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宿屋

オレ達は気の良い兄ちゃんと別れて教えて貰った入場口へと向かった。

少し歩いて農地部を抜けると一回り大きい城壁があり、その手前は数メートルの深さの空堀が掘られてた。


空堀に橋が架かりその向こうの大きな両開きの門は開かれたままだ、門の内部には槍を持った衛兵が立っているのが見える。

橋の手前に簡易な小屋の様な詰所があって其処が入場口の受付みてーだ。


「あそこで銅貨10枚払えば良いのか?」

「うん、みたいだねー。」


入場料を払おうとジュウロウが受付まで近付く、小屋の中にはいかにも役人って感じのおっさんが立っていた。


「すいません。入場料はここで払えばいいのですか?」

「そうだ。2人か?なら入場料は銅貨26枚だ。」


「あれ?一人10枚じゃ…」


「払えないなら帰るんだな!フンッ。」

「何だ?!お前ぼったくろーとしてんのか!手前の門番に聞いたら10枚って言ってたゾ!」

「何て口のきき方だこのガキ!黙って払えばいいんだ、無いなら帰ってもらうしかないな。」

「このヤロー、調子にのってんじゃ…」

「(止めなって兄貴、入れなくなったら困るよ。)」


ジュウロウが小声で止めて来るが、このおっさんスゲー感じ悪い。

金額的にどうこうじゃねーがボッタクリする気が明らかで納得できねーし、この世界はこんなのがまかり通ってんのか?


オレ達がゴチャゴチャと揉めてると後ろから次の入場者が来た、馬車に乗った団体だ。

馬車の御者が降りてきて受付のおっさんと何か喋ってから又戻って行った、馬車の中に居る主人に状況を説明している様だ。


馬車は以外と大きく前半分は屋根付きで綺麗な作りだが、後ろ半分は荷車にベンチがついた様な形状でオープンになっていた。

その後ろ半分には身なりは安っぽい服だが小綺麗な顔をした女達が10人程座っている。


おっ、中でも1人とびきりの美少女がいるゾ。みんな可愛いが1人飛び抜けている、うんカワイイな、あれ?何だこれ?変な違和感を感じる…。


しばらくすると、屋根のある方の馬車の中から御者の主人らしき奴が半身を乗り出し話し掛けてきた。金を持ってそうな婆さんだった。


「あんた達、早くしてくれないかね。アタシゃ急いでんだけどね。」


「悪りい、婆ちゃん。でもコイツがぼったくろーとしやがってよ。2人で銅貨26枚って言うんだゾ!」


「ん、本当かい?…ね〜アンタ、いつから入場料が値上りしたんだい。」

「いっ、いえ。カズミール商会の方は入場料は必要有りません。」


「そんな事聞いて無いんだよ、ギルド所属員は無料なのは知ってるよ。アタシゃいつから銅貨13枚に値上がったのかって聞いてんのさ。」


「いっ、いえ!1人銅貨10枚です。」


「だとさ、坊や達。サッサと払って行っちまいな。」

「おっ、おお…ありがと婆ちゃん。」


オレ達は婆ちゃんの迫力に押され、役人に文句を言うのも忘れて払いを終わらせ門をくぐった。

暴力的では無いが凄い威圧感を放っていた、何者なんだあの婆ちゃん…。


ーーーーーーーーー


門をくぐった俺と兄貴は初めて見る異世界の町であっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ。

兄貴が直ぐ近くに屋台の串焼き屋を見つけてそっちに向かって歩き出した。ホント食うの好きだね。


「なぁ、おっちゃん。これ1本いくらだ?」

「おっ!ボウズ買ってくれんのか?2本で銅貨1枚だぞ。何本にする?」

「そうだなぁ〜…」

「ちょっと兄貴、さっき使っちゃって銅貨は無くなったよ。」

「え?あっそうか。…おっちゃん、銅貨ねーんだ、魔結晶じゃダメなのか?」


「いや、すまねぇなボウズ。うちは貨幣だけなんだ、魔結晶を持ってんならギルドで換金して貰え、直ぐ其処だからよ。」


「へー、そうなのか。じゃ、後で来るゾ。」

「おう、待ってるよ。宜しくな。」


俺達は屋台のおじさんに聞いた場所に換金する為に向かった。

そこは、結構立派な建物で入口の上にある看板には《冒険者ギルド》と書いてあった。勿論、異世界文字だがちゃんと読めた。


入口は西部劇の内外にバタンと開くあの扉で如何にもって感じだった。

中に入るとホール部が広がりまばらに配置されたテーブルで酒などを呑んでる人達が居る。ちょっと柄が悪い…。


兄貴はと言えば、そんな雰囲気に構わずズンズン受付らしきカウンターに向かって歩いて行った。

途中何組かの冒険者がテーブルに座って居て。…ん?あれ、この人あのダンジョンで会った人だよね?


「ねぇ、兄貴。この人ってさぁ…」

「ん?何だ、知り合いか?…ンな訳ねーか、この世界に来たばっかだもんな。」

「いや、覚えてないの?ダンジョンでほら…。」

「ダンジョンで?ああ、あの髭モジャか。」

「じゃ無くて、もう1人の…。」


「あー、何か居てたな!自慢じゃないがオレは人の顔覚えるのはスゲ〜苦手だゾ。どいつの事だよ?」


「いや、ついさっきの事だし…、ほらあそこ。」


俺が顔を向けて指し示すと、腰巾着の方が兄貴より先に気付き「ヒッ!」っと言う悲鳴と共にそそくさと建物を出て行ってしまった。


「どいつだよ?」

「いや、もう居なくなっちゃった。」

「何だ?そいつ探してどうしようってんだ?」


いや、別にどうこうしようってんじゃ無いけどね…。うん、逆に兄貴に見付からなくて良かったかもね。

いざ顔合わせたらあの時の仕返しとか言って又揉めそうだしね。


適当に話を誤魔化して兄貴を受付まで連れて行った。おお!綺麗な受付のお姉さんだ。

金髪の美人で日本じゃまず見かけない、そりゃそうか…俺達の住んでた田舎じゃ外人さんなんてほぼ会わないもんね。


「あの、すいません。魔結晶の換金ってここで良いんでしょうか?」

「ええそうですよ、冒険者ギルドは初めてですか?」

「ええ、今この町に入ったばかりで。」

「そうですか、どちらからこのオウルガルドへ?」

「えっ、いや〜…何かあっちの方から…。」

「ウフフ…面白い方。」


何かジュウロウが凄い胡散臭い誤魔化し方してんのにこの姉ちゃん全然気付いてねー…。

多分、転生の事はふせときてーんだろうけどもっと言い方あんだろ?


って言うか何で姉ちゃん顔紅くしてんの?「面白い方。」って、「お馬鹿な方」の間違いじゃねー?


「おい!いいから早くしろよ。」

「あら、可愛い弟さんね。ボク?お兄さんの付き添い?」

「違うゾ!オレ兄貴だゾ!」

「???ああ、そうね〜お兄さんぶりたい年頃よね〜。」

「いえ、…何て言うか本当にこっちが兄で…」

「ウフフ、そうね。じゃあ換金して来るからちょっと待っててね小さいお兄ちゃん。ふふっ。」


そう言うと姉ちゃんは奥へと入って行っちまった、他の奴等もそうだったが完全に子供扱いだな。そりゃま当然か…。

まぁ良い、どのみち子供時代をもう一度満喫したくてこの年齢に転生したんだし。


しかし、何か違和感あるゾ?あんな綺麗な姉ちゃん見ても何とも思わねぇ。

単純に綺麗だなとは思うんだが、この姉ちゃんとどうこうしてぇとか思わねーし。入場口でも感じたな。


ジュウロウに色目使ってても何でオレじゃねーんだ的な嫉妬心がわかねぇな。何でだ?

オレってそんな枯れてたか?自分で言うのも何だが結構女好きだったはずだが…。


そのうちに姉ちゃんが奥から戻ってくる、手に持ってるトレーに銀貨とかが沢山乗ってた。

オレ達が渡した魔結晶は銀貨26枚、銅棒20本、大銅貨30枚、銅貨48枚になった。姉ちゃんが気を利かせて使いやすい貨幣に分けてくれたらしい。


銅貨1枚で安いパンが一個買える様だ。感覚的だが銅貨が百円、大銅貨が千円、銅棒が5千円、銀貨が一万円って感じだゾ。

入場口じゃ大銅貨じゃ無く銅貨で徴収してたな。町の外の田舎じゃあんまり貨幣が普及してねーのかな?


何かジュウロウが姉ちゃんに色々話しかけられてる、冒険者としての基礎知識をレクチャーされてるみたいだ。

其れにしてもこの姉ちゃんキラキラした目でジュウロウを見てんなぁ、まぁ転生後はイケメンだからな。気付いてんのかな?ジュウロウ。


そうだ!そんな事より早く出て串焼き買わなきゃな。


ーーーーーーーーーー


ともあれ俺達は無事換金を済ませてギルドを出た、こういう場面でよくガラの悪い冒険者にケンカをふっかけられるなんて事があるが…何事も無く建物を出れた。

兄貴がワクワク、ギラギラした目で周りの冒険者を見ていたのをそれと無く身体で遮っていて良かった。トラブルは勘弁だ。


早く出ないとこの人は又問題を起こすから串焼きで釣って早々にギルドを出た。


「おじさん、換金が無事出来ました。串焼きを売って下さい。」

「おー、兄ちゃん達。本当に来てくれたのか、ありがとよ。何本買ってくれんだい?」

「お!味が2種類あんのか。おっちゃん、タレと塩を10本づつクレ!」

「え?俺はそんなに食べれないよ。」

「ん?オレが食う分しか頼んでねーゾ。」

「そんなに食べんの!?じゃあ俺は味見出来たら良いから兄貴の1本づつ頂戴よ。」

「やだゾ!オレは10本づつ食う。」

「オイオイ、仲良くしな。そんなに買ってくれんならタレと塩を1本づつサービスするからよ。」


本当にそんなに食べれんの?…と思ってたら兄貴はウマイウマイ言ってあっという間におおかた完食してた。

俺も1本づつ食べたが確かに美味しかった。…でも兄貴ってもっと少食だったのに転生以降ずいぶん変わったね。


「おっちゃん、良い味出してんな!モグモグ。」

「おっ、おお。ありがとよ、しかしよく食うボウズだな…。」

「んでよ、モグ、ここら辺で良い宿屋ってねーかな?キレーなとこが良いな。モグモグ。」

「あ、そだね。泊まるとこ探さないといけないね、おじさん知ってる?」


「ん?綺麗な宿か…それなら太陽亭って宿が一番だな。あそこの主人は潔癖症かってくらい几帳面でベットシーツなんてシワひとつ無いし部屋の中も清潔でピカピカだ。」


「お!良いじゃねーか。何処にあるんだその宿屋。」


「ああ、この通りを真っ直ぐ行きゃ看板が出てるよ。ただなぁ…あそこは奥さんが死んでから…ってもう居ねー!?何て気の短いボウズだ…。」


「ちょっと兄貴、待ってよー!」


歩いてく道すがら兄貴が貰ったお金を袋ごとプラプラさせていたので「アイテムボックスにでも入れないと無用心だよ」って言ったら俺に全部渡してきた。持ってたら有るだけ使っちゃうらしい。


兄貴が言うには結婚して最初のお小遣いを、気が付いたら3日で使い切ってたらしい。ガソリン代や昼食代も込みだったみたいで残りのほぼひと月を如何に切り抜けたかを笑いながら話してた。…こんな人にお金持してたらダメだ。


袋から出したお金を俺のアイテムボックスに入れようとしたんだけど、一種類に付き20個までしか入んなくて残りは仕方なく兄貴に渡した。

兄貴のアイテムボックスなら全部入るらしいが危なくて持たせてられない。


「あっ!あれじゃねーか?」

「本当だ、太陽亭って看板が上がってる。」

「外観は古くせーが手入れが行き届いてるみてぇでキレーだゾ。中々良いとこそうだ。」

「古臭いは余計だよ、まぁ入ろうよ。」


串焼きのおっちゃんが言ってたとうり中々綺麗な宿屋じゃねーか。古くせーがそれも味だな。

ん?ここもギルドみてぇに西部劇風のバッタンドアだな。寝泊りすんのに防犯とか気にしてねーのか?


「おっ、カウンターがある。あそこが受付みてーだな。」

「あー、すいません!泊まりたいんですが〜。」


奥から線の細そうな店主が出てきた、気が弱そうな見た目のおっさんだ。

しかし、この宿屋ガラ〜ンとしてんな。流行ってねーのか?


「何かガラガラだな、宿に欠陥でもあんのか?」

「ちょっと兄貴!失礼だよ。すいません、きっと人の少ない時間帯なんですよね。」

「いえいえ、良いんですよ。流行ってないのは本当ですから…。」

「自分で言っちまってりゃ世話ねーな。一番キレーな宿だって聞いたから来たんだゾ。」


「お泊まりの環境はこの町一番だと自負しています!清潔でピカピカの寝室は宿を営む者としては譲れませんから!!」


「おっ、おお。そんな前のめりになんなよ、キレーな宿なのは分かったから…。」

「(兄貴が失礼な事言うから怒ったんじゃないの?)」

「じゃ何でガラガラなんだよ!?」

「(声がデカイって!!)」

「それは……。」

「いっ、いえ!泊まります!是非泊まらせて下さい。ねっ、兄貴も良いよね!」

「ん?別に良いけどよー。だから何でガラガ……。」

「はい!決まり。おじさん一泊いくらですか?」


「え?ああ、有り難うございます。一泊二食付きでお一人様大銅貨5枚です、食事無しですと大銅貨4枚と銅貨5枚になります。」


ふむ、日本円だと大体5千円か?素泊まりより飯付きのが割安なんだな、金額的にも別段高くねぇ。

むしろ安いんじゃねーのか?日本で言う公共の宿並みだ。


「ジュウロウ、どうせ暫くこの町を拠点にして動くんだ。一週間分ぐらい払っとけよ。」

「ん、そうだねー。じゃあ、おじさん一週間分ね。」

「え?有り難うございます!!じっ、じゃあお部屋に案内させて頂きます。」


店主のおっさんに案内されて入った部屋は特に問題も無く小綺麗だ。何で流行らねーんだ?


「あの、今の時間帯ですと朝の食事をご用意出来ますが…。」

「別にそんなに腹は減ってねーけど。」

「そだね、串焼き食べちゃったし。まぁ、まだ食べれるけどどうする?」

「んー、折角だからそとで色々買い食いしてーな。」

「じゃ、朝ご飯は今日は結構です。」

「そうですか…、御夕飯は?」

「いや、要るだろ!飯付きの宿泊代払ったろが。朝飯はオレ達の都合でいらねーだけだから。」

「そっ、そうですよね。では…。」


変な店主だ、アイツの接客が悪くて客が遠退いてるんじゃねーか?

疲れたので早速ベットに飛び込む、ボフッと顔を埋めるとお日様に干した良い匂いがする。


「む〜ん、良いなー。キレーな宿じゃねーか。」

「そだね、何で流行ってないのかなぁ?」

「あの店主のおっさん、接客がなってねーからな。」

「ちょっと兄貴そう言うの本人の前で言うのやめてよねー。」

「本人がいない所で言ったら陰口になんだろーが。」

「何でも隠さず言えば良いってもんじゃ無いの!」

「へーへー。」


ーーーーーーーーーーーーー


コンコン!


暫くの時間、俺達がくつろいでいるとドアがノックされる。宿屋のご主人かなぁ?

宿自体の入口がオープンだった為か部屋のドアはやたら頑丈な作りでシッカリとした鍵も付いていた。


「は〜い、開いてますよ〜。」

「すいませんお客様。お二人を訪ねて来られてる方が…。」

「オレ達を訪ねて?この町に知合いなんていねーゾ。」

「でも…子供なのに兄貴って人と男前の二人組で、今日町に入って来たはずだって訪ねて来てまして。」

「そう!男前の人と子供の兄貴なら俺達しか居ないよね。」


で…その訪ねて来た人に会いに受付のあった所まで行ったんだけど………、あなた誰?





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