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大魔術師ジュウロウ

ーーーーーーーーーーー


ふあ〜ぁ、よく寝た。

う〜ん、やっぱりお腹一杯になるとよく寝れるよねー。本当、お城で貰った折詰があって良かったよ。


あっ!寝る前に歯を磨くの忘れちゃった、この世界来てから歯ブラシって見かけてないけどみんなどうしてんのかなぁ?

俺はこっち来てから兄貴が作った簡易歯ブラシを使ってる。イノシシの毛と木の枝を錬金して作ってもらったヤツだ。


そうそう、みんなは寝る前に歯磨きするよね?じゃあ朝起きた時って顔洗ってそのとき歯磨きする?朝起きてさっぱり目を覚ますのにまずは顔を洗いたいよねー、でもその時に歯磨きしちゃったらその後朝ご飯食べてまた歯磨きが必要で…う〜ん悩ましいよね。えっ?どうでもいい…はい。


気を取り直して、今日はお城に出張です。なんか回復魔術を教えて欲しいんだってさ、俺に出来るかなぁ…。


ーーーーーーーーーーー


「あっ、おはようございます!」

「お疲れ様です!ジュウロウ様!どうぞお通り下さい。」


お城の門の所で門番の人にキビって敬礼された。ちゃんと話が通っているみたいで対応が丁寧だ。

少し偉くなったみたいでくすぐったかった。


門をくぐると門屋があって係りの人が案内してくれた。

昨日に王様達から聞いていた通り、最初は回復や治療の魔術を専門としている部隊の隊長さんに挨拶に行くことになってる。


案内されるまま部屋に入ると何人もの魔術師が待機しており、室内は治療室も兼ねているのかベット等も置かれている。

案内の人に促されて部屋の奥に入っていくと、最奥に扉があり部隊長室と札がかかっていた。

そのドアの前で案内の人は一礼して帰って行ったので俺はノックして部隊長室に入ることにした。


「失礼しま〜す。ジュウロウです、呼ばれてきましたー」


「おお、これはジュウロウ様。お出迎えもせず失礼しました、私は衛生部隊をあずかっておりますジャックと申します」


そう言ってジャック部隊長さんは和かに握手を求めてきた。凄く良い人そうだよ。

部隊長さんはお爺さんと呼ぶにはまだ早い紳士だ。口髭を蓄えてとてもダンディーだね。


「初めましてジャック部隊長さん。お…僕の方が年下ですし様付けなんて要りませんよ、ジュウロウと呼び捨てでどうぞ」


「いえいえ、教えを請う方にそんな失礼な…では、ジュウロウ殿で。私の事はジャックとお呼び下さい」

「じゃあ、ジャックさんで。で、僕は何をすればいいんですか?魔術も教え方とかよく分からないんで…」


「いえいえ、とくに難しく考えて頂く必要は有りません。ジュウロウ殿が普段やっているように回復魔術を使用して頂ければ基本的に見て学びたいと思っています。至らない点があればアドバイスして貰えれば幸いですがね…」


ジャックさんが言うには、特に指導しなくてもいいとの事でちょっと肩の荷がおりた。

何でも魔術のコツや工夫は基本的に皆んな内緒にするそうで、効果の高い魔術は見せて貰えるだけで破格の条件なんだって。


「おっと、そうこう言ってる間にも患者が運ばれて来ましたよ。これは骨折ですな、ん?君は騎士隊の前衛でしたね、今日は訓練だったはず…」


「ウッ…くっ。実は魔術部隊との合同訓練で筆頭魔術師様の魔術をもらってしまいまして…面目無い」

「全く!あの人は…。訓練でこんな大怪我をさせるなんて」

「ああ、僕がやってみましょうか?」

「おお!お願いできますか!」


うーん、骨折なんて魔術で治すの初めてだけど…切れた手首でもくっ付いたんだからイケるよね?

術を発動すると案の定骨折は見る間に治っていく。魔術便利。


「おおっ!流石ジュウロウ殿。噂に違わぬ腕ですな!」

「え?あっ、はい有難うございます。でも、こんなの皆んなできるんじゃ…」

「何を仰る!骨折を治すのはともかくこんな一瞬では誰も出来ませんぞ!」


ジャックさんが言うには魔術では折れた骨をくっ付けれても、完治までは数回の術の発動が必要で術者のMPの関係もあって数日に分けて完治させるのが普通なんだって。

MPの量はともかく、一回で僕みたいに完治させられないのは何でだろう?ステータス鑑定で見る限りジャックさんの魔力は僕と変わりないし、魔術技量には差があるけど【ヒール】の威力は同じじゃあないのかなぁ?


「ねぇ、ジャックさん。僕は普通にやってるつもりなんですけど皆さんと何処か違いがあるんですか?」


「う〜ん。魔力が注がれる様子とか力の差はあっても、我らのやり方とそう違いがあるようには見えませんな。ジュウロウ殿は無詠唱で発動する派のようですがそれは癖みたいなものですしな…そういえば!ジュウロウ殿が術を使った時の発光色が少し違ったような気がします」


「そうですか、じゃあ今度はジャックさんにやって貰って違いを確認してみましょうか?」


「おお、有難いです。普通、強力な魔術を使う魔術師はその手法を秘伝としていて教えてはくれませんからね」


「いや〜、僕のは自分でもよく分かってなくて秘伝というほどじゃ…」


そう話してるうちに次の怪我人が運び込まれて来た。何だか怪我する人多くない?

今度の人は切り傷だ、あちこち細かい切り傷があり背中に大きく切り裂けた跡がある。こんなに怪我してて大丈夫なのかなぁ?


王様の手首の一件から思ってたんだけど、こちらの世界の人は丈夫だよね。


「では、恥ずかしながら私が術を使いますので見ていて下さい」

「あっ、はい。お願いしますね」


ジャックさんは患者の一番酷い怪我の部分に手をかざし魔力を込める。

僕の時と同じように少し発光して傷が塞がっていった。う〜ん、違いが全然分かんない…。


患部を見ると出血は止まったが、傷が何とか塞がってる程度だ。ちょっと動いたらまた開きそう。

ジャックさんはここまでの処置で終わりにするみたいなので僕が続けてヒールをかける。


酷い怪我だったが先にジャックさんが治した後なので僕のヒール一回で完治した。

ついでに他の小さな切り傷も治しといた。兄貴には使う機会が無かったけどヒールって便利だね。


「んっ!こんな小さな切り傷まで良かったのですかな?ジュウロウ殿…」

「へ?良かったのとは?」

「いえ、魔力にも限りがありますので自己治癒で済む程度の傷は普通処置しませんので…」


「ああ、まだMPには余裕がありますから。でも僕たちの【ヒール】にたいした違いって無さそうなのに何で効果に差が出るんだろぅ?」


「ヒール?…ああ、回復魔術の事ですね。ジュウロウ殿は魔力総量の事もMPと仰りますからね」

「え?MPはともかく魔術名は同じじゃないんですか?」


「?まぁ、魔術の効果別に名称をつけて発動時に発声する者は居りますが、名称は各々勝手に呼んでいますな。中には集中力を高める為に詠唱を付ける者も居りますが、効力との因果関係は明らかにされておりません」


「え、でもステータスの魔術リストに名前が出てますよ。ちゃんと属性別に分けられて…」


ジャックさんの言葉に違和感を覚え、もう一度彼のステータスを覗く。

ステータスには…あれ?僕のとちょっと違う。


僕のステータスには【属性魔術】の項目の後に【火、水、風、土、光、闇】の魔術の数値が並んでいるがジャックさんのは単に【魔術】とあり、その魔術に数値が付いている。魔術リストも付いてない。


違いは何だろう?【属性魔術】と【魔術】。属性の有る無し…じゃあジャックさんのは無属性魔術?

僕が考察を重ねているとジャックさんが興奮した様子で話しかけてきた。うわっ!唾が飛ぶってジャックさん。


「ジュ、ジュウロウ殿!今、属性がなにがしと言いませんでしたか!?いやいや!そもそも見えておるのですね、ステータスが!!ステータス鑑定術まで使えるとは…いやそれよりも属性の件が…」


うっ、凄い勢いだ…。勝手に興奮して色々思考してるみたいだけど何の事だか分かんない。


「どうしたんです?ステータス鑑定が珍しいんですか?」


「はっ、いえ。それもそうですが、属性と仰った件は【火、水、風、土】の四大属性で間違い有りませんか?」


「はぁ、それに【光、闇】ですけど…」

「何と!四大属性だけでなく他にも?!」

「ゴメンナサイ…何が何だか…」


「ああ、申し訳ありません興奮しまして。まさかジュウロウ殿が大魔術師クラスであられたとは、部隊長の私如きが色々申し訳ありません」


「だから何が?!」


色々分からない事が多過ぎるので、【僕は田舎育ちで魔術が使えるのも生まれつきだから】という理由付けで詳しく聞いてみた。このままじゃ話が進まないよ。


どうも魔術に属性を付けて使える人はかなり稀で、10年に1人出るか出ないかだってさ。

属性魔術を使える人はそのやり方を秘匿するから他には中々増えないし、今は筆頭魔術師と数人くらいなんだって。さっき訓練で骨を折った騎士をやった人が筆頭魔術師みたい。


普通の魔術師は、単純に魔力を込めて傷を治すとか、魔力を離れた敵にぶつけて攻撃するとか、魔力の盾で攻撃を防ぐんだって。

ん?何気に最後の魔力盾って良くない?僕は盾の魔術なんて使えないよ。


「…ええ、それに【光、闇】の属性など概念すら聞いた事ありませんから」

「そうなんですか?光属性のヒールというのが僕が使ってる回復魔術ですよ」


「何と!回復魔術にも属性があったとは!ジュウロウ殿、是非!是非その魔術をご教授……いや、秘伝の魔術を人に教えてなどくれは…」


「え、良いですけど。」

「そうですか、やはり無理で……え!!良いんですか?本当ですか!?」


「いや、でも僕も自然に出来てるんで、どうやって教えたらいいのか分かんないんですけどね…。そうだ、さっき言ってた【魔術盾】あれどうやるのか教えて下さい。無属性魔術を使ってみたら違いが何か分かるかも!?」


「おお!それでは早速!」


そう言うや否やジャックさんは演習場に場所を変えてやろうと、そそくさとドアを開けて出て行こうとする。

え?患者さんはいいの?今はいないけど今日のこの調子じゃ又すぐ次が来そうなのに…。


「あの〜、ここを空けても良いんですか?怪我人がまた来たら…」


「あぁ、大丈夫です。さっきの切り傷の彼はダンジョン探索の部隊でしょう。彼が一番の重傷だったのでこちらに運ばれて来たのです。今頃は残りの人員も城まで退却してる筈です」


どうやらダンジョン探索では、多数の負傷者が出て重傷を負った人が出た地点で引き上げるらしく、あの騎士以外に来ないところを見ると残りは無事か軽傷らしい。

でもこの世界の人達は結構な怪我でも軽傷とか言いそうなので、僕は念のため騎士の詰め所に寄ってから演習場に行くようにジャックさんに提案した。


騎士詰め所を覗くと予想どうり、ボチボチの怪我人が沢山いたよ…。

あまり多くの怪我人がいたので、一度に何人か治せないかとヒールを広範囲に使ってみたら効果は少し落ちたが何とか上手くいった。

ジャックさんがまた熱い眼差しを向けたので、唾が飛んでくる前に部屋を移動したけどね。


あっ、そうそう。後で確認出来たんだけど魔術リストに【エリアヒール】ってのが増えてた。

何かこういうやってみたらそんな魔術も有りました、みたいなの結構あるね。もっと色々試した方がいいのかなぁ。


歩きながら横でさっきの出来事について熱く語るジャックさんに適当に相槌を打ちながら演習場に向かった。


あっ、ここかなぁ?


「ここが演習場ですジュウロウ殿。ここなら壊れる物もありませんし魔術の盾の練習にも向いていますぞ」

「そうですか、じゃあまず何から練習するんですか?」

「そうですな…。うむ、ではそこの木剣を手に取って私に切りかかって下さい」

「これですか?じゃあ行きますよ…エイッ!」


バキンッ!


おお!ジャックさんに切りつけた瞬間、薄っすらと光る半透明の板のような物に木剣を阻まれた。

剣が当たった時に魔術盾は砕けてしまったがちゃんと攻撃は防げてたようだ。これ良い!これがあればモンスターの攻撃が少しは怖くなくなるよ。


「凄い!ジャックさん!凄いですね。どうやるんですか?」


「いや〜、それ程でも。ジュウロウ殿ならすぐに出来るようになると思いますよ…まず、中空に透明の板や盾を想い描きそこに魔力を込めるのです。魔力を込める感覚はジュウロウ殿の魔術を発動する時と同じだと思うのですが…う〜む、まあ一度やってみて下さい」


「う〜ん?こうですか?」

「おおっ?!」


あっさり出来た。


「さ、流石です。やはり大魔術師クラスは違いますな…私など形にするまで何ヶ月もかかったというのに……」


「あっ、い、いやたまたまですよ。ジャックさんの教え方が良かったからイメージしやすかったので」

「………」


ジャックさんが微妙にへこんでる。話を逸らそう。


「でっ、でもこれって一撃で壊れちゃうんですね〜。何か勿体無いなぁ〜」

「おお、そうでした。これには応用編がありましてな、多重盾といって…ホラこのように」


そう言ってジャックさんはさっきの盾を3枚重ねで出して見せる。

これは凄いね。だって僕が使ってる魔術はどれも連発は出来ても同時に複数個は出せないからね。


うん?ジャックさん結構辛そう。ステータスを見てもボチボチMPを消費するようだ。

僕も試してみようかなぁ?強めに魔力を込めて…


………出来た。っていうか盾、10枚くらい出た。


「うっ、さ、流石ですジュウロウ殿。もう、そこまで差を見せ付けられては悔しさもクソも有りませんな」


ちょっとジャックさんの言葉遣いが荒んできてる…。別にそんなつもりじゃなかったんですが。

それにしてもこの多重盾って効率悪いよね。出した枚数分MP消費するし。


「あの〜、この盾ってどうやっても一回で砕けるんですか?」

「あっ、いえ。相手の攻撃の強度や角度によっては何度か保ちますよ」


ジャックさんは気をとり直した様子で答えてくれた。う〜んやっぱり良い人。


「じゃあ初めから角度を付けて発動させたらどうです?」

「それだと敵に対して防げる面積が減ってしまいますな」

「それじゃ、こういうのは?」


僕は六角形の何枚もの盾を多角にくっ付けて、ミラーボールの一部を拡大したような大型盾を作ってみた。


「おおお!!ジュウロウ殿これなら正面の攻撃は全て防げますし、角度が付いてる分何度も防げそうですな!」

「あ、いや。ダメですこれ。枚数が多くてMP消費が酷いです」


う〜ん、上手くいかないな〜。一枚で大きな盾を出した方がマシかなぁ、でもそれじゃぁ角度が無いから一回で壊れちゃうし…。

大きい盾を折り曲げる?いや、カーブさせたらどうだろう?


僕は自分の身長より少し小さいくらいの盾を出す。今回出したのはコンタクトレンズのような形状だ。


「あっ!これならあんまりMPが要りませんよ、ジャックさん」

「確かに!これならば理にかなってます…えーと、こうですか?」


ジャックさんも僕と同じ盾を出してみてた。少し小さめだがちゃんと出来てる。


「おお、ジュウロウ殿。出来ましたぞ」

「わ、凄いですね。一回で成功するなんて」

「いやいや、出す盾の形を変えるだけですから」

「いえいえ〜。流石は部隊長さんですよ、違いますね〜」

「そうですか?凄いですか?いやいや、そ〜ですかね〜。ははは」


何とかジャックさんの自信も取り戻せたみたいだし良かったね。

そんな和気あいあいとやってる僕たちに近付く人影があった。嫌な予感。


「ほう…何やら珍妙な修練を見かけると思えば噂のジュウロウ殿では無いですかな?」

「うっ、ザンギー殿…」


「んん?ジャック殿…いくら知らぬ仲とはいえ、業務中は役職を省いての呼び名は感心しませんなぁ。ザンギー筆頭魔術師様!…と呼んでいただかないとぉ」


うわー、出たよこういうキャラ。いるんだねぇこういう人。



はぁ〜、やだなぁこういう時こそ兄貴が居れば僕が矢面に立たなくていいのにね…。

肝心な時にいないんだから、ふ〜憂鬱。













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