やっぱりやり直しを要求する……が止められる
二本足で立ち上がった熊?は更に体を大きく見せる為か両腕をも振りかぶり今にも襲いかかろうとしている。
完全に俺の方を向いていて死角になった為か?もしくは既に殺したと思い込んでいるせいか? 熊?は兄貴の存在には皆目気付いてないようだった。
立ち上がった兄貴の目に生気が戻ったと思ったとき、その真っ黒い瞳から色素が抜けでもしたかのようにドンドン黒が薄くそして紅く色付いていく。
その瞳が真紅に染まった時には二条の紅い閃光だけを残して兄貴の姿が掻き消えていた。
次の瞬間…ドパンッ!柔らかいものを叩き潰したような音がして熊?の頭は粉々に吹き飛び森の方にバシャバシャと落ちていった。
熊?のすぐ側には以前頭のあった場所に拳を突き出して立つ兄貴の姿があった。
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あれ?俺、何してたんだっけ?ああ、そうだ熊?の野郎に腕を千切られてメチャクチャ痛かった、そのあと顔面に強烈な張り手(爪攻撃)を食らって頭が真っ白になったんだった。
どうやら未だ続いてるみたいだが熊?はジュウロウの方に的を絞ったみたいで今にも襲いかかりそうだ。
とりあえずコイツの注意をそらせないとジュウロウがヤバイ、素手でブン殴っても大して効きそうにないが気ぐらいそらせるだろう。
そう思い熊?の後頭部を思いっきりブン殴ろうと軸足を踏み込んだ瞬間、感じた事のない感覚に戸惑う。
脳みそが沸騰するくらい熱くなり思考が今迄ない程クリアになる、目に見える熊?もジュウロウも時間が止まったように微動だにせずジュウロウの睫毛の数まで分かる程だ。
止まった時の中で自分だけは動けるようだが身体に纏わりつく空気がジェルの壁にでもなったかのような重さで思う様に進めない。
パッと何の切っ掛けだろうか?壁を抜けた後は信じられないスピードで熊?のすぐ近くまで拳を伸ばしていた。
振りかぶりもしてないただ真っ直ぐ伸ばしただけの拳なのだ。
当然コツンと後頭部に当たる程度かと思ったが触れた瞬間、頭蓋骨ごと豆腐のような感触で潰れて吹き飛んだ。
俺もジュウロウも目をパチクリやり、お互いに見合っていた。
「おい、ジュウロウ大丈夫か?」
「う、うん。イヤイヤ!兄貴の方こそ大丈夫かよ?てっきり死んだと思ったし」
「えっ?いいや別に俺は……、っはっ!そう言や俺の腕!……が両方ちゃんと有る。???」
「腕どころじゃないって、頭半分くらい吹き飛んでたし!」
「マジか!?腕も戻ってるし不死身成功!?ゴンベイもやる時やーー」
ガクンと膝から落ちた。立っていられない、ジュウロウに歩み寄ろうとしたがそれどころじゃない。
意識もはっきりしてるし前も見えている……が、身体が動かない全身筋肉痛?いや、全身の腱が切れたように一切力が入らないのだ。
その後、ジュウロウに引きずられ元いた岩壁の近くまで戻って休憩していると15分くらいで身体は動くようになった。
「ふあー!やっと動く。何だったんだろうな?さっきのは?」
「俺にも分かんないよ、でもマジでヤバかった。その後も急に動かなくなるし焦ったよ。」
「ハテナだらけだな?そうだ!ステータスの詳細説明でもっと色々見てみるか。」
ステータス (クロウ)
種族 ヴァンパイア・ストライク
ランク 不死者の種子
HP50/50 , MP25/25 , LP1:183
筋力:0.50 ,体力:0.50 ,敏捷:0.50 ,技量:0.50 ,魔力:1.00 ,魔術技量:1.00
《スキル》
真祖の力ー[超再生:3.00][限界突破:1.00][生命の強奪:1.00]
烏の慧眼 ー[対象スキル経験値取得率+2.00 ]
脳内書記:1.00
ステータス鑑定:1.00
言語理解:1.57
アイテムボックス:1.00
話術ー[論術:2.03][詐術:1.84][交渉術:2.01]
武術ー[剣術:1.34]
超能力ー[念動力:1.00]
ほうほう、何だかスキルが増えてるな。じゃ、先ずは端から順にいくか。
《HP》 致命傷を受ける迄のダメージ回数を表す
ふーん。じゃ俺の場合あと50回ダメージを受けると死にますよって事か?
でも一度に数10単位でダメージを受ける時あるしHP1だからって虫の息で動く事も出来ないって訳じゃ無さそうだな。
あくまでも死にそうなダメージを受ける可能性の目安だな。
MPは言わずもがなマジックポイントだった。
それよりも前から気になってたLPだ、ジュウロウのステータスには無かったよな?
《LP》残り寿命を表す。左記が年、右記が日を示す(例)3:000ー3年と0日
ちょっ!ちょっと待てよ、じゃ残り1年半程度の寿命!?
「なっ!なんじゃコリャ、フザケっーー」
「おおっとストップ、また怖い奴が出て来たらどうすんの!何があったのか知らないけど落ち着いて」
「俺のステのLPの所、詳細で見てみろよ!そりゃ声も大にして叫びたくもなるわ!」
「あれー?これじゃ全然、不老不死じゃないよな?でもさ!この新しいスキルの生命の強奪って如何にもライフ増えそうじゃない?LPってライフポイントだろ?」
「えっ?ああ、そういや新しいスキル増えてたな」
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まったく…。兄貴の奴また大声出して、ついさっき怖い目に遭ったバッカリだろ?
俺なんかゲロ吐きまくりでストレスで禿げるかと思ったのに!
ああ、そうか兄貴はアタマ吹っ飛ばされて一瞬だったからあんまり恐怖感とか無いのかな?
イヤイヤ!その前にウデ千切られてたし!アホなのかこのひと?
もう元通りだから気にしてないの!?現実主義だから過ぎた事はもう良いの!?
ちょっと理解できないわー。
……で生命の強奪だけど案の定LP回復?
いや、LP延長のスキルだった。
《生命の強奪》絶命状態の生命体から魂をLPとして吸収する
「ほらぁ見ろよ兄貴、大丈夫みたいだよ。HPとかみたいに最大値の表記が無いんだからこのスキル使い続けたら寿命ドンドン伸びるんだろ?」
「ん、そうか。じゃあ早速増やしに行くか!スライムでも狩りにーー」
「おいぃ!!チョット待てって、また熊?出たらどうするの?もっとちゃんと調べろって!」
「えー、俺は取説とかは分かんなくなってから読むタイプなんだけどなー」
「俺だってそうだけど状況が状況だろ!!」
やたらとスライムを狩りたがる兄貴を説得してもっとよくステータスを確認する。
さっきみたいになりたくないので今度は自分のもよく確認しておく。
そういえば魔術使う時適当にソレっぽい(ファイア)とか言ったら出来たけどステータスには呪文らしきものは表記されてない。
んっ、よく見るとウィンドウの端にページタグの様なものがあるので其れを意識してみる。
するとページが切り替わる様に別ウィンドウが開いた、魔術リストのようだ。
《魔術リスト》
火魔術:ファイア、ファイアボール
水魔術:アクア、アクアウィップ
風魔術:ウインド、ウインドカッター
土魔術:ロック、ロッククラッシュ
光魔術:ライト、ヒール
闇魔術:ダーク、スリップ
付与魔術 :エンチャント・アタック、エンチャント・ディフェンス、エンチャント・スピード
錬金術:分解陣、錬成陣、成型陣、結晶化
幾つか魔術を試してみる、どれもが基本は呪文名を発声さえすれば発動した、何かコツが有りそうだが身体が初めから覚えてる感じだ。
一度試したら発動までのプロセスがより理解出来たのか、別に発声すら必要なくイメージするだけで魔術は発動した、無詠唱とかは大した技術でも無いようだ。
何だか兄貴がキラキラした目をして此方を見ている。
「おおっ!スゲーなソレ、俺も使えるかな?」
「無理じゃない?スキルリストに魔術無いだろ。それよりステータスのページ、タグの所で切り替わる仕様みたいだよ」
「おっ、これかな?」
「そう、その右上のタグ意識してみて。んー、兄貴のは耐性リストになってるな」
《耐性リスト》
[火属性耐性:1.00][水属性耐性:1.00][風属性耐性:1.00][土属性耐性:1.00][光属性耐性:−3.00][闇属性耐性:2.00][状態異常耐性:2.00][物理耐性:1.00][痛覚耐性:1.00]
「兄貴のは耐性がイッパイ付いてるな。光属性耐性がマイナスなのはやっぱりヴァンパイアだから?」
「さっきから太陽の光浴びまくってますがな」
「魔術だけが対象で太陽は関係ないとか?」
「う〜ん、どうもこの詳細説明も簡潔すぎていかんなー。
この烏カラスの慧眼? ってのみたいに[対象スキル経験値取得率+2.00 ]とか表記のままの能力なら分かりやすいんだけどな。
まぁ、でもこれも対象ってのが曲者で[興味意識を継続中のスキル]が対象みたいだから飽き性で気の短い俺には微妙かな?」
「俺のワイルドカード ってのも[全スキル経験値取得率+1.00 ]ってのも全対象で良いなと思ったら有効上限あるしね。
この表記だと各スキルが1.80までいったらそれ以上はこのスキルは関係しないって事だろう?何で1.80なんだろう2.00の方がキリが良いのに」
「そりゃポーカーとかのカードゲームじゃワイルドカードってのはさ、どんなカードの代わりも出来るかわりに同じ役で上がってもワイルドカードを含まない同じ役には勝てないんだ。
数値的にも1.00が経験者、2.00がプロと考えたらさ、何やっても出来るけどどれも本当にできる人には敵わないお前にぴったりだろ。
俺のヤツも慧眼って普通は物事の本質を見抜く力だけど烏って付いてるからな。烏って鳥とは思えないほど賢いから慧眼を持ってるって言われてるけど所詮鳥って事だろ?」
「へ〜。何か兄貴って変なトコだけ博学だな。何かっていうとスライム狩りに行きたがるからアホなのかと思ってた」
「何でやねん!スライム狩りは冒険者のロマンやろ!」
「えっ?冒険者だったの?って言うか関西弁になってるし!そこまで思い入れが?」
「さあ!スライムが俺を待ってる。行くぞー!取るどー!」
「待てって!まだ色々分かんないのとか有るだろ?あっ、そうそう兄貴のこの脳内書記ってどんなの?」
「んー。これは多分、俺の記憶力の無さを補うそんな感じのヤツ。よしっ!行こう!」
「ちょっ!多分じゃなくてちゃんと見ようよ!凄い便利かもよ?」
「えー、面倒だなー」
俺は渋々ステータスを開き《脳内書記》の詳細説明を確認する。
《脳内書記》(クロウ)の記憶を意識、無意識を問わず検索閲覧出来る
相変わらず簡潔過ぎてよくわからん。
(意識、無意識を問わず?無意識の記憶って何だよ?)俺は脳内書記の説明を開きながら考えた。
《無意識の記憶》(クロウ)の表層意識、記憶に残っていない事柄も記憶されており検索閲覧可能
うおっ!何か回答来たー!
「オイ、ジュウロウ。これ頭の中で質問すると回答が来るぞ!」
「そうなの?じゃ、色々分かんない事聞いてみたら?」
「おし、じゃあ先ずはこの世界の名前は?」
《この世界の名前は?》記憶に該当する情報が見当たりません
「ダメだな、俺が知ってることしか無理っぽい。
忘れたり意識してなくても記憶に有ればいけるのか?」
「じゃ光属性の耐性ダメダメなのに太陽は大丈夫な理由聞いたら?」
「そんなの俺が知ってる訳無いだろ、まあ聞くだけ聞いてみるか」
《光属性耐性と太陽光の関係》
真祖の力が発現後は光属性耐性:−3.00により常にダメージを受けているが、超再生:3.00により相殺されている
日中は全能力を常時太陽光ダメージ相殺に使用するため再生能力と身体能力が著しく低下する
この時、絶命に至るダメージを受けた場合限界突破により強制追加再生がおこなわれ、この場合LPを継続消費する
同時に脅威排除の目的から、脳並びに肉体を限界を超えて酷使する為その損傷修復にも再生能力が必要となり別途LPを継続消費する
(限界突破終了後は一時的に無防備状態に陥る)
「スゲー詳しい説明きた!なんだこれ、俺が知らない事でも体験済みなら記憶されてるっぽいゾ?」
「な、聞いといて良かっただろ?」
「そうだな、これだけ分かったらもう良いだろ。さあ、いざスライム狩りに!」
「げ!もっ、もう行くの?」
「は?ここでジッとしててもしょうがないだろ」
「それはそうなんだけどさ…、そうだ!武器!武器が無いよ、だからさ今日のところはテントでも張って様子見って事で。スライムは明日でもいいんじゃない」
「武器、う〜ん武器かぁ……」
しばらく考えていたが兄貴は諦めたのかテントセットを取り出し……、念動力で支柱の鉄パイプをベキッ!
「うわっ!ちょっとぉ、癇癪おこすなよ!」
「なに言ってんだ?ちげーよ」
全く、ジュウロウの奴この紳士な俺が怒って物にでもあたると思ってんのか?
俺はへし折ったパイプを何度か曲げて戻すのを繰り返し二つに千切る、その内80cmくらいの短い方を念動力で加工する。
鉄パイプは完全な筒では無く断面的には(C)の字の開いている方を閉じただけの簡単な作りだったので、それを2〜30cm残して開き帯状に戻す。
これで菜切り包丁のデカイのみたいのが出来た。
後は、刃の部分を作る。適当な石で叩いて刃に成る所を薄くし平滑な石で研ぐ。
両刃にするので反対側も同じく。
出来上がった物をステータス鑑定して見た。《模造ショートソード》となっていた。
「出来たぞ!どれどれ?切れ味はと…」
ガッ!…ィィィーーン。近くの木に叩きつけると浅く切れ込み、曲がったりはしなかったが随分、刀身がブルブルした。
「うわー。もう念動力使いこなしてるし、無駄に器用」
「無駄じゃねーだろ。そうだお前、付与魔術で武器の強化とか出来る?」
「いやダメだわ。パワー、ディフェンス、スピードを強化するヤツだから対人だよ」
「ん?ディフェンスならいけんじゃない?こいつに掛けてみ?」
「剣の防御力上げんの?ああ、強度が上がるかもね。じゃ、(エンチャント・ディフェンス)」
ジュウロウが呪文を唱えた直後、俺の持った即席剣がほんのり輝いたように見えた。
「うし!いけそうだ!もう一丁……エイッ!!」
ガスッ!!…。今度はさっきより深く食い込んだ。
くっ!取れない。
ジュウロウに取らせた。
「これで剣の方はOKだな、後はこっちの長い方だ」
「それも剣にするの?」
「いや、コレは槍にする」
そう言いつつ俺はおもむろに森の中に分け入る、先ほど熊?の頭が吹き飛んだ辺りをガサゴソ探していると見付かった。角だ。
そう言えば熊?熊?って言ってたがコイツ何だったんだ?明らかに俺の知ってる熊じゃない。
額の真ん中からヤリガイみたいな角は生えてるし、爪も左手は普通だが右のは鎌か!ってくらい長かった。
そうそう、ステータス鑑定で角を見てみよ。《ベア・ザ・リッパーの角》だった。
コイツの名前、ベア・ザ・リッパーってのか、やっぱ長いから熊でいいや。
「あったあった、この角をこうして……」
俺は残ってる長い方のパイプを今度は殆ど筒のまま端から10cm程だけ開く。
そこに熊の角を当てがい其れを包むように筒状に戻しギュ!っと念動力で握り込む。
ふうっ……。
MPがギリギリだ。
使う時間を絞ったのでゼロにはなってないが危なく頭がフラフラするとこだった。
槍のステータス鑑定結果は《角槍》だった、模造って付いてない分こっちの方が強いのか?
「ホイ!槍はお前のな。よーし、武器も揃ったしこれで行けるな!」
「なぁ!」
「ん?」
「LP増やしたいからスライム狩りたいんだよね?」
「ソだよ!決してスライム狩りたいからLPの所為にしてるんじゃないよ?」
「じゃあ、この熊からLP取れば良いんじゃねー?」
「うぐっ!それとなく意識から外してたことを……」
「早くやってみろよ!」
「ヤルよ!遣れば良いんでしょう!」
「あのな、誰の為だとーー」
「生命の強奪!!」
……………。
何も起こらない、???
「なんとゆう事でしょう!何も起こらない!」
「なんでチョット喜んでんだよ!」
「いやー、なっ何でなんだろうな。ちょっ、ちょっと脳内書記に聞いてみるわ」
《生命の強奪の無効について》絶命後、時間の経ちすぎた個体に生命の強奪は無効
「なんとゆう事でしょう!」
「もうエエっちゅうねん!スライム狩りに行くぞ!」
「はー」
こうして、いよいよスライムとの出会いが始まるのか?始まらないのか?森の中へと繰り出すのであった。