町へ
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全く、ムカつく髭面だ。オレ達の獲物を横取りした挙句ガキだのなんだのと言いやがって。
まぁ、我慢して観察してて良かった。結晶化だったか?確かジュウロウの錬金術にそんなのがあった気がするし、モンスターはこうやって宝石みたいな石に変えて換金する仕組みなんだろう。
しかし、コイツらこのままモンスターの成果を丸々持ち逃げしやがる気か?せめて何か一声あっても良いんじゃねーのか盗賊じゃねぇんだったら何とか言えよ、…って思ってたら逆ギレかよ。
斬っちまうか?いいよな?…いや、異世界での第一村人だしな…やな奴だけど。
何だコイツ!抜きやがったな。抜いたからには自分が斬られる覚悟もあんだろうな!?
もう良いよな?斬っても。
「グッァァーーー!!!」
「ヒッ、ヒッィィィーー!」
髭面の手首を斬り飛ばしてやった、思ったより悲鳴を上げないな。痛みでもっと騒ぐかと思った。
おっ?脇の下を咄嗟に押さえて止血してやがる、腐っても冒険者って所か。
其れよりこの腰巾着は何なんだ?自分が斬られた訳でもねーのに腰まで抜かしやがって、あ?這いつくばったまま逃げようとしてやがる。
「ちょっ、兄貴!何考えてんねん!!」
「ン?ジュウロウお前、関西弁に戻ってんゾ。」
ジュウロウが慌てて落ちた手首を拾って髭面に駆け寄る、どうやら魔術でくっつけようとしてる様だ。
「おい、ジュウロウ!危ねーゾ。迂闊に近付くんじゃねぇよ。」
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」
兄貴ってば!何っ、斬っ、てんの!ヒール!ヒール!っはぁ〜…。くっついた。
も〜、斬った瞬間どばどば血が出て焦ったー。
あ、兄貴がヒゲの剣を拾い上げてアイテムボックスにしまってる。
まぁ、大した剣じゃ無さそうだったけど警戒してんのかな?それにしても斬っちゃうとは…。
あれ?あのヒョロっとした奴は?…逃げちゃたんだね。
仲間じゃなかったのかなぁ、ほっといて逃げるとか無いよね〜。
「ちょっと兄貴!何で斬るの!?大変な事になる所だったろ。」
「はぁ!?お前、アホかヨ!コイツ剣抜いてたろが!オレが斬られりゃ良かったってのか!?」
「そうじゃないけど、いきなり斬らなくても良いだろ!」
「いきなりじゃねーゾ!コイツが抜いたから斬ったんだ!」
「だから、抜いただけで斬るなって言ってんの!」
「抜き身で構えてる奴の前でボーっとしてたら斬られちまうだろが!」
「はぁ〜…、距離とるとか何とか他に手があったでしょ、先ず話し合ってからにしてよね。」
「え???、お前マジで言ってんのか?獲物パクられた上に刃物向けられてんだゾ。普通、何かされる前に斬るだろ!ったく平和ボケしすぎだゾ。」
「それにしても峰打ちとか他にも方法あったでしょ、ヒールでくっつか無かったら出血死しちゃうとこだったよ。」
「知るか!自業自得だろ。ふんっ!」
「全くもう…、あの〜大丈夫ですか?」
「………。」
「何か言えコラ!!」
「ちょっと兄貴!」
「…ああ、すまねぇ。…助かった。」
「ごめんね、ウチの兄貴ちょっと気が短くて…。」
「おいこら、お前!さっき盗った宝石みたいなやつ返せ!」
「ちょっ、兄貴。言い方!」
「いや、良いんだ。俺が悪かった、魔結晶なら返すぜホラ。」
ふんっ!魔結晶って言うのか、にしてもムカつくなぁ。何でオレが小言を言われなきゃいけねーんだ!
それもこれも全部髭面が悪い、怒りが収まらん!
「おい、本当にこれで全部か?まだ隠し持ってんじゃねーのか?ちょっと其処で跳ねろ。」
「やめろってば!隠したりする余裕なかったでしょ!」
「ふんっ!」
「…じ、じゃあな返したんだからもう良いだろう俺は行くぜ。」
「待てコラ。お前、ここの出口知ってんのか?」
「…??。何でだ?」
「知ってんのか知らねーのか、どっちなんだヨ!!」
「しっ、知ってる。だから、抜こうとするな!」
「じゃあ出口まで先導しろ、ちゃんと出口まで行かなかったら分かってんだろーな!」
「はぁ〜、もう…兄貴ってば。」
とりあえずコイツに出口まで案内させる事にしよう、嘘付きやがったらすぐ斬ってやる。
…で、案内させる道すがらジュウロウが髭に何か聞いてた、オレは先頭に立ってモンスターの露払いだ。
本当は髭面にオレが今やってる役をさせようとしたが剣を取り上げた為仕方ない。渡すと危ねーし。
後ろで2人が喋ってんのを聴いてたらココはダンジョンの地下10層らしい、このダンジョンを出ると近くに大きな町もあるらしい。
そうこうしている内に着いたようだ、道中モンスターも出たが数も少なく全て一刀のもとに斬り伏せた。
「着いたぜ、しかし凄い腕だな。どのモンスターも一振りじゃねぇか革鎧ごと切れてたぜ…。」
「刀も良いからな!金属鎧もその気んなりゃ斬れるゾ、お前斬って試してやろうか?」
「も〜、兄貴。いい加減そんな態度やめなよ。」
「ふんっ!」
道中のモンスターは兄貴が楽勝で倒してそれを俺が結晶化した、ヒョロっとした奴がしてたのを見て兄貴がやってみろってさ。結構、簡単だった。
結晶化の魔術ってこういう時使うんだね。島でもやってたら良かった、気付かなかったけどね…。
髭の人は、子供がこんな凄腕なんて誰も思わねぇしブツブツ…とか言ってた。子供に限らず人の上前はねんのはやめた方がいいよ。
連れて来られたのは小さい部屋だった、途中で上り階段もあったけど一気に一層に出るゲートがあるとの事でここまで来たんだぁ。あの転送する陣だね。
「これに乗りゃいい、地下一層にあるゲートに飛ぶ。」
「本当!そりゃ楽チンだね。じゃぁ行こうか。」
「待て、ホントに一層につながってんだろーな?」
「もう…兄貴、疑り深いよ。」
「お前が単純すぎんだゾ!飛んだ先がモンスターハウスだったらどーすんだ。」
「ああ、疑ってんなら俺が先に行くぜ。其れなら安心だろ?其れに万が一モンスターが居ねぇとも言い切れないからな、様子見て一度戻って来るから待っててくれ。」
そう言って髭の人はさっさと行ってしまった、兄貴は何か腑に落ちない顔をして腕組みしてた。
でも追っ掛けて行かないとこ見ると待つ事にしたようだ。
「あっ!あの人に剣返してないよ、モンスターが居たら危ないんじゃない?」
「様子見て戻るだけだし、武器なんて渡したら向こうで待ち構えられて危ねーだろ。」
「モンスターより兄貴の方を怖がってるしそんな事しないんじゃない?」
「ん?怖がって…そうか!逃げやがったな!」
クソッ!迂闊だった。武器がねーから一人で行かねえだろって思ってた。
オレは直ぐにゲートの陣に乗り後を追ったが向こう側には案の定、髭面の姿は無かった。
一呼吸遅れてジュウロウもゲートから出て来た。周りを見て髭面が居ない事にキョトンとしている。
「おい、ジュウロウ!早く来い。今ならまだ追いつく!」
「ちょっと、もういいじゃん。怖がってるし追い掛けなくても…。」
「ここが一層じゃ無かったら出口が何処か分かんねーだろ!」
「あっ、そっか。でも兄貴追いついたら斬る気でしょ、ダメだよ。」
「分ったよ、斬らねーから早く追うゾ。」
そう言うや否や、兄貴は転移先のゲートがあった部屋から駆け足で出て行く。
俺も遅れて後を追う、暫く小走りで髭の人を追い掛けたがその姿は未だに見えなかった。
それにしても兄貴は迷い無く追い掛けてるが、姿も見えないのに何で追う方向が分かるんだろぅ?
足跡?無いよねそんなの…。このダンジョンは勿論、迷路の様になっているのでここまでも分岐点が沢山あったのに兄貴は迷った素振りは無かった。
「クソッ、ミスった。もう分かんねー。」
「へ?どっちか分かんなくなったの?」
「いや、アイツがいるのはあっちだが分岐が複雑になってて離れちまった。クソッ!」
兄貴は左手の壁がある方を指差しその向こうに視線を向けてた。当然そっちは壁が邪魔で行けない。
兄貴が言うには髭の人の足音で向かってる方向を察知して、其方に近付く分岐路を進んでいたみたい。
足音なんて全然聞こえないけど?って言ったら壁を何枚か隔てた向こうから聞こえてるらしい。凄い地獄耳…。
さっきの分岐点は入って直ぐに大きく通路が曲がってたから進み間違えたみたい。
まだ髭の人の場所は把握しているみたいだけど、距離が開いてどの分岐を進めばいいか判断つかないってさ。
「ぐ〜、あっちに居んのは分かってんのにぃー!」
「まぁ、もう一層なんだから地上まであと階段一個じゃん。ゆっくり行こうよ。」
「だ・か・ら!今が本当に一層なのか信用出来ないって言ってんだ!…おっし、こうなったら力技だ!!」
兄貴は髭の人がいる方の壁に向かって腰だめに力をためる、ぐっと引き絞った拳を一気に開放して眼前の壁に叩き付ける。
ドガッっと重い衝撃音が響き石壁が砕け散る、続けざまに次の壁、その次の壁と連続で殴り崩していく。
「GOGAAAAAAAAAAaaaaaaaーーーーー!!」
「うっひゃ〜、何かもう迷路作った人の苦労とか全無視だね…。」
兄貴は次々と壁を壊し一直線に髭の人の方向に進んで行く。って言うか壊せんだねこの壁、兄貴以外には無理だろうけど…。
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おらおら〜!一直線に壁をぶち抜いて直ぐに追い付いてやる。髭野郎待ってろ。
最後の壁を壊したとき目の前にはこのダンジョンの入口らしきものが見え、外の方を駆けて行く髭野郎の後ろ姿が遠目に確認できた。
あの野郎、捕まえて…と、思ったが入口から仄かに陽が射し込む、タイミング悪く夜が明けた様だ。そう言えば最後の壁を壊す時くらいからパワーがやや落ちてきていたな。
髭野郎は離れた森の中に入って行き、オレの研ぎ澄まされた聴力は最後に馬の蹄の音を聴いた。どうやら隠してあった馬に乗って逃げたみたいだ。
くそっ!…まぁいいか。別に外に出れたし、もうアイツには用は無い。
しかし、あの野郎も今更あんな必死に逃げる意味が分からん。魔結晶も取り返したし出口まで案内すれば解放するのに…、用済みになったら斬られるとでも思ったのか?
「ちっ!逃げられた。」
「まぁ、もう良いんじゃないの?外にも出れたんだからさ。」
「何かアイツが必死に逃げるから追い掛けたが、よく考えると別にもう用はねーな。」
「だね、これからどうする?町が近くにあるって髭の人が言ってたけど。」
「おう!アイツが馬で向かった方向へ行けば町が有るんだろ、あっちだゾ。」
オレ達は髭が逃げた方に延びる道を歩き出した。夜ならひとっ飛びなのに残念だ。
道とは言っても舗装も何もされて無い、土が踏み固められて出来た路面がなんとなく道の様になってるだけだ。
近くにあるって言ってたのに全然それらしい町が見え無い。騙されたか?
既に30分以上歩いているが何も無い平原に未舗装の道だけが延びている。その後更に30分歩いてやっと町の端の農村辺りが見えてきた。
「全然近くねー!!」
「いや、文明的に車とか無いみたいだし。こんなもんじゃない?」
「おい!まだ農地の端だゾ!!あっちに見える町っぽい景色までまだ30分以上かかるゾ!」
そんなこんなで町の外周まで到達した。やれやれだゾ。
「はー、やっと着いたゾ。」
「んー!凄いね〜、かなり立派な町じゃん。」
「まあそだな、城壁?に囲まれてて如何にも中世の町って感じだ。」
「城壁って割には低いけどね、2メートル位かなぁ。あっ、あそこが入口かな?」
「おっ、ソレっぽいな。あそこに立ってる奴に聞こう。」
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「あー、どうもぅ。町に入るにはここからで良いんですか?」
「やあ、小さい弟連れて大変だったろ。他の町から上京して来たのか?ここはまだ外周の農村部の入口だ。この先に町の入場口がある、銅貨10枚必要だから用意しとけよ。」
「え?町に入るだけで金が要るのか?」
「ははっ、そうなんだよボウズ。俺も田舎から出てきた時は驚いたさ、でも金を取らないと食い詰めた輩が集まって困るらしい。」
「町の外で換金する方法はねーのか?魔結晶なら持ってるゾ。」
「あー、外には無いなぁ。もう少し陽が上がれば露天商も出るんだがな、まだ時間が早いなぁ。」
「そうか…なぁ兄ちゃん魔結晶買ってくれよ!多少割安で譲るからさ。」
「ん?ははっ、お前まだ小さいのにシッカリしてんな。兄さんと二人旅か?いいぞ持ってる魔結晶出してみろよ買い取ってやるから。」
「おお!有難う兄ちゃん!相場が分かんねーんだけどコレで2人分足りるか?」
兄貴はアイテムボックスからドサッとモンスターから得た魔結晶等を出した。
門番の兄さんは其れを見てちょっと顔を引きつらせてたが、こんなにたくさん要らないと言って小さいのを5〜6個取って20枚の銅貨を渡してくれてた。
「おい、ボウズ。あんまり町中でこれは出すなよ、ドロップも結構あるし物騒だからよ。」
「ん?そんなに値打ちあるのか?」
「おう、これだけあれば贅沢しなきゃ一月は生活出来る。盗られないようにしないとな。」
「へー、サンキュー兄ちゃんいい奴だな!あっ、そうだコレやるよ。」
兄貴は島で作ったローストベアーを門番の兄さんにあげてた。それ旨いよね。
俺達は門番の兄さんと別れて町の入場口へと向かう。さぁ、どんな町かなぁ楽しみだね。
…で、門番の兄さんはいい人だったんだけど、入場口の係りの人がちょっとね〜。




