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ダンジョン探索隊

あ〜もう。面倒くせぇな、まったく。

服なんかこのままでも良いってんだよ。絶対これ、ババァの自己満足だゾ。


しかしまぁ、注文してた服が出来上がってきたのは普通に嬉しいな。忘れちまってたゾ。

ふむふむ、この前合わせのヤツか…おおっ!中々良いじゃねーか。


明るいグレーの生地で大きな前襟が付いてる、尻が隠れるくらいの丈で縁取りや所々に黒い糸の刺繍がしてある。細かい仕上げはお任せだったが、ババァにしてはシンプルな方だな。



「中々良い感じだな、こうやって着んのか?あれっ?仮どめのボタンしかねーゾ。どうやってとめんだ?」


「その大っきいベルトで縛るんさね。縛る位置ももうちょっと上さ、騎士のサーコートをベースにしてるからねぇ」


「結構、上でとめるんだな。これじゃ刀の剣帯が吊れねーゾ、そもそもベルトが太い」

「そりゃあ、飾りみたいなもんさ。スボンにもベルトが通るからね、そっちに剣を吊りな」


おっ、ちゃんと頼んだ黒いズボンもある。黒いブーツもセットみたいだ。

こっちには銀糸での刺繍が…って、もう刺繍はイイっての!もうちょい派手だったら着ねーとこだ。


オレは他にババァが持ってきたインナーから極力地味なヤツを選んで、その上から前合わせのサーコートとズボン、ブーツを装備した。ダマスカスの小太刀も腰に吊るす。

上着の丈が長いので剣帯で小太刀を吊るすと邪魔になるかと思ったが、尻の方の下部に切れ目が入っており問題無い。

刀を抜き放つにも邪魔になら無いように、前側も合わせの内側は斜めにカットしたデザインで、外側は少しめくり上げてとめるようになっている。


「ほぅ、馬子にも衣装だねぇ。立派な騎士様に見えるよ」

「本当です。良くお似合いです、ご主人様!」

「騎士なんてヒゲの子分はごめんだがコレは気に入ったゾ。ありがとな!婆ちゃん」


「ああ。アタシゃ婆ちゃんに格上げされたし、ソイツの費用はミッツ坊に請求するから礼には及ばないよ」


「おいおい、コレも必要経費かよ。そんな何でも請求出来んのか?そもそもオレの奴隷研修はアフターサービスなんじゃねーのか?」


「基本的に研修中の衣食住はアタシの負担だけど、そいつは別さね。ダンジョン探索用の装備も兼ねてるからねぇ」


「ん?そういや丈夫そうだけど、この生地なにで出来てんだ?」


「本当はサーコートの下に防具を着込むんだけど坊やは小さいからねぇ、あんまり重いと動きが鈍るだろ?それに、ミッツ坊に聞いた話じゃダンジョンでもペラッペラの軽装だったそうじゃないか」


「おう。まぁ、どんな紙装備だろうが当たらなきゃどうということはねー」


「なに言ってんだい。最初見かけた時みたいな軽装でダンジョンに潜る奴なんて見たこと無いよ、死にたいのかい?」


「なんだと!?オレの居た国の偉大な戦士の言葉だゾ!それにこれだってただの厚い服だろが」


「あぁ、そいつは貴重な魔獣の皮を使った特別製さね。ミッツ坊に相談したら気前よく素材を宝物庫から出してくれてねぇ。あの子も随分と坊やにご執心だねぇ」


どうやら婆ちゃんは服をオーダーする時に、折角だからダンジョン探索用の装備に使える物にあつらえようとしたそうだ。

サーコートの中に軽鎧なんかも考えたみたいだが、子供のオレのサイズは防具屋もあんまり作ったこと無いし…ということでヒゲ王に相談してみた所、ダンジョンでみたオレの戦闘スタイルから極力軽くて動き易い装備が良いだろうってこの魔獣皮製の服らしい。


「なんでも数百年まえに未だ国交があった時代の舶来品だとさ。各種属性に耐性のある魔獣の皮だったらしいねぇ、だから単純な金属鎧なんかより防御力は高いって事さね」


「ふ〜ん」


「なんだい、お城の宝物庫にあった素材だよ。【ふ〜ん】ってことは無いだろ?それ一式作るのに材料代だけで金貨数千枚はくだらないよ」


「げっ!そんなすんのかよ!?」

「ああ、ミッツ坊もよっぽど坊やに死なれたくないみたいだねぇ」

「後で請求されねーだろな…」


「さっ、他にも沢山用意したから袖を通してみな。ほら、これなんかどうだい?品が良い良家の子弟みたいだろ?」


「いやいや、要らねーし。これから探索に出かけんだろうが、そんな動きにくそうな服必要ねーだろが!」


「まぁ、着てみたら良いじゃないかい。似合うと思うよ」


その後、折角着た服を脱がされてまた着せ替え人形にされた。もういいってよ…。

段々時間も押して来たので最初のサーコートに着替えたそのタイミングで、見計らったように部屋をノックする音が聞こえる。


「親方様、お客様がおみえです」

「ああ、すぐ行くって伝えておくれ。失礼の無いようにね」


来客を告げに来た店の者は了承の会釈もそこそこに戻って行った。


何だか慌ててる様子だったが、こんな着せ替えごっこして遊んでてよかったのか?

城から来たのはそんなに偉いさんだったのかよ。


オレ達は部屋を移動し来客を迎える為に部屋に向かう事にした。

どうやら応接で少し待ってたようだ。


「どうも、お待たせしてしまったようで申し訳無いねぇ」

「全く、いつまで待たせるのだ!我々は陛下の勅命で来ておるのだぞ!」

「まぁまぁ、ザンギー殿。茶を一杯飲む程の間じゃないか、そう急かなくても…」

「勅命なのですぞ!我々に期待する陛下のお心を思いはかれば…」

「まぁまぁ、ダンジョンは逃げやしないって」


応接室には騎士風、魔術師風の二人組がソファーに腰掛けて待っていた。

魔術師風の奴がプンプン怒って文句を言ってそれを騎士風がなだめている。そんなに待ってたか?


「何でそんな怒ってんだ?急いでんならお前らだけで行きゃいいだろが」

「何だと!奴隷風情が!!」

「はははっ。ごもっともだが俺たちにも都合があってな、ボウズ」


魔術師風の奴は相変わらずプンプンだが、騎士風の奴は何だか友好的だ。

そこで、婆ちゃんが目配せして大人しくしろってな感じを出してくる。ああ、まぁオレも空気は読めてるけどよ…。

なんか、大人しくこいつらの言うこと聞くのやだなぁ。


「どうも、すいませんねぇ。この子はまだ躾の途中で、なってないんですよ。下賤の者のする事でなんで大目に見てやって下さいねぇ、騎士様方」


「全く、カズミール商会の会頭ともあろう者が奴隷の躾も満足に出来ていないとは…」

「まあ、いいじゃねぇか小ぃせえんだしこれからだよ、これから」


婆ちゃんは騎士達に愛想しながらこっちをキッと睨んでくる。

分かったよ、大人しくしてりゃいいんだろ。


適当に愛想しとくか…。


「あっ、申し訳ありません!騎士爵の方とはつゆ知らず失礼を…。本日はダンジョンにお供させて頂くクロウと申します。お二人の足を引っ張る事のないように精一杯努力致します」


「おっ、ほら。小ぃせえのにちゃんとしてんじゃねぇか」


「ふんっ、そのくらい当然の礼儀でしょう。それと!この無知な奴隷は理解しておらぬとはいえ私達の爵位は伯爵・・、スペイリブ殿も今代・・で伯爵に陞爵したばかり・・・で慣れぬとはいえ、下賤の者にそのような砕けた話しぶりは感心しませんなぁ」


「あっはっは。俺なんて陛下に目をかけて頂かなきゃ平民出の準男爵がいい所さ、とても代々伯爵家のザンギー殿のようにはねっ。はははっ!」


「…とはいえ、戦時には貴方は私の上官にあたる事もあるのですからケジメはつけて頂かないと困りますなぁ…(全くだ、こんな平民出がとは…不敬ながら陛下の考えを疑うわ)」



う〜ん。短い間しか顔合わせてねーけど、オレこの魔術師嫌いだ!

なんか嫌味臭いんだよな〜、それに自分が位の高い貴族だってのを鼻にかけてんのがありありと出てる。お前の実力で手に入れた地位か?

それに比べて騎士然としたオッサンには好感が持てる。平民出だって言ってたな、それでお高くとまってねーのかな?


やれやれ、騎士の方はともかくこんな鬱陶しい魔術師と一緒にダンジョンに潜んのか?

はぁ〜。婆ちゃんは大人しくしろって言ってたし面倒臭いんだよな〜。


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