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初めてのお呼ばれ

オレ達を訪ねて来た奴は複数人だ、奥に立派な鎧を着込んだ騎士っぽい奴ら数人と今ジュウロウと話してるおっさんだ。

このおっさん随分仕立ての良い服着てんな。金持ちなのか?


後ろで話しを聞いてるとコイツ等は代理で来たらしい、代理を遣わすって事はエライ部類の人間か…。

何の用件だか分からねーが、オレ達に是非一緒に来て貰って会わせたい人がいるとの事だ。


胡散くせぇ…。そもそも知合いなんている訳ねぇオレ達の事を何で知ってんだ?

ギルド経由の情報から誰かがオレ達を知ったのか?だとしても会いたい理由がねーだろ?


それにオレ達がここに泊まってんのを知らねーだろうしな。

ここに泊まってんのを知ってる…、串焼き屋のおっさん!んな訳ねーか…益々誰が会いたがってんのか分からねー…。


相手が誰か皆目見当がつかねえが、武装した騎士連れてる段階で無理矢理でもって考えがうかがえる。

誰が会いたがってんのか分かんねーがきっとロクな用件じゃねえはずだ。間違いない!


「おい、ジュウロウ。行くのは良いけど部屋に忘れ物したゾ、取りに戻ろう。」

「へ?何か置いて来たっけ?じゃあ兄貴取ってきてよ。待ってるからさ。」

「いいからお前も来い!」

「え〜。もう、一人で行けるだろぅ。すいませんね〜皆さん、少し待ってて下さいねー。」


オレ達はそそくさと借りてある部屋に戻る。

ジュウロウが何の疑問も抱いていないので、道中でオレの考えを話してトンズラする事にした。


「え〜、考え過ぎじゃないの?」


「かもしれねーけど何かやな予感がする。取り敢えず今回はスルーして相手の出方を窺おう。おっ、あこに裏口があるゾ。」


裏口から出てグルっと回り込むと、入口付近でオレ達を訪ねて来た奴らが何やら話し合っているのが見える。

暫くするとオレ達が居ない事に気付いたのか場が騒々しくなった。「居ないぞ!探せ!」などの怒声が聞こえる。


オレ達は建物の影から様子を窺い小声で話し合った。


「(見ろよ、やっぱり捕まえる気じゃねーか。)」

「(いや、俺達を連れてかないと主人に怒られるから焦ってんじゃない?)」


「(何でそこまで必死に今じゃなきゃいけねーんだ?穏便に済ます気なら又今度でも良いじゃねーか。)」


「(うーん、それはそうだね。)」


オレ達が影でコソコソやっていると通りの方から声がかかる。

ヤバイ!気付かれたか?


「(坊や達、こっちだよ!)」


通りには綺麗な馬車が停まっていて中から婆ちゃんが手招きしてた。

あの入場口で見た威圧力大の婆ちゃんだ。


「(何してんだい、見つかっちまうよ。早くしな!)」


オレ達は一瞬迷ったが、入場口で口添えして貰ってた件もあったので婆ちゃんの馬車に乗り込むことにした。

オレ達が乗り込むと御者は扉を閉め、馬車を動かしだした。入口付近でもめている使いの奴らを横目に馬車は現場から離れていきジュウロウと二人でホッと肩をおろす。


「ふ〜、婆ちゃんありがと。助かったゾ。」

「しかし、坊や達も厄介事が付いて回る子達だね。何やらかしたんだい?」

「何もしてねーゾ。」

「そうなんですよねぇ、何なのかなぁ?あの人達。会いたい人の使いで来たって言ってたけど…。」


「どっちにしろ考えの足りない奴等さね、あんな物々しいお迎えが来て付いてくのはよっぽどのお人好しだけさ。」


「……。」

「ほら見ろヤバかったろーが、お・ひ・と・よ・し!」

「ほら、坊や達。兄弟喧嘩してるとこ悪いけどアタシゃ得意先に向かう途中なんでこのまま行くよ。」

「おお、オレ達も暫くは宿にも戻れねーし、どっか適当な所で降ろしてくれたら良いゾ。」


「そうだね…。坊や達、食事は済んだのかい?これも何かの縁だ、得意先での用事が済んだら一緒にどうだい?」


「そう言えば宿で朝食を断ったからまだだったね〜。」


「そだな、未だこの町も良く知らねーし良い飯屋を教えて貰うか。ところで、婆ちゃんは何者なんだ?入場口の役人もビビってたみたいだし、エライのか?」


「アタシゃしがない商人さね。これから行くのも其の商売相手ってとこさ。」


そのままオレ達は婆ちゃんの馬車に揺られて目的地まで行って待つ事にした。

馬車が到着して中で待つつもりがオレ達も一緒に降ろされる?


「オレ達は中で待ってるからいいゾ。」

「そうだね、兄貴人見知りだしね。」

「ウッせー。余計なんだよ!」


「まぁ、良いからついて来な。これから会うのはこの国の有力者なのさ、坊や達も顔繋ぎしといて損は無いから一緒においで。」


兄貴と顔を見合わせて思案しているとさっさとお婆さんは先に行ってしまった、残された俺達は係りの人達に連れられて後を追った。

馬車を降りた地点で室内だったのでどんな場所か分からないがかなり大きなお屋敷だ。今は馬小屋の裏口から中に入っている、まるでお城みたいだ。


係りの人はズンズン階段を上り進んで行くが中々に歩かされる。どんだけ広いの?

すでにお婆さんは先に行ってしまい姿が見えない、それにしても大きなお屋敷だな?この世界のお金持ちは凄いなぁ。


到着したのは馬鹿デカイ両開きの扉の前で係りの人に「中でお待ちですのでどうぞ」と言われて入る事になった。

武器などは携帯して入れないとボディチェックされたが、俺達は既に宿屋でアイテムボックスに武器を仕舞ってあったので手ぶらだった。


「ちっ!してやられたみてーだゾ」

「へ?どゆこと?」


俺達は凄く広い部屋の真ん中に通され、その入口から続く赤絨毯の先が数段高くなっていた。其処には立派な椅子があつらえられ、まるで王様って感じの人が座っていた。

……って言うか王様だよねあれ?


「王の御前である控えられよ。」


王様の近くに立っていた偉そうな人が言う。やっぱり王様だった。

咄嗟に俺は漫画や何かで見た様に片膝ついてしゃがんだ。


「早く跪いて礼をとらぬか。」


いや、やってますって。何かやり方間違えてた?って思って兄貴の方を見たら立ったまま腕を組んで踏ん反り返ってる。

…それは控えるやり方を間違えてるんじゃ無いよね。また問題起こす気?頭下げてよ。


「何でオレが控えなきゃいけねーんだ!別に来たくて来た訳でもねーし。」

「何だと!不敬な!こちらをどなたと心得る!」

「知らねーよ!人攫いか?」

「なっ、王に向かってなんと言う事を!」

「オレはそいつの子分じゃねーんだから関係ねえな!ふんっ!」

「なっ!この小僧!子供だと思って大目に見ておれば…」

い、構わぬ。」

「はっ!」


偉そうな人は王様の一言で黙って引き下がった。でも、まだ兄貴の方を睨んでる…。

しかし、王様が俺達に何の用があるんでしょう?


「挨拶が遅れたな、余がオウルガルド国王、ミッツハルト・オウルガルドである。」

「ふんっ!オレはクロウ、こいつは弟のジュウロウだ。」

「ガハハ、それは知っておる。」

「ん?何で知ってんだ?オレ達は今日町に入ったばっかりだゾ。」

「つれないの〜、ダンジョンで手をった仲ではないか。ガハハ。」


何だかその笑い方に聞き覚えが。ダンジョンで手を…ってあっ、あの髭の人!

いや〜、其れにしても孫にも衣装だね。って言うかあんな所で王様が何してんの。


「ダンジョン?知らん!」

「(兄貴!ほら、ダンジョンで手首切り落としたあの髭の人だよ。)」

「ん?違うだろ。アイツはもっと小汚かったゾ。」

「(よく見て、服着替えて髭を整えただけだよ。まんまじゃないか。)」


「あー!こいつダンジョンで手首切り落としてやった盗賊じゃねーか。何だお前、仕返しか?ありゃお前が悪ぃんだゾ。」


「ちょっと!大っきい声で何言ってんの!」


兄貴の手首切った発言や、王様を盗賊呼ばわりした事で周りにいた配下の人達が青筋立ててざわめき立つ。

勘弁して下さいこの子ちょっと頭弱いんです…。


「ガハハ、やっと思い出してくれたか。」

「チッ!さっきの婆ちゃんはグルなのかよ?」

「ガハハ、騎士達だけで迎えに行かせれば勘ぐって逃げると思っての。特に小さい兄貴の方がのぅ。」

「(ヤバイよ兄貴が切ったりするから怒ってるんじゃない?)」


「ジュウロウ殿、余は怒ってなどおらぬ、むしろ逆じゃ。その腕を見込んで余の騎士に任じようと思っての。」


小声で兄貴に話したつもりが王様にはシッカリ聞こえてたみたいだ…。


「断わる!」

「えっ!?にしても、ちょっと考えますとか何とか無いの!?」

「嫌だゾ!せっかく第二の人生なんだ、自由に冒険するんだ。」


ここで又あの偉そうな人が口を出してくる。

この人…絶対、兄貴と気が合わないねー。嫌いって顔に描いてある。


「何を言っておるのだ小僧!王からの勅命を拒否するなど言語道断!」

「何でオレが命令されなきゃいけねーんだ!何様のつもりだ!」

「いや兄貴、だから王様だって…。」


「国民にとって王命は絶対だ、そんな事も分からぬか!」

「オレはこの国のもんじゃねーし、気に入らねぇってんなら今直ぐにでも出てってやるよ!」

「ハッハハ!愚かな、卑しい田舎者は地理も理解しておらぬ様だ。」

「何だと!どー言う意味だ!?」


「このオウルガルド王国は島国、外海は嵐と怪物に阻まれ入出国など出来ぬわ。つまりこの地に居る地点でお前は我が国の僻地にでも居た田舎国民なのは間違いない。同様の理由で国外に出る事も叶わぬわ。」


「は!?何言ってんだ。オレ達は違う島からゲートで来たんだゾ!」


「ハッハハ!田舎者の癖に中途半端な知識はある様だ、確かに唯一の例外で50層以降のゲートならば他国に行けるかもしれんが百数十年も前から通行不可のまま。其れとも、お前達の様な子供がまだ凄腕冒険者ですら半分も攻略出来ておらぬ新ダンジョンを潜り抜けて来たと言うのか?ハッハハ、ハッハハ!」


「なに全然かみ合わねーこと言ってんだ!とにかくオレは家来になんかならねーゾ!」


「ガーハッハ、まぁそう言うでない。騎士になったとて規則は有るがある程度自由にして貰って構わんのだぞ、其れに騎士になれば給金も出るし住まいも用意するぞ?」


「陛下!この様な下賤な田舎小僧に何故そこ迄…」

いのだ、控えよ。」

「はっ。」


「ふんっ!オレが望んでる自由はそう言うんじゃねー、誰かの下に付いたら最終決定は上の意向に沿わさなきゃいけねーだろ。オレは全部自分で決める!この町に長くとどまる気もねーしな。」


「ふ〜む、どうしても駄目か。ならば無理強いはすまい、ではせめて今後のお主の冒険に祝福を贈らせてくれい。」


そう言うと王様は玉座から立ち上がり、ツカツカと俺達の方へと歩いて来る。

周りにいた配下たちは「何と勿体無い」とか小声でヒソヒソやっている。王様って下々の人に近ずいて声掛けるだけでそんな風に言われるんだねー。


王様は俺の前に立ちすっと手を出してきた、勿論握手だろうと立ち上がり応える。

無言で俺の目を見つめ頷く王様からは、声に出さなくても頑張れよ的なニュアンスが伝わってきた。


次に兄貴の方に向き直った王様は俺の時とは反対の手を差し出す。ん?左手?

まぁ、この世界じゃそんな作法なのかなぁ…。


兄貴も訝しげにしながらも手を出し握手がかたく結ばれる。とてもかたく。

そして、…長いな、握手。と、思ってた矢先!!


「グッ!何しやがるんだ!」

「すまぬなぁ、傷は後でジュウロウ殿に治してもらってくれい。」


見ると王様は強く兄貴の手を握ったまま、反対の手で腰から抜いたナイフを使い兄貴の手を切りつけてた。

ほんの浅く傷付けただけの様で、例の如く直ぐに傷は回復したがポトリと一滴の血が床に落ちた。


一瞬で傷が治ってしまう様子にギョッとした王様だったが、直ぐに目的を思い出したかの様に声を上げる。


「カズミール商会の!今だ!」

「あいよ。」


何処にいたのか、馬車のお婆さんが姿を現し兄貴に向かって手をかざす。いや、正確には兄貴の足元だ。

お婆さんが何やら力を込めると兄貴の足元が輝き出す。陣!?


しばらくすると陣の光も収まり、そこにはキョトンとした兄貴が変わりなく立っていた。

ん?不発かな?どっか飛んでっちゃうんじゃ無いの?


「どうだ!?上手くいったのか?」

「ああ、陛下。隷属陣は滞りなく発動したさ。」

「ガハハ、そうか良くやった。報酬は約束通りはずもう、ガハハ。」

「何やったんだ、てめえ!分かる様に説明しろ!!」

「坊や。今のは対象を隷属させる効果のある陣で、あんたはさっきので陛下の奴隷になったのさ。」

「なにーーーーー!!!」



え?奴隷?っていうかこの世界ってそんな事許されてんの?

ホラも〜!兄貴が穏便に話し合いに応じないから〜!




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