以外な奴隷生活
ジュウロウと別れてからオレはババアの馬車にゆられて移動していた。
ババアの経営する奴隷商館にでも向かっているんだろうか?隷属陣の解除方法を探る為とはいえこれからの自身の扱われ方に不安が募る…。
「おい、ババア。何処に向かってんだ?商館か?」
「ちょっと坊や、ババアは無いだろ。もっと目上に敬意を払いな。」
「自分を奴隷にする手引きした奴にどうやったら敬意を持てんだ。ババアで充分だゾ。」
「ははは、ごもっともだねぇ。まぁ、そうヘソを曲げるんじゃないよ此れから約束だった美味い物を食べさせてあげるんだからねぇ。」
「何だ?本当に飯奢ってくれるのか。奴隷の扱いなんて水みたいなスープだけしか与えられないと思ってたゾ。」
「なんだい、その安物の奴隷商みたいな話は…。奴隷といっても商品なんだ、ウチみたいな高級品を扱う店じゃ下手な村で居るより上等な暮らしをさせてるよ。」
「へ〜、ババアんとこは高級店なのか?まぁ、城へ出入りしてる位だしな。ヒゲ王にも半分タメ口だったけど、不敬罪だ何だって言われて罰せられないのか?オレなんて奴隷にされたゾ。」
「ミッツ坊とはオシメしてる位の時から顔見知りだからね、ある程度お目こぼしされてんのさ。其れに重犯罪でも犯してなきゃ奴隷落ちの処罰なんてされやしないよ。逆に、罪も無いのに本人の了承も無く奴隷契約させるのは犯罪だからねぇ。」
「はあ!?じゃ、何でオレは奴隷契約されてんだよ!」
「あんたのは特例で王権を使われたんだよ。王様が必要だと思ったことは全ての事に優先されんのさ、だってここは王国だからねぇ。」
「そもそもオレはこの国のモンじゃねーってのに、チッ!」
「あんた、お城でもそう言ってたねぇ。でも今はこの国にいる限り従うしかないよ、其れに罰せられる覚えはあるんじゃないかい?手首斬ったんだろ?」
「ありゃあアイツが先に…」
「理由が有っても王国で王様に斬りかかったら死刑でも文句言えないねぇ。まぁ、順等にいっても今とさほど立場は変わっちゃいないって事さね。」
「ちっ!」
「そうカッカするでないよ。ミッツ坊も今回のは強引な手だってのは自覚してんだ、王様だからって何でも好き勝手してたら反感をかって治世が立ち行かないからねぇ。だからって今回のは引くに引けない理由があったのさ。」
「ダンジョン攻略か?たかが外国に行けるくらいの事で何でオレがこんな目に…クソッ。」
「其れがたかが外国じゃないのさ。坊やはこの町をちゃんと見たかい?」
「???なんの事だか分んねーよ。大体、町に着いて早々に拉致られたろーが!」
「ははは、そうだったねぇ。まぁ、此れから行く店にも有るから食べながら話してあげるさ。」
それから暫くして飯屋に着いた。おお、門構えからして高そうな店だゾ。
中に入ると店員がババアに手揉みしながら挨拶し、奥の席に案内された。なんか個室になったVIP席だ。
お前どんだけエライんだババア…。
出てきた飯は普通に美味かった、基本薄味でパンチがねーがそう思うのはオレが濃い味付けが好きだからだろな。
上品な味でスパイスの効いてる品もあった。美味しゅうございます。
「で、分かったかい坊や?」
「ふぉ?まぁみぃば?」
「口の物どうにかしな!この席の灯り見てみなよ、魔道具が使われてるだろ?」
VIPのボックス席は奥まった場所にあり天井には照明が付いていた。
日本の感覚でいたので疑問に思わなかったが、この国の様な文明度でこんな電気照明みたいのは不自然だな。
「電気を使ってんのか?電柱も無かったしな。ソーラー発電…な訳ねーな。」
「電気??何を言ってんだい、坊やの田舎は魔道具ひとつ無かったのかい?よっぽどだねぇ、こいつは魔結晶を使って機能するライトの魔道具さね。」
「ライトって魔術のライトか?」
「そうさ、これは建物に固定の大型タイプだからそこそこの店じゃなきゃお目にかからないがね、ライトの魔道具ならカンテラにも使われてるから目にした事くらいあるだろ?この町は排水設備に公衆浴場、大型の施設には灯りや火種まで全て魔道具の恩恵にあずかってんのさ。」
「んで、それがダンジョン攻略と何の関係が有るんだよ。ダンジョンに行きゃ魔道具が落ちてんのか?」
「はぁ〜、坊やはもっと回転が速い子だと思ったんだが…アタシの見込み違いかねぇ。」
「分んねーよ!知らねぇモンは頭の回しようがねーだろが!」
「いいかい、魔道具ってのはモンスターから採れる魔結晶が動力になってんのは知ってると思うけど、いくら魔結晶を入れ替えても肝心の魔道具本体の寿命は永遠じゃ無いって事さね。100年以上も前に作られて町にも普及したのは良いがそろそろ寿命が尽きる魔道具も多くなってきててね。」
「直すか、新しいの作りゃ良いじゃねーか。」
「其れが出来りゃせわないよ、簡単な修理位は出来る人間もいるが魔道具作成はドワーフの専売特許で門外不出さね。そもそも魔力の殆ど無い人族には魔道具作成なんてとてもねぇ。」
「はぁ〜ん、んで外国との交易で新しい魔道具を手に入れたいのか。諦めて昔の生活に戻したら良いんじゃねーの?」
「一度楽を覚えたら中々そうもいかないってもんさ。其れに魔道具での下水が普及する前は町中に放置された糞尿が溢れて酷い有様さ、風呂も無けりゃ2〜3日に一回体を拭く程度だから病気も随分多かったねぇ。」
「うへぇ、そりゃ勘弁だな。」
「其れを王家が大型の魔道具を使って上下水道を整えたって訳さ、もうあんな劣悪な環境には誰も戻りたくないさね。」
「人口の少ない村じゃ汚物も肥料にしたりで、そこまでじゃねーんだろうがここまで人が多いと今更村単位には戻れねーわな。」
「其れに、この店で出た様なスパイスを使った料理ももうじき食べれなくなるしねぇ。いくらアイテム庫の魔道具が中の食料を入れた時の状態に保っても肝心の中身が無くなりゃねぇ。」
「へー、んな前から買いだめして置いてあったのか希少価値で高そうだな。」
「そうさ、坊やが今さっき食べた分で職人の年収ぐらいかかるだろうね。」
「え!?婆ちゃん金払えんのか?」
「ははは、婆ちゃんに格上げされたねぇ。これでも商人ギルドのマスターやってるからねぇ、支払いは何とかなるさね。さあ、食べ終わったんなら次の店に行こうかね。」
なんだかんだで上手く掌の上で転がされてる感がある、オレはお婆ちゃん子だから年寄りに弱いんだよな。
よく考えたら奴隷にされた黒幕はヒゲだが、実行犯はこの婆ちゃんじゃねー?でもなんか憎めないんだよなー。
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オレは今、婆ちゃんの着せ替え人形と化している。
あのあと馬車に乗せられ次の店に連れて来られた、服屋だ。次のって自分の奴隷商館じゃねーのかよ?
「おい、婆ちゃん。早く奴隷館にでも連れてけよ。」
「何言ってんだい、今服を選んでんだろ?」
「いや、何で服なんだ?要らねーって。」
「ウチの商品にみすぼらしい服着せとけないだろ?」
「は!?どっかに売りに出す気か?オレって今はヒゲの奴隷じゃなかったか!?」
「安心しな、ウチでいる間そんな変な服でウロウロされたら店の格が下がるってことさ。其れよりあんたも自分の好みの服とかなんか無いのかい?」
その後だいぶ時間をかけて服を色々買われた、明らか婆ちゃんの趣味が入ったカワイ子ぶったデザインだ。
オレの好みを聞かれたので前合わせの和風っぽいジャケットとか、皮のパンツを伝えたら店に無かったのでオーダーで作らせてた。そこまでして要らねー。
で、やっと奴隷商館に着いた。やれやれ。
今、オレは婆ちゃん趣味の坊ちゃんファッションに身を包んでる、店で着替えさせられたんだ。動きにくい。
「さー着いたよ。ここが坊やが研修する間寝泊まりするアタシの店さ。」
「奴隷研修って何すんだ?重労働とか、鞭に打たれるのか?」
「…はぁ、あんたねぇ。ウチじゃそんな事しやしないよ。」
「はっ!?まさかこんな服着せてオレを変態貴族にでも売る気だな!それで夜のテクニックを研修する気だ!」
「違うよ!おバカ!ウチじゃ変態趣味の男娼は扱って無いさね。あれを見な。」
そう言うと婆ちゃんは執事っぽい係りの奴が開いた扉の向こうを指す。って言うか変態向けじゃねー男娼は扱ってんのか?…。
扉の向こうは赤い絨毯が通路状に伸びていて、その両サイドにズラッと並んだメイド服の女たちが綺麗なお辞儀をして顔を伏せていた。
「こんな風にウチじゃ売りに出す前に礼儀作法や読み書き、戦闘奴隷には戦闘訓練を研修するのさ。」
「ほー、じゃオレは戦闘訓練か?」
「何、言ってんだい、礼儀作法と一般常識だよ。坊やはそうは見え無いけど剣の腕はたつんだろ?ウチじゃ騎士団以上の腕前の奴に戦闘訓練する様なのは無理さね。」
そう言って婆ちゃんはオレを連れてレッドカーペットをツカツカ進んで行く。両サイドのメイドはかしずいたままだ。
ん?あの奥のメイドって…。オレは足を止めて顔を覗き込む、この子確か入場門で婆ちゃんの馬車の後ろ車両に乗ってた美少女だ。結構タイプだったので覚えてる。
「なぁ、婆ちゃんこの子って入り口の所で馬車に積んでた…」
「ああ、あの時出戻りでね…。」
そう言って婆ちゃんは詳しくは言わず再び歩き出す。
おっ?なんかこの子よく見ると頭にペロンと犬みたいな耳が出てるそれ以外は普通に人間っぽいのでぱっと見気付かなかった。獣人か!?さすがファンタジー世界。
うー、ウズウズ。流石に失礼だろって分かってても触りたくて仕方ない。
ちょっとイヌ耳に手を伸ばしてみた。
「ウゥゥー!」
まだ触って無いのに犬みたいに唸られた。よしよし怖くないよー。
ム◯ゴロウサンみたいにやってみる。
「ガウッ!」
「あぶねっ!!」
危うく指を何本か持ってかれそうになった、オレはム◯ゴロウサンにはなれない様だ。
それより何なんだこいつ獣人って言うか獣じゃねーか?。
「何やってんだい!その子はイヌ科の獣人だよ、気を付けないと噛まれるよ。」
知ってるよ、指を何本か持ってかれそうになったからな。
「イヌ科なら人懐っこいんじゃねーのか?」
「犬種によるんだよ、この子は倭の国産の犬種が混ざってるからねぇ。この手の子は主人と認めた者以外には絶対に懐かないよ、気を付けな。」
紀州犬?イヌの獣人にも色々あんだなぁ。って言うか全然躾けれてねぇじゃねーか!どうなってんだ研修。
ふむ、しかし高級店だけあって並んでる子はみんな可愛い。まぁこのイヌ耳の子がダントツだが、噛む子はダメだ。
あれ?並んでる子達を見回すと十代半ばから二十代位が多いが小学生位の子もパラパラと…。
「なぁ、婆ちゃん。男娼は扱わねーのに幼女趣味の品揃えはしてんのか?」
「ああ、需要が有るからね。」
さも当たり前みたいに言われた。
男娼がねーのは需要だけの問題だったのか?。商売人だな婆ちゃん。
その後、小さい部屋に連れて行かれそこを個室として当てがわれた。又もや、んん?
「おい、婆ちゃん。」
「なんだい、さっきから煩いねぇ。さっさと買った服をクロゼットにしまいな。」
「この部屋を使うのか?」
「そうだよ、大部屋には女達が居るからいくら子供でもあんたは入れられないからねぇ。」
「ああ、その大部屋が牢屋みたいに薄汚ぇのか。」
「何でそうなるんだい!あんたねぇ…まったくウチはそんな犯罪奴隷扱ってる様な低級な店じゃないんだよ。貴族御用達の商品に家畜みたいな生活させる訳ないだろ。さっさと服を着替えて出てくるんだよ。」
そう言うと婆ちゃんはプンスカ怒って部屋を出て行った、この後躾け研修が始まるらしく買った物の内から動き易い服装に着替えろって言われた。じゃ、何でこの坊ちゃん服着せた。
やれやれ、奴隷契約の解除方法を探るまでおとなしくしてなきゃだが…今更礼儀作法とか面倒くせー。




