宝物(ほうもつ)
ザンギーはオレの反応をみて引いている。顎や口のけんが千切れてまで逆らうとは思わなかったみてーだ。
何はともあれ。コイツ、ぶっ飛ばしてやる!
オレは口の傷が超再生で回復しだしたタイミングでザンギーに殴りかかった。
「………っ!!!」
「うっ!お、おい!!」
くっ!この。ジャマだ!
団長のオッサンに止められちまった。ザンギーの奴はオッサンが影になってこっちに気付いてもいねー。
「(おい、坊主。落ち着けって、この女奴隷だって取られずに済んだんだし事を荒立てんなって)」
「………っ…」
オッサンが小声でなだめてきてる。その上、立ちふさがってるので殴りに行けねー。
クソっ!せっかく、お昼寝タイムの危機はアリムの毒殺料理の副次効果でなんとか乗り切ったってのに、つくづく鬱陶しい魔術師だゾ。
ザンギーのせいで負った口の傷がじょじょに治っていってる。
夜ならこんな傷は怪我しても、途端に治っていくので気にもならねぇが昼間だとそうもいかねー。
まだ出血が止まったくらいだ。
まぁ夜のように一瞬とはいかなくても数分単位で修復されていくがな。
あー痛え、痛覚耐性があるから耐えれたがまだ喋れねーな。
「だ、大丈夫ですか?ご主人様」
「………」
「おいおい、頼むぜ。まだ今日の分の探索が残ってんだからよ」
「………」
オレのせいじゃねーだろが!
クソッ!ザンギーの奴、戦闘にかこつけて後ろから斬ってやろうか。
…いや。オレは前衛だから、どっちかいうと背中狙われんのはこっちの方だ…。
「おい、どうだ?もう少し休んでから行くか?」
「………」
オレは無言で首を振って出発を促す。
「フンッ、戦いもせずに傷ついていては世話がないわ」
「………」
「ふぅ…。やれやれ、先が思いやられるなぁ。とにかく出発だ」
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午後からの探索に取り掛かったオレ達は早速モンスターにエンカウントしてた。
ゴブリン数匹にコボルトが少々だ。
オレは昼休憩の時に考えていた戦闘中の改善策を試すことにした。
今迄のようにやってると体力が持たねー。
だから、少し工夫することにしたゾ。
先ずは元々の大振りの一撃で敵を切り裂くような剣筋ではなく、剣道での打ち込みのようなスナップを効かせたコンパクトな剣撃に変える。
剣術では【剣先三寸、三寸斬り込めば人は死ぬ】と言う。
三寸。剣先から約10センチ足らずの部分で、深さ約10センチも剣が急所に食い込めば人は死んじまう。
現代のスポーツ化された剣術の剣道じゃあそんなんで本当に人が斬れんのか?って打撃で一本になるんだが、コレが真剣を持ってると仮定すると意外に的を得てる。
出来るだけコンパクトに打ち込み、面|(頭部)、小手|(利き手、手首)、胴|(腹部)、の急所に浅くだが確実に行動を阻害する程度の一撃をおみまいする。
例えば小手に一撃入れたとするだろ?コレが真剣だったら利き手がブラブラになる程ちょん切れて戦闘続行不能、よしんば戦い続けてもそんなんで勝てる訳ねー。
ーーーーーと、いう訳でオレは剣道のセオリー通りに正眼に小太刀を構え、敵に摺り足で距離を詰める。
先ずはオレの方に向かって来ているゴブリン共二匹だ、あと二匹のコボルトはオッサンの方に向かってる。
「おい、坊主!無理すんな」
「………」
オレは、ボロボロのナイフを振り上げてかかってきたゴブリンの小手を目掛け鋭く斬り込む。
素早くコンパクトにだ。
「………」
「ギャィ!」
斬り込まれたゴブリンは手首が落ちて悲鳴をあげる。続けざまの一刀で首を狙いトンっと打ち込むと頸動脈から血を噴き出して痙攣しながらゴブリンは倒れた。
「ヒュ〜、やるねえ。おっと、お次が来たぜ」
「………」
オレはもう一つの腹案を実行した。MPが少々心配だがな…。
もう一つの考えとは念動力だ。
昼はスグにMPが無くなるが小分けにすれば数回は使える。大したことは出来ないが足を引っ掛けたり相手の意表をつくくらいは十分出来る。
先ずは向かって来るもう一匹のゴブリンの眼前に猫騙しを仕掛けた。
敵の顔の前の空気ごと念動力で鼻っ柱に叩きつける。勿論、それ自体は相手にダメージを与えるほどの事は出来やしねーが相手の意表をつく事はできた。
突然の事に目をつぶって動揺している敵の頭部に軽く撃ち込む。頭に小太刀が浅く食い込み瞳をグリンと反転させ白目をむいたモンスターは、地に伏してそれ以降動く事はなかった。
なぜわざわざ空気を念動力でぶつけるのか?
直接念動力で殴ればいいんじゃね?もしくは、もう直接的に脳や心臓なんかの重要な器官を念動力で潰しちまえば?って疑問に思う人もいるかと思うが、こりゃぁ、MP節約の為だゾ。
どうも生物には魔術的なものやスキル的なものを防ぐ、耐性みたいのがそもそも備わっていて直接念動力で作用させるのは少々骨が折れる。つまり、MPが多く消費する。
例えば、モンスターの心臓や脳を一瞬のうちに念動力で一気に握り潰してしまえばMPもそんな使わねーだろうと思って試した事があるんだが…コレがそう上手くいかねんーんだ。
耐性って言ってもオレの持ってる各種属性耐性や、痛覚・物理耐性みたいなステータスに出るやつじゃなく、魔術や念動力みてぇな不思議パワーに抵抗する力が生き物には備わってるみてーなんだゾ。
息の根が止まってる奴にはなんの抵抗もなく力が通るのにな…。
という訳で、オレは手早くゴブリンを始末した後にオッサンに向かってたコボルトの一匹に狙いを定める。
オレが間合いに入ると気付いたコボルトがこちらに的を変更してかかってきたが、踏み込んできた足を念動力で引っ掛けてやったら転げそうになり、体勢を崩した所に面を打ち込んで始末した。
残る一匹はオッサンが危なげなく殺っていた。
「お?何だ、やっぱ陛下が言ってた通り余裕で捌けんじゃねえか。でもまだ実力を隠してるっぽいな…俺が聞いてんのはもっと化物じみたモンだったぜ」
「別…に…隠して………ねー…ゾ」
「はんっ!出来るのなら始めからやらぬか、おかげで幾分も探索が進んでおらぬわ」
初めてやったんだよ!
今までなら夜は工夫なんてしなくても余裕だし、昼はジュウロウが片ずけて出る幕ないくらいだったからな。お前と違ってアイツなら初歩魔術でもモンスターを一撃だしな!
ああー!もう!
まだ何とか喋りはじめれるくらいにしか傷が回復してねーから、心の中でしか悪態がつけねー!
「ほらほら、キビキビ行かぬか!次だ次」
「そうだな、この調子でジャンジャン行こうぜ」
キビキビ言うな!やってんだろが!
あと、ジャンジャンとかも無理だゾ…。徐々に行かねーとMPの回復が追いつかねー。
くそー、こいつら人の気も知らねーでどんどん進んで行きやがる。
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しばらく戦闘をこなしてからプツリと敵とのエンカウントが途切れた。
時間も昼休憩からだいぶ経ったので一時休憩する事になった。
また、例のごとく団長のオッサンが先行して休憩場所を探す。
何でいつもオッサンなんだ?まぁザンギーは行かねぇとしても、オレが行ってもいいんだけどな…。
「おーいっ!チョット来てくれー。こっちだこっちー!」
「??休息にいい所があったのですかな…全く、この奴隷が役に立たぬからやれやれ…」
「……」
もう、鬱陶しいったらありゃしねー。無視だ、無視。
オッサンが何か見つけたようだ。手招きしてる。
休息に良い場所が見つかったんじゃねーのか?何だか様子が違う。
「おい見てくれ。何だろうなこれ」
「ふむ。石が埋まってますなぁ…しかしこれは…」
「ふぅ、やっと喋れるようになった…。で、何なんだコレ?」
「台座に石が埋まっていますね、ご主人様」
団長のオッサンが手招きした部屋には中央に壁などと同じ素材で出来た台座が鎮座し、その上部に大きな宝石のようにカットされた石が天井の光を受けて輝いてる。
……今更だがこのダンジョン、天井から光がこもれている。
勿論、地下なので空は見えず太陽が出てる訳じゃねー。
じゃあ、何で光が届いて来てるか?
道中でオッサンに聞いたんだが、何でもダンジョン内の壁や天井の地層には疎らに光を通す結晶のような石が混ざってて外の光がその結晶に連鎖するように反射してどの階の天井もこんな感じに光ってるんだと。まるで光ファイバー見てーだゾ。
ったく、これがなけりゃ陽の光が届かねーんだから夜も同然なのによ。
「こりゃ宝物部屋だろうな…」
「のようですな…」
「あん?宝物部屋??」
「この宝石が宝物なのでしょうか?」
「へ〜。宝って宝箱に入ってんじゃねーのか…」
「宝箱?盗賊の財宝でもあるまいに、ダンジョンにそんな物がある訳ないであろうが…ったく、この阿呆が」
「あぁん!?」
「よせってば。(懲りね〜坊主だな…)」
「宝なのでしたら持って帰るのですよね?」
「女奴隷…。差し出がましいぞ。それが出来れば既にやっておる」
「ああ、こういういかにも(・・・・)って感じの宝物はダンジョンが探索者を呼び寄せる餌としての役割だけの物もあるが…大概はな…」
「ええ、でしょうな。トラップの可能性が高いですなぁ、宝物もこれ見よがしに魔法石ですし…」
「へー。じゃあコレ取ろうとしたら罠が発動するんだな。じゃ、ほっといて行こうぜ」
「いや〜。しかしなぁ…」
「何だよ、罠があんだろ?」
「馬鹿が、全てに罠がある訳ではない。おまけに魔法石の宝物。お前のように無知無教養でなければこのように悩むのが普通なの、だ!」
へーへー。そうで御座いますかっ。
もうどっちでも良いから早く決めてくれよな。オレはこんなモンいらねーんだからよ。




