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truth〜始〜  作者: 樋山 蓮
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Ⅵ.籠中の鳥


「凜さん、隣いいですか?」

「宗太郎!どーぞ!」

「凜さんは何をお読みになっていらっしゃるんですか?」

「バイト情報誌!」

「アルバイトをするのですか?」

「まあ、お嬢様なんて言われたくないしね。やっぱり社会勉強としてバイトはしておくべきだと思って。」

「僕もやろうかなあ。」

「宗太郎も?」

「はい。僕も将来のことを考えて社会勉強をしたくて。」

「宗太郎、本屋さんとか似合いそー!」

「確かに好きですが…」

「こことかいいんじゃない?結構時給もいいみたいだし。」

「じゃあ、受けてみます。」

「じゃ、履歴書!あげるねー」





凜さんに言われるまま、僕は人生で初めて履歴書を書いた。


「え、宗太郎たくさん資格持ってるのね…すごい。」

「はい。将来は父の仕事を手伝いたいので、秘書検定などもすべて持っています。あとは会計士の資格が欲しいですね。」

「わたしも資格欲しいなあ〜。何になるのかわたし考えてないや。ただ、怜から逃れるために大学受験したんだもん…」

「これから見つかればいいのですよ。焦らずに勉強していれば大丈夫です。」



凜さんは、最近悩みを僕に打ち明けることが多い。

学科は違うけれど、講義が一緒になることが多いので、必ず僕の後ろの席に居る。

凜さん曰く、僕は前の方の席に居るから見つけやすいんだとか。


凜さんは、携帯の番号も変え、G大の仲間と縁を切ったらしい。

もちろん、怜さんにも教えてはいない。


凜さんについて怜さんから何度か連絡があった。僕だけではなく、諒太さんにもきている。しかし、返信しないことを僕達は決めた。


内部進学した友人から話を聞く限り、怜さんは元生徒会長という勢いを保とうとしてはいるものの、取り巻く人間がいなくなったからか、空回りしているらしい。

ミスターG大への選出は難しそうだと誰もが口にしているらしい。


僕と凜さん、諒太さんの3人は入学式が終わってからは諒太さんは医学部なので、キャンパスが分かれ時々しか揃って集まることはない。諒太さんは僕と凜さんと一緒のサークルに入った。天体観測サークルである。時々しか活動がないので、僕はサークルの部屋で勉強したりしている。



「宗太郎〜?」

「あ、はい。どうかなさいました?」

「やっぱ、ここかあ。バイトの面接どうだった?」

「あ、はい。受かりました。」

「そっか!じゃあわたしも本屋さんにしようかな〜」

「凜さんも面接うけるんですか?」

「ううん。もう受かったの。他のところも採用になったんだけど、どっちか迷ってて。宗太郎もいるなら、心強いかなって。」

「僕も凜さんがいるなら心強いですよ」

「じゃ、他のところには断りの電話いれておかなきゃ。じゃ、先に帰るね。」

「はい。お気をつけて…。」


凜さんとは小学部からずっと一緒。

僕は幼稚舎からずっと一貫に居たが、大学は父の母校であるK大に行くことにしていた。

凜さんは帰国子女として小学部から入学してきた。どうやら、凜さんのご両親は有名人のようである。

お母様は何度か参観日などにお見かけしたことがあるが、お父様は一度も無い。


お母様はとても美人で、モデルだったようだ。その面影は凜さんにも受け継がれている。

学年一美人と言われていた凜さんは、英語も堪能で才色兼備そのものである。


高校時代、彼女に恋心を抱く男子は沢山いた。

しかし、彼女が唯一選んだのが怜さんであった。


いや、怜さん以外にとっては到底手の届かない高嶺の花であったことに違いない。

恋心を抱いても、伝えることが恐れ多いとみんなが思っていた。彼女が唯一選んだのが怜さんなのではなく、彼女に唯一恋心を伝えたのが怜さんなのであろう。


加えて、僕も12年もの間、彼女にずっと片想いをしている。

いや、これからもずっと片想いであることだろう。






大学に入ってからは、凜さんが気づけば隣にいる。

圧倒的に男子学生が多く、そしてその中でも法学部の女子というと、1割である。


一人でいる凜さんに話しかける男子学生は少なくはない。楽しそうに話している彼女をよく見る。

ミスK大に推薦しようという話をちらほら聞く。





「泉くん、松風さん。今日からお仕事を一緒にさせていただきます岸田寛子です。2人とも始めてのバイトなのよね?なにかわからないことがあったらすぐにきいてね!」

「はい!」


今日から本屋さんのアルバイトが始まった。


レジを使うのは初めてだし、本の取り扱いも大変。

なにより、大きな書店なだけあってどこのフロアに何の本があるのか覚えるだけでも気が遠くなりそうだ。



初めてのアルバイトのわりには、凜さんはなんでもテキパキと仕事をこなす。



「凜さん、本当に初めてのアルバイトなんですか?」

「そうだよ?」

「それにしても、慣れているというか…」

「中学入る前まで少し子役やってたことあるから、意外といけそうかも♪」

「僕も頑張ります。」




凜さんはきっと、生まれながらにして周りを明るく照らす人なんだろうと思うことがよくある。


怜さんの行動に呆れる僕たち副会長をいつも笑顔で「いつも、迷惑かけてごめんね。ありがとう。」と言ってくださっていた凜さん。



「宗太郎!お待たせ!」

女子更衣室から出てきた凜さんは僕の手を引いて、お店を出る。

「ねえ、明日お父さんの誕生日なんだけど、一緒にプレゼント選んでくれない?」

「あ、はい。時間ならいくらでもありますので…」

「何がいいと思う?」

「何でしょう?ネクタイとかいかがですか?」

「ネクタイかあ〜。お父さんサラリーマンじゃないからなあ…」

「きっと、凜さんからのプレゼントは何でも嬉しいと思います。親ってそんなもんですから。」

「じゃあ、靴とかにしようかな。」

「いいですね。いい店を知っています。父に教えてもらったお店に連れていきましょう。」

「本当?助かる!ありがとう!」



父はいい靴を履きなさいと小さい頃から僕たち兄弟には品質のいい靴を与えてくれた。


「素敵…!これ、お父さんにぴったり!」

「お客様。カジュアルな服装にもフォーマルな服装でも似合うと思います。」

「じゃ、これの28センチを下さい。」

「ありがとうございます。」



凜さんの嬉しそうな笑顔は本当に素敵で、僕はいつも見惚れてしまう。




「宗太郎、ありがと!また明日、講義でね〜!」

「はい!お気をつけて。」



凜さんはあの頃と全く変わらない。

正しいことは正しいと言うし、

正しくないことは正しくないとはっきり言う。



僕が同級生にからかわれて、泣いてた時、助けてくれたのは凜さんだった。


「あんたたち!何やってるのよ!可哀想でしょ!先生に言ってやるんだから!あんたたちA組の奴らね!」

「お前、女のくせになんだよ!」

「女のくせに?男女差別はこの学校では禁止よ!」

「おい、こいつあの松風って奴だ、やばい。逃げるぞ。」




「あなた、大丈夫?」

「はい…」

「名前は?」

「泉宗太郎です…」

「宗太郎、さっさと立ちなさい!」

「え…」

「男は女を守るために生きてるの。あなたは大切な人を守るために強くならなきゃいけないのよ!」

「う、うん…」

「宗太郎、ほらお尻が汚れてるわ!」

「あ、ありがとうございます…」


気弱な僕を、凜さんはいつも助けて励ましてくれた。

初めて会ったその日から、凜さんは僕の太陽だ。







「宗太郎、おはよ!」

「凜さん、おはようございます!」

「あら?なんか今日はおしゃれね?いつものメガネもかけてないし。」

「え…ああ、そうですか?あ、コンタクトにしてみました。」

「キャンパスデビューってやつ?」

「キャンパスデビューって言うんですか?」

「宗太郎、メガネ外すと顔が整ってて素敵ね。」

「…あ、ありがとうございますっ」


凜さんに素敵なんて言葉を言われるなんて、とても気恥ずかしかった。


「あ、宗太郎が教えてくれたお店の靴、お父さんがとっても喜んでくれたの!本当にありがとう!また今日の朝、海外に行っちゃったんだけどね…」

「それは良かったです!お父様、とてもご多忙な中、そうやって自分の誕生日を奥様や娘さんと過ごしたいと思ってくださるなんて素敵ですね。私の父は誕生日にはほとんどお仕事やパーティで、家で祝ったことがないので、父の誕生日を祝ってみたいものです。」

「お父さんはね、お母さんのことが好きで好きで仕方がなくて、お爺様に頼んで結婚したくらいだから。その分、浮気もしないしお母さん一筋なの。」

「結婚ってそんなもんなんですかね…私の父も政略結婚を強いられそうになったとか。それが、母とは大学の知り合いのツテで知り合ったとかで…お見合いの話を断って結婚したとか…。その後の父は大変でした。でも、お見合いの相手がその後政治献金の疑惑が浮上して、お爺様はそれから父に対して厳しいことを言わなくなったらしいです。」

「わたしは、本当に好きな人と結婚したいな。宗太郎のご両親みたいに…親とか関係なしに。」

「僕たちにはまだ早すぎますかね…」

「そうね。どこに運命の人がいるんだろう。楽しみね。」




そんな話をしている途中、僕の携帯電話が鳴った。


「諒太さんからです…どうしたんでしょう…?…もしもし?諒太さん?」

「宗太郎…さっき俺のところに怜さんが来たんだ…」

「え?怜さんが?」

「凜さんの居場所を教えろって」

「宗太郎、怜がどうしたって?」

「諒太さんのところに行って、凜さんの居場所を教えろと脅迫したみたいです」


大学に入学してから、凜さんの家の警備はとても厳しくなり、凜さんも家を出入りする時は必ず車に乗っているそうで、怜さんは足を踏み入れることもできないようになっていた。



「怜さんが、もしかしたら来るかもしれないって…」

「そんな、こと…」




どうしたらいいのかわからなかった。




"男は女を守るために生きてるの。あなたは大切な人を守るために強くならなきゃいけないのよ!"




凜さんを守るためには…

僕は…どうすれば…





凜さんの携帯には、お母様から連絡が。

「凜、今日お父さんがいきなり帰って来るみたい。…どうやら、怜くんと別れたのを知ったみたいなの…」

「え…」

「お父さんが帰って来る前に凛も帰ってきてちょうだい。あとは、考えておくわ。」




「そんな…ついにばれちゃった…」



凜さんは蒼白な顔をしていた。



「パパに怜と別れたこと知られたみたい…なんで、どこから知ったの…」

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