森での死闘?
ザクッザクッザクッ
邪魔になる蔓や草を切り払いながら森の中を歩いて行く。
「ふーふふんふーん」
「ご機嫌ですね、こんな歩きにくい獣道なのに」
「おおっ、ジュウロウがエンチャント掛けたこの剣、中々調子良いぞ」
「まあ確かに蔓や草くらいは楽々切れてるっぽいな」
俺たちは森の中を進んでいく。少し行くと小さく開けたスペースにウサギの様な生き物がいた。
「おっ!獲物発見」
「何か、ウサギみたいだけど明らか違うよね?」
その生き物は犬くらいの大きさのウサギで一番の違和感はその耳にあった。
耳が長いのはともかく、その先にメロン程の大きさの塊がくっ付いていた。
「おい、ジュウロウ。あれ何だろうな?モンスターだよな」
「うん。さっきステータス鑑定したら《フレイル・ラビット》って出てた」
「フレイル?あの耳の先のを振り回すんだろな」
「まだ、こっちに気ずいて無いっぽいよ」
「お前こっから魔法打ってみろよ」
「オッケー。《ファイアボール》」
ボッッ!っという音を出し火の玉が飛んでいく。
キュイーッッ!
「あれ?やっつけた?」
「おう!一撃だ。お前、中々やるな」
「結構、余裕?」
「ああ、余裕だ余裕!」
何だかこの人の意見は参考にしてはいけない気がする。
だが、一撃だったのは確かだ。案外あの熊以外は大したこと無いのかもしれないな。
「良し!次いくぞー」
「ちょっと、LPは?」
「そうだそうだ、うっかりしてた。《生命の強奪》」
ウサギの体が黒い霧に変わり兄貴の方へ吸い込まれていく。
「おおっ!今度は上手くいったぞ」
「どう?LPどんだけ増えた?」
「どれどれ、ちょっと待てよ〜」
ステータス (クロウ)
HP50/50 , MP25/25 , LP1:183
「何も変わっとらん!」
「あれ?何で?」
「どうなってる?脳内書記!」
《生命の強奪によるLP吸収量》
LP吸収量は対象の魂の大きさに比例する、1日以下の吸収量の場合表記されない。
「こんな弱っちいのじゃダメって事だ。熊みたいなの探すぞ!」
「やだよ!あんなのは危ないだろ」
「とりあえず、もっと強いの探すゾ」
ズンズン森の中を進んでいく。
「おっ、またいたゾ!今度は大漁だ。5匹もいる」
「またフレイル・ラビットだね。じゃあ、気付かれる前に先制するよ」
先制でファイアボールを放ったら一匹を仕留めてもう一匹に怪我を負わせた。
「ヨッシャー!俺の出番」
兄貴が切り込んでいった。
大丈夫かよ?と思ったが、一太刀めで負傷した奴を斬り伏せ返す刀でもう一匹の前足を切り飛ばしていた。
足を無くしてのたうち回るウサギにファイア・ボールを放って止めをさす。
「フハハ、俺のエクスカリバーの敵ではないわ」
「その剣いつからそんな伝説的な名前に!?」
「ドンドンいくどー!」
「よーし、《ファイアボール》」
あっ、外れた?いや、横飛びしてファイアをかわされた。
魔術をかわしたウサギがこっちに駆け出してきた、接近する前に槍を突き出したがまたもやかわされる。
うへぇ、ムズイ。兄貴の奴こんなの良く当てたな?
今、進撃を止められたウサギは俺と睨み合うかたちで出方をうかがってる。
兄貴の方を見るとあちらも結構苦戦している。
あちらのフレイル・ラビットは脚力を溜めるようにググッと深く沈み込みロケットの様に低く飛び出す。
そのまま突っ込むのか?と思いきや兄貴の数歩手前で急ブレーキをかけ、ギャギャっと止まるとその反動で耳の先に付いた塊がビュ!っと勢いよく振り出され兄貴にむかっていく。
「ヤベッ!」「うわっ!」
兄貴は初撃の塊を剣で弾いてそらし、続けざまのもう一方の耳の塊は身体をとっさに捻って何とか回避した。
かわされた塊はその勢いのまま兄貴の背後の木にぶつかり、ベキッ!っという凄い音をたてて木の幹を叩き潰していた。
「……。何あの塊、鉄ででも出来てんの?」
「ジュウロウ!これ食らったら痛そうだぞ!」
いや、痛いなんてもんじゃ無いでしょ。頭とかに当たったら死んじゃうでしょ。
兄貴の方のウサギは再び沈み込んで力を溜めている。
あっ!向こうばっかり気にしてたら俺の方のもスタンバイしてた。ヤバイ!来る。
「うひゃー!」
何とか横に転がり回って回避に成功する。
早く仕留めないとこんなの何回も躱しきれない。今なら距離が空いている、魔術を打とう。
「《ファイアボール》」
またかわされた、ファイアボールってそこそこのスピード有るのに?
魔術を変えるか?
「《ウインドカッター》」
ビューバッ! ザシュ!ピ…!
おおっ!当たった、風魔術だと当たる瞬間まで軌道がほぼ見えない。
初めからこれにしときゃ良かった。
ウサギは真っぷたつになって転がっている。
兄貴の方は?
「よっと。ワンパターンなんだよ!おりゃ!」
兄貴は器用に半身になって躱し、流れる様な動きで耳が伸びきったところを二本とも斬り落とす
返す刀で逆袈裟に切り上げウサギの首をはね飛ばしていた。
何だこの人、そんな簡単にかわせるか?
だいたい身体ステータス俺の半分くらいじゃなかったか。
「結構、余裕あるな。最初は耳攻撃に焦ったけどな」
「余裕なんか無いよ!あんなの当たったら一発でもヤバイだろ!」
「当らなければどうとゆう事はない」
「なにを赤いあの人みたいな事言ってんの!」
「いやー。お前、避け方が悪いんだって」
「そういえば兄貴、スパスパ避けてたな」
「体捌きだろ?剣道とか他の武術でも常識だろ」
「俺、そんなの出来ないって」
「いや、別に特別な技術って訳でもないけどな」
「まぁ、あんなの犬とかとたいして動きが変わんないだろ。お前武器まで持ってて犬に負ける気する?」
「うーん、でも急に動かれたらなかなか反応しにくいよ」
「さっきの場合だったらフレイル攻撃の前には沈み込んで溜めがあるし、フレイル自体も直線的にしか飛んでこないから事前に分かってたら避けるのも難しくないゾ」
そのあと俺は、生命の強奪で五匹とも吸収したが数日分しかLPは増加しなかった。
うーん、こんなんじゃキリが無いな。不老不死の為には毎日戦い続けないといけないゾ。
「こんなんじゃ結構時間かかるな」
「魂の大きさに比例するって事だからやっぱ強敵じゃないとダメなのかなぁ」
「そうだな、スライムなら50位回復する気がする」
「いや!スライムだと余計ダメだろ」
「じゃあ、熊いくか」
「ウサギでも不安なのに熊とか無理くさいよー」
「お前さ、さっきも思ったンだけど何でエンチャント掛けないの?」
「あ!忘れてた……」
「じゃ、とりあえず俺にスピードやってよ」
「分かった。《エンチャント・スピード》」
シュワッーと兄貴に魔術が通る前に霧散した。
「おっ!掛かったかな?なんか剣の時みたいに光らなかったけどな」
「いや。直前に消えたっぽいよ、何でだろう」
「自分に掛けてみろよ。」
「うん。《エンチャント・スピード》」
「おう?ちゃんと光ってる」
「おい、脳内書記。どうゆう事だ?」
《クロウに対する付与魔術》一定以下のレベルの付与魔術は状態異常耐性によりレジストされる
「くそっ!付与魔術も状態異常にあたるのか、毒耐性とか麻痺耐性みたいに個別に付いて無いとデメリット大きいな」
「俺はパワーもディフェンスも掛けてみたけど普通に掛かるよ。それにちょっと動いてみたけど明らかに身体能力上がってる」
「ま、それで熊でも相手出来るだろ?」
「くっ、熊はやだけど兄貴は大丈夫なのか?身体能力まんま子供だろ」
「ん、数値的には子供並だけど体力とか腕力以外はイケそう。100M走したら大人に敵わないけど瞬間的な動きとか小回りは逆に良いくらいだゾ」
「そっか、其れに俺の回復魔術もあるしね」
「……なんか嫌な予感がする。ちょっと俺に回復魔術掛けてみろよ、あっ!チョイ待て凄く弱くなっ!」
「?うん、分かった。《ヒール》」
またもや魔術はシュワッーっと霧散していく。
「やっぱレジストされる。まぁ、ダメージ受けなかっただけマシか……。俺アンデット属性だしな」
「ああ、それでビビってたのか。他の光魔術も試しとく?灯り出すくらいのしか無いけど。」
「ビッ、ビビって無いし!おーし、ドンと来い……この指先の方に」
かなりビビってる兄貴にライトの魔術で出した灯りを近づけた。
結果、エライことになった。
指の先が光りに触れた瞬間から蒸発するようにジュ!っと消えて無くなった。
「あづっ!痛てててっ」
「あっ、ごめん。大丈夫?」
指先に黒い霧が集まり暫くして無くなった部分は再生された。
「ふー、ここまで光魔術に弱いなんてな。ただの灯り出す魔術だろ?」
「うん、ちょっと焦った」
「あっ!またLP減ってる!折角増やしたのに元に戻ってる」
「そうなの?でも熊の時みたいに年単位で減らなかっただけマシじゃん」
「こんな事やってたらジリ貧だなぁ。LP増やすのに戦って、怪我するからLP減って」
「そうだねー。極力怪我しないように気をつけていかないと」
「あと、LPいちいちステータス確認しなきゃ分かんないの面倒だ」
「ゲームみたいに頭の上に数値出ないかな?」
二人で思考錯誤して、自分の視界の端にHP、MP、LPがバーと数字で見えるようになった。
相手のも頭の上に出ている。これで戦闘中もチェックが容易だ。