ジュウロウのターン
どうもどうも、ご無沙汰していました。久しぶりのジュウロウです。
ファンの皆様ー!やってまいりましたよ僕のターンが。いや〜、兄貴がいない数日に僕の方にも色々あったんですよ〜。
え?一人称の【僕】が気になる?流石はジュウロウフリークの皆さん!よくお気付きで。
いやはや、この何日ものあいだお城の偉い方や目上の人ばかり相手にしてたら【俺】ってのも失礼かなって…。
で、【僕】の一人称が癖になっちゃったんですよね〜。
それに兄貴もそうだけど、どうも体の年齢に引っぱられるっていうか…。まぁ、精神なんて肉体の奴隷ってどっかの偉い人も言ってましたしね。言ってたよね?…たぶん。
さあ、皆さんも気になってる僕のここ数日。
…別に危険な目に遭ったり巻き込まれたりしてませんよ〜。安心してね。
でも色々あってお城の皆んなが僕の事を【大魔術師】…なんて、持ち上げてくれちゃったりなんかして。
ん?聞きたい?そ〜ぉ、僕の活躍聞いちゃう?じゃあ話しちゃおうかなぁ〜。
話は兄貴がドナドナされてったあとくらいからになるんだけどね……
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「ふっはー、もう食べれないです。お腹いっぱい」
「おお、もう宜しいのですかな?では土産にいくらか詰めさせましょう。これ、お前達」
そう言うと大臣さんはメイド達に申しつけて折詰のようなものを作らせてた。
「いや〜、至れり尽くせりで申し訳ありませんね」
「なにを仰いますか、ジュウロウ殿には明日から回復魔術の指導もして頂くのですし。王の方からその件の褒美も御用意がありますので期待してください」
「そういう事じゃ。ジュウロウ殿の回復魔術の腕は一級品だからのう、明日からも期待しておるぞ。そうそう、今日はまだ早いが明日からは城に部屋を用意させるので宿の心配はいらぬぞ」
「あ、いえいえ。そこまでしてもらっては…それに、宿は一週間ほど先払いしてあるので明日からも通いでお城に来させてもらおうと思います」
「そうか…。では他にも何か要望があれば遠慮なく言ってくれ。可能な限り叶えようと思っておるからのう」
いや〜、王様の申し出は有り難かったけど流石に泊まるのはちょっとね。そこまで信用出来てないし。
帰りに兄貴みたいに捕まるのか?とも思ったけどそんな事もなく普通に帰してくれた。泊まっても良かったかなぁ。
帰りはお城から馬車で宿屋まで送ってくれるってさ、でもまだ日も高いし途中下車させてもらって街並みを見物して歩いて帰った。
道中に共同井戸があり奥様方が集まってお喋りしてる、世界が変わってもこういうのは一緒だね。
おっ、あれは武器屋さんかな?ファンタジーといえば武器屋を覗かないとね〜。
「こんにちは〜。ここは武器屋さんであってますか?」
「ハイハイ、そうですとも!まぁ防具屋でもありますがね。お客さん、どんな得物をお探しで?」
「へー。武器も防具も両方扱ってるんですか?」
「まぁ、それぞれ専門で扱ってる店もありますけどウチは武器防具屋になってますよ」
「そうなんだぁ。そういえば俺って魔術師っぽい武器は持ってなかったなぁ、魔術師の使う武器って置いてます?」
「ええ、置いてますとも。これなんかいかがです?この杖はかの有名な勇者に同行していた大魔術師の兄の友達が使っていたとかいなかったとかモニョモニョ…、とにかく凄い謂れの逸品ですよ。」
「え?今なんか最後の方モニョモニョ言ってませんでした!?っていうか兄の友達って他人じゃないですか!」
「いえ!これは間違いなくいい品でして。私を信じてください!」
「いやいやっ!今の説明文のどこに信じる要素が!?逆に不信感しかないよ!!」
この若い店主、愛想は良いんだけど口ばっかだなぁ。
俺たちがそんなやりとりをしていると奥から誰か人が出てきた。
「兄貴!また余計な口上で品を売りつけようとしたんだろ!」
「あっ、ソメノス…なっ、何だよ余計な口上って!おまえの武器や防具が飾りっ気ないから俺が良さを伝えるために説明してるんだろ!」
「いいんだよ、分かる人だけ買ってくれれば。大体兄貴の説明じゃ詐欺みたいになるだろ」
ああ、どうも兄弟みたいだね。兄が番台で弟が職人なのかな?この店にあるのは全部弟が作ってるみたいだ。
う〜ん確かに店に並んでるのは番台の兄が言うように見た目にはこだわってないようで、あまりに無骨だよね。でも兄の方の接客も大概だったよ。
…あぁ。まだ言い合いしてるよ。お互い兄貴には苦労しますね。
でも俺もいつまでも見てる訳にもいかないのでフェードアウトするように店を出る事にした。
そのあとも色々なお店をひやかしてまわって分かったんだけど、中世ヨーロッパっぽい世界観の割に意外と文明が発達していることに驚いた。
先程見かけた井戸も桶を汲み上げる方式じゃなく、設置してある装置に魔力を通せば井戸の中から水を吸い出してノズルの先から出てくる仕組みのようだし、お店も大きな所だと天井に照明が付いている。
一番驚いたのはトイレだね。だって水洗だったよ!…勿論ボタンを押したりセンサーで自動洗浄じゃ無いけどね。
備え付けのバケツで流すタイプだったけど町中に下水道が完備されてる事が凄いよね。
どれも魔道具の恩恵にあずかってるみたいで、王様達が言ってたようにこれらが寿命で壊れてこの先使えなくなったら確かに困りそうだ。
目新しい街並みを見ていると結構時間が経ってしまったので俺はそろそろ宿に帰ることにした。
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「あっ、宿のご主人。ただいま〜」
「ああっ、お客さん!ご無事でしたか!?お城から呼び出しなんてビックリしましたよ。もしかしてお客様はお偉い方ですか?…あれ?お連れの方は…」
「兄貴ならちょっと諸用で数日間別の所に泊まりますので、それに俺達は普通の冒険者ですよ。ご心配お掛けしました」
「ええ、まぁ無事なら良いんですが…はっ!そうそう、お連れの方が泊まらないのでしたら差額を返金するか、お一人様で延長出来ますが?」
「あ〜そうですね、じゃ延長で。ところでお腹空いてきたんでご飯お願い出来ます?」
「えっ、あっ、勿論!勿論ご用意出来ますとも。席にかけてお待ち下さい」
何だか宿屋の主人はやたら気合の入った感じで厨房に消えていった。
しかしこの宿、元々宿泊客が少ないんだけど食堂になってる一階ホールはパラパラしか人がいないね。
他に一階には受付を兼ねたカウンターと奥に厨房らしきスペースがある。カウンターからこちら側のホールが食堂になっててテーブル席がいくつもあるが、広いわりに人がいないので寂しい感じだね。
暫くするとご主人が食事を用意して持ってきてくれた。
ウンウン、中々美味しそう。あれ?ご主人戻んないのかな?何だか高級店のシェフみたいに側に立って感想を待ってる。
ふ〜ん、まぁいいや。では頂きます!
「はっむ、ムグムグ。んぐっ!ぶはっ!!」
何じゃこりゃあーーーー!!!
オゲッ!どうやったらこんな味になるの!?美味い不味いの問題じゃなく食べていいのこれ!?一口食べた瞬間に小さい頃の思い出が駆け巡ったよ?殺人的だよ、勿論悪い方の意味で!!!
「どっ、どうでしょう?お口に合いましたか?」
宿屋の主人が不安そうに聞いてくる。
いや、聞かなきゃ分かんない?俺の顔色これ食べてから病人みたいになってない?
「あっ、うん。まぁ、何ていうか独創的な味ですね…」
「そ、そうでしょう!今回は新しい味に挑戦してみたんです」
余計な挑戦は要りません。これ、俺じゃなきゃ暴れてるよ…特に兄貴とか斬りかかってもおかしくないくらいの味だよね。
まぁ、もう一種類あるからこっち食べてみようか?
「は、はは。じゃあこっちも食べてみようかなぁ〜」
「ええ、是非そちらも召し上がってください!」
「う、うん。あっング!もぐもぐ。…んぐんぐ」
………うむ、不味くはない。何というか素材の味が生きてる?素朴な中に野生の味わいが…ゴメンナサイ嘘つきました。何の味もしません。
美味い不味いの前に料理として認められません。だって味付けされてないから。
「どっ、どうでしょう?」
「いっ、いや。いいんじゃないですか…えっと素材の味が生きてて」
「そうですか!いやー!これは思い切って一切の調味料を省いてみたんですよー。」
でしょうね!だって味しませんもんね!
ああ、分かったよ宿屋が流行ってない訳が…部屋は綺麗で清潔だし料金も割安だと思ってたけど、こんだけ不味かったり味がしなかったら逆に割高に感じるよ。
俺は適当にお茶を濁して食堂を後にした。
大分残してしまったがお腹が思ったほど減ってなかったとか言っておいた。これ以上食べるとLPが減る、兄貴じゃないけど…。
はぁ〜、どうしよう。これじゃお腹が空いて明日お城に行くとき辛そうだなぁ。
そうだ!お城で貰った折詰があった。部屋に帰って食べよーっと。
そして俺は明日に備えて眠るのであった。




