奴隷の制約
何だかんだでオレ達一行は只今絶賛戦闘中だゾ。
え?いきなり【戦闘中】って話をはしょり過ぎてて分かんねー?
いや、だってよぅ。このお話って中々ストーリーが進まねーだろ?自分で話しててイライラしてきてよっ!
まぁ入り口からチョコチョコあって今の状況だと思ってくれよな。因みに今、ダンジョンでの初戦闘だゾ。
「よう、坊主。そっちは任せた、俺はこっちのコボルトを殺る」
「おう、任せとけ。団長のオッさんもし損ねるなよ!」
「ファイトっ、です。ご主人様」
「ふん…」
それにしてもザンギーがいちいちウザい。
オレ達の前には初エンカウントしたモンスター共が向かって来ていた。
毛むくじゃらの犬頭をしたコボルトが二体、オレと変わらない身長のゴブリンが一体だ。
うっ、汚ぇな。ゴブリンって何でいつも涎垂らしてんだ?
オッサンがコボルトを受け持つってんでオレはゴブリンに斬りかかった。
特にフェイントもかけず袈裟掛けに斬り込んだだけなのにゴブリンは反応できず、肩から喉元まで斬り込めた。
だが、切り進んだのはそこまで。ゴブリンの胸当て防具に当たり太刀が止まる。
「くそっ!防具に当たって止まりやがる!」
「おっ!中々どうして。子供の腕力でそこまで深く切れ込むたぁ、やるじゃねえか」
オッサンは軽くコボルトの攻撃をいなし、返す刀で無造作に切りつけていた。
ちぃ!それにしても。夜なら防具ごと一太刀なのによ!
最初の島にいた時は、昼でも武器さえありゃ自分の攻撃力に疑問なんて無かったが…こいつら防具装備してやがるしなぁ…。
獣系の形態をとっているモンスターは武器や鎧なんかは着けてねぇからな。
だがまぁオレやオッサンが斬ったモンスターは、致命の位置まで刃が届いたのかビクビク痙攣して横たわってる。
残る一匹のコボルトは、距離が近いせいかオッサンの方に向かって行った。
そいつは自前の剣を叩きつけるようにオッサンにかかっていく。
オッサンは剣を受け、切り込むタイミングをはかっているようだ。
「おらっ!相手は一人じゃねーゾッ!」
ギャウッッ!
オレはオッサンとやり合ってるコボルトの背後から切り掛かり太腿の裏側を斬ってやった。
それにより体勢を崩したコボルトは呆気なくオッサンにトドメを刺される。
「おう!サンキューな、坊主」
「流石はご主人様ですっ!」
「ふんっ!背後から切りつけるなど、誇り高い貴族では考えられぬ行為だ」
いやいや。何もしてねーお前が言うな…。
魔術師のザンギーが吐き捨てるように悪態をついてきやがる。全く…魔術でサポートぐらいしやがれ!
オレと騎士風のオッサンは入り口から今迄の道中で幾分か打ち解けてきてた。
このオッサンはスペイリブ騎士団長。騎士の長の割には飾らない、感じの良いオッサンだ。
入り口からの道すがらチョイチョイ話も盛り上がり【オッサン、坊主】と呼び合うまでになった。
最初は伯爵様って呼んでたんだが…【堅苦しいのは苦手だから好きなように呼べ】って言うからよ。
どうもこの騎士団長、あの謁見の間での一幕に同席してたらしく大臣に思いっきり言いがかるオレを見て胸のすく思いだったってよ。
あの大臣、やっぱ下の者からしたら口煩いみたいで城の中にもオレに好意的な奴も少なからずいるらしい。ヒソヒソ声で教えてくれた。
しかしまぁそんな奴ばかりじゃあ無く、王や大臣に無礼な態度をとるオレを快く思わない人間もいる。その筆頭が魔術師のザンギーだ。
こいつはあの時、謁見の間には居なかったみてぇだが話に聞いて憤慨してたらしいゾ。
何やらこのダンジョン探索にも自ら名乗りをあげての参加だとさ。
オレとジュウロウが兄弟だと分かると他を押し退けて担当すると言い出したんだとよ。ジュウロウ…何やったんだ?
「ふ〜ん。10層だとやっぱりこいつらが主流で湧くのかな?」
「ん?何言ってんだ坊主。ここは20層だぞ」
「へっ?だって入り口からよ……」
オレ達は入り口から入った後は一直線にある部屋を目指した。転移陣(ゲート)のある部屋だ。
オッサン達は慣れた様子で迷うことも無く進み、5分〜10分でその部屋に着いた。
オレはてっきり自分が転移した時の逆バージョンで、10層に飛ぶ陣だと思っていたが違うようだ。
なぜあの時使ったのと同じ陣だと分かるかというと【脳内書記】に記憶があり、ダンジョンの地図を視界の端に表示しながら歩いてて前に使ったのと同じ場所にあったからだ。やっぱ、便利だな【脳内書記】。
で…オッサンいわく、ダンジョンの陣は10層おきに設置されており、どの陣も乗れば1層にある陣に転移させると言う。
逆に1層から陣に乗れば、乗ったメンバーが使った事がある最下層の陣に飛ぶらしい。
陣には一度にそんなに沢山の人間は乗れねーから、それもダンジョン探索に大人数が向かない理由の一つだと言ってた。
まっ、陣は10層おきのうえに今は30層の陣を使った奴がいねぇから、20層からは地道に階段を探して降りて行くしかねーとよ。
「それにしても随分とコッチに都合の良い仕組みだな?陣は人が設置するのか?」
「ふっ、愚かな…」
「何だよ、知らねーから聞いてんだろが!」
「なっ、奴隷!!誰に口を利いている!!」
「あ〜もう…面倒くせー。お前みたいな奴にいちいち敬語で対応してられるか。もうや〜めた」
もういいや。ババァの顔も潰れるし、ジュウロウの立場も微妙になるかもしれねーが自分の事は自分でどうにかすんだろ…。城の方も反オレ派ばかりじゃねーみてぇだし。
それにオレは二度目の人生は自由に生きるって決めてるしな。フハハッ。
「この奴隷が!まるで立場が分かっておらぬ、口を慎まぬかっ!」
「はんっ、や〜だね。敬語ってなぁ、敬意をはらえる奴に使うもんだゾ」
「こ奴っ!思い知らせてくれる!」
「フハハハ、やれるもんならやっ…」
「命令だ!その口を塞げっ!」
「フハハ、やだねっ…むっ、むぐっ、ん〜ん〜!」
「はははは!ど〜した、先程までの減らず口は。ははははっ」
「おいおい、ザンギー殿。辞めとけよこんなとこで…」
むぐぐ!なんだこりゃ!?ウザ魔術師が言ってから口が開かねー!
どーなってんだ!!
「ははははっ。奴隷め、自分の立場を思い知ったか。私は陛下から直々に命令権を頂いておるのだ!」
「きゃっ!ごっ、ご主人様?」
「おい坊主。無理に逆らって口をきこうとするな、隷属契約には逆らえやしねえ。それとザンギー殿もそれくらいにしてやってくれ、探索に支障をきたすぜ」
ウザ魔術師は団長のオッサンに言われてしぶしぶ【命令を解除する】と言った。
途端、口から顎にかけて自由がきかなかった違和感が無くなり話せるようになった。何だこれ?
奴隷に対する支配権って心臓を締め付けるだけじゃねーのか!?どーなってんだ?




