Ⅴ.独裁者の失脚
高校の時と同じように、怜は迎えに来た
「あら、怜くん?」
「凜を迎えに来ました。車、買ったんで、これからは自分が運転して送り迎えします!」
「そうなの…今日はどうしたの?」
「どうしたのって…今日G大の入学式ですけど…」
「あら、怜くんに言ってなかったかしら。あの子、K大に進学したのよ。推薦でね。」
「え…K大…?」
「あ、そうそう。あの子から手紙預かってたの、怜くんにって。」
「手紙…?わかりました、後で読みます。では、失礼します。」
怜へ
いきなりでごめんなさい。
わたしは自分の夢のために、K大に行くことにしました。
怜との2年間、とても楽しかった。
毎回、盛大に誕生日祝ってくれてありがとう。
でも、わたしはあなたの誕生日祝ったことなかったね。
あなたのこと、知ってるとしたら名前と多重人格の性格だけでした。
あなたは一方的にわたしを愛してた。
いや、愛している振りをした。
私が抵抗すると、すぐに謝る。
それは私を失いたくないためではなく、私の父の信頼を失いたくないだけだったのでしょう?
俳優を目指してることを知りました。
あなたは、私を人形としか思ってなかった。
私だって馬鹿じゃありません。
卒業まで別れなかった理由はただひとつ。あなたを利用するため。推薦だってそうだし、あなたと別れてしまったら全校生徒を的に回すことになると分かっていたので、我慢しました。
泉くんや加藤くんも知りません。わたしも卒業式の日に彼らが同じ大学に行くことを知りました。
どうか、あなたは素敵なG大ライフを歩んでください。
松風 凜
「凜…そんな…こんなことって…」
「怜様!おはようございます!また同じ学校に通えるなんて光栄ですわ。」
「………」
「怜様…?どうかなさいました?」
「いや…」
「お身体でも悪いのですか?」
「うるさい…!」
「凜様はどちらに…?」
「お前…殺されたいのかブス!!!!」
「怜様…」
怜の信頼は一気に転落した。
まるで人が変わったかのように、以前の“みんなのアイドル”であった怜とはかけ離れていた。
「宗太郎!」
「…え?り、凜さん?どうしてここに?怜さんは…?」
「怜?いるわけないじゃん。G大にいるでしょ。」
「凜さんはどうして…?あちらの入学式では?」
「わたし、K大に通うことになったの。同じ法学部。よろしくね?」
「凜さん、夢…ではないですよね?嘘では…?」
「なに言ってるの!宗太郎の隣にいるよ~!」
「宗太郎ー!なーに、入学式早々、女の子といちゃついてるんだよ!…って、えっ!?凜さん!?」
「加藤くん!よろしくね!K大法学部法律学科に入学しました!」
「えっ?本当かよ…怜は?」
「今頃知ったはずよ…あの人は私の父の名誉が欲しかっただけなの。だから逃げてきたの。」
「それにしても…法律学科って…凜さん僕より頭いいんじゃないですか…?」
「そんなことないよ!推薦もらったの。」
「じゃ、3人でお祝いしましょうか♪」
「え?本当?加藤くんの奢り?」
「今日は父がホームパーティーを開くってうるさいからさ!みんな来てくれるとありがたいな」
「え!行きたい!加藤くんのお父さん、会ったことないし!」
「じゃあ、僕も参加させていただきます…」
「加藤くんの家ってどこ?」
「世田谷だよ~」
「じゃあ、近所かもね♪」
「僕は杉並区です…」
「せっかくだから、高校の先生に会いに行きましょうよ。」
「…うん。そうだね…」
「怜さんもいるかもしれないし。」
「諒太さん、今日はやめましょう。あちらも入学式で大変ですよ多分。」
パーティには、加藤くんの予備校の医学部の仲間と保護者や、加藤くんのお父さんの知り合いのお医者さんが来ていた。
「この度はお招きいただき、ありがとうございます。」
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。」
「なんと、心臓外科の名医の加藤 諒一先生にお会いできるなんて光栄です。」
「いえいえ。今日は息子の医学部入学の祝いのパーティなので楽しんでいって下さいね。」
「ありがたきお言葉。」
「では、また後ほど。」
「お父さん。」
「諒太、遅くなってすまないね。」
「紹介します。ずっと小学部から一緒で同じK大に入学した友達です。」
「泉 宗太郎です。」
「松風 凜です。」
「松風さん?もしかして、健さんの娘さん?」
「は、はい。」
「お父さんとは長い付き合いでね。最近は仕事忙しいみたいで…お父さん元気かい?」
「はい。元気です。お気遣いありがとうございます。」
「泉くんのお父さんにもよく病院のことで相談に乗ってもらっているよ。同じ学校とは知っていたけど、大学も一緒とは偶然だね。みんな秀才で嬉しいね。では、楽しんでいってくれ。失礼するよ。ああ、諒太。お父さんはこれから学会の会合でね席を外さなければならん。あとは頼んだぞ。」
「はい。わかりました。」
加藤くんのお父さんは部下を従えて、会場を後にした。
「なーんだ、加藤くんってお父さんの前ではしっかりしてるんだね!」
「父は偉大だと小さい頃から育ったからね。医者として生きる道しか残されてないと小さい頃から思っていたよ。」
「そういえば、みんなのご両親のお仕事とか知らなかったなー」
「学校では経済的な差別は禁止でしたからね」
「差別…かあ…」
「まあ、人権保護主義でしたからね。」
生徒会長になれなかった理由を宗太郎から聞いてる私には、12年通っていた学校に不信感を覚えた。
結局、人の生きる価値はお金なんだと。