新しい武器②
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オレは出来上がったインゴットを使い成型陣を発動する。
陣の発光の後、そこには想像していた通りの一振りの剣が出現した。
だがその剣はやや思い描いたのと違う、一回り大きい気がする。
刀身は7〜80cm、身幅は10数cmくらいか?ヒルトとグリップまで同一の金属で出来た剣だ、一般的な剣の断面が菱形なのに比べこの剣の断面は六角形を潰した形だ。
ステータス鑑定すると《SUS440のブロードソード》になっていた。
手に取ってみたがそこそこの重量がある、夜の今は何の問題も無く振れるが昼は持ち歩くのも辛そうだ。
試しに手直な木に向かって振り抜いてみたらオレの胴程もある木の幹を断ち切る事が出来た。
まぁ、ヴァンパイアの怪力あってこそだとは思うがそれを差し引いても強度、斬れ味共に申し分ない。
「うーん、何だかなぁ……。良いんだが昼の事を考えるとオレには重すぎるナ、ジュウロウに使わせるか?いや…それにしても重いだろ。」
もっと軽くする為、一度分解陣で粉末状に戻し半分ほどに分ける。
面倒だが必要な作業だ、成型陣で一発とはいかない。
この成型陣だが字の如く型にはめた様な成型しか出来ない、補ったり削り取る作業は分解陣と錬成陣でまかなうしかない。
鋳型に流し込む様なイメージだ、2kgのインゴットからは2kgの剣しか作れない1kgの剣を作るならその重量のインゴットがまず必要だ。
つまりは質量の小さな剣に作り変えたかったら、一度分解陣で粉末状に戻したあと必要な量のインゴットにしてから成型陣で剣にする必要がある。
粉末状態からいきなり成型陣にかけると砂鉄の剣になって全然別物だ、これは試したので間違いない。結合力の差か?
「めんどくせーナ、もう…。やっとインゴットになった、せーのっ《成型陣》」
陣が浮かび上がり発光のあと細身の剣が出来上がっていた。
身幅は先程の物より随分小さい3cm強かな?一般にレイピアと呼ばれる物より気持ち幅広にしたので斬り払うのもしやすそうだ。剣の断面はおなじで六角形を潰した形になってる。
鑑定結果は《SUS440のワイドレイピア》、よくあるレイピアはヒルト部分がナックルガード兼用で装飾過多の物が多いがこいつは単純な十字架型だ、刀身の長さも70〜80cmとレイピアの割には短い。
何度か空を斬り出来ばえを確かめる、ビュビュっと風切音が聞こえだいぶ軽く扱い易くなっている。
「はははっ!良んじゃねー、飾りっ気は無いが武器としては上等だ。よし、ついでに前から欲しかったデカイ鍋も作るか。」
その残ったステンレスで包丁を作り、さらに残ったものに鉄のインゴットを足してデカイ寸胴鍋を作った。
一通りの作業が終わり満足げに出来上がった物を眺める、うーむ欲しい物が揃うと収集欲が満たされてニヤニヤしてしまう。
剣も出来上がった事だし今はもう必要に迫られる物もこれといって無いナ。
まだ夜の時間はあるし、さて…何をしよう。
「そういえば一番最初に作った合金インゴット、……あれ何か見た事あるんだよなぁ…。」
最初、粉末状態から錬成せずに幾つかのインゴットどうしを錬成陣にかけたとき、メラメラと変わった模様が出ていたのを思い出した。
試しに残ったインゴットでもう一度メラメラ合金を作ってみた。
「うーん、これ…もしかしてダマスカス鋼に似てる?」
ダマスカス鋼とはウーツ鋼とも呼ばれる木目の様な多積層の模様をもつ鋼材だ。
これで作った剣は折れず、曲がらず、良く切れると日本刀の様な謳い文句がついている。
逸話では、もし絹のネッカチーフが刃の上に落ちると自分の重みで真っ二つになり、鉄の鎧を切っても刃こぼれしないと言われてるが現在はダマスカス鋼の製法が失伝しており幻の金属となっている。
模様だけは似たダマスカス調の物は現在でも作られているが本物はカーボンナノチューブ構造になっていてウンタラカンタラ……、とにかくスゴイしツオイのだ!
「で、とーぜんコレはダマスカスじゃねーよな。そもそも積層って言うよりパズルみたいに溶けてくっ付いてるだけだ、これで剣作ったら金属どうしの接地面でポッキリすぐ折れんだろーナ。」
オレは日本刀を作るときの要領で…、とは言っても勿論そんなもん作った事はない。
子供の頃、同じ村に日本でも指折りの刀鍛冶がたまたま住んでおり小学校の職業見学で製造工程を見に行った思い出がある程度だ。
そう言やその刀鍛冶のこどもが中学の剣道部で後輩だったな……。
その時の記憶を脳内書記で確認しながら手探りで鍛造の真似事をしてみる、とうぜん炉も無ければ鍛造道具も無いのであくまでマネだ。
本当なら赤く熱した金属を伸ばしてたたんでを繰り返すのだろうが…炉は無いしどうやって伸ばす?
「んじゃ、取り敢えず念動力で引っ張ってみるか?」
メラメラ合金を念動力で無理矢理引っ張りそれを折りたたむ、そして錬成陣で一つのインゴットに錬成。
「ふむ、さっきよりは積層目の方向が揃ってきた。もっとやんねーとダメだ。」
オレは引っ張ってはたたみ錬成する、念動力の非常識なパワーでやってるから金属を加工している見た目じゃ無い、練り消しゴムで遊んでるみたいだ。
2〜30回繰り返してると段々と色が変わってきた随分黒ずんだ地に銀白色のラインが通っているインゴットが出来た。
ステータスを見ると《???のインゴット》に変わっていた。
「おおっ!、ハテナって事は新合金って事だろ?名前がまだ無いってんだからさっきの合金とも違うはず。ひとまず成功だろコレ!」
新合金の名前だが勿論《ダマスカス鋼のインゴット》にした、ふふっ!本物とは勿論違うだろうが構やしないこの世界ではコレがダマスカスだ。
だがステータスの詳細説明で驚く事実が判明した、説明文に《カーボンナノチューブ構造を持つ、強度及び靭性に優れた金属のインゴット》とあったのだ!。
たまたま混ぜた合わせたインゴットの種類やこの世界の鉱物に含まれる不純物、それに錬成陣の不思議効果が加わって幻の金属が完成してしまったのか?……。
「ともあれ、剣に加工しないとな。念動力で練ってる間に結構量が減っちまってるナ、折角だから日本刀に仕上げたい所だが……。」
念動力で伸ばしてたたんでの作業中にパラパラと細かな破片が落ちていき、何度も繰り返すうちに結構な量が減っている。
金属のデトックス的な感じで要らない物が排出されているんだろう、とか思ってそのままにしていたのが不味かったか。
「まぁこの量でも短めの刀なら出来んだろ、子供サイズで丁度いいかもな。《成型陣》」
脳内書記の日本刀に関するデザイン、寸法を思い浮かべながら成型陣を発動する、参考にしたのは小太刀だ。
陣の発光が収まり目の前に一振りの日本刀が現れた。
「ヒュ〜!良いね良いね。立派なのが出来た、近所に住んでいた刀鍛冶の作刀をパクっちまったが異世界だし問題ねーだろ。」
その刀鍛冶の作る刀の特徴で樋が二本通ってると言うのがあった、オレの刀もそれにならって樋が二本だゾ。
樋とは鎬と棟の間に切っ先まで走る引っ掻き溝だ、樋の役目は刀の重量を軽くする、曲がりにくくする、衝撃を緩和するなどの効果があるそうだ。
「鑑定っと《ダマスカス鋼の小太刀》?あれ?この世界にも刀が存在するのか、既に名前が小太刀ってなってる。」
何はともあれ出来上がった小太刀を仕上げる、剣と違い刀身の部分以外はまだ無い。
握りの部分は木で作って目釘で止める、鍔は同質のダマスカスで作った。
握りの部分には本来なら絹糸を巻いてあった様な気がするが、無いので熊皮で作った革紐を巻いた。
「おおっ!これなら何処から見ても日本刀だ、我ながら良い出来だゾ。」
黒い刀身に白銀の波紋が木目の様に複雑に走る、なんとも言え無い美しさのある刀が出来上がった。
「ここまできたら鞘も欲しいな、木から作っても良いが漆なんて無いから黒塗りに出来ないしナ。そうだ!いっその事、鞘もダマスカスで作っちまえ。」
オレは少し残しておいたダマスカス鋼のインゴットで薄い金属製の鞘を作成する。
柄頭などの細々とした日本刀に必要なパーツもこの時作っておいた、ベルトから吊るして腰に装備できる様に剣帯も皮で作った。
「かっ、完璧だ。我ながら自分の才能が恐ろしい…、よし試し切りをーーー」
カキッ ィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……………。
鞘から抜きはなった瞬間、高い澄み渡った金属音が響く。
「うおっ!何だこれ!?鍔鳴り?スゲー響いてるゾ、鞘までダマスカスで作ったから共鳴してんのか?」
「…ワハハッ、面白れーチョットだけ試し切りに行ってこよ。」
また島中を廻って大量にモンスターを狩ってしまった………。
ヤバイ、一応一種につき何匹か適当に残したから大丈夫だとは思うが調子にのり過ぎた。
浮かれてたら朝が来た…、そうだ!ジュウロウにレイピアの方をやって洞窟攻略に行こう。
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「よっ!ジュウロウ、おっはー!」
「え、ああ。おはよう、何かテンション高っ!」
「まあまあ、これ見てみ。」
カキッ ィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……………。
「うわっ!何それ!?何処から盗んできたの?」
「盗んでねー!作ったんだよ自分で。」
「へー、それにしても良く出来てるね。美術館に並んでるヤツみたいだよ。」
「そーだろ!この樋が二本なのがミソだ。近所に居たろ?刀鍛冶、そいつの作刀をパク…リスペクトして参考にしたんだ。」
「パクッたんだね……そういやそのデザイン俺も見た事あるよ。」
「パクッってねーよ?リスペクトだゾ。」
「意味分かって言ってる?さっきから刀鍛冶、刀鍛冶って尊敬の念のカケラも感じられないよ。」
「何言ってんのかな?師匠には足向けて寝た事無いから。」
「師匠!?喋った事も無いのに逆に失礼だよ!精々、鍛冶師さんの息子と顔見知り程度でしょ。」
「いや、中学で一個上の先輩にも他府県からわざわざ刀鍛冶修行に来てた人もいたゾ。」
「へー、その人とは懇意にしてたんだ。」
「いや、ろくに喋った事もねーな。」
「じゃ、何で今言った!?他人じゃん!益々リスペクトしてるって言うのが疑わしいよ、もう斬られちゃえ!」
兄貴が言うには暇にあかせて色々やってたら錬金術が使える様になって、それで武器を作成したらしい。
むう!ゴンベイ!これ以上この人に色々能力与えたら危ないって。
「スゲ〜だろ?良い〜だろー。あっ!お前にはこっちやるよ。」
「ん?あっ、結構シッカリした剣じゃん。あの〜、兄貴みたいな鞘は?」
「うん?面倒くせーから作ってない。このインゴットやるから自分で作れよ。」
「え〜、やり方分かんないよー。ここまでやったんなら鞘まで作っといてよ。」
「お前、錬金術使えんだからすぐ作れるって。大体もう朝だからオレMP的に無理。」
俺と兄貴は今晩例の洞窟に向かう事にしておれは鞘作成、兄貴は主にお昼寝と新しい刀の素振りをしていた。
鞘作成は失敗を重ねるとMP消費が馬鹿にならない上に難しかったが中々良い物が出来た。
ついでにヒルトに改良を施して薔薇の蔓のようなナックルガードを付けて仕上げてみた。
兄貴が「どんなけ器用なんだお前!?」と驚いてたが、コッチにしたらゼロから錬金術使える様になって日本刀一晩で作っちゃう人に言われたく無い。
まあ、兄貴は俺が別部品で作ったナックルガードを、一部だけ錬成陣を使ってくっ付けた事に驚いた様だけど……。兄貴は出来ないのだろうか?
ふー、やだなぁー。もうじき夜が来る、兄貴の夜が………。




