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部屋ですったもんだの問答の末、アリムは家事全般が苦手で料理は壊滅的な事が分かった。


コイツ頭は悪くなさそうなのに何でだろうな?大体の物事においてそれが出来るか出来ねーかは頭の良し悪しに左右されると思う。勉強が出来る出来ねぇじゃねーゾ、考える力の事だ。

この力のねー奴はテストで良い点取れても、実際の現場であんまり役に立たねー。応用がきかねぇっていうか、目端が利かないってのかな。


だが、コイツの場合はそうじゃねー。話してても察しは良い方だ、ステータスを見ても運動能力的には恵まれているのに何でだろうな?やっぱアレか?異常に低い技量の数値のせいで有り余るパワーとスピードに振り回されてんのかな。


ああ、ちなみにアリムのステはこんな感じだゾ。



ステータス (アリム)

種族 シアンスロープ・ミックス

ランク 売れ残り奴隷

HP150/150 , MP(0/100)/1

筋力:2.08 ,体力:2.06 ,敏捷:2.11 ,技量:0.12 ,魔力:0.08 ,魔術技量:0.03


《スキル》

鋼鉄の処女アイアンメイデンー[ダメージ無効0/1]

奴隷教養:2.23

《耐性》

[物理耐性:2.09][痛覚耐性:1.88]



は〜、アリムのあまりの使えなさにドッと疲れる。ふぅ、見た目だけは良いのにな。

当の本人は自覚があるのか無いのか、キョトンとした顔でこちらを見ていた。頭に付いてるイヌミミがピコっと動いている。


ふむ、そういや何度も触ろうとして噛みつかれそうになってたな。まだ触った事無い。

今ならもう触ってみても良いかな?

オレ、ご主人だしな?良いよな?


そ〜っと手をイヌミミ目指して伸ばしてみた。

おっ、こっちを見てるが唸ってはいねーゾ。大丈夫かな?


はしっ!イヌミミを掴んでみた。ここまではミッション成功だ。

今の所、嚙みつく様子はない。アリムは大人しくイヌミミを差し出している。


「おっ?今回は噛みつかねーんだな」

「はっ、はい。ご主人様ですから」

「ふ〜ん」


イヌミミを掴んで弄ってみたら柔らかくてコリコリしてた。

アリムは逆らいもせず目を細めて気持ち良さそうにしている。気持ち良いのかコレ?

ふむ、ミミは堪能した。中々良い。イヌミミに生えた細い毛が柔らかくて良い感じだ。


そういえば…、シッポはどうなってんだ?

盗賊に捕まってる時に素っ裸にされてたがその時見たような…見てないような…。


「なぁ、おい。お前、シッポって生えてんのか?」

「?あっ、はい。小さいですがあります。お見せしましょうか?」

「ん?じゃあ見せてくれ。オレにゃねーからな、どんなだ?」

「はい。畏まりました。」


そう言ってアリムはおもむろに後ろを向いてズボンを下げて、ペロンとお尻を出す。


「うおっ!ちょとまてお前!恥ずかしくねーのか!?」

「いえ、だってご主人様が…」


まぁ確かに尻を出さなきゃシッポは見えねー。これはオレが悪かった。

アリムの丸い尻からはピョコっと親指くらいのシッポが出ていた。

かなり短いので使用用途がよく分からない。いるの、コレ?


「なぁ〜、コレって何に使うんだ?」

「さぁ?私も分かりません。使ったこともありませんし」

「動かせんのか?」

「付け根の方に力を入れると少し動かす事が出来ます。あと、嬉しいと付け根がムズムズします」

「ふ〜ん」


そんなやり取りの最中、不意に部屋のドアが開かれる。


ガチャ


「あんた達、入るよ。ちょっと下まで………」


ガチャ


ババァ。目が合ったのに無言でドアを閉めて出て行っちまった。


「待てコラァー!!何か勘違いしてんだろ!戻って来いババァ!」


カッ…チャ


ババァがドアの隙間から覗くようにしてゆっくり入ってくる。違うつってんだろ。


「ああ、あんた達。ちゃんと鍵を閉めて…」

「ちゃうって言うてるやろ!聞け!」

「んん!?何だいそれ?凄い訛りだねぇ、坊やよっぽど田舎で育ったんだねぇ」

「ああ、まぁいいから。取り敢えずそんなんじゃねーからな!」

「あぁ、分かってるよ」


「だからサムズアップするんじゃねー!アリムも何やり返してんだお前、それ意味分かってねーだろ!?」


何なんだこの世界は。関西弁は流通してねーのにサムズアップはあんのか!?

世界観に疑問があり過ぎる。まぁ、アリムはあんま意味が分かってなさそうだが…。


「もういいや。んで、何の用だよ。今日はもう寝るだけじゃなかったか?」

「ああ、もう休んでくれてかまわないよ。ただ明日の事を下で坊やに話とこうと思っただけさね」

「ここじゃダメなのか?」


「いいや。かまわないよ、ついでに明日の坊やの服も合わしとこうと思ってねぇ。まぁ、それは明日でいいさね」


何だ、また着せ替え人形にされるとこだった。あぶねー。


「んで、何の話だ。明日何かあんのか?」

「ああ、明日からいよいよダンジョンに探索に出かけるらしいのさ」

「ん?じゃあ、オレはここから出てくのか?」

「いや、まだアタシ与かりのままで通いでダンジョン探索さね」

「は?全く、いつ迄奴隷研修なんだよ」


「そりゃぁコッチのセリフだよ、あんたがいつまで経っても奴隷らしくならないから渡せないんじゃぁないか」


「何言ってんだ、本当に奴隷に仕込みたかったら他にやりようがあんだろ?鞭で打つとか飯を抜くとか、後はそうだな…ボロ切れ着せてろくに眠らせもせずに重労働させるとか」


「はっ!坊やが奴隷商やったらどうだい。大体そんな事させられたら、あんたどうするんだい?」


「あん?んなもん決まってんだろ、暴れ回って後悔させてやるよ。心臓が痛くてもどうにか動けない事もねーしな。ぜってぇ言う事聞いてヤンネー」


あれからまた痛覚耐性が上がって【2.00】を超えている。今じゃキツめのギューをされても何とか動ける程度だ。

もはや痛みに耐えるプロ級。ってか、何かそんなプロは嫌だ…。


それにババァのスキルじゃ心臓を破るとこまでは出来なさそうだしな。


「ほらみな!店を壊されたりしたらたまったもんじゃない、割に合わない事はしないのが商人の共通項さね。まぁ、坊やが言ったみたいに人間の尊厳を奪って奴隷気質を染み付かせるのは常套手段だがねぇ。それも相手しだいさ、命よりも大事な何かを持ってる奴にはその手は効果ないって事さね」


「命より大事な??ぶっちゃけオレだって死ぬのはやだゾ」


「ああ。だけど坊やはカッとなったら、命より自分の矜持を優先するタイプさ。最後には玉砕覚悟で噛み付いてくるのは目に見えてるさね」


「ふ〜ん。まぁその時になってみねぇと分かんねーけど、自分でもそんな気するゾ」


二度目の人生だしな、命より優先しちまう項目は以外と多そうだ。

おまけにオレはほぼ不死だ、尚更命側の天秤が軽そうだゾ。


「話を戻すけど坊やに言っときたかったのは明日の事さね。くれぐれも問題起こすんじゃないよ」

「問題て何だ?ダンジョン壊すなってか?」


「壊せるのかい…。っというよりそれ、その態度だよ。明日は城の騎士様方も同行するんだ、ダンジョンに潜るメンバーと諍い起こすんじゃないよ」


「そりゃぁ相手次第だな」


「どんな人が来ても楯突くんじゃないってんだよ。あんたが問題起こすと城にいるジュウロウ殿まで立場が悪くなるんだよ。坊やはもめるだけもめて殺されちまったらそれでお終いかも知れないけど、残されたジュウロウ殿はどんな目に合うか考えてみな」


「ジュウロウは関係ねーだろ!」

「周りはそう考えるかねぇ?」

「チッ!」


「まぁアタシだって、坊やが従順な素振り見せてやってくれないと王の手前、立場無いさね。演技で良いんだ、従順なふりしといてくれたら奴隷研修終了って事でアタシはお役御免さね。あんたも王の手元に戻された方が【血】を手に入れるチャンスが高まって都合良いんじゃあないのかい?」


「分かったよ!暫くは大人しくしといてやるよ。クソッ!」

「くれぐれも頼むよ。ジュウロウ殿と坊や自身の為だよ」


そう言うとババァは部屋から出て行っちまった。


「…あ、あの。ご主人様、私に何か出来る事があれば…」

「お前に出来る事なんてねーよ!オレはもう寝る!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やれやれ、坊やには困ったもんだねぇ…。暫く大人しく従ってくれてダンジョン探索に進展が見られれば、ミッツ坊に隷属解除の進言も出来るってのに…」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


で、今は草木も眠る真夜中だ。

勿論、オレは眠っちゃいねー。そもそも真昼の数時間しか寝れなくなっちまたしな。


オレは今、一階のとある部屋の前にいる。ババァがいつも客に奴隷を引き渡す前に使ってる契約の間だ。

中にはどうやら隷属契約をする為の陣や設備があるらしい。オレは立ち会った事がねーがアリムがそう言ってた。

聞くところによると、この部屋の中の床に幾つかの陣が刻まれてて客によって使い分けているって事だゾ。


幾つか陣があるって事はその中にオレが求めてる陣もある筈だ。強制的に契約を解除する陣も…。

だってそうだろ?そういう陣も無けりゃ不便だからな。

例えば主人が契約を解除せずに先に死んじまった時とか…まぁ、この場合は自然に解除されるかもしれねーが。


それとか奴隷の主人が、どっか行方不明になっちまった時とか?何処にいるのか分かんなきゃ【血】も手に入んねー。強制解除出来ない事には奴隷もその後、新しい主人に仕える事も出来ねぇしな。


まだあるぞ。犯罪に巻き込まれて結果、奴隷にされた者を解放する時とかな。


という訳で、レッツ侵入。ガチャっとな…あれ?ガチャガチャ。開かねー。


「(くそっ!鍵がかかってんじゃねーか)」

「(中に入るのですか?)」

「(おう、でも鍵がかかって…)って、うわっ!!アリム?何で!?」

「(しー、静かに。ご主人様が部屋を出て行ったのでつけてきました)」

「(寝てたんじゃねーのかよ!?)」

「(ご主人様が部屋を出る気配がしましたので)」

「(気配だけで起きるか!?普通)」

「(この部屋に入れれば良いのですか?)」

「(おう、まあな。でも鍵が…)」


バキッ!


「げっ!何してんだお前、ノブごと壊してどうすんだ!」

「(しー、静かに。さあ、入りましょう)」


何考えてんだコイツ!?壊して良いならオレだって出来んだよ!

っていうか、夜のオレの怪力じゃあるまいしノブごと引き千切るってどんな力だ!?


「(あ〜ぁ、これじゃ入ったのがバレバレじゃねーかよ)」

「(大丈夫です。さあ、入って下さい。私はここで見張っています)」


大丈夫な要素が一個もねーだろ。もういいや、取りあえず目的を達成しよう。


部屋の中のには入って直ぐに簡単なソファー等の応接セットがあり、その奥に同フロアだが一段上がったスペースがある。

窓は一切ない閉ざされた部屋だ。明かりをつけていないので真っ暗だがオレは夜目が利くのではっきり見える。


奥の一段上がったフロアの床に陣が幾つか描かれていた。一度見れば【脳内書記】で丸暗記が可能だがそれぞれの陣がどんな効果があるのかが分かんねー。

何かヒントがないかと辺りを見回すと部屋には本棚が一つ設置されてる。だが本棚はスカスカでほぼ小物置きと化している。


本棚に数冊しかない本の幾つかは、奴隷売買に関する書類が主だった。

だが一冊、毛色の違う本がある。しっかりと作られてたであろう革の表紙は随分と古びてるが、金字の異世界文字が縁飾りの模様とあわさって立派な本である事をうかがわせる。


オレはその本を手に取ってサッと目を通す。といってもパラパラ漫画を読むくらいのスピードだ。

取りあえず気になった所があればよく見ようと流し読みしてたその時…。


「誰だい!?アリム?何してんだいこんな夜中に」

「お館様。申し訳ございません、寝ぼけてトイレのドアと間違えまして。又やってしまいました」


「はぁ〜。またかい、あんたいったい何度ノブを壊しゃ気がすむんだい。第一、いくら夜目が利くからって灯りも持たずに歩き廻るからさね…」


おいおい、ドアノブ壊したのは初めてじゃねーのかよ。


オレは暗がりの部屋の中のから聞き耳をたてる。

ババァはアリムにクドクドと文句を言ってから、明日修理の手配をしておくように言いつけて部屋に戻って行った。


普通、トイレのドアと間違えた地点で不自然さ満載だがアリムならありえるようだ。


今回ばかりはアリムのどんくささに感謝だゾ。









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