自己責任
モンスターの大量湧き第二波を凌ぎ切ったオレ達は一息ついてる。
だが安心はとてもじゃないが出来ねー状態だ。今も鳴動する瘤がワンサカ膨らんでるからな。
瘤の数はざっと見ても20、最悪だ…倍々で増えてやがる。
これといって打つ手も無く次の波に備えて呼吸を整えていると、アリムが小声で聞いてきた。
「(ご主人様、そろそろ本気を出されては?この状況下では実力を隠すのも難しいかと…)」
「(はぁ?本気?なに言ってんだ、ずっと一杯一杯だゾ!)」
「(え?ですが前に盗賊を討ったときはもっと…)」
ああ、こいつ昼の弱体化はお昼寝タイムの件しか知らねーんだった…。
ザンギー相手に手の内を隠してるんだと思ってんだろな。
「(…ご主人様、大丈夫です。バレても最終的にこの貴族を始末してしまえばそれで…)」
「(怖ぇーこと言うな!コイツ 一応助けに降りて来たんだゾ!)」
黒アリムはほっといて戦いに集中しよう。昼飯食ってから昼寝もしたし、今迄に随分時間も経ってるはずだ。
そろそろ日が落ちてきてもおかしくない。そうすりゃ…。
そうそう、このババァに貰った服だが中々に良い性能だ。
さっきの戦闘で何度かモンスターの攻撃を食らったがどうってことねー。…いや、流石に全部は躱し切れねーよ、だって疲れてきてたから…。
剣での攻撃を受けても、バシッと衝撃はあって痛ぇのは痛いが我慢出来る範囲だ。
それに切れたりしねー。見た目ただの服なのにスゲェ防御力だゾ。
ん?何だかちょっと日が落ちてきてねーか?
おお、本調子じゃねーがパワーも出てきてる。まぁ、まだ大人には程遠い力だが…。
そうだ、この上着はアリムに装備させとこう。オレはこれから夜に向けて力も回復力も出てくるし防御に不安はねーからな。
あいつ、どんくせぇから切られても困るし…。
「おい。これ着とけ、これなら切られたりしねーからな」
「え?いえっ!ご主人様が危険ですから…」
「いいから着とけよ!お前、危なっかしいんだよ」
アリムは渋々言うことを聞いてオレの上着を着だした。
袖を通した時点で無理がある事は分かったが、流石に子供服は女の子といえどサイズが合わねーな。
袖部分を肩の上から回して前で結び背中に羽織るかたちにした。どっかのプロデューサーみてぇ。
「おうっ。そんで少なくとも背中や肩口から切られても大丈夫だゾ」
「は、はいっ!ありがとうございます」
「おい!奴隷共。そろそろ来るっ!」
ザンギーの声の直後から又、次の波がきた!
くっ!これマジでヤバいんじゃねーのか!?
さっきの波と同じ要領でモンスター共の進撃を押し留めるがいかんせん数が多い!
ザンギーの前面に展開した魔術盾には、すでに山盛りのモンスターが渋滞している。
オレの方はというと…全然捌けてねー!
俺の前も団子状態で刀で斬るだけでなく、蹴り飛ばしたりショルダータックルで捌いてる現状だ。
MPなんかもう、念動力を使い過ぎで空っけつだ。
ぐくっ!マジヤバい…。
「う…え、えいっ!」
「ギッ、ギシャアァァーー!!」
「アリム!?」
「むっ!女奴隷。戦えるのかっ!?」
横を見るとアリムが拾ったモンスターの剣で切りつけてた。
モンスターは切り込んだ肩口から、アリムが振り抜いたそのへその下辺りまで真っ二つだ。
こいつ、スゲー。ってか剣筋もクソもない…バットをふるように詰めて握り込んだ剣でよくそこまで切れるな!?
あっ!やっぱダメだっ!
無茶苦茶に振り回す剣は時には防がれ、時には空振りする。
オマケに剣の鎬の部分でぶん殴ってる時まである。くっ、無茶苦茶だゾ。
「奴隷っ!まずい、盾が限界だこっちにまわれ!」
「まだこっちだって勢いを潰した程度だゾ!…ちっ、アリム!ちょっとの間持ち堪えろ!」
「か、畏まりましたっ!」
「くっ、これが最後の魔力だ…《魔術盾》」
オレは盾が砕けたザンギーの側にまわり敵を押し留める。
ぐふっ、うぅ!一杯一杯だっ!もう、これ…。
「は、ぐっっ!」
「女奴隷っ!」
背中側で叫び声が聞こえる。どうした!?
振り返ると盾が破られアリムがうずくまってる。
MPが無いから盾の層が薄かったのか!?予想よりだいぶ破られるのが早ぇっ!
「アリムっ!アリムっ!!」
「奴隷っ!後ろだっ!」
ドスッ!
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振り返り見た光景に動揺したせいか不覚をとった。
首を回して視界に入ったのはアリムがうずくまってる姿だった。
その直後にアリムは倒れ込み、あいつの体の影から血溜まりが広がっていく。
最悪の状況を想像したオレは、よく見ようと体ごと向きを変え…アリムの胸部に刺さる剣をみた。
口からも血を流してパクパクしてる。視線が定まってねぇ…。
よく知る人間が目の前で死ぬかもしれない。
そんな状況に明らかにテンパってた。戦闘中に敵に背後を晒すなんてな…。
アリムの事を鈍臭ぇなんて言ってられねーな。
あの隙に背後から攻撃を受け、今…オレの鳩尾あたりから敵の剣が生えてる…。
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「GU…GAAAaaaaaaaaaaーーーーーーーーーっ!!!!」
「どっ、奴隷…」
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いったん視界が落ちたオレが目にした光景はその直前となんら変わらない。
アリムも相変わらず血溜まりの中だ…。
まわりの環境は何も変わらないがオレ自身は違う。
脳みそが沸騰するくらい熱くなり、思考が今迄ない程クリアになる。
時間が止まったようにモンスター共は微動だにせず、自分の鳩尾から生えた剣先から滴る血も静止画のようだ…。
止まった時の中でオレの思考が加速する。
【大丈夫だろうアリムはまだ死ぬ訳じゃねー】
【胸のど真ん中に剣が刺さってんだ。あの辺だと心臓だろが】
【いや、でも当たりどころにもよる】
【誤魔化すな、分かってんだろ。オレの所為だってよ】
【オレの所為?オレの所為なのか?】
【そもそもあいつを連れて来なきゃ良かった】
【違う、来るって言ったのはアリム自身だ】
【本人が選んだ、でも…オレなら止めれなかったか?】
【いや、状況的にも…それにあいつ自身が…】
【あんな鈍臭ぇのが戦えないのは初めから分かってた】
【止める事が出来るからってその義務があるっていう訳…】
【自身で決めた、自身で始末をつけろ?】
【そうだろが!たまたま運悪く死んだとしても…】
【本人の実力不足?】
【そうだ!自分の実力が足りねーのを人の所為にしてんじゃ…】
【あいつを奴隷として貰うと決めたのはオレ自身だ】
【あ、ありゃババァがっ…】
【オレの実力不足だ。人の所為にしてんじゃねー】
【うっ…】
【能力を隠してた】
【言ってたからって!何も変わら…】
【こうやって限界突破が発動するのを知ってたら?】
【ぐっ、そりゃあ…】
【あいつはオレに気に入られたがってた】
【……………】
【あいつは呪いの所為でオレしかいなかった】
【……………】
【あいつはこんな勝手なオレに尽くそうとしてた】
【…………ぐっ!】
「GU…GAAAaaaaaaaaaaーーーーーーーーーっ!!!!」




