Ⅲ.強引な独裁者
周りの友達が変な噂をしてるのは感づいてる。
「怜様と凜ちゃん、まだヤってないみたいよ。」
「えー、じゃあ修学旅行で初体験?」
「だから、同じ部屋にしてもらったんでしょ?」
「け、汚らわしい!怜様があの女となんて…わたしたちの怜様がぁぁあー!」
仕方ないか、お嬢様ばかりなんだもんね、私の学校。
ウブな子ばかり。
怜は所詮彼女たちのアイドル。
「りーんちゃん!お風呂空いたよ〜。」
「はーい。じゃ、宗太郎。先にお風呂いただいちゃいます。」
「どうぞ。」
「凜ー!背中流してあげよっか?」
「いらない!怜の馬鹿!」
「もう照れちゃって〜」
「みんなの前でやめて!となりで誰が聞いてるか分からないでしょ!」
「生徒会長〜、お部屋の前にファンが並んでますよ〜。記念撮影お願いしますって。」
「まじかよ…これから凜ちゃんとラブラブタイムだったのに〜…」
ドアを開けると顔が変わる。
両隣には副会長の2人がSPのように立っている。
「ごめんね!みんな、お待たせ!記念撮影に待たせてしまってごめんね〜」
「怜さま!ありがとうございます!」
「いやいや、いいんだよ。いい修学旅行にしようね。はーい、おやすみー!また明日ねー!」
「…だりぃ。まじ生徒会長とか面倒だな。」
「怜…本当に多重人格…」
「凜さんにしかあの顔は見せないのですね。あ、正確に言うと私たち副会長と凜さんだけですね。」
「宗太郎、凜のSP頼むな。あいつら、凜になにするか分からないから。だから凜を同じ部屋にさせたんだから」
「はい、会長。」
お風呂から上がると、怜はドライヤーを用意して「姫、髪を乾かしますので、こちらにおかけください」とドレッサーの前に立っていた。
こういうことされると…みんなときめくんだろうけど…わたしは全くときめかない。
でも、時には従順になってあげて、彼のご機嫌をとる。
「凜の長い髪、好き。」
「そっか、ありがと。」
「凜のその目元、好き。」
「うん。」
「凜のその唇、大好き。」
唇に迫ってくる綺麗な顔。
今日は、素直になっておこう。
「ストーーーップ!」
「僕たちも居るんですけど…」
「2人の世界に入らないでください」
「先生たちから、不純異性行為は許さないよう言われております。」
「まじかよ…キスくらいよくない?身体で愛し合う行為は毎回してるし、今回は我慢しようと思ったのに〜」
「ちょっと!そんなことみんなに言わないでよっ!」
「姫、照れてる〜♡可愛い〜♡」
「もう、もう嫌だ!怜、嫌い!」
「凜、ごめんってば。今日は添い寝もしてくれないの?」
「添い寝?何を言ってるの?」
「怜はそっちのソファベッドに寝なさいよ!」
「いえ、僕がソファベッドに寝ます。」
「諒太さん、私がそちらに寝ます。」
「もう!!!!二人は引っ込んでて!もういいから、私がソファベッドに寝る!」
「凜さん…」
「いい、俺がそっちで寝る。だから…許して。俺には凜しかいないから。」
「…ごめん言い過ぎた。どうせ、みんな譲り合って…結局、泉くんか加藤くんがソファベッドに寝るだろうから…我慢する…その代わり、本当にいたずらしないでよ…」
「凜…ごめん…ありがと。」
いつもパパが居ない時にわたしの部屋に来て怜はわたしに尽くして帰る。
怜のこと、知ってあげなきゃと思っててもこっちからはなにも出来ない。
…怜の誕生日いつなのかも分からない。
だから、素直に愛されてる。
「凜、おはよ。」
小さな声で怜が私の耳元に話しかける。
「おはよ。」
手を布団の中に引っ張られて、私の手に大きなものが当たる。
「勃っちゃった」
「バカ…」
「凜が隣にいるのに我慢してる俺偉いでしょ?」
「当たり前でしょ。」
「お願い、ヤらせて。」
「何言ってるの?二人とも起きちゃうよ」
「あいつら気づいても言わせないから」
有無を言わせずに行動するのは彼の悪いところだ。
そして、抵抗しない寂しがりのわたしがそんな彼を受け入れてしまう。
結局、欲には負ける普通の人間なんだろう。
パパに気に入られてるから、なかなか別れられないし、もし卒業する前に生徒会長と別れたなんてなったら、全校生徒を敵に回すことになる…
「ん…んんっ…やっ…あっ」
「気持ちいいだろ?凜…好きだよ…」
いつまで演技したらいいのかわからないんだ。永遠とこの時間が来るのかと思うと、苦痛に感じる。
顔は申し分ない。しかし、好みではないのは確かだ。
事が済んでも激しい愛撫はとまらない。
「凜…大好き。」
「うん…」
「凜は?俺のこと好き?」
「ん?当たり前でしょ。」
自分から好きと言わない。
好きっていう感情、怜には湧かないんだ。
「会長、朝の挨拶をお願いします。」
「諒太、なんか言ったら医学部の進学は無くなると思えよ」
「…はい…」
「みなさん、おはようございます…」
怜が表の顔でみんなに挨拶をする。
私の隣には、宗太郎。
「凜さん…今朝は申し訳ない。」
「どうして?」
「僕たちにはなす術がなく…あなたをお守りすることが…」
「宗太郎、いいの。あの人に従っていれば…。わたしはただの人形なの。」
「人形…ですか?」
「ええ、あの人の目的は私の父。父の名前を使って売れたいだけよ。わたしはそう思うの。そしてわたしを利用して、身体まで奪って行く。恋心なんて一切私たちにはないみたい。」
「恐ろしい人ですね…」
そう言うと、宗太郎は拳を強く握った。
「大丈夫。宗太郎は心配しないで。宗太郎の進路もダメになるわよ…」
全校生徒の前ではわたしと怜は皇太子夫妻のように振る舞い、宗太郎と加藤くんの前だけでは夫婦喧嘩のような言い合いをし、その反面、毎日のように愛される。
多重人格を操る怜は、わたしや副会長2人には恐ろしく見えた。
かの、独裁政治を司ったヒトラーのように。