Ⅳ.操り人形の逆襲
修学旅行も終わり、3年に進級。
怜の思惑ははっきりとしていて、わたしとSPとしてる副会長2人を自分のクラスに必ず編成させていた。
「凜さん、会長が生徒会室で待っています。」
「今日は先に帰ると伝えて。今日、父が帰ってくるの。」
「了解しました」
すると、帰り道に怜が車を従えて私の前に止まる。
「凜…一人で帰らないでくれ…ましてや、今日はお父様が帰ってこられるのに。」
「怜には関係ないでしょ!」
「帰り道に凜に何かあったら、俺は…どうすればいいんだよ。」
そうだよね、私に何かあったらあなたは父を利用できなくなるもんね…
「…わかった。」
「凜…好きだよ…」
「怜くん、じゃあ、凜を頼むよ。」
「はい。」
「凜…なかなか家にいれなくてごめんな。パパ、凜のために最高の映画を撮ってくるからね。」
「パパ、体調には気をつけて…」
「まあ、凜には怜くんが付いてるから安心だ」
「あなた、マネージャーさんが迎えにいらしたわよ」
「ああ。じゃあ行ってくるよ、マイハニー。」
父は、今日の昼に一度アメリカから仕事のために帰ってきて、また撮影のために旅立った。
怜は、父が帰ると「生徒会の仕事が残っているので…」と言って学校へ戻って行った。
「凜…あなた、本当に大丈夫?」
「え…?」
「あの子…あなたと結婚する気ね…」
「うん…生徒会長の権威を奮ってるというか…学校では独裁者のような扱い…でも…今私が離れたとして…彼の怨みを生むことになる。それに、全校生徒の敵になってしまうのは目に見えてる…」
「困ったわね…」
そう言うと、ママはわたしをソファにゆっくり座らせた。
「凜には言ったことなかったけど…この結婚は、パパとパパの両親が執拗に迫ってきて…」
「え…?そうなの?」
「パパは2世俳優。逆らえなかったわ…。私にだって…愛する人はいたの。」
「…愛する人…」
「幼なじみでね。あの人と結婚するまで続いてたの。でも、結婚の報道が先に出てしまって…わたしはあの人と結婚するしかなかったわ…」
母は前を見据えて話す。
「結婚式はもう段取りされてて…あとはドレスを着て、カメラの前に立つだけ。年の差の純愛婚と話題になったわ。全くそんなことなかったのに。それで…結婚式の後倒れてしまって。妊娠が発覚したの。もしかしたら彼の子かもしれないと淡い期待を持ったわ。でも、あの人の子だってわかって。一生あの人について行かなきゃいけないんだと思った。」
母の頬に涙の雫が落ちていた。
「愛なんて、なかった。最初から今まで。でも…凜が私の娘であることは間違いないから、こうしてあなたを愛していける。もし、あなたが怜くんのこと好きでないのなら、あの人に逆らうとしても本当に愛する人と一緒になりなさい。私のたった一人の娘に同じ想いはさせられないわ」
「ママ…」
「いい?大学進学をきっかけに怜くんから離れなさい。このままだと、彼の思い通りになるわ。」
それから、怜と別れる準備は着々と進んでいった。
母は父に内緒でわたしを他の私立大学へ受験させることに決め、学校へ推薦状を書いてもらった。
推薦入試で無事に受かり、誰にも言わずに卒業の時を待っていた。
「卒業生代表、元生徒会長 秋本怜。」
「桜の花が咲き始め、私たちはこの学び舎を卒業します。小学部からいる生徒、途中から入学してきた生徒…みんな様々な時期に入学してきました。しかし、この学校で過ごした日々は皆等しく、永遠に私たちの胸の中に思い出として残っていくでしょう。……」
怜の答辞に泣く生徒もちらほら…
内部進学が叶わなかった生徒は怜ともお別れだからだ。
わたしは内部進学すると怜には言っている。
「凜さん…これで、わたしたちの役目は終わりです。」
「え?泉くんと加藤くんは内部進学じゃないの?」
「僕は、政治家を目指すため、K大学に進学します。」
「俺は、K大学の医学部。」
「そっかあ…2人とも頭いいからね…怜、さみしくなるね…」
「そうだな…でも、凜と一緒にG大に通えるから俺は幸せかな。」
「もー、怜なに言ってるの?学部違うでしょ?」
「そうだっけ?俺、法学部。凜は?」
「教育学部。」
「え、凜って学校の先生になるの?」
「うん。言ってなかったっけ?」
「最後まで怜さんは、凜さんの尻に敷かれてますね…」
「これが見れなくなるのがさみしいんだよなー。」
「たまには遊びに来いよ!俺らも学食食いに行くからさ!」
誰も私が他の大学に行くことを知らない。
入学式が待ち遠しかった。
あの人の地獄に落ちたような顔が見たかった。