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青春日記  作者: あある
9/15

私と彼と存在2



俺はずっと一人だった。

小学生の頃、父親の仕事関係で、俺は色んな学校を転々としていた。その回数が増える度に、親の喧嘩は増えてきた。

家では絶えない喧嘩で、親の怒鳴り声や、物が割れる音が響く。俺は目を瞑りながら、耳を塞いで、ただその喧嘩が収まるを待つのが日課になっていた。

学校でも、家でも、どこでも一人、隅で小っちゃくなっていた。

そんな時、ついに親が離婚した。それは、俺が小学校六年生の時。

理由は、仕事などでの擦れ違いや、父親が仕事人間だった為、自分のことを全く構ってくれない父に、母が浮気をしてしまったことなどが原因である。

母にはもう再婚相手が居た為、俺は父親引き取られた。

すると、家の中での喧嘩はなくなったが、逆に音はなくなった。聞こえる音といえば、皿を洗ってる時の水音などが、静かな部屋に響くぐらい。

中学の入学式、桜が舞って、周りが嬉しそうに歓声を上げたりしてる中、俺は一人歩いたりしてた。昔から、こういった入学式や行事、授業参観に親が来たことは一度もなかったが。

その頃の俺は、父親が俺が起きてる時間には帰って来ないので、全ての家事を受け持っていた。辛かった。

でも、転校の回数は減り、学校にも馴染んできた時に、春と信長に出会ったんだ。こいつ等は、俺がどんなに付き合いが悪くても、何も言わずに悟ってくれた。理解しようとしてくれた。だからその後は、色々辛いこともあったけれど、学校生活も楽しかった。

なのに、その幸せはすぐに壊れた。父親が死んだのだ。

それは、俺が中学校三年生の受験の時。丁度、受験に受かったことを報告する日だったので、父は俺が受験に受かったことを知らずに死んでった。まぁ、まず、どこに受けるかも話してなかったのだが。

原因は、どうやら交通事故のようで、轢いてしまった相手の家族も、俺に泣きながら謝りに来た。その人達は、「ごめんなさい、ごめんなさい」としていた。

そんな見ず知らずの人達が泣いてるのに、泣かなきゃいけない俺は、涙一滴出てこなかったのだ。だって、俺には父と過ごした思い出などない。父が何が好きだったとか、どんな風に笑うのだとか、そんなもの、何一つ俺は知らなかった。そんな父がいきなり死んだと言われても、俺はどう思えばいいんだろう。

父親が死んだというのに、涙を流さない俺を、親戚達は「最低」だと蔑んだ。そして、父の妹さんはこうとも言った。

「兄は君のせいで死んだのよ!。君みたいな不幸な子を産んでしまったばっかりにっ!」

その言葉は、俺の胸に今でも刻まれるほど、深く深い本当の言葉だった。

父の妹さんは、俺の前で泣き崩れて、俺に「消えなさいよ」とだけ叫び続けた。その瞬間から、俺を見る人の目は、憐みと絶望だけになった。

だから俺は、何とか親戚の援助で、一人暮らしとバイトを始めた。思ったより、一人暮らしは大変で、バイトの量はどんどんと増えていき、俺は学校を休みがちになっていった。

そのせいか、最近テストの点数は下がり、点数は完璧赤点だ。まぁ、元々学校休みがちで呼び出しはかなりあったが、テストの件で、一度担任に呼び出しをくらった時のことだ。

「……はぁ、お前、何の為に生きてんだ?」

とため息交じりに、担任は俺に問いかけた。この時、俺はなんか流してしまったけれど、その言葉だけが、俺の頭にずっと残っていた。まるで、父の葬式で言われた言葉のように。

その後、俺は図書室で課題のレポートを片付けて、バイトに向かった。図書室でも、バイト先でも、バイトの帰り道でも、ずっと俺は、その言葉の答えを考えていた。

生きる為の理由、俺には何もない。あの人が言ってた通り、俺は不幸だ。生きてたって、周りの人に迷惑をかけるだけ、その内、春と信長だって、巻き込んでしまうかもしれない。もっと、多くの人に関わっていったら、多くの人を傷つける。

なのに、こんな頑張ってバイトする必要があるのだろうか、頑張って勉強する必要があるのだろうか。どんなに頑張っても、どうせ俺は一人になる。そんなの分かってるはずなのに。

俺は、何で生きてるんだっけ?。

そう思った瞬間、俺は存在を失った。

今でも分からない、何で、何の為に生きてるのかが、だけど、あいつと、日向と出会ってから、何かが変わった。

あいつは口も悪いし、負けず嫌いだし、変な所も多いけど、すごいお人好しだし、真っ直ぐだし、本当は優しい。そんなあいつが笑うと、俺はほっとする。まぁ、あいつは俺が見てるとは気づいてないみたいだが、俺はお前を見てたんだ。

後、物凄く真っ直ぐだから、怪我しないか心配になる。でも、それと同じぐらい、こんな俺の事を真剣に考えてくれたり、ちゃんと見てくれることは、一般の人には普通の事なのかもしれないけど、俺にとっては、すごく嬉しくて仕方がない。

それはただ、あいつがお人好しというだけで、俺だからという理由ではない。そんなのは知っていたけれど、お前が、あんなに頑張って、俺を行き帰そ生き返らそうとしてくれていると、俺は生きていていいんだなぁって思えた。

でも、俺の存在が元に戻れば、また誰も俺のことを見てくれなくなるのかって思うと、また怖くなっていった。お前も俺の傍から離れていって、他の奴に世話を焼いてたりして、俺はそんな姿を眺めていることしか出来ないんだろうなぁって。

俺はたぶん、あの殺人鬼が言ってた通り、誰かに構ってというか、俺の存在を認めてほしかったんだと思う。「生きてていいんだよ」と言ってほしかった。生きる理由が欲しかったんだ。

でも、俺は気づいてしまった。俺がお前を大切だと、大事だと思えば、お前が、父と同じように消えてしまうって。俺は、お前を失うのが怖かった。

「君のせいで死んだのよ!」

もう俺は、あの言葉を聞きたくない。そしたら、どうしたらいいか、分からなくなった。

分からない、分からない、分からない。やっぱり、俺は生きてちゃいけないのだろうか?。

「違うっ!!」

という日向の声が、俺の頭の中に響いた。

「違うって…もう無理だよ。君の美咲君は消えちゃったんだよ?。きっと死にたいとでも思ったんじゃない?」

殺人鬼の声も、俺の頭を過る。どうやら、二人は言い合っているようだった。

「無理じゃない!。例え、美咲君がそう思ってしまったとしても、私が生きたいって思わせる!」

「…君も相当お人好しだね。こいつは君に嘘ついてたのに、君が信じるに値する人物かな、彼は」

「私、信じるって決めたからっ、助けるって決めたからっ!、例え美咲君が嘘をついてたといしても、その嘘をっ、私が本当にしてみせるっ!。何回嘘をつかれても、私は信じ続ける!。私、もう決めたんだよっ!」

目の前の敵に怯えながらも、日向は迷わず言い切った。俺の頭の中に響いた日向の声は、俺の体を身震わせ、目に色が戻っていく。

お前は俺の欲しい言葉をくれるのか?。俺は何もあげてれてないのに。お前は、本当に変だ。

「……うざいなぁ」

殺人鬼が呟くように言った言葉に、

「うざくねぇよ」

と俺は心で思っていると、口から言葉になって出ていた。そして、いつの間にか、俺の前には二人は驚いて、呆然と立っていた。

俺は自分でも驚いて、手を何回か握り直したりする。そうすると、俺はつい口元を緩め、まず、さっき出来なかった日向の手を握った。

「俺は…怖かったんだ、生きることが。俺は人を傷つけるのに、こんな必死に生きる必要があるのかって。たくさんの人に嫌われて、ずっと一人で生きてきて、こんなにも人の手が温かいことも知らなかった。人と笑い合うのが、こんなにも楽しいことだってことも、こんなにも傍に居たいって思うのも」

「美咲君…」

日向は俺の顔をじっと見つめて、そう呟いた。すると、日向も俺の手をぎゅっと握り返してくれた。

「こいつは俺に、それを教えてくれた。こんな俺を受け入れてくれた。だから俺は、こいつが信じてくれるんだったら、それに答えたい。俺の居きる理由、それは、こいつの傍に居ることだっ」

「………っ」

俺の言葉に、驚いてる日向。俺は良く考えると、今、告白染みた、すごく恥ずかしいことを言っている。でも、もう嘘つきたくない。

「もちろん、俺が傍になんか居たら、こいつを不幸にするだけってのは分かってる。でも、これが俺の気持ちだ。もう周りに合わせる必要もない、誰に否定されようが、俺はもう一人じゃないから」

「不幸になんかしないよ」

という言葉が、予想外にも、日向から声が聞こえてきたので、俺は、「え?」と声を上げて、日向のほうに視線を向けると、日向と視線が合った。

すると、日向はすぐに、目の前に居る殺人鬼へと、視線を移して、

「私は超幸せ者なんだよね、殺人鬼さん?。だから、絶対に不幸にはさせないよ。私が守りきってみせる、君を」

と言って、日向は俺に微笑みかけてくれた。俺は口が勝手に、「日向……」と呟いた。

そして、二人で頷き合うと、俺達は、目の前で、珍しく俯き、黙り込んでいる殺人鬼に、視線を向けた。

「…へぇ、そう。あぁ、あぁあぁあぁ!、うざいうざいうざいうざいなぁっ!。その希望に満ちた君の顔が、イライラするよ。俺がやろうとしてることを、こんな短時間でやってしまうなんてさぁ、今すぐにでも壊したくなるっ」

殺人鬼は、狂ったかのように叫びだしたので、俺達は驚いた。まぁ、さっきから変だったので、俺は慣れてしまったけれど、日向はまだ慣れていないようで、ピクリを身震いして、怯えてるようだった。

いつも強気なこいつが、急にこんなに大人しくなると、俺は少し調子が狂ったし、こんな状況で変だが、可愛いと思ったのも事実だった。だからこそ、俺もこいつを守りたいと思った。

だから、握っていた日向の手を、俺はしっかりと握って、殺人鬼に聞こえない程度の小さな声で、「大丈夫だ」と日向に伝えた。すると、あいつの顔は少し緩んだ。

「でも、いいよ。俺はどんなに邪魔されようが、求め続けるんだ。最高の幸せを!。だって、それが俺の居きる意味なんだかたさぁっ!」

殺人鬼は、「ヒヒヒッ」と気持ち悪い笑い声を上げながら、もう真っ暗な空を見上げ、手を伸ばす。

「…じゃあ、それまで生きてることを、心から願っているよ」

そう言って、殺人鬼は姿を消した。

俺は繋がった手から、知るはずのなかった人の温もりを、ひしひしと感じていた。お前と繋がってると、一人じゃないって、俺はここに居て、お前の隣に生きてるんだと実感できたんだ。



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