まだ潜んねーのかよ…。
城から来ただろうこの二人、かたや騎士風の感じの良いオッサン、かたや魔術師風の嫌味なヤナ奴。
こいつらとダンジョンに潜んのかよ…。オレ一人で良いんだけどなぁ〜。
前の島からゲートで飛されたのは確か…10層だったか?
10層からヒゲ王の案内で一気に一層まで転移陣で…あぁ、アレもゲートってのかな?…で飛んだからよくは分からねーが10層であの程度なら夜行けば一人で問題無く攻略出来そうなんだがな。
まぁ、階を重ねる毎にどの程度モンスターが強力になってくか分かんねーしパーティを組んで行くのも良いかもな。昼は力でねーし。
そうそう、それだよ。夜に行きてぇけどそんな事言ったら【何故だ?】ってなるだろうし、夜の化け物じみたパワーを知られんのは別に構わねーが逆に昼の弱体化と、下手したら無防備時間の事もバレちまうかも知れねー。
う〜ん、黙って付いてくしかねーか。昼のオレでもダンジョンで問題無ぇのかな?
「え〜と、じゃあ伯爵様方。ダンジョンに行きましょうか?」
「おっ、そいじゃあ行くか」
「行くか…ではありませんぞ、スペイリブ殿!こ奴、なんの荷も用意しておらぬではありませんか!」
「ん?そういやぁ、収納の魔道具袋も持ってないな?」
「魔道具袋など奴隷風情に用意出来るはずがありません、背負って行く荷の用意が見当たらないと言っておるのです…。まったく」
「ああ、ご心配には及びません。収納の魔道具ならカズミール会頭からお借りしたコレがほら…」
オレはポケットに突っ込んであった皮袋を取り出す。事前に婆ちゃんに借りてあったやつだ。
それにしてもこの丁寧な喋り方はやりにくいなぁ…。
なんでもダンジョンには数日かけて潜るのが通常のようで、食料その他色々持ってかねーとダメなんだと。
で、通常は戦闘外の荷運び人も連れて行って大荷物を背負わせてくらしい。
だがそれだと大人数になってダンジョンじゃあ動きがとりにくいうえに連れて行く人数に比例して又、荷物も増えていく。…そこで、収納の魔道具袋だ。
ダンジョンに潜る冒険者や騎士などはこの魔道具を使ってコンパクトに荷物を運搬するらしい。
収納の魔道具はその名の通り収納に便利な道具だ。腰に吊るような小さな袋で、最低でもリュックサック幾つ分もの荷物が入るらしい。
勿論、沢山入る袋の方が貴重で高価なので何人分も入る魔道具袋は金持ちしか持ってねーみたいだ。
オレのは婆ちゃんが用意したやつだが、ただの皮袋で魔道具じゃあねーゾ。だって自前のアイテムボックスがあるからな。
なんか、あんまりアイテムボックスを使えるやつがいねーみたいで内緒にしとけってよ。別に弱点以外は知られても構わねーんだがな。
んで、この皮袋に手を突っ込んでアイテムボックスから取り出すって寸法だ。食料や必要な道具は既にアイテムボックスに取り込み済みだゾ。
「いやまぁ、流石に騎士様方のお持ちのような大容量のもんじゃありませんさね」
「そうか、カズミール会頭が用意したのならそれなりのものであろう」
「じゃ、出発するか?二人とも」
「少々お待ちをスペイリブ殿。この三人だけですかな?カズミール殿」
「ええ、そうですが…。陛下にも少数精鋭でと伺ってますがねぇ?」
「勿論、ダンジョンには上層の雑魚モンスターを間引く以外は少数精鋭であたるのが通例。ゲートが通じてない層に大人数で挑んでもロスが多いですからな」
「じゃあ何故わざわざお尋ねになるんで?」
「陛下にはカズミール殿の所から奴隷が出ると伺っておったので、我等は身の回りの事をさせる供を連れておりませんのでな。勿論、一人〜二人は同行させるんでしょうな?」
「ええ、アタシゃ陛下には何人かつけましょうかね?って言ったんですがねぇ。供を付けると足手まといになると仰られて…」
「なんだと!?この子供の奴隷一人か!?荷は問題無いにしても毎日の身仕度や食事は如何するのだ!伯爵の私が自ら炊事など考えられぬ!!」
「いや〜、そうは言われましても…」
「わっ、私が!私がご主人様に同行いたします!」
「「はぁ!?」」
アリムの突然の申し出にオレと婆ちゃんがハモってしまう。
何考えてんのコイツ?どんくせーくせに。
「お前がついて来てどーすんだよ。(炊事も身の回りの事も出来ねーだろが…)」
「そうさ、供には誰か他の子を見繕うさね。アリムは留守番してな。(お前が飯当番した日にゃ戦わずして全滅さね…)」
「ほぅ、この者もカズミールの所の奴隷かね。ふむ、中々に見目麗しいでは無いか」
「いっ、いえいえ騎士様。この者は同行者には相応しくありませんで…」
「おう、そうだゾ。コイツを連れてっても…」
「よし、カズミール殿!この奴隷を同行を許そう。なに、ダンジョンで女奴隷ひとりを守るなど私には造作も無い事だ。何も問題はなかろう」
「いや、そ〜いう事じゃねーって…」
「いやっ!本当にこの子はマズイさね騎士様…」
「ま、いいんじゃね。ザンギー殿が言うように守るのなんて訳ないしな。さっ、出発、出発」
「はいっ!よろしくお願い致します!」
あ〜あ。こいつら分かってねーな、コイツの料理は即死属性らしいゾ…。まぁ、オレは自分で作って食うがな。
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オレたち四人は馬車に小一時間揺られてダンジョンに到着した。
しかしこんな長い時間馬車に乗ってるとケツが痛ぇ。道悪ぃなもう!
「う〜ん、着いた着いた。あ〜ケツが痛ぇ」
「大丈夫ですか?ご主人様」
「フンッ!この程度で情けない」
「まぁまぁ、馬車なんて貴族でもなきゃ平民はたまにしか乗らないしな。しょうがねえさ」
乗って来たのは伯爵共が用意した立派な馬車なので幾分かはマシだったが道が悪いので凄く揺れる。
木製の車輪だし、サスペンションなんて勿論付いてねーから当然だな。
前に婆ちゃんと隣町に行った時はもっと道が良かったからマシだったが、今来た道は先にダンジョンしかねーから均しただけの土道だ。
オレ以外はみんな平気そうだし、異世界人はケツが丈夫なのか?
まぁそれはともかく、四人でダンジョンの入り口に向かう。
入り口近くにそこそこ大きい小屋がある。受付か?
「伯爵様方。あれは受付所ですか?」
「んん?いや、ありゃ休憩所だ。遠くから来た冒険者が暗くなる頃着いちまう事なんかがあって、朝を待つのに使ったりするんだ。他にも騎士団で上層のモンスターを間引く時なんかは控え部隊が使ったりするな…でもまぁ、ここは王都から近いからあんま使わねえけどな」
「なんだ?この奴隷はそんな事も知らぬのか。陛下はダンジョンで会ったと仰っていたが…」
「ああ、ダンジョンから出てきた時は夜が明けたばかりで…人気も無かったので建物に気付いてませんでした」
今は建物の周りや中に冒険者がチラホラいて、ダンジョンへ入る前の装備の点検や打ち合わせをしているのが見られる。
「それにしても夜にダンジョンに入るなど、陛下も御身に何かあったら如何されるつもりだったのか…全く考えられぬ!」
「ん?何でだ…ですか?夜と昼で何か変わるんですか?」
「はぁ?それも知らぬのか。ダンジョンは夜にモンスターを大量に湧かせて補充するのだ、そんな仕組みも知らんとは…これだから下賤の者は…ちっ。」
舌打ちされたよ。おい。
あ〜もうこんな奴に丁寧に喋べんのやだな。
「どういう仕組みか、夜になりゃダンジョンがどっかの一部屋でモンスターを大量発生させるんだ。運悪くその部屋に入っちまったり、帰り道をそこから出てきたモンスター共に塞がれたら全滅もあり得る、だから夜は極力避けんのさ。明るくなりゃダンジョン中に散らばっちまうから危険度はそうでもないしな」
騎士風のオッサンが詳しく説明してくれた。
それにしても二人の対応の差が激しいな…。この魔術師風の奴、鬱陶しいわー。




