第五話
「あのメリーという女、どこかで見たことがあると思っていたが、やはりあの時のやつか?」
今から三百年程前、輝夜との殺し合いを終え、寝床に戻る途中で筍を掘っていた女を見かけたのだ。当時は人間との係わり合いを避けていたので話しかけなかったが、髪の色や顔立ちが見慣れないものだったので行動を見ていたのだった。月を見てブツブツと独り言をつぶやいたり、小さな紙切れに何かを書き込んだりしていたがふと目を離したときにいなくなっていたのだ。慌てて探すも結局見つからず、書いていたと思われる紙切れが見つかっただけだった。ちなみにその紙切れは持っていても仕方が無いのですぐに捨てたが、拾って持って帰った人間がいた様で(正直よく持って帰ったと思う)後に稗田家のまとめた資料の未解決欄に掲載されていた。
「ただの人間には思えないのだが、まあ里に行くのは分かっているから一応別の道で里に行っておくか。」
ふと外来人?の片方がこちらを振り返ったがどうやら見送っていると思ったらしくすぐに前を向いた。
今回は非常に運がいい。いつもなら妖怪にしか遭遇しないけど人間に、それも妖怪に襲われることが無い人に出会え、かつ安全な場所に連れて行ってくれるのだ。今回は蓮子というこの世界になれていない同行者がいるので非常にありがたい。
「しかしルーミアに怪我させられるとは運が悪いな。あれはめったに人を襲わない、いや襲えないといったほうが正しいか。なぜなら闇で姿を隠せるが本人も周囲が見えないという襲撃に向かない能力を持っているからな。まあそのため食料を手に入れられずいつも腹をすかせているのだが、今日は他で何か食べられたのだからその程度で済んだのだろうな。そういう意味では運がいいのか?まあ、このあたりも一応危険地帯だから早めに里に入ろう。」
慧音さんについていくと大きなそして昔の絵に出てきそうな門が見えた。
「あそこが人間の里だ。あの中では妖怪や霊が人間を襲うことはまず無い。よっぽど無礼なまねをしなければの話だが。」
里は門を見たときの予想通り江戸時代くらいの街並みが広がっていた。
「さて、もうこんな時間だから私のやっている寺子屋に泊まっていくといい。」
「何から何までありがとうございます。」
「かまわんよ。困ったときはお互い様だ。さて君達が外の世界に戻るには博麗神社の巫女に頼む必要がある。そこへの行き方は明日教えよう。後これは明日も改めて言うが神社までの道のりと神社は妖怪が出るから気をつけろ。あの辺に出る妖怪の中には人間と変わらない容姿を持つやつもいるからな。まったく、あそこの巫女の役目のひとつに妖怪退治があるのに、困ったものだ。」
「それは……ひどいですね。」
「この幻想郷において最も重要と言ってもいいくらいの場所のはずなのに人間達から一時期存在を忘れられかけたこともあるからな。まあ最近はいろいろイベントをして知名度を上げるようになったから皆知っているが…話がそれたな。まあ神社にたどり着くまで妖怪が出るかもしれない。妖怪は食欲を満たすために襲ってくることが多い。他には怒らせたときだな。だから食料をわたせば見逃してくれることがある。」
「じゃあその筍はそのとき渡す用、と言うわけですね。」
「そういうことだ。運よく使わずに済んだら巫女の博麗霊夢にわたせ。そうしたらすぐに外の世界に戻してくれるはずだ。ちなみに賽銭を入れるのも有効だ。両方ない場合は神社の掃除などを手伝えばいいのだが、季節によって仕事量や内容が変わる。今は春だから境内の掃除と花見料理を作ることの手伝いかな。」
「なんていうか慣れていますね。」
「あまり外来人が来ていないとはいえ百年もたてば自然と慣れるさ。おっと。」
慧音さんが何かに躓いた様で筍をいくつか落とした。私は拾うのを手伝う。
「蓮子も手伝っ…蓮子!どこに行ったの?!」
「この一瞬でどこかに?いくら何でも早すぎる。君の友人は人間か?」
「確かに計算能力はずば抜けてましたけどちゃんと人間です。でもいったいどうやって?」
「探そう。まだ里にいるだろう。君は門の前にいてくれ。妖怪は門のこちら側では人を襲わない。」
「分かりました。」
ふとまぶたが重くなり目を閉じ再び開けると自分の部屋の見慣れた天井が見えた。