ゲート
一本道の洞窟の先に有ったのは広がりのある部屋だった、ドーム状に天井が膨らんだその部屋は今迄通って来た洞窟の通路に比べれば随分広い。
だが、中に仁王立ちするソイツの所為かそこまで広がりは感じることは出来なかった。
「おお、デカッ。って言うかアイツこっから出る時とかどーすんだろ?」
「いや、この部屋から出たりしないんじゃない?完全なガーディアンって感じで。」
オレ達は通路から覗き込む感じでひそひそ声で話し合い、中にいるソイツを観察する。
ほぼ天井一杯のソイツの全長は約5m、見た目は岩が固まって出来たマッチョな人形の様だ。まさしくゴーレムと言って良い容姿だった。
「おい、アレってどー見てもゴーレムだよな?」
「だね…はぁ、前の人はダメだったみたいだねアイツがそこに立ってるって事は…。」
「ん?確かここにゲートってのが有るんだろ?アイツをかいくぐってゲートに辿り着いた可能性もあるゾ。」
「そだね!何も戦わなくても良いんだもんね。」
「まぁ、オレ達はやっつけて通るけどな!ははっ。」
「はぁ〜、やっぱり……。」
「よっし、行くゾ!」
兄貴はそう言うなり突っ走って行ってしまう。あんなデカイの相手に考え無しに全く…。
カシッ ィィィィィィーーーーーーーーーーン…………。
鍔鳴りの音を響かせ抜刀した兄貴は走り込みながら力任せにゴーレムに斬りかかる。
「GArrRRRAAAAAAaaaaaaaーーーーー!!!」
獣の様な素早さで接敵した兄貴はゴーレムの手前で跳躍し肩口から袈裟掛けに刀を振り抜いた。
肩から入った刃はサザエのモンスターを斬った時の様な鈍い音をさせて肩口から鳩尾までを分断していた。
「あっ!凄い、斬れた。」
「チッ、クソッ!」
斬れたは良いが全然手応えがねー、クソッ!不自然だ。
まぁ、ガーディアンがこの程度で倒れる訳ねぇだろうな、と思ってたら案の定一度開いた切り口が凄い勢いで元に戻っていく。
「げげっ!兄貴、元に戻ったよ。」
「ああ、さっぱり手応えが無かったからなぁ。砂岩で出来てんのか?サザエの方がまだ硬かったくれーだゾ!」
斬撃は相性が悪そうだ、オレは刀を鞘にしまい素手でぶん殴ってみる事にした。
体格差がかなり有るので跳び上がって頭らしき部位に拳を叩き込む。
ドゴン!と鈍い音がしてゴーレムの頭の表面が砕け飛ぶ、続けざまにパンチをおみまいしてやった。
ゴーレムは殴る度に表面が砕け飛びその衝撃でノックバックするが、破壊された部位は瞬く間に再生されてしまう。
「ふうっ…。力負けはしねーけど決定打に欠けるなぁ。」
「あっ!兄貴、危ない!!」
未だゴーレムからの攻撃を受けていなかったせいか油断していた。
ゴーレムは大きく振りかぶった腕でオレを殴りつけてきた。
「ぐっ!」
オレは両腕をクロスして相手の拳を受け踏ん張った。何とか耐えれる。
打撃を受け切られたゴーレムは、その手でオレの身体を掴もうと手を伸ばして来た。
「おっ、らぁーー!!」
兄貴はゴーレムが伸ばした掌をカウンターの如く殴り飛ばした。
凄い痛いパターンの突き指を想像してちょっとゴーレムに同情しちゃったよ。
兄貴に殴り飛ばされたゴーレムの指先は粉々に飛び散り、これは再生される事は無かった。
どうゆう事?部位ごとに区切られてて一定以上破壊すると再生出来ないのかな?
その後も兄貴のパンチを受けたゴーレムの指先は再生せず、両手の指は全て無くなり既にド◯えもん状態だ。
しかし、相変わらず胴体、腕、頭等の大きい部位は破壊された直後から再生されて元通りになってる。
「おいコラ!お前も見てねーで手伝え!」
「あっ、うん《アクアウィップ》」
ジュウロウは動きを拘束しようとでも思ったのか水の鞭をゴーレムに巻き付ける。
しかしゴーレムに巻き付けた鞭はシュ…っと瞬く間に奴の身体に吸い込まれて消えてしまった。
鞭が巻き付いた跡が暫く残った以外は何ら影響を与えて無さそうだ。
「クソッ!ジュウロウ、オレがぶん殴ってる間に何か良い手を考えろ!ってコノッ!!」
そう言う間にもゴーレムは殴りかかり、其れを弾き返しながら兄貴は無茶振りしてくる。
って言うか何の策もなく突っ込んで行ったのはあんただよ。
今の所、特に苦戦している様子もなく兄貴は余裕を持って相手をノックバックさせている。
危険を感じる程では無いが決定打に欠ける為こう着状態だ。このままだとジリ貧だよね。
兄貴がゴーレムを抑えてる間に手を考えてみる。
…、そういえばさっきのアクアウィップが触れた時直ぐに消えたけど、レジストされた感じじゃ無かった。
兄貴も言ってたけど砂岩っぽいから水を吸い込んだのかな?
それならボトボトに水を吸わせて凍らせたら膨張して脆くなるよね、でも…凍らせるような魔術は俺は使えないし…、火で炙って沸騰させる!?
それなら出来そうだ、一気にやれば気化した水が砂岩内部を脆くしてくれそう!
「兄貴、離れて!《アクア》……《ファイアゲイザー》」
俺はドンドンMPを込め大量の水でゴーレムを包む様にアクアを創り出す。
創り出した水を吸わせて黒ずんだゴーレムの足元からファイアゲイザーでボウボウと炙ってやった。
「おおっと、うひゃースゲ〜火力だ。」
ゴーレムは逆らう様に踠いていたが強火力で炙られてあっという間にパサパサに白ぼけた色合いになった。
「今だよ、兄貴!ボコボコにしちゃって。」
「おう!」
兄貴は飛び上がりパンチを連続で食らわせた、さっきまでと違い一発〃での砕ける量が明らかに多い。
打撃音も先程より軽くなり、ゴーレムは一撃毎に砂の様になって吹き飛ばされていく。
「おら、おら〜!オレ様の相手をするには百年早いわ!わーはっは!」
しかし、兄貴のセリフは一々悪党くさい。ゴーレムだってまだ何もしてないのにいきなり殴られて挙句に粉々ではうかばれないだろう。
まだ見た目が子供だから戯れてる様に見えるが中身を知ってる俺からすれば完全に悪役だよ。まぁ、俺も炙ってたので人の事は言えないが…。
そうこうするうち兄貴は最後の脚部辺りの砂岩を踏み潰す。フィニッシュだ。
其処にはこんもりとした砂山が残った。
「ふっはっはー!正義は勝つ!」
「一遍の正義もなかったよ…。」
「ん、こりゃなんだ?」
兄貴は砂山の上にキラリと光る塊を見つけて摘み上げた。宝石の様にも見えるね。
「何だったのそれ?」
「アイテム鑑定してみたら、ゴーレムの魔宝石ってなってるゾ。」
「何に使うんだろう?」
「うーん、説明にはモンスターの魔力やスキルが結晶化した物ってなってるけど…使い方は分かんねぇ。」
オレは取りあえず後回しにする事にして宝石をアイテムボックスに放り込み、ゲートとやらを探す事にした。
ゲートは直ぐに見つかった、ゴーレムがいた背後の陰で床が発光しそこに陣が描かれていた。
「おお!これか、ん!?何だ、レベルアップ!?」
「あっ、俺もレベルアップの音がした!」
陣を見つけた瞬間にレベルアップの音がした。
実際にレベルアップした訳じゃねーけどな…、オレ達は脳内書記で色々調べてステータスに大きな変化があった場合に通知音がする様に設定してあったのだ。視界の端に出るゲージ同様チョコチョコ弄れる。
その着信音が某有名RPGゲームのレベルアップの音なのだ。
因みにその時に時計表示やアラーム機能なども無いか探したがそう言うのは無かった。
微妙に痒いところに届かん…。
「ステータス見たらランクがアップしたみたいだね。」
「おう、何か選択肢が出てんな?」
《ランクアップ》
条件を満たした為ランクアップした
種族特有のスキルを得るか、ステータス補正を得るか選択できる
…って事だ。
ゴンベイにゲームみたいにステータスとか見れたら便利だ、と言ったらその通りにはなってるがやはりゲームとは違う。
そもそもゲームの様に経験値を稼ぐとか出来ない、オレが島のモンスターを何十匹と狩ってもランクアップしなかったし、スキル等の数値の上昇もその数に比例してないからだ。
体験したり慣れて実際に身になった分だけの上昇だ、ランクアップもゴーレムを倒したからじゃなくゲートを見つけたのがきっかけだった。
まぁいいや、今はランクアップの選択だった。
…って言うか、こういうランクアップボーナスの振り分けとか、まんまゲームみてぇなんだけどな。
「おい、ジュウロウ。お前も同じの出てんのか?」
「うん、スキルか数値アップを選べるみたいだね。どっちがいいかなぁ?」
「そうだなぁ、スキルは何が出るか選べねーみてぇだし無難なのは数値アップかな?」
「そだね、あっ!1.00も上げられるよ、分割して数種類にもふれるみたい。…でも選択出来ないヤツもあるねワイルドカードとか人体理解みたいな+〜って感じのは選べないね。」
「そうか、やっぱ上げるなら長所を伸ばして短所を補う感じにするべきだろうな。」
「うん、じゃぁコレかな?…ポチッと。」
「うっ、え?もしかして今の決定したのか?」
「うん、そだよ。何で?」
「いや、別にお前自身の事だから好きにすりゃいいけど速攻で決めんだな…。やり直しとか出来ねーだろ?コレ。」
「まぁ、大丈夫だよ悩んでも分かんないし、兄貴が言ってたみたいに短所を補う様にちゃんと数値の低いスキルを上げたし。」
「…違げーだろ。それだと短所を伸ばして長所がボヤけてんだろが!」
「え?どう違うの。」
「極端に言えば短所なんてほっといて長所のみを伸ばす、その長所によって短所を補える様にするんだろが。まぁ、たまに教育者とか指導者でもお前みたいに勘違いしてる奴もいるけどな。」
「それじゃぁ何上げれば良かったの?」
「例えばお前の場合、敏捷とか技量関係を上げれば防御力に不安があっても回避すりゃいいし、攻撃面でも手数が増えるから低い腕力もカバー出来るんじゃねぇの?それか、他の全部捨てて魔術特化させるとか?問答無用の高火力で焼き払えば他の短所とか関係なくねぇ?」
「兄貴の夜特化を見てると尖ったステータスはちょっとね…。」
「まぁな、昼のお昼寝時間なんて手も足も出ねーもんな…。で、結局お前は何上げたんだ?」
「付与魔術を2.05まで上げたんだぁ。」
「…何で付与魔術?どうせ魔術系上げるなら大元の魔力上げりゃ良いじゃねーか…。」
「いや〜、接近戦が全然だからこれで何とかなるかなぁって。」
「へ〜、自分で接近戦の最中に攻撃魔術使えんのか。スゲ〜器用だな。」
「え、斬り合ってる最中に?ムリムリそんな余裕ないよ。」
「出来ねーんならお前の攻撃力が上がってねーだろ、オレには付与魔術効かねぇし。お前は何がしてーんだ!もうスキル名ワイルドカードから器用貧乏に変えろ!」
何だよ兄貴ってばプンスカ怒り出して、まぁ確かに俺個人の火力も、チームとして見たそれも一切上がった事になって無いからねぇ。
でも一人の時にモンスターに急に接近されたりしたら怖いんだよ〜、前のままでも何とかはなると思うけどもっと余裕が欲しかったんだぁ。怖いのやだし。
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本当、ジュウロウは昔からこうだな。浅く、手広く。
まぁ、落ち着いて考えてみるとオレっていう前衛に頼らなくてもよくなるんだから、一人で戦闘出来て良いのか?
あれ?もしかして又、オレの事いらない子にしようとしてる?
極端に考えてみよう、ジュウロウが前衛…敵が離れてれば魔術、近付けば斬り合う。オレが後衛…敵が離れてればいらない子、近付いてもいらない子。
ふわー!夜以外は全然いらない子だーー!
まずいぞオレ!よく考えろオレ!
そうだ!今回のステ振りで巻き返すのだ、先ずは身体ステータスに振ったとして…ダメだ元々0.5しかないのに1.5になったところでジュウロウに毛が生えた程度でしか無い。しかも一ヶ所だけ。
スキルの数値アップにする?使えそうなのは念動力位か…ダメだ!結局夜しかメリットが無い、夜はこれ以上パワーいらねー。
他には…超再生をもっと上げるか?日の光のダメージをこれで相殺してるから昼はあんなお子様ステータスなんだろ?じゃこれで昼も多少パワーが上がるか?
いや、しかし確証が無い。試して夜の再生力だけが更に上がりましたとか目も当てられ無い。
いっその事、新スキルにかけるか…ぐぅ、何が出るか分からんのは怖すぎる!今欲しく無いゴミスキルがでる可能性が往々にしてある。
どうする?クソッ、もういっそ殺ってしまうか!?
はっ!落ち着けオレ!ジュウロウを亡き者にした所で何の意味も無い。
何でそんな考えに至ったんだ?ジュウロウの所為で悩んでる、だから悩みの元凶を消してしまえって事か?
ダメだダメだ、落ち着くんだ。オレは昔から目的の為に手段を選ばず、手段に没頭するあまり目的を忘れてしまう癖がある。ヤバイヤバイ。
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何だか兄貴があたまを抱えてうんうん唸ってる。
そんなに悩む事かな?まぁ、兄貴はこういうの凝るからね。
ああそうだ、ランクアップの選択を済ませた瞬間にランク名が魔導の道程に変わりMP総量も結構増えた。
その後くらいから身体のふしぶしが軋んで痛いんだけどね、成長期のあの骨がのびてる感じのやつ。声に出す程の痛みじゃ無いけどね。
兄貴に言うとまたMPが増えたのを僻みそうなので黙っとこ。
「ねぇ、兄貴ってば。そんなに悩むんなら後でゆっくり選べば?別に期限とか無さそうだよ。」
「ふわ!えっ、そっ、そうだなうんうんそうしよう。」
うおー、焦った。ジュウロウに心の声が漏れたのかと思った。うっかり口に出して無いよなオレ?
ここはジュウロウの言うように後でゆっくり考えよう。
「よし、じゃぁこのゲートとやらで脱出するか!」
「うん、行こ。やっと島から出れるね。」
オレ達は二人で「せーの」とタイミングを合わせて光る陣の上に乗る。
一層輝きを増す陣の所為で目が眩みエレベーターに乗ったような浮遊感に包まれた。
次に目を開けたオレ達は石造りの大部屋に立っていた。
その部屋はとにかく変わっていた。いや、別に部屋の造りはタダの四角い空間だ。
じゃぁ何が変わってるって?だってその部屋、モンスターが山盛りひしめいていたんだゾ……。




