」


ザンギーが何か言っているが今はそんな事はどうでもいい。


アリム、こいつ本当に死んじまったのか…。

確かめる為に横向きだったアリムを仰向けに転がした瞬間、再生したばかりのオレの心臓がドクンッ!と音を立てる。


ドラマや映画で見て想像していたのとは違う…。

目を閉じ動かず人形のようになった様子を想像して裏切られた。そんな綺麗なもんじゃない…。


瞼は開ききり眼球は見えてるのに、その目に光は一切無くくすんで灰色に見える。口も半開きのままだ…。

うっ、く…。見てられねー。


オレは視線を逸らしながら、アリムの瞼と口を閉じてやる。剣も抜いてやった。

その直後に前回も味わったあの脱力感がオレを襲って来た。限界突破リミット・ブレイクの反動だ。

身体中の筋肉や腱が切れたように全身に力が入らない、そのくせ意識も視界も開けているのは今回に限っては拷問に近かった。

オレはアリムを見下ろす形で膝立ちになり、微動だにせず見つめ続けなければならない。



【こいつ、本当に死んじまった…】

【何か…呆気ないな…】

【こいつ…こんなんで良かったのか…】

【良いわけねーよな…】

【こいつ…こんなじゃ、幸せだったわけねーよな…】

【結局、奴隷身分のまま死んじまったしな…】

【そういや…こいつ、近々オレとの正式な隷属契約をして貰う予定だって言ってたなぁ…】

【ふっ、バカじゃねーのか…自分から人の奴隷になろうなんて…】

【他の奴じゃダメだって…言ってたな…】

【あぁ…必要とされないのは嫌だとも…言ってたな…】



短い付き合いの中でのアリムとのやり取りが思考を埋める。

我にかえると、たいした時間も経っていないのに今回はもう動けるようになった。そうか…ちょうど夜になったのか…。もう少し早けりゃ……。


オレは思いたって、アリムを見下ろしたまま立ち上がり亡骸に手をかざす。



「お前、オレの奴隷になりたがってたな…《誓約陣!》」



横たわったアリムの身体の上で陣が発動する、そして暫くすると周りの空間に砕けるように光は散っていく。

死んじまった後じゃ…こんなモン、オレの自己満足にすぎねーな…。



「お、おい…奴隷。これはどうなっている…モンスター共は…お前っ、血だらけではないか!?むぅっ、そういえば剣で刺されてっ…」


「…………」


オレは横たわるアリムを米袋を持つように肩に担ぎ、ザンギーに一瞥だけくれて歩き出す。


「お、おい奴隷。どこに行く、この状況を…」


ドッッガァーーーーン!


手をかざして念動力サイコキネシスで天井を一部の壁ごとぶち壊した。

崩れてちょうど坂道状に登れるようになった上へと歩く。


「!?…お、おい…」

「ダンジョンを出るゾ…」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「〜〜っはぁ!はぁ…へ、陛下っ!大変ですっ。二人がっ、二人が…」

「む、どうされたのです!?騎士団長。陛下は今、奥の間にて…」

「大臣!ふ、二人が、ダンジョンのトラップにやられて…早く陛下にお目通りをっ!」

「なっ!なんですとーーーーーー!!」

「……。全く、大きな声を出して騒々しい。何かあったのか大臣」

「陛下っ!ザンギー殿とあの小僧の二人が…………」

「えっ!兄貴がダンジョンのトラップにハマって危険な状況だって!?は、早く助けに行かなきゃ!」


「落ち着かれよジュウロウ殿 、城の方からも救出部隊を出す。今から大臣に人選させ部隊編成を…」


「これから人選なんて悠長なっ!!僕が行くから直ぐに馬車でも出してよ!」

「う、うむ。ジュウロウ殿ならヒールも使える…大臣っ!至急馬車を用意するのだ」

「申し訳ありません。一緒にダンジョンに入っていながら私だけおめおめと…」


「いや、よく知らせてくれた。スペイリブも傷だらけで満身創痍ではないか。ダンジョンにはマップを把握している別のものを遣わそう」


「あっ、怪我してるんなら出かける前に僕が…」

「いっ、いえ!ジュウロウ殿の魔力は取っておいて下さい。ヒールでは失った体力までは戻りませんので、どのみち私は足手纏いです」


「いや、別にヒールくらい…」

「陛下っ!ジュウロウ殿の出立の準備が整いましたっ!」


「うむ、そうか。ジュウロウ殿、ここはスペイリブの言うように魔力を温存しておいてくれ。ダンジョンでは何があるか分からぬからな」


「陛下、ジュウロウ殿。重ねがさね申し訳ありません…。(ったく、自分で怪我までしといてこれで又、ダンジョンまで出戻りじゃたまんねーぜ)」


「じゃ、僕はダンジョンに出立します」

「うむ。クロウ殿の事をくれぐれも頼む」

「(ふ〜。やっと行きやがる。まぁ、今頃は全員お陀仏だろうがな…)」




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