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クロウとジュウロウの思惑

起き上がったオレはとても清々しい気分とは言い難い状態だった。


何故ならひどい夢を見たからだ、とてもひどい夢だ。


そんなに長い夢ではないただ単に屈辱的なだけだ、動けないオレの顔をジュウロウの奴が足げにし「お前はいらない子なんだよ。」と言っていた夢だ。

全く、ひどい夢を見たもんだ。


夢ってのは日頃その人が意識しなくても深層意識的に気にしている様なことが出てくるとか聞いた気がする。

今日のところオレは全くイイトコ無しで戦闘もジュウロウに任せっきりだ、だからこんな夢を見たのかもしれない。


やれやれ、オレって奴は……。ジュウロウがそんな事する訳ないのにな、あいつはオレがワガママ言っても文句言いつつも付き合ってくれてるし、間違っても顔を足げにする様な奴じゃないのにナ。


そういやジュウロウどこ行ったんだ、まだあのノート読んでんだろうか?

とりあえずアイツには日頃の感謝を返す意味で優しくしてやろう。


オレがログハウスに入ろうとバーに手をかけたとき丁度ジュウロウが森から出て来た。


「おー、ジュウロウ。何処行ってたんだ?」

「あっ兄貴、起きてたんだ。」

「おぉ何だか変な夢見てなぁ。目が覚めちまったんだ。」

「へー、どんな夢だったの?」


「いや、それがバカバカしい夢なんだよお前がオレの顔踏んずけて「いらない子だ。」って言うんだよ、まったく夢って突拍子もない事が起こるなぁー。」


ジュウロウは思った………ほぼ事実です。


「へっ、へー。変わった夢もあるもんだねー。」


「だよなぁ、んなことある訳ねーってんだよ。っとか言ってお前、本当はそんな事思ってんじゃねーのか?」


「そんな訳ないだろ!怒るよ!!」

「いっ、いやいや。冗談だって、オレもそんな事思ってねーよ。」


いやー、ジュウロウがこんなに怒るとは。冗談でもこういう事は言っちゃダメだな人として。



ふー、危ない。この人、変に勘が鋭いときあるからなぁ。

あっ!ヤバイ兄貴の顔に足型がくっきり付いたままだ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。


「ん?どーしたんだ、すごい汗かいて。疲れてんのか?」

「うっ、そうなんだ!森でね!熊がね!やっつけたんだ!!」

「は?落ち着けって、熊をやったのか?やるなぁお前。」

「うん、まぁ。楽勝だったよ。楽勝。」

「へー、スゲーなぁ。」

「そうだそれで戻ってきたんだった、仕留めたのは良いんだけど持って帰れないんだ。」

「え、何でだ?アイテムボックスにでも入れて持って帰りゃいいだろうが。」

「アイテムボックスに入れるにしても持ち上がんないって。」

「ん、じゃぁオレが念動力サイコキネシスでやってるヨ。」

「うん頼むよ、そんなに離れてないからすぐだよ。」


ジュウロウの案内で熊を仕留めた場所までやって来た。

おおっ!本当にやったんだな、丸焦げの熊がころがってる。


「コレなんだけどさ、そもそも大っきくてダメなんだぁ。アイテムボックスって入口が5〜60cm位しかないし入りそうに無いよ。俺、解体とか出来ないしさ。」


「確かにこのままじゃ入んねーな、でもタタメば入んだろ。」


そう言って兄貴はまずアイテムボックスの入口を開き、念動力サイコキネシスを使って熊の手足や肩を内側にたたみ込む様にボキボキ折って放り込んだ。


「うげっ!何それ、念動力サイコキネシスってそんなに力あんの?」


「ん?おう、いつもは何回か使える様に出力とか絞ってるし一瞬しか発動してねーからな。パワーだけはあるゾ、まぁ今ので残 MP2ぐらいしか残ってねーけどな。ハハハッ。」


「じっ、じゃあ熊とか一撃でひねり殺せるんじゃ無いの?」


「どうかなぁ、生きてりゃ身体に力も入ってっから分かんねーな。やってみてその後MP無しじゃあ、一か八か過ぎんだろ?」


この人の性格にこの力は怖すぎる……。剣とか無くても平気じゃないか、ゴンベイも何でこんなちから認めたの?


猿に核ミサイルの発射ボタン磨かせてる気分だ。


「じゃあ、コテージに戻るか、戻ったらお前に頼みたい事あんだ。」

「う、うんうん何でも言ってよ。」

「悪りーな、いっつも俺のワガママに付き合わせちまって。」

「いっ、いやいや。いつでも言ってよ、なに気なんて使ってんの。」


ヤッ、ヤバイよ。何かいつもと違って優しいし、もしかして踏みつけたの気付いてんの?


ーーーーーーーーーーーー


その後キャンプ地まで戻ったオレたちはとりあえず飯の支度に取り掛かった。

ジュウロウにはMPを回復して、やって貰いたい事もあるしチョット休んどいてもらうか。


「おい、ジュウロウ。お前、熊とかやっつけて疲れたろ?チョット休んどけヨ。」

「え?いや大丈夫だよ。」

「いいからいいから、もうMP無いんだろ?ジッとしとけって。」


オレは遠慮するジュウロウを座らせそそくさと焚き木を集めに行った。

一通り集め終わりジュウロウが座ってる所で焚き火の準備をしてから、鍋に水を汲むため谷水が流れている所へ行くつもりだ。


ジュウロウに魔術で水を出させれば早いのだがMPを温存しておいて貰いたい。


「よし、コレで焚き火の準備はOK。んじゃ俺、谷水汲んでくるわ。MP回復してきたら火着けといてくれヨ。」


「えっ、水くらい出せるよ。わざわざ汲みに行くの重いでしょ。」


「いいからいいから、MP残しとけよ。それに、コッチの世界に来てから一度も自分の姿見てないから一回見ときたいんだ。水辺なら姿うつるだろ?」


ドキッ!そんな事されたら顔の靴型が……。


「いや、水にMPなんてほぼ要らないから《アクア》っほら出たもう出た、コレ使いなよ。」

「何だよ、別に汲みに行くぐらい良かったのに。」


兄貴は俺が出して宙に浮かんでいる水を鍋に取ろうと近づき、そしてその水を覗き込もうとする。


マズイ、顔がうつる!


「あっ、アーテガスベッターー。」


バシャっと浮かんでいた水が兄貴の顔にかかり靴型は洗い流される。

まだ少々汚れは残っているがもうほぼ分からない。


「うわっぷ!何しやがんだ。」

「ああ、ゴメンゴメン。何だか手もとがふらついちゃって。」

「何だよ、だいぶ疲れてんじゃねーの?やっぱ俺、水汲んで来るわ。」

「うん、ゴメン頼むよ。」

「いいって、いいって。」


……良し、証拠隠滅完了。


ーーーーーーーー


その後、残っていた最初の熊肉やエビ等で簡単に飯を作り食べた。

食後はジュウロウのMP回復を待ちつつノートに書いてあった事を聞いたりして、のんびり時間が過ぎていった。


「そうか、そのゲートってので脱出できんだな!」

「日記にはそう書いてあったよ、でもガーディアンがいるらしいよ。」

「そうか、ソイツを倒して次に進めってんだな。面白くなってきたな!」


「面白く無いよ、すごい強かったらどーすんの?ああ、でも手記書いた人がもう倒しちゃった後かもね。」


「だったら残念だけど、どっちにしても行きゃ分かんだろ。」

「はぁ、どうか前の人が倒しててくれます様に。」


オレ達は今日のところはジュウロウのMPもまだまだ全快はしなさそうだし明日の朝からノートにあった場所に行くことにした。


「で、まだ明るいけど何かする?」

「おー、お前に頼みたい事があったんダ。」

「何?」

「魔術で岩出して風呂を作ってくれ。昨日海水かぶったから何か気持ち悪くってヨ。」


「それは良いけど、ロックウォールで出した岩板を繋ぎ合わせて風呂桶作ったら隙間だらけで水が漏れちゃうよ。それにそんなに何枚も出すとMPが足りないしね。」


「何枚も出す必要はねーって、一個でいいんダ。」


「もしかして風呂桶型の一個出せると思ってる?四角いのしか無理だよ。それに大っきい塊出して くり抜く様に一部を消すとかも無理だから、消す時は一枚全部消えちゃうんだ。」


「消さなくていーゾ、一部分だけ分解するんダ。」

「えっ、分解?分解陣でそんな事出来んの?」


「知らん、でもあれってだいぶ術者のイメージに左右されてたから出来そうな気がする。エビの殻は残す所と外す所を選べてたろーが。」


「そっかぁ、何かそう言われると出来そうだね。それにそれが出来たらコテージ作る時もMPがもっと少なくて済むしね。今、12枚も使ってるよ。」


「そうだなコテージも今度試してみりゃ良いんじゃねーの?それより風呂やってみろよ。」

「うん、そうだね。《ロックウォール》からの《分解陣》」


まずはジュウロウのロックウォールで浴槽大の岩板が出現し、その上に出した分解陣でガワと底だけを残して上手く分解された。


「おっ、出来たじゃねーか!」


「ホントだ上手くいったみたいだ、でも分解した岩板が砂になって浴槽にたまってる。風魔術で吹き飛ばす?」


「MP残しとけよ、オレが念動力サイコキネシスで搔き出してやる。」


オレが砂を掻き出して風呂桶が出来上がった。

そこにジュウロウが水を作って入れてファイアでお湯にかえた。


「出来た!」

「良いんじゃねーか!早速入ろーゼ。」


兄貴は服を脱ぐやザブン!と風呂に飛び込んだ。

脱ぎ散らかして飛び込んで行くかと思ったがきちんと服をたたんでいった。


変なとこで几帳面な奴だ。

俺も脱いで一緒に入った、兄貴は子供なので浴槽の大きさは充分だ。


「ぷっはー!気んもちいいー!」

「うん!生きかえるねー。」

「明るいうちに入る風呂も良いもんだな!」

「そだね、露天風呂だしね。」

「おい、ジュウロウ!ほら見ろ、ぞーさん、ぞーさん。」

「ナニやってんの?恥ずかしく無いの。」

「恥ずかしくなんて無いゾ、子供だからな!ガハハ。」

「ハハハ、何だか楽しそうで何よりだよ。アハハ。」


オレ達は暫くぶりの風呂を満喫しご機嫌だった。

ついでに残り湯で服も洗ったので二人とも焚き火の前で裸族だ。


服はジュウロウがファイア少々ウインドをビュービューとやって結構すぐ乾いた。

服を着たオレ達は焚き火の所で熊のモツなどを塩コショウでチビチビと食っていた。


「いやー、こうやってモツ食ってるとビールが欲しいな。」

「うーん、俺は飲ま無いからよく分かんないけどよく言うよねそういうの。」

「何だお前、目ぇショボショボさせてもうお眠か?」

「うん、お風呂入ったし陽は高いけど時間的にはもう夜だよ。眠いっす。」

「ハハッ、まぁ別に何しなきゃなんねーって事も無いんだし寝てこいよ。」

「そだね、先に寝るよ。兄貴もあんまり夜更かししちゃダメだよ。」

「まだ明るいって……。まぁ、明日は冒険が待ってるからMP万全にして頼むわ。」




そして夕暮れが訪れオレの夜がやって来る……。


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