第一異世界人発見
オレ達の降り立った場所はテニスコート程の四角い部屋だ、そしてその部屋一杯にモンスターが溢れ返っていた。
島のモンスターと違いそいつらは全員人間っぽいシルエットだったが、毛むくじゃらで犬の頭だったり、毛は無く子供位の背丈だが醜悪な顔でヨダレを垂らした人間とは思え無い容姿をしている。
目の前に広がる最悪の状況にジュウロウは小さく悲鳴を上げた。
「ヒイッ!」
「(おい、大っきい声出すなよ。まだ気付いてねーヤツもいる。)」
「(兄貴、これってモンスターハウスだよ!)」
ジュウロウの言うようにこの部屋はまさしくモンスターハウス、ダンジョン系ゲーム等でよくあるトラップの一つだ。
トラップと言えば落とし穴や弓矢が飛んでくる物を想像するが、ゲームではよく最悪の罠としてモンスターだらけの部屋に閉じ込められるというのがある。それがコレだ。
「(戻ろー、兄貴。…げっ!陣が消えてる。)」
「心配すんな、まだ夜だ。数が多いだけなら何とかなるゾ、近付くヤツはオレが斬るからお前は離れたヤツを範囲魔術でどーにかしろ!」
そう言うなり兄貴は念動力で周辺のモンスターを吹き飛ばし、抜刀する。
カシッ ィィィィィィーーーーーーーーーーン……………。
兄貴はあっという間に手近にいたモンスター数体を斬り払った。
直後、近くのモンスターから伝播して続々とこちらに殺意を向けてくる、数十体の怪物が一斉に踊りかかってくる様子はまるで地獄の一風景だ。ブルブル。
奴らの中には人の様に防具を付けたり武器を持った個体もいた。
人型の生物が剣を振り上げ自分に殺意を向けてくる、その怖さといったら何とも形容しがたい物がある。
八方から大量のモンスターが俺達に迫ってくるが近い順に兄貴が斬り伏せ、刀が届か無い所は念動力で吹き飛ばしてくれるので未だ俺に迫って来れる奴は皆無だ。ちょっと安心した。
念動力で吹き飛ばされたモンスターはメキョっと嫌な音を出して潰れ気味に数メートル飛んで行く、凄い威力だとは思うが範囲は狭い。精々固まってる2〜3匹を巻き込む程度だった。
「おい、ジュウロウ何ぼーっと見てんだ!魔術は!?ま、じゅ、つ!!」
「はっ!そだ、ゴメン。《アクアウェイブ》」
ジュウロウが放った魔術で部屋の中に津波が発生し、近場の数匹以外のモンスターは押し流され向こうの壁に叩きつけられた。
しかし、直接的な攻撃力はそう無いのか絶命させるには至らず、波がおさまると再び蠢き出した。
「《ファイアゲイザー》」
ジュウロウは部屋の端に追い詰めたモンスターめがけ、其奴ら全てを飲み込む炎を吹き上げさせた。
モンスターの断末魔が響く中、オレは取り残しの奴等を斬っていく。
近辺の奴等を始末し終えて、ジュウロウの魔術で生き残ったモンスターに取りかかろうかと思ったが…、一匹も動く様子が無い。マジか…。
魔術二発で終わりとか殲滅力が半端ねー。って言うか初めから距離が開いてればファイアゲイザーのみでカタがついてた。最初ビビってたわりにコイツの方が怖い…。
「ふー。何とかやっつけれたねー。」
「お、おう。スゲー威力だな魔術って…。」
「いや、威力自体はそうでも無いよ、でも範囲が広いからこういう場面じゃ便利だよね。」
「オレは単体戦向きの能力しかねーからなぁ…。」
「まぁ、向き不向きだよ、俺は接近戦苦手だし。」
「ん〜、でもな〜…。」
でもその接近戦もこれからは付与魔術でカバーするけどね。ふふっ、兄貴いらない子計画進行中です。
ふと見ると、兄貴が自分の正面を見つめてブツブツ何かを呟いている。
「よし、決めた!スキルをとるゾ。」
「へ?何の事?」
「ランクアップボーナスだ、オレは新スキルにかける!」
「あっ、いやそれなんだけど数値アップの方が上げた時についでにMPとかも上がるかも……」
「ポチッとな!」
「あっ…。」
どうやら兄貴は魔術が使えないのが随分引っかかっていたみたい、ランクアップで手に入る新スキルで魔術関連が出る可能性にかけた様だ。
どうだろう?魔術出たかなぁ?うん、今確認してるのかな。あっ、ガクッと膝まづいた…駄目だったんだね。
「あ〜…、あのーどうだった?」
「駄目だ…そもそも戦闘系スキルですら無い…。」
「…っぽいよね。でもまあ、スキルならなんらかの役には必ず立つし。」
「コレだぞ、……。」
兄貴は自分のステータスを俺に見える様に向けてきた。
《スキル》魅了:1.00
詳細説明ー力を認めさせた相手に魅了効果
グッ…、微妙。兄貴がへこむのも分かる。
これが魅了効果のある魔術とかなら、任意で相手を虜に出来て良いかもしれないけど…。
この説明の感じじゃ常時発動型スキル、しかも条件が相手に自分の力を認めさせる必要がある。
仮に魅了出来てもその相手は自分の力を認めてる、つまり自分より弱い訳だから手下をドンドン増やしたい人ならともかく、兄貴みたいに一人で自分勝手に生きたい人には何のメリットも無いよね。ご愁傷さま。
兄貴はまだショックから立ち直れないのか膝立ちでうな垂れてる。
そんなにへこまなくても…うーむ、見てるこっちが辛くなってきたので視線を上げて周りを見回す。
「あっ、そうだ兄貴。いっぱい倒したからLP吸収したら?寿命伸びるんじゃない?」
「ん〜、あぁ。そーだな、はぁ〜。」
はぁ、ジュウロウが言ってるし生命の強奪でもしとくか、ふー。
気怠く立ち上がりLP吸収でもしようとしていたら、部屋の外から複数の足音が聞こえる。
ジュウロウはまだ気付いて無いみてーだが夜のオレの聴覚は其れをとらえてた、人数は2人。
一人は軽装、もう一人はしっかりした鎧を着込んでいる感じだ、ガシャガシャした音を出しながらこちらに近づいている。
「誰かこっちに来るな…。」
「え?またモンスターかな、やだなぁ。」
その2人は品の無い口調で喋りながらオレ達がいる部屋へと入ってきた。
先頭の奴は髭面で口髭と顎髭がモミアゲまで繋がっていた、コイツは金属鎧を身に付けてる。
後ろを付いて来てた奴はヒョロっとしてて如何にも腰巾着って感じだ。
「ほーら見ろよ!俺が言った通りだっただろ、ガハハ!」
「ヒヒヒ、本当だなミッツさんの言ってたみてーに棚ボタが残ってら。」
ミッツと呼ばれた髭面はオレ達なんて居ないかのように周りに転がったモンスターを見回している。
腰巾着も同様だ。
「おい、サッサと結晶化しちまえ。時間が経っちまうと折角の獲物がパーになっちまうぜ。」
「ヒヒッ、コボルトにゴブリンが殆どだっけど、こんだけあったらドロップも結構出そうだ。ヒヒ。」
結晶化?…どっかで聞いたな。何だったか…。
「おう、早く終わらせて酒場にでも繰り出そうぜ。ゲッヘッヘ。…おう!スゲーぜこっちには山みてぇにモンスターが積んである。」
「いやでもミッツさんよ、良いのかよ。これってコイツラがやったんじゃねぇのか?」
腰巾着はチラチラとオレ達を横目で見ながら髭面に聞いている。
「はぁ!?こんなガキとヤサ男がこれだけのモンスターを殺れる訳ねぇだろう。大方俺達みてぇに深層レベル冒険者の取り残し狙ってこの部屋に入ったんだろ?早いもん勝ちだ、早く結晶化しちまえ!」
「ヒヒッ、それもそうだ。悪いなあんちゃん達。」
オレは不機嫌に睨みながらもコイツラが何をするのか気になって好きにさせることにした。
見てると腰巾着が転がるモンスターに向けて手をかざし、何やらやっっている。
腰巾着が手をかざした方に横たわったモンスターが一瞬輝き、光の粒になって消えていく。
次々と消され消えていくモンスターと、その都度床にコロンと転がる宝石の様にカットされた黒ずんだ石。
同じ様な作業が延々と繰り返されていく…。
その作業の最中、たまに腰巾着が喜びの小さな奇声をあげてた。稀に何かのアイテムらしき物がドロップする様だ。
「ヒャッホー、ヒヒ!見ろよミッツさん大漁だぜー。」
「おお、良いじゃねぇかドロップまでありやがる!この袋に集めろや。」
髭面は自分は何もしない癖に偉そうに腰巾着に指示して、黒ずんだ石とドロップアイテムを袋に詰めさせる。
そして集め終わった袋を腰巾着からふんだくる様に取り上げる、太鼓持ちが少し不満そうにしたが髭面のひと睨みで卑屈な笑みを浮かべ黙ってしまった。
「ガッハッハ!大漁大漁。おぅし、じゃあ行くか。ガハハ。」
「そうだな、ヒヒヒ!」
髭面達はそのままオレ達にはかまいもせず立ち去ろうとする。
「おいコラ!何シカトしてんだ。オレ達が殺ったモンスター勝手に持ってくんじゃねー!」
「(ちょっ!兄貴、やめなよ。もうちょい穏便にいこうよ。)」
「は!?泥棒に何を穏便にする必要があるってんだ?」
「あぁ!?泥棒だと!そりゃぁ俺達に言ってんのかクソガキ!!」
「お前等以外に誰がいんだヨ!何シカトして持ってこーとしてんだ!盗賊か何かかお前等!?」
「(兄貴ってば!そんなケンカ腰はやめなよ。コイツら武器とか持ってるし!)」
「ジュウロウ、さっきからなに小声で喋ってんだ!泥棒に泥棒って言って何が悪ぃってんだ!!」
「泥棒だと、このガキ!痛い目に遭いたいみたいだな!!」
そう言うなり髭面は剣を抜き切っ先を兄貴に向けて威嚇してくる。
ホラぁ!こうなるから小声で喋ってたんじゃんかー!…っと思い右隣に視線を向けると兄貴の目が据わってる…。
えっと…、斬る気じゃ無いよね?流石に人間相手だしねー、警察とかいるか分かんないけどそういう関係のが黙って無いだろうし。そもそも人殺しはね〜。
直後、兄貴の腰の物が一瞬ブレて、一呼吸後に例の鍔鳴りが響き渡る…。
ッ ィィィィィィーーーーーーーーーーン………………。
兄貴は抜刀した状態で刀を右上に振り上げたまま止まっていたが、やがて刀から血を振り切る様な動作の後カチリと納刀した。
うお!ビビった。威嚇仕返したの?
そして脅す様に突き付けていた髭面の剣がガランと床に落ちた。
その手首と一緒に…。




