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洞窟

ジュウロウが寝入ってチョロチョロと燃える焚き火を見ながらオレはこの後の事を思案していた。

これから夜が来る、武器は無いがこの辺のモンスターなら余裕だろうしさて何をするかなぁ。


「うーん、差し当たってジュウロウが言ってた洞窟の場所を下見してみるか。」


オレは空を見上げると念動力サイコキネシスで浮き上がり、ジュウロウがノートに書いてあったと言う場所を目指し海の方へと飛んだ。


「おっかしいなぁ?この辺って言ってんだけどナ。」


海岸まで出て見渡すがそれらしき洞窟、もしくは入口は見当たらない。

よく観察してみるとうっすらと海の色が変わっている部分がある、海の浅い部分が海岸から沖に向かって橋状に伸びている様だ。


「この先に入口があんのか?ああ、何かだいぶ沖に黒い穴みたいに見えるからあれが入口か?」


海岸から伸びた浅瀬はその先で洞窟の入口に継ながってる様だった。

しかし、まだ浅瀬すら全て海に沈んでおり洞窟には海中に潜らないと入れそうに無い。


「ためしに潜ってみるか?でも中まで行ったら空気が有るとか、そんな都合よく行くか?」


まぁ、引き潮の時にジュウロウと一緒に行きゃ良いかな……、などと思いつつオレは海岸から引き上げた。

空高く上がり周りを見渡しながら何をしようかと考える。


「さて、やる事がないゾ。…そうだ!平原の方に違う種類のモンスターがいるんだったな、そっち見に行こ。」


オレはその後、平原はもとより島中を廻ってモンスターを狩った。

ほとんどの奴は生命の強奪ライフ・スナッチでLPとして吸収したが平原のモンスターは食べれそうな見た目だったので大量にアイテムボックスに入れて持って帰った。


「いやー、牛はともかくあのニワトリみたいのはビビったなぁ、ワハハ!」


ひと暴れしてスッキリしたオレは空も白んできたのでキャンプ地にと戻った。

まだ夜が明けたばかりなのでジュウロウは起きていない、飯でも作って待つか。


「飯を作ろうにも火がない……、クソッ!毎回〃不便だナ。なんとかなんねーのか!」


なんとか自力で火をおこすか?しかしライターもマッチもない。

棒を擦って原始時代みたいにおこすか?興味本位で昔に試したけどスゲー時間かかって煙が出ただけだった記憶がある。


「まぁ、まだ夜は明けきってねーからパワーもあるしやってみるか。」


「こうやって木の板に棒を当てがってと……、うおおおぉぉーーー!!」


ボッ!っと摩擦熱で木屑に火が着いた、オレは慌てて用意してあった細い木切れや枯葉に火をうつす。


「ふぅー、なんとかなるもんだなぁ。でもコリャ昼間は無理だな、手がブレて見えるくらいやってやっと着いたからナ。本当に昔の人はこれでやってたのかヨ、人間の腕力じゃ無理なんじゃねーか?」


ともかく、火は着いたので準備を進める。取ってきた牛を解体して肉を部位ごとに切り分ける。

ふむ…コイツ角が羊っぽい感じのデカイのが付いてた以外はほとんど知ってる牛と変わらない。


ただまぁ、口から火を吹くんだけどナ。


死の間際に食いそびれたシャトーブリアンが食えるんだしどうでもいいや、と思いつつ解体を進める。


「えーと、シャトーブリアンはヒレの中のさらに中心部、うん多分コレだろーナ。」


肉を大きめにカットして木を削って作った串に刺す、塩コショウを振った物を焚き火の周りに立てかけて焼く事にした。

しかし、肉焼いてばっかりだなぁ。そうだ!あれもあったんだゾ。


「鍋に汲んできた水を沸かしてコイツを放り込んでっと……。」


そろそろ日もだいぶ高くなってきた、解体からやっていたので準備に結構時間がかかった。

そう思っているとコテージからジュウロウが出てきた。


「あ、兄貴おはようぉー。」

「おう、おはー。」

「ん、また夜中じゅう遊んでたの?」

「遊んじゃいねーって……。」

「あ!もうご飯出来てる。」

「おう、今日は良いのがあるゾ。」


オレはそう言って鍋で茹でている物を指差す。


「え、なになに?あ!ゆで卵じゃん。」


「そーだ、岩塩振って食べたらきっとうめーゾ。昨日の晩に平原でとってきたんだ、一杯あったんだ。」


「は?平原でとってきたの?あっちって石化ガス吐く危ない鳥がいるんじゃなかったっけ。」


「そーなんだよ、コリャそいつの卵なんだけど予想外に小ちゃい卵でビックリしたゾ。親の方は牛よりデカイのにな、その代わり一箇所に何十個もあったゾ。」


「え、石化ガスとか大丈夫だったの?ああ、こそっと卵だけ取ってきたのか。」


「ん、いや。ニワトリもやっつけて持って帰ってきたゾ、ガスは腕にちょっと被ったけど表面しか石化しなかったしすぐ再生したから問題ねーよ。」


「何かさ、兄貴のその耐性とか夜のパワーって反則じゃない?敵なんていないんじゃん。」


「おう、まあな。昨日も島中廻って狩りまくったけど基本的に相手になんねーな、おかげでLPも初期値以上に回復したゾ。」


「初期値以上までって随分たくさん狩ったんだねー、でもここって小さい島だからあんまり乱獲して生態系とか大丈夫なのかなぁ?」


「うっ……。確かに、最悪この島に長居する事になったらLP吸収の為にもモンスターは必要だ。……この卵返してくるか?」


「……もう茹で上がってるよ。」


「……そうだな、今更遅せーな。時計は無いがだいたい沸騰してから7分くらいだ。今が食べどきだゾ。」


「こっちの水入れた鍋は冷やす用?」

「あぁそうだ、あちーから念動力サイコキネシスで移してやる。」


オレ達は卵が冷える間肉にかじりつく、思ったよりずっと柔らかく流石シャトーブリアンって感じだ。


「これ、旨っんまいねー、すごい柔らかいし。」


「そだろ、シャトーブリアンだからな!あの時食いそびれたしウマさもひとしおだな。この脂のノリ具合も良い感じだ、この部位はヒレなのにサシが入ってるからな。」


「んーんー、最近肉ばっかりだけどコレならいくらでも食べれそう。」


肉の良い所をタップリ堪能し、程々に腹が膨れたところで卵が冷えた様だ。


「もう良いんじゃねーか、ソロソロ冷えたろ。」

「んー、あっ!殻が綺麗にむける。兄貴、岩塩振ってよ。」

「おう、パラリと……。」


「かっぷっ!…うっ旨い。」


「どれどれ、おお!本当にボロボロ殻がむける。カプ!んー旨い。中はシットリしてるが流れ出ない絶妙の茹で加減だ、コリャ旨い!」


「うん、それにこの卵いつも食べてたのより凄い濃厚だよ!」

「うんうん、コリャうめー。」


ゆで卵は少し残しといてオヤツにでもしようと思っていたがほぼ全部食べ切ってしまった。


腹一杯になったオレ達は昨日の話どうり海の方の洞窟に向かう。

道中、昨日の夜に見た海の中の洞窟についてジュウロウに説明しておいた。


「ってな訳でまだこの時間でも海の中かもしれないゾ。」


「んー、でも干潮って1日に2回あるだろ夜の時間に無いんなら明るいうちに潮が引く可能性が高いよ。」


「ふーん、そうなのか。まぁ、行ってまだ海の中なら今日はそこでキャンプ張って待つか?」

「そだね、それはともかく全然モンスター出ないねー。」

「ああ、そりゃ昨日の夜オレが狩りまくったからなこの辺にはもう居ないだろ。」

「どれだけ狩りしたの!?絶滅して無いよね?」


オレが狩りまくった所為か一度もモンスターに出会う事なく浜辺まで到着した。

……、本当に絶滅して無ぇーだろな?


「あっ!キャンプは張る必要なさそうだよ。ほらっ。」

「おお!だいぶ潮が引いてんなー。」


海はスッカリ潮が引いて海岸から沖にある洞窟まで細い砂浜の橋が架かっていた。

洞窟もぽっかりと口を開け海水は完全に抜けている様だ。


「よっしゃー!行くゾ。突撃ーー!」

「ちょ、ちょっと待ってよー。」


またこの人は……。何だよ突撃って、あんた武器も持って無いじゃん。

ふー、モンスター相手にしてるより疲れるかも……。


中に入った兄貴は真っ暗な洞窟なのに平気でズンズン進んでいく…、見えてんの?ああ、夜目が利くって言ってたっけか。

俺は見え無いのでライトの魔術を使って頭の上に光球を浮かべる。


「うわっ!眩しーな。って言うかそれあんまオレに近づけんなヨ。」

「うん、分かってるって。蒸発しちゃうもんねー。」

「分かってんならもっと離せ!フワフワさせんな、もっと上の方にやれヨ!」


光球をフワフワ兄貴に近づけて遊んでたが本気で嫌がるので天井スレスレまで上昇させた、コイツは歩くと一定間隔を保って同じ様について来る。

随分と見通しが良くなった。


「ふっふふーん、何が出るかなー。」

「こういう、如何にも危なそうな時はいつもご機嫌ですね。」

「何だよ、冒険だゾ。楽しみだろーが。」

「楽しくなんてないよ!ガーディアンが気になってさっきからずっと胃が痛いよ!」

「おお、そうだなぁ。まだ居てたら良いのにな、じゃないとガッカリだもんな。」

「逆だよ!既に前の人に倒されてんのを祈ってんの!」


そんな噛み合わない会話をして暫く歩くとモンスターに遭遇する。

何か蟹みたいなのと貝?サザエみたいなモンスターだ、例のごとくかなりデカイ。


蟹は胴体が1m位、サザエも直径80cmはある体高は1mか?

それを見て兄貴が驚いている様だが、きっとこんなデカイ蟹とか食った事ないとかそんな驚きだと思う。


「おい!ジュウロウ。このサザエすげーゾ、こんだけデカイと刺身にしても随分食いごたえが……」


はいっ、そっちでしたか。どちらにしても食料にしか見えて無いのね。


「もう、兄貴そんなに前に出ると危ないよ!今は昼だし武器も持って無いじゃん。」

「おおっ、そうだな。じゃ、ジュウロウよろしく。」

「はー……、《ファイアボール》」


ボッ!という発射音と共に火の玉が蟹に命中する……が、当たった瞬間に角度を変えて洞窟の奥に飛んで行ってしまった。


「え!?全然効かない。」

「ありゃ?弾かれたゾ、もっと強いのやってみたらどうだ?」

「う、うん。《ワールウインド》」


凄い勢いの風が竜巻となってモンスターに襲いかかり蟹もサザエも捲き上げられる。

竜巻の中ではウインドカッターも発生し獲物を切り刻もうとする。


しかし風の刃はモンスターの甲羅に弾かれガキン!ガキン!と虚しく響くだけでダメージは与えれていない。

竜巻が収まったあと床に落ちてきたモンスターは何もなかったかの様に無傷だ。


「げっ!ヤバイよ兄貴。魔術が効かない!」

「………。」

「兄貴?」

「……グー。クカー。」

「へ?ちょっと嘘でしょ、何で寝てんの!?」


兄貴は洞窟の壁にもたれかかりグーグー寝ている。


信じられない!どうやったらこの状況で寝れるの?

狸寝入りかな?熊じゃ無いんだからそんなんでやり過ごせる訳無いじゃん、と言うかこの島の熊なら寝てたら頭から囓られて終わりだ。


「兄貴!ちょっと、兄貴ってば!」

「……。クカー…スピー。」


ダメだ揺すってんのに全然起きない、何か前にもこんな事あったなぁ?あの時は顔踏んずけても起きなかった。


「ちょっと、もう!起きてよ。そこまでモンスターが来てるよ!」

「……。グー…グー。」


モンスターの移動速度は凄く遅い、蟹の方は横移動は素早いがこちらに向かってくる時は何故か縦移動だ。

頭悪いなぁ……。まぁ、おかげで余裕をもって対処出来る。


俺は兄貴を背負って洞窟から脱出する事にした、子供なので背負って走るくらい大した事ない。


………っと思ってたら意外に辛い。

いくら子供でも20kgぐらいはあるんだよね、もう少しで外だがこのまま戦えと言われたら無理がある。


まぁ、その場合は兄貴を捨てて逃げるしかないね、仕方ないよね?

サヨウナラ兄貴、君の事は忘れないよ……。




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