(背景話)カズミール
アタシゃカズミール商会の会頭、カズミール。商人ギルドのマスターもやらしてもらってる。
自分で言うのもなんだけど、ウチはこの国でも中々の大店なんだよ。
ああ、そういやウチの商会の事を奴隷専門の商会だと思ってる奴が町にも結構いるんだがねぇ。そりゃ違うよ。
王都だけでも何店舗もかかえててその中にゃ勿論、奴隷以外の品を扱う店もあるさ。むしろ奴隷を扱ってんのは本店だけさね。
まぁ高額な商品を扱った方がアガリも大きいし目立つから、みんな勘違いするんだろうねぇ。
随分と規模も大きくなって今じゃお城御用達の商会さね。
王様とは子供時代の身辺雑用奴隷を用意した時からの既知でねぇ、二人の時はミッツ坊なんて呼ばせてもらってんのさ。まぁ、そのくらい馴染みって事さね。
そんな仲だから度々便宜もはかってもらってるんだよ、勿論こちらも王宮相手には最優先でいい品をまわすし、無理も聞くから持ちつ持たれつさね。
だけど今回はかなり無茶な御要望だったねぇ、仕込みに通常一週間はかかる隷属陣の設置を今すぐやれってんだからさ。
おまけに特注の制約内容ときたもんさ、やれやれミッツ坊もせっかちだねぇ。
まぁ何とか城の魔術師たちの力も借りて仕込みは出来たものの、誰に使うのかと思ったら子供相手っていうじゃないか。それに犯罪者でもないのに本人は了承してないって話だし、アタシゃ陣の発動には協力しないって言ったんだよ?
よくよく聞いてみれば低迷する国の魔道具問題を解決する鍵になる人物って事さね。本当かねぇ?
あのミッツ坊が王権を発動してまで手にいれたい人物ってんで、アタシも半信半疑ながら協力する事にしたんさね。
でもさ当人のこの坊や、とんでもない曲者だったんだよ。
最初は口のきき方も知らないただの子供かと思ってね、折を見てミッツ坊に奴隷解除させるために自分の手元に引き取った訳だけど。驚いたね〜。
こんな小さいのに算術にたけてる上にステータス鑑定術、挙句にアイテムボックス迄つかえるんだよ!
そもそも何なんだいその戦闘力は、化けモンかい!?ミッツ坊がご執心な訳が分かったよ。
こりゃぁ、もしかしてもしかしちまうかもさね。てな訳で坊やには悪いけど暫くは奴隷から解放できないねぇ。
まあダンジョンの最奥に行けたなら言う事ないし、どうにも無理そうならアタシからミッツ坊に解放するように進言するさ。
あっ、そうそう。この坊や短慮に見えて中々よく人を見ててねぇ、アタシにこんな事聞くんさね。
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「おい、ババア。お前なんで奴隷に対してそんな態度なんだ?」
「ん?どういう意味だい?」
「町で見てても、客の反応見てても奴隷は物扱いで人権なんて認められてねーだろ?」
「そうだよ。それが現実なのさ」
「じゃあ何でババアは奴隷を人扱いすんだ?まぁ男奴隷はともかく、女奴隷に対しては自分の子供…まではいかなくても近所の子供の面倒見るババア見てぇだゾ。物扱いしてんならこの売れ残りだって何処にでも売れりゃ手放すだろうし…そもそも【アタシだけじゃなくこの子も見捨てるってのかい】ってな発言は奴隷を物扱いしてりゃ出てこねーゾ。オレの情に訴えかける意図があったとしてもな」
「ふっ、色々見てんだね。それで?それに答えんのが助けてくれた報酬って事でいいのかね?」
「もういいわ!碌な死に方しねーゾ、ババア!!」
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ははっ、確かにアタシゃ身内に看取られて安らかな最後は迎えられそうにないねぇ。
まあ、坊やには教えてあげてもいいんだけど万が一があるから言えないねぇ。
…アタシが元奴隷なんてさ。
元々アタシゃ流れの奴隷商に飼われる小間使い奴隷だったんだけどさ、目端も利く上にこのとおり器量まで良かったもんだからその時の御主人について番頭みたいな事をさせられてたんさね。
客相手の商売には気がきくのは勿論、見た目の印象も大事だからねぇ。
隷属陣なんかもその時の覚えたのさ。普通は魔力総量の問題で無理なんだけどアタシにはそっちの素養もあったからねぇ。アタシゃうってつけだった訳さ。
アタシが奴隷になった経緯は何てことない良くある話で、不作の年に口減らしの為に親に売られたのさ。
別にその事は恨みに思ったりしちゃいないよ。そのまま家族のもとにいても一家揃って餓死するだけだからねぇ。
それに不幸中の幸いと言っちゃ何だけど、番頭やりだしてからは辛い肉体労働も鞭打たれる事もなかったからねぇ。
あとは女奴隷に付きものの夜の奉仕も必要なかったしさ、…いやいや!アタシに魅力がなかったんじゃないさね!あの変態主人の奴は男色だったのさ、しかも少年趣味。いつも少年奴隷をはべらせて…ああ嫌だ!思い出すのも気持ち悪いねぇ。
それのトラウマもあってか、ウチじゃ少年趣味の客層は相手にしてないんだよ。
そんな流れ商売の旅中さね、その時も今回みたいに盗賊に襲われたんだったねぇ…しかし逆にそれがアタシにとっちゃ幸運だったのさ。
襲われてその時いた奴隷も変態主人も皆んな死んじまってさ。あわやアタシの番ってところで丁度、巡回の騎士団が通りかかってアタシだけ生き残ったって訳さね。なんて演劇みたいなタイミングだろうねぇ。
本来なら生き残ったアタシも盗賊討伐の戦利品扱いなんだけど、アタシゃ隷属陣も使える上に目の前には血だまりに沈む変態主人、ここぞとばかりに隷属契約の解除をしたさ。
その後もついてたのは主人から預かってた売上金が懐に入ってたままだった事だねぇ。奴隷なら持ち逃げする事もないってんでアタシに渡されてたのさ。いやはや、運命を感じるねぇ。
あとは持ち前の商才で今に至るってところかねぇ。
まぁそんな過去があるせいで、どうにも自分と同じ境遇の女奴隷には感情移入しちまってんだろうんねぇ。
今までは気付かれた事なんてなかったんだけど、よく見てる坊やだよ本当に。
なんだかんだいって坊やも悪い子じゃないから、この子に預けたアリムも何とか幸せな人生を送れりゃいいんだけどねぇ。




