新しい武器
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(前回までのあらすじ的なヤツ)
そしてジュウロウは兄を背負ったまま大量のモンスターに遭遇。
遂にその実兄を見捨てる決断を下すのであった!
………などという最悪の事態には至らずなんとか浜辺まで逃げおおせた、モンスター達は洞窟から出てくる様子はない。
流石に実の兄を見殺しにするのは夢見が悪いし、良かった良かった。
「ッハァー!疲れたー。」
「…スピー…スピー。」
「…まだ寝てるよ、それにしても疲れた汗だくだよ。」
兄貴を背中から降ろし寝かせる、しかし浜辺は日影が無く暑い。
俺はロックウォールで天井を作った要領で簡易パラソルを作った、石柱で持ち上げた水平の石板は巨大パラソルになる。
「ふー、影に入ると随分マシだ。風も欲しいなぁ、《ウインド》」
影で風にあたってると汗も引いてきた、ついでに風上にアクアで作った水球を浮かべる。
水が気化した涼しい風が吹く、うーん涼しい。
それにしても兄貴は日が一番高くなる時間帯にいつも寝てるよね。
それに全然起きないって言うか起きる事が出来ない?かなり危ないんじゃないのこれ。
俺も兄貴が起きるまでお昼寝でもしようかな、周りにはモンスターの気配は無いけどちょっと怖いので一応壁で囲っとこう。
俺はロックウォールで日影の周りを囲む、風が入るように一杯スリットを空けておいたが分解陣を使ったのでMP消費は控えめだ。
「ふぁーぁ、何だか兄貴があんまりグースカ寝てるもんだから本当に眠くなってきたよ。」
「…スピー…スピー。」
「じゃ、ちょっとだけ寝よっと。……うにゃむにゃ…。」
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「…んっくー!…はぁーよく寝た。あれ?ジュウロウ、何で寝てんだこいつ。」
「……んー、うにゃむにゃ…。」
「あれ?オレ達洞窟に入ってかなかったか。…おい!ジュウロウ、おい!!」
「うあ、むーんもう兄貴何で最後のゆで卵とるんだよぅ。」
ジュウロウが寝ぼけてやがる、ここは何処だ?急に眠気が来てから記憶が曖昧だ。
「…何言ってやがんだ…、おい!どーなった?何でここで居んだヨ。」
「ふえ?ああ、兄貴起きたの?」
「オレは起きてるヨ!お前こそちゃんと起きたのか?」
ジュウロウに洞窟での事をかいつまんで聞いた。
どうやら冬眠レベルで深く寝入ってしまってた様だ。
「そうか、スゲー眠気だったけどあの状態で寝入っちまって起きねーなんて異常だな。」
「そうだよ、背負って走るの大変だったんだからね。」
「いや、悪り〜。助かった、こりゃ気をつけないと危険だな夜眠くならない反動だろうけど……それにしてもオレって弱点多くないか?」
「だね、昼は子供並のパワーで1〜2時間寝てて動けないし、灯り代わりの魔術でも触れれば消滅だもんね。」
「クソー、武器もねーし昼間は何にも出来ねぇじゃねーか。」
「武器があっても昼のパワーじゃ無理ないんじゃない?魔術も弾かれちゃうしこれじゃ先に進めないね。」
「夜に行けりゃあどうにでも出来そうなんだが……。」
「夜だと洞窟が海の中だよ、息止めてても戦闘になったらすぐ苦しくなっちゃうよ。あっ、兄貴もしかして夜なら息しなくても大丈夫なの?」
「どんな化け物だよ!息しなきゃ死んじまうだろーが。」
「だって夜は化け物じみてるからもしかしたらと思って……。」
「何とか海中で呼吸する方法ねーかな。……お前のウインドとかで顔の周りだけ空気溜めとくとか出来ねーの?」
「分かんない、やってみる?」
オレ達は海の方に入って行き顔の周りだけ空気を纏う方法を試した。
ジュウロウがウインドを唱えてオレの顔の周りに空気を纏わせる。
「じゃ、兄貴潜ってみて。」
「おう、何か顔の周りだけ風が吹いてて変な感じだな?」
オレはその状態のままで海中に頭まで潜る。
おっ!以外といける、普通に息が出来ていた………っと思ったら段々空気が減っていき……。
「ガボッ!ガガ、うっぷぁー!っはぁはぁ。ダメじゃねーか!!」
「え?どうしたの。もっと潜ってないと分かんないじゃん。」
「バカヤロー、空気がドンドン減ってくんだヨ!海水飲んじまったじゃねーか!」
「え?そうなの。でもまあ言われてみればそうだよね、魔術使った後は空気供給し続けたりしてないもんね。」
「って言うか何でお前一緒に潜ってねーんだヨ!」
「いや、何かそーなる様な気がしてね。ははっ。」
「分かってたんなら言えよ!ぶん殴るゾ!」
今度は続けて空気を送り込むようジュウロウに魔術で操作させる。
何とか形になってきた、相変わらずジュウロウは潜りやがらないが……。
「これだったら何とかいけそうだナ。まぁ、空気の供給量が増えたり減ったりで危なっかしいけど……。」
「うーん、もっと練習すれば何とかなりそうだよ。でも、近くから空気を引っ張らないといけないから海中の洞窟だと奥まで行けなさそう……。」
「そっか…、袋にでも詰めて持っていけたらな。ハハハッ。」
「…そうだよ!詰めて持って行けば良いんだよ。」
「いや、袋なんてねぇだろ。それに浮力で潜れねーって。」
「アイテムボックスに入るんじゃない!?」
「おお!そだな、いけそーだな。」
ジュウロウはアイテムボックスの入口を開き、ウインドで風をその中に詰め込む。
…ある程度入れた段階で何やら首をかしげていた。
「あれ?これ以上入んないよ。」
「そうなのか?一定の容量があんのかな。オレのはそんな感じじゃ無かったけどな?」
「え?じゃぁ兄貴のに入れてみようか。」
今度はオレのアイテムボックスを開け風を流し込む。
ビュービューと勢いよく幾らでも入っていった。
「何だこれ、アイテムボックスって名前は同じでもお前のと違うみたいだナ。」
「だね、俺のは容量が小さいみたい。」
この後色んな物をお互いのアイテムボックスに入れて確かめたところ、ジュウロウのは容量が小さい代わりに種類が豊富に入り、オレのは大容量だがあまり種類は入らなかった。
何故こんな仕様の違いがあるのだろう?転生した時に得た能力だしお互いの個性が反映されたのだろうか?さっぱり分からない。
「まぁ、何はともあれコレで目処は立ったゾ!」
「そだね、でももっと練習しないと空気の供給が不安定だよ。俺、もっとちゃんと出来る様になるまで行くのはヤだよ。」
「お前……、自分が潜るとなったら途端に慎重だナ…。俺が試した時は半笑いだった癖に。」
それからジュウロウはウインドをもっと練習すると言って、浅瀬の弱いモンスターをウインドカッターで狩ったり空気を纏わせる練習をしていた。
オレは特にやることも無くなったので、森に入って香辛料を集めてまわっていた。この辺は昨晩狩り尽くしたのでモンスターも出ない。
ジュウロウが獲った海産モンスターで飯をすませ、体感的に前世の夜になった頃ジュウロウはコテージを作って寝に行ってしまった。
まだまだ風魔術の練習が必要らしく今日明日では洞窟に向かう気は無さそうだ。
「はぁーー。暇だ何も出来る事がない、ジュウロウみたいに眠くなんねーし。」
まだ明るかったので今のうちに焚き火用の薪を集めておいた、どうせ夜中じゅう焚き火の番位しかやる事がない。
夜になれば狩りに出るか?とも思ったが島のモンスターを絶滅させても具合が悪い。
そして、夜がやって来たが本格的にやる事がない。
「んー、もぅー!オレも魔術とか出来たら色々試すのにナ。うーん、何か出来る事ないか?」
魔術は前にジュウロウに教えてもらったが、取っ掛かりが掴めないので出来そうもない。
そもそもMP継続消費型でない魔術はオレに向いてないしナ。
あとは付与魔術も同様に無理だし、錬金術……陣の紋様なら分かる。
オレは脳内書記を使い正確にジュウロウが使っていた陣の紋様を思い浮かべる。
「陣は一字一句違えずに分かるけど、どーすんだコレ。」
試しに思い浮かべた陣にMPを込めてみる、ググッと視界の端に見えるゲージが減ってすぐにMAXに戻った。
目の前の砂浜に陣が浮かび発光していた、光はすぐに消えたが対象を定めていなかったからだろう。
「おおおおお!出来た。できたゾ!」
どうやら陣の消費MPはオレの最大MPの範囲内らしい、結構カツカツまで一気に減るが夜なら直ぐに回復するので問題ない。
「ハハハッ!こりゃ良いこと発見した。何が出来るかなぁ?」
とりあえず目の前の砂浜に砂山を作り錬成を発動しよう、砂を分解してもしょうがない気がするからな。
「《錬成陣》」
砂山の下で錬成陣が発光し、塊の石の様な物ができた。ステータスを確認すると《砂岩》とあった、中々面白いな。
応用すればジュウロウのロックウォールみたいに出来るかな?と思いやってみたが大きな物を作ろうとするとMPが足りず不発に終わった、軽い頭痛がはしり一瞬で治ったが損した気分だ。
ジュウロウがやってるのを見てたら錬金術ってのは術者のイメージに随分と左右されてた、今度はその辺を意識してやってみるか。
砂浜なら砂鉄とか混じってそうだと思いあたり、こんどはそれを意識して錬成陣を発動する。
陣の光が収まったあと、今度は小さな延べ棒と少なくなった砂山が残った。
延べ棒のステータスは《鉄のインゴット》だった、残った砂山はまんま《砂》だ。
ん?これを上手く使って剣とか作れねーかな?鉄パイプから作った剣は鉄板が薄く強度が足りないのであれ以降作ってない、だがこのインゴットを沢山集めれば質量のある武器も作れそうだ。
「ヨシヨシ、面白くなってきた。この調子で砂鉄を集めて…、まてよ?鉄鉱石とかあればその方が…確か岩塩が取れた岩壁に色んな種類のが埋まってたゾ。」
オレは夜空を飛行し最初のキャンプ地に向かった。
あっという間に目的地まで到着だ、本当に空を飛べるってのは便利だなジュウロウが羨ましがるのも分かる。
「さて、この岩壁だが…どうやって鉱石を採取しよう…?」
「うーん、やっぱ念動力かな。」
オレは重機で岩壁を削り取る様にガリガリと念動力で鉱石を採取していく。
削り落とした鉱石をステータス鑑定して仕分けしていった、鉄鉱石にクロム鉱石、ニッケル鉱石……etc。
貴金属や宝石類は無かったが多種多様な鉱石がある。
本来こんな狭い範囲に色んな種類の鉱石がある事に疑問が生じるが、それは香辛料と同じでファンタジー世界特有の理屈が有るのだろう。
「おっし!じゃあコレをまずは分解してから精製して金属のインゴットにしていくか。」
まずはよく耳にする鉄鉱石から取りかかった、鉄鉱石の塊を分解陣で砂状にしその砂を錬成陣でインゴットと砂に分ける。
同じ要領で他の鉱石も次々とインゴット化していった。
「ふー、だいぶ出来たな。でも思ったよりインゴットの量が少ないゾ、殆ど砂になって肝心の金属部分はコレだけか。」
残った砂山はトラックで運んで来たのかって位あるのに、インゴットの量は大した事ねーな。
でもこれ以上やると地形が変わるってぐらい岩壁は削り取ったしな……、まぁ副産物として岩塩も一杯取れたしコレだけインゴットがあれば武器の一つや二つ作れそうだ。
さて、出来上がったインゴットから何を作ろうか?鉄のインゴットをそのまま鉄の剣にしても良いが切れ味が悪そうだしすぐ錆びちまいそう…。
ふむ……錆びねぇってんならステンレスなんて良いんじゃねー?
確かステンレス鋼は合金だな何を混ぜれば出来んだ?脳内書記に記憶があるかな。
「おい、《脳内書記》」
[ステンレス鋼]
鉄(Fe)を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を10.5%以上含むさびにくい合金鋼である
SUS303、SUS440他………etc
うーん、ややこしい……。実際に刃物にするには炭素の比率やら、ニッケルがどうのこうのと一杯説明がある。
ただ記憶があるだけで、本当にオレが理解している訳ではないのでさっぱり分からん!
「まぁいいや!取りあえず鉄半分以上にあとクロム十分の一以上、他は適当…《錬成陣》」
インゴットを適当に積み上げ錬成陣を発動した、光が収まったあとは一つになった大き目のインゴットが残っていた。
ステータス鑑定でみると《合金のインゴット》となっていた、ステンレスじゃないのか?詳細説明を開くと《色々な金属が混ざったインゴット》となっていた。
「なんじゃコリャ!大体見た目からしてメラメラ積層になっていやがる全然混じって無いな。何でだ?…ん、コレ何か見た事ある気がするな…。」
取りあえずステンレスにはなって無い、原因がよく分からないので錬成前のインゴットから詳細説明を開いて調べてみる。
鑑定の結果、鉄のインゴットは《純度の低い鉄のインゴット》とあった、他のインゴットも同様だ。
しかし純度はともかく、それぞれの金属インゴットはちゃんと《鉄の…》《クロムの…》とハッキリ固有名が付いてる所を見ると、錬成後にきちんと混ざらずただ一個の塊になっているのが問題の様だ。
「何だろな、錬成陣の熟練度の問題か?それともインゴット同士で錬成するから混ざんないのか?…。」
オレは一度《合金のインゴット》を分解陣にかけステータス鑑定してみた、《色々な金属の粉末》となった。
それをもう一度錬成陣で固める、相変わらず《合金のインゴット》と出たがさっきの様にメラメラ積層になってはいない。
「ふむ、最初のやつよりは混ざってる、もっと細かい状態にしてから錬成陣にかけた方が混ざりそうだナ。」
そのあと何度も続けて分解陣で細かくし、だいぶ粒子の小さい金属粉末になってから錬成陣を試してみた。
陣の光が収まった後に残ったインゴットは見た目的には一種の金属として纏まった様に見える。
「おお、ステータス鑑定してみるか。」
《???のインゴット》
新種の金属のインゴット(名前はまだ無い)
おお!?何だ、出来たのか!名前はまだ無いってこの世界初の合金だからか?
ステータスの(???)の部分に注視すると、どうやら新合金の発見者のオレに命名権がある様だ。
素直にステンレスにしとくか?…って言うか本当にこれステンレスなのか?
脳内書記で記憶と照らし合わせてみるか。
「おい、《脳内書記》この金属はオレの知ってるステンレスか?」
[この金属の名称]
合金名ステンレス鋼に分類される金属
SUS440に類似した金属だが厳密には違う為、正確な名称は不明
おっ!一応ステンレスには違い無いみたいだ、SUS440?それを名前にしとくか確か高級ナイフの鋼材だった気がする。
よく切れそうでいいじゃないか、このインゴットは《SUS440のインゴット》に命名した。
しかし、焼き入れだか何だかは一切して無いが合金を作るのに必要無いのか?まぁ、錬成中にそれに代わる何かが起こってるのかもナ。
「よーし、じゃこれで剣を作るゾ!《成型陣》」
まだまだ夜は始まったばかりだ、オレの創作意欲は尽き無い………。




