Ⅱ.大袈裟な愛情
2年生の文化祭終了後には、彼は生徒会長へ選出された。
「凜〜!生徒会長の彼女になっちゃったね!」
友達にはみんなそうやってちやほやされた。
付き合って8ヶ月。
怜は相変わらず、私にたくさんの愛情を注いでくれる。
「凜、修学旅行楽しみだね!」
「う、うん!」
「同じ部屋にしてもらおうかな!」
「え…それは無理じゃない?先生許さないでしょ…」
「無理なわけないじゃん?俺、生徒会長だぜ?」
そう言って後ろからぎゅっと抱きしめる。
彼の言う通り、わたしは同じ班になり、部屋も同じ部屋。
でも、見張り役として、同じクラスの泉くんと加藤くんが同じ部屋になった。
「なんだよー、二人きりになれないじゃん」
「もぉー!生徒会長のくせに、いやらしいことしか考えてないじゃん!」
すこし傲慢になってきた彼に、嫌気がさしてきた瞬間だった
生徒会長ってそんな偉いの…?
「なんか、もうわからない…」
ママと夕飯を食べている時に、話を切り出した。
「どうしたの?凜。」
「怜がね、生徒会長になってから権力を振り回してるというか…修学旅行の班も一緒だし、部屋も…おかしくない?」
「部屋まで!?何考えてるのかしら、先生方は。」
「泉くんと加藤くんも同じ部屋なんだけど…他の人には内緒で同じ部屋にしたみたい…こんなことなら、当日には二人部屋にされてそう…」
「仕方ないわね…きっと、あなたと付き合ってるということを盾にしてるのね。お父さんと仲良いしね、怜くん。」
「先生たちも、怜には逆らえないみたいで…わたしが何を言っても無駄…」
「きっと、凜が嫌って言えば逆らえないはずよ。何かあったらすぐに連絡しなさい。」
修学旅行当日、怜は学年の全生徒の前で挨拶をし、学年主任の隣ですましている。
人前にいる時は、必ず怜はいつもの態度は見せない。
「今日から一週間、海外生活です!日本と違って犯罪に巻き込まれやすいので、十分注意しましょう。特に、女子は必ず単独の行動をしないようにしましょう!この一週間が一人一人にとって素敵な修学旅行になるように、一人一人がルールを守って過ごしましょう。」
みんなの“アイドル”である怜は、女子生徒から大きな拍手をされていた。
「さっきの俺、かっこよかったでしょ?」
「うん、かっこよかったよ、怜。」
「凜〜、大好き!」
「ちょ、ちょっと、怜!人前で抱きつかない!」
泉くんと加藤くんが同じ部屋にいるのに…
「泉くん、加藤くん…ごめんね?」
「いえいえ、副会長の役目ですから。」
「俺たちのこと、邪魔しないでねー♥︎」
「もう!怜!わたしたちの個人的な旅行じゃないんだから!わたし部屋変えてもらうよ!」
「ごめんごめん!凜の言うこと聞くから!」
「会長、奥さんには頭が上がらないんですね〜」
「もう!加藤くん!奥さんじゃないから!怜のこと茶化したら本気にするからやめて!」
「松風、意外としっかりしてるんだな。」
「俺の嫁に惚れたらダメだぞ?」
「もぉー!嫁とか言わないでよ…」
「凜ちゃん照れてる〜♡可愛い〜♡」
「怜の馬鹿!」
怜はここぞとばかりにラブラブぶりを他人に見せつける。
「りんりーん。一緒にお風呂入ろ?」
「嫌だ!恥ずかしい!」
「よし、怜とは俺が一緒に入ってやるよ」
「ちょ!諒太!入ってくるなよ!」
「加藤くん、よろしくねー!」
「松風さんも大変ですね。」
「あ…泉くん。本当に迷惑かけてごめんね。」
「い、いえ…」
「泉くんとはかれこれ小学部から一緒だもんね…昔は宗太郎なんて呼んでたのに。いつからだろう。こんなよそよそしくなったの…」
「恥ずかしいから…」
「え?」
「きっと、恥ずかしいからですよ…中学からまた入学してきたりして、名前で呼ぶの恥ずかしくなったんですよね…凜さん。」
「昔から、宗太郎は凜さんって呼んでたよね。面白いね。あ!そうそう!今度勉強教えて?宗太郎、学年1位じゃん?」
「え…でも。彼氏さんは2位ですから…そちらに教わればいいじゃないですか…」
「あいつの2位は偽物だから、きっとね。」
「コネも実力の内。僕は彼が居なければ、生徒会長になってたはずだったから。」
「え?そうなの?生徒会長…って…もしかして…わたしのせい?」
「すべてが凜さんのせいではありません。秋本くんのお父様は投資家みたいですし…かなりの寄付をしてるそうですよ…」
「そうなんだ…知らなかった…」
わたし、きっと怜のこと知らなかったかも…興味がなかったのかな…。
なんとなく付き合ってしまって、彼の強引さについて行ってるだけだと気づいた。