取り分②
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やれやれ、結局上手いことババアに煙に巻かれちまった。
まだ真っ暗だしオレ達は移動を明日にして今の場所で朝を待つ事にし、ここでキャンプをはる事になった。
盗賊共の根城は臭そうなので使わずに屋外にテントを張ってる、新たに奴隷にした奴らに歩哨をさせて俺たち3人は焚き火の前だ。
御者の奴隷は馬車のメンテナンス中で離れてる。
「やれやれ、酷い目にあったねぇ。もう夜中だってのにおかげで目が冴えちまったよ」
「なんか暴れたら腹が減ったから食うもんねーのか?」
「食料なら馬車にあるけど盗賊共に作らせた食事はどうもねぇ…」
確かにこの盗賊共、あまりに小汚い。こいつらが触った食料を口に入れるのはちょっと勇気がいるゾ。
しょうがねー、めんどくせぇけど自分でやるか。
オレはアイテムボックスから食材と器具を出し簡単なツマミを用意する。
面倒なので前に作ったローストベアーと余ってた熊汁を温めなおしただけだ。
「坊や、そういやアイテムボックスの魔術も使えるんだねぇ!?剣もそこから出してただろ。」
「ん?ああ、もういらねーゾ。そういう、いちいちビックリするやつ」
「だってあんた普通はアイテムボックスてのは…」
「おらよ、食うか?」
何かもう面倒なのでババアの話しを遮ってローストベアーを押しつける。
「はぁ、まったく何者なんだいアンタは…」
「ほら、お前もやるよ。食うだろ?…あっ、そうだ盗賊共が酒飲んでたなあれを頂こう!」
紀州犬っ子改めアリムにもローストベアーを押しつけ酒をあさる。
おおっ、あったあった。やっぱ酒がねーとな。
もうババアは諦めたのかアレコレと聴かなくなって肉や熊汁を食べてたが、アリムの方は手を付けずチラチラとこっちを見る視線を感じる。何だ?もっとよこせってのか?
アリムも暫くしてババアに許可をとってから食べ始めた。何でババアに許可とるんだ?オレんだろ。
「はぁ〜凄く美味しいです!食べたことない味です。」
「本当だねぇ、こんなにスパイスが使われてりゃ店で食べても金貨がいるよ。それにこりゃ何の肉だい?」
「熊だゾ、旨いんだこれ。」
「熊?切り裂き熊の事かい!?ひと昔前に切り裂き熊が市場に出た事が一度だけあったけど…まさかねぇ。本当ならひと財産つくれるよ」
ババアのデカイ独り言は当然無視する。熊が高額で売れよーが関係ねぇ、今は金なんていらねーしな。
それよりこの奴隷状態を何とかしてぇゾ。
「おい、ババア。その肉一切れで金貨1枚だゾ」
「は?なに言ってんだいアンタ今は奴隷なんだよ、奴隷の持ち物は主人のモンさね。ミッツ坊に請求されんならまだしも坊やにそんな権利はないよ」
「ババアこそ何言ってんだ。オレが奴隷にされた時も今この時も肉は持ってねーゾ。アイテムボックスの中に入ってるからな。フハハ」
「アイテムボックスに入ってりゃ持ち物じゃないって論法かい?さっきの意趣返しかね。まぁ、命を救ってくれたのはちゃんと借りを感じてるから別の形で報酬は考えるさ。さてさて、お腹も膨れたしアタシゃひと眠りするかね…」
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チッ、またはぐらかしやがって。ババアはちょっと前にテントに行っちまった。
ん?また視線を感じると思ったらアリムがこっちをチラ見してる。
本人は視線に気付かれてねーつもりなんだろうがバレバレだ。どんくせ〜やつだな。
何なんだ?そうか、さっき餌付けしたから懐いてきたのか。
よーしよしお手。
手を出してみたがチョコと小首を傾げてハテナマークを浮かべてる。
まだ餌付けが足りねーのか?そうだ!猪のモツもあったゾ、これを与えよう。
「ほらモツも炙りなおしたから食えよ。」
「あっ、ありがとうございます。ハムハム。っん!これも美味しいです!」
もういけるかと思って犬耳をおもむろに触ろうとしたら唸られた。紀州犬は扱いが難しい。
ずっと勝手に紀州犬だと思ってたがよく考えたらミミが垂れてるし違うのか?
そういや裸になった時に見たシッポも短くて、親指くらいのがピコッとついてただけだった。
ステータスでもスキルでも打たれ強い感じだし、もしかしたら闘犬か?きっとそうだ!こいつは土佐犬の獣人に違いない、間違いない…たぶん。土佐犬のシッポってこんなだったか?
「おい、土佐犬。さっきから何チラチラ見てんだ、言いたい事があったらさっさと言えよ。」
「土佐犬!?…あっ、いえ。別に見てなんかいません…」
「見てんだろが!お前どんくせ〜からバレバレなんだよ。」
「あっ、うっ。鈍臭いって…」
「何なんだよもう!いいから早く言えよ。」
「…あの…その、ほっ、報酬の事です!」
「報酬?ああ、ババアが言ってたお礼の件か。」
「そっ、それですが盗賊を討伐した場合は通常、討伐対象が所持していた物は討伐者の物になります。」
「はぁ、それがどーしたんだ?オレはあんなしみったれた財宝なんていらねーゾ。」
「いえ、あの時は既に私達は盗賊に捕まっていましたので、その時に盗賊が所持していた全ての物品が報酬としての対象になりえます。」
「はぁ、馬車とか積荷もか?」
「そうです!それに…奴隷もです。」
「ん?盗賊共もオレの物って事か。売ればいくらになるんだ?」
「違います!私です。私を報酬に要求して下さい!」
「へ?お前を?いや、不良在庫なんていらねーゾ。」
「ふっ、不良在庫…。いっ、いえ!クロウ様なら、いいえ、クロウ様しかいないんです!」
「ほぅ、そりゃあ中々いい案だねぇ。もってこいさね。」
「あっ、ババア!起きてたのかよ。」
「あっ、お館様…」
「まぁ奴隷が勝手に身の振り方決めちまうのは頂けないが中々いい考えだねぇ」
「もっ、申し訳ありません。」
「まぁ良いさね。さっきの話しの討伐報酬だけどねぇ、何度も言うように奴隷の持ち物は主人の物。奴隷の貰う報酬も本来は主人の物さね。…けどまぁ今回の場合はミッツ坊も盗賊奴隷や積荷なんて貰ってもしょうがないだろうし、坊やには解放出来ない代わりの報酬も渡さなきゃならないからねぇ」
「あぁ!?解放するってんならまだしも他の報酬ならいらねーゾ。特に奴隷なんて貰ったら扱いに困るだけじゃねーか」
「まぁそう悪い話しでもないだろう?盗賊とやりあってた時に見てたけど、何でか坊やにはこの子の呪いが効かないみたいだしねぇ」
「そりゃオレは超再生でMPが…」
「そうなんです!クロウ様だけです、私がお使え出来るのは!!」
「ほら、この子もこう言ってるじゃないか。アンタ今は子供だから分かんないかもしれないけど、後5年もすりゃこの子を好きに出来ることの価値に気付くさね」
…ふむ、まぁいいか、くれるってんだから貰っとくか。どのみちババアはオレの奴隷解放はしそうにねーし、売りゃこいつでも金貨何枚かにはなんだろ。
しかしババアが言うようにムフフな感情は湧いてこねーな。なんでだろ?転生以降変な感じだ。
「おう、じゃ貰っとくか。」
「はぁっ!ありがとうございますクロウ様!いえ、ご主人様!」
「フフフ、いや〜いい商談だったねぇ。ところで報酬の内訳だけどねぇ、まず盗賊の討伐報酬は坊やが奴隷だから本来無し。でもまあミッツ坊もいらないだろうから半分払おうかね。で、命を救ってくれたお礼で解放出来ない代わりに報酬を出したいんだけどこれも坊やが奴隷だから本来無し。けどそれじゃあんまりさね、だからこれも半分払おうかね。合わせると盗賊を換金した分と馬車の積荷、要は討伐報酬丸々の権利がある事になるけど…そもそも坊やには隣町に連れ出す時に護衛兼用だよって話してたよねぇ、盗賊に囚われた地点でアタシからの依頼を失敗してるよねぇ〜。だから最終坊やに払えんのは半分がいいところってとこだねぇ」
「なげーなベラベラと。結局今ここにある品の半分はオレに権利があるって事か?いいよもうそれで。めんどくせぇ」
「いや〜、理解が早くて助かるよ。じゃあこの子の差額代金、金貨50枚いずれちゃんと払うんだよ。それまでは転売なんてすると赤字になるしオススメできないよ」
「はっ、あぁ!!何だ?どんな流れでそーなんだ!何でオレが金を払わなきゃなんねーんだ!」
「フフフ、いやだね〜。決まってんだろぅ、ここの品の価値がおよそ金貨100枚としてアンタの取り分が半分の50枚。で、この子の売値が金貨100枚だから差額は金貨50枚になるさね。坊や計算は得意だろ?フフフ」
「ちょっと待て!色々突っ込むところがあるが、そもそも何でこいつがここにある品に含まれてねーみてぇな言い方なんだ?この奴隷が金貨100枚だってんなら総額200でオレの取り分が100だろ!ババアの理屈でいってもこいつを貰ってそこで終わりだろが!」
「おや?討伐報酬てのは盗賊の所持品の事さね。馬車や積荷は分かるけどこの子はあの時まだ盗賊の物になってないよ」
「なに言ってんだ一緒に捕まってただろが!」
「ロープで縛られて捕まってたのはアタシと坊や、後は御者の奴隷だけさね。」
「なっ!今度はこの橋渡るべからずか!!」
「まぁこれは報酬として渡すんだ、ある時払いの催促無しでかまやしないさ。坊やくらいの冒険者なら金貨60枚くらいスグに払えるさね」
「増えてんぞババア!そもそもこいつは金貨50枚だって馬車で言ってたろが」
「それはお触り出来ない為の減額さ。坊やは問題ないだろ?まぁ、いつでもいいんだし金貨65枚用意出来たらその時払えばいいさね」
「また増えてんぞ!いい加減にしろ!!」
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ったく、またババアにしてやられた。オレが転売しようとしてたのを見透かしてたのか?
どこまで本気なのか分かんねーが催促無しなら100年後くらいに払ってやるよ!フハハ




